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デレデレテレポーター

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匿名ユーザー

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デレデレテレポーター



 時刻は昼下がり。
 本日も快晴一番。実に晴天。晴天を反対にすれば天晴れ、まさに天晴れな太陽の光が暖かな日差しが心地よかった。

「ふわあぁ…」

 大きな欠伸をして、涙が浮かべたのは、純情派高校生上条当麻。土曜日の今日は宛もなくふらふらと学園都市を歩いていた。

「当麻さーん!」

 ふと、聞き慣れた声がして、上条は辺りを見回し、手を振ってこちらを見つめるその主を、微笑みながら名前を呼んだ。


「黒子」

 上条の視線の先には、常盤台中学の制服に身を包んだ、白井黒子の姿があった。名を呼ばれ、黒子は上条の元へと走り出す。

「当麻さん!」
「おわっ!空間移動で抱き付くのは危ないからやめなさい」

 ある程度二人には距離があったものの、黒子は能力で跳躍し、上条に思い切り飛びついたのだ。

「むー、すぐにでも当麻さんに触れたかったんですもの…」
「んなことしなくても抱き締めてやるから」

 首に腕を回し、足を腰に絡めたまま、悲しげな瞳で上条を見る。そんな反応をモロ受けした上条は、たじたじの様子で溜め息を吐いた。

「今日はどこに行きたいんだ?」
「当麻さんと一緒ならどこでもいいですわ」
「そんなこと言われましても……」



 行く宛もなくふらついていた上条にその返し方はなんの解決にもならぬのだが。

「クレープでも食べようぜ。すぐそこにあるからさ」
「はいですわ」

 苦し紛れに視界に入ったクレープ屋台を見つけた上条の言葉に従い、歩きやすいように黒子は一旦離れたが、再び腕に抱き付いた。

(あ、当たってるんデスガ…不幸だ…)

 微かにわかる柔らかな感触に、上条は意識をがっつり持っていかれそうになるが、根性で耐える。

「当麻さん」
「どうした?」

 甘えた声で呼ばれ、更に意識が危ない方にぶっ飛びそうになるが、なんとか制御する。

「ふふ、呼んだだけですわ」
「っ!」

 可愛らしい笑顔を向けてくる黒子に、もう既に上条は限界を迎えようとしていたが、頑張って屋台まで辿り着いた。

(なんか微笑ましい瞳で見られてる…)

 屋台の店主の笑顔が眩しく感じる上条は、腕の黒子の感触を気力で削ぎ落とし、注文した。



「美味いな」
「ええ」

 ベンチに寄り添って座る二人。若干増量気味のクレープを食べながら、上条は天を仰ぎ見た。



 何かしら事件が起きる度に走り回って傷付く上条。毎度お馴染み病院から中継です、的なことはデフォルトになってかなり経つが、変わった点がある。
 それは今、隣でクレープを頬張る黒子の存在が証明していた。

「くっついてるぞ」
「あ……」

 その黒子の唇の横に生クリームが付いてるのを見つけ、上条は取ってやる。
 顔を近づけ、舌で舐め取った。

「とっ、当麻さん!?」
「んー?どうしたー?」

 上条は悪戯に笑う。
 唇と唇が触れたのがわかったが、むしろそれを狙ったのだ。
 頬を朱に染めて、黒子は突然のことにオーバーフロウしている。

「可愛いぞ、黒子」
「ーーーっ!」

 追撃。ツインテールが揺れる。

(あの時)

 満身創痍で強大な能力者に立ち向かって行った黒子。最早これまでのところを間一髪で援護したのは、やはり上条だった。協力して、なんとか撃退することが出来たが、結果二人は共にボロボロになってしまった。

「卑怯ですわ!」
「たまにはこういうのも良いだろ?」
「……そうですわね」

 ザクロのように真っ赤にした顔を背け、呟く姿に上条の胸の奥がこそばゆさを覚えた。



(病室が隣で、よく遊びに行ったり来たりしたな……)

 入院中は暇で、時間さえあれば二人は話をしていた。そして、退院までの最後の三日位に至ってはカエル顔の医者が配慮してくれて特別に同部屋になった。
 一口、クレープを口に運ぶ。その際、黒子を見たが、嬉しそうなのか喜んでいるのか、上条にはわからなかった。

「黒子」
「はい?」
「……、」
「?…んっ…!?」

 クレープの口移し。
 どっかのシスコン軍曹はグロテスクと言っていたが、確かにそうかもしれない、と上条は思った。

「んぐ…。きょ、今日の当麻さんは激しいですわ……」
「優しさよりも激しさが大事な時もあるものさ」

 退院してからもよく交流するようになり、幾度かデート紛いのことや、風紀委員の仕事を手伝ってみたり、と。

(初めてのキスは冷たい小豆の味だったっけ)

 どちらともなく打ち明けた互いの愛という気持ち。其処からはもう早かった。何がというのは禁則事項。
 ふと、ひとつ風が吹いて、静寂が訪れる。

「当麻さん」
「なんだ?」

 名を呼ばれて記憶(かこ)を思い返していた上条の意識が、現在(いま)に戻る。

「大好きです」
「俺もだ。愛してる」



 ただひたすらに守りたいと、護りたいと願う少女が目の前にいる。手伝いとは名目上で、共に戦場を駆け背中を預けあう現在進行形の戦友とも言える。

「………、」
「……ん」

 そっと、唇と唇が触れ、穏やかな瞳で見つめ合う。
 たった一度与えられた命はチャンスだから。守りたいと願う大切な人の未来気付いた瞬間から、全ては変わった。

「わたくし、どこまでも着いていきますわ」
「…ある意味茨の道だぞ?」
「確かに、そうかもしれませんわね。ですが、わたくしは当麻さんと並んで歩いて行きます」

 その瞳に迷いは無かった。
 例えどんな困難が待ち受けようとも二人でならそんなものは容易に乗り越えぶち壊せる。


 自分がいて、愛する者がいるこの日をずっと忘れないだろう。

「行くか」
「…どこへですの?」
「行けるところまで」

 繋いだ手は決して離さない。

「とは言ってもそんな遠くまでは無理だけどな」
「…余計なこと言わなければ最高でしたのに」

 笑顔の華が咲いて、二人は学園都市の街並みに消えていった。


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