とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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11時00分
ここはある高級住宅街にあるアパートの一室。カーテンの隙間から差す強い日差しから目をそらした。
「…もうこんな時間かァ」
覚醒した白髪の少年はベッドから上半身を起こす。無造作にかけ布団を跳ね除けると、フラフラとした歩みで洗面所へと向かった。顔を洗い、歯を磨く。そのために洗面所へと向かった。

あ?

鏡を見て、違和感を覚えた。有るべきところに、有るものが無い。
(……チョーカーが無ぇだと?)
驚愕を覚えた白髪の少年、『一方通行(アクセラレータ)』は思案した。

いや、思案していること自体に驚愕を覚えたのだ。

なぜ彼は思案することが可能なのか。これ自体すでに奇妙なことだった。
「一方通行(アクセラレータ)」はある事件以来、自己の思考能力を失っている。そのため
情報処理や能力発動時に必要な演算能力は、チョーカー型電極を通して「打ち止め(ラストオーダー)」を介するミサカネットワークに任せてある。それが、無いのだ。
一気に睡魔が吹き飛んだ。
「っ!ラストオーダーァ!」
声を出しても返事は無く、部屋中を見回しても「打ち止め(ラストオーダー)」の姿は無い。黄泉川愛穂は現在入院中であり、この一室には彼以外誰もいない。

いや、彼以外誰かが居たという形跡が何も無かった。

「どうなってんだァッ!?」
部屋にあった携帯電話を取ると、とある人物へ電話を入れた。しかし、
「この番号は現在使われておりません――――」
「んだとォ!?」
(何が起こった?『上』は出られなくてもメッセージは受け取れるはずだ。まさか、アイツラ消されたんじゃ無ェだろうな。闇が闇に葬られたってワケか?にしちゃあ処理が早すぎる)
「…しかも何で俺は歩けるんだ?」
杖を使わずとも歩行に何ら違和感が無い。その上――――
シュッ、と黒い物体が彼の眼前を通り過ぎた。

「―――能力まで元に戻っていやがる」

手元にはM93R-βカスタムと呼ばれるハンドガン型の自動小銃があった。棚に閉まってある拳銃を彼の「ベクトル」の能力で引き寄せたのだ。自身の演算に寸分の狂いもない。
昨夜、彼が眠りについたのは午前4時前後。いくら7時間の空白があるとはいえ、彼に気づかれぬままここまで大がかりなことが出来る筈がない。となるとこれは超能力か魔術の類となるだろう。様々な観点から思考を重ねていた時―――

(どわぁー!?って、起きていきなり能力を使うとは何事だー!とミサカはミサカは貴方の乱暴さに避難の声を叫んでみたりー!)

と、元気な「打ち止め(ラストオーダー)」の大声が――――

「聞こえた」。








12時09分
(――――――――ということなの。信じてもらえたかな?とミサカはミ…)
ガッシャーン!とテーブルにあった一枚の皿が、触れられること無く天井に叩きつけられた。

「っるせぇなあ……」
(…でも、本当のこと。ミサカはミサカは真剣に告げてみる)

「ッ!!…だからァ、うるせぇって言ってんだよおおおおォ!!」

白髪の少年は、感情のままにガラス窓に思いきり頭をぶつけた。
鈍い衝撃音と共に頭に激痛が走る。
このアパートの窓は防弾用に作られている。一人の少年が頭突きした程度では傷一つつかない。しかし、タンパク質でできた彼の額の皮膚は衝撃に耐えられず、赤い血が滲み出してきた。
だが、そんなことは瑣末な傷など痛くも痒くもない。
彼の心を貫いた大きな傷跡に比べれば―――





一時間前に遡る。

「……おい、かくれんぼはナシにしようぜェ。俺は色々聞きたいことあンだよ」
『一方通行(アクセラレータ)』は状況に混乱していた上に、近くからは間抜けなラストオーダーの声が聞こえた。今回はどれほど手の込んだイタズラを仕掛けてくれたのか。大脳の感覚器にダイレクトに電気の疑似伝達を促し、今のビジョンと感覚を見せているのだろうと考え、こんな素敵なお遊びのお返しに、このアパートの最上階からパラシュート無しのスカイダイビングをさせてあげようと思案し――――

要するに『一方通行(アクレラレータ)』は今にもブチ切れそうだった。

しかし、待っても一向に「打ち止め(ラストオーダー)」が姿を見せる気配は無い。
「お嬢ちゃァん。隠れないで出ておいでェー。さもねぇと、辺り一面ハチの巣になるぜェ?」
聞かれただけで通報されそうなセリフを吐いたが、
返事は無い。

「…ほォ。こりゃお仕置きが必要みてェだなァ」
何の躊躇もなくM93R-βカスタムのセーフティを外し、スライドを引いた。ガチャリとパラベラム弾を装填する金属音が鳴る。
「十数える間に出てこォい。ラストオーダー」
と言いつつ、先ほど声がしたドアの方面に銃を向けた。
(…降参する気は、無ぇみてえだな。朝っぱらからとはイイ度胸してやがる)
「じゅう、きゅう、…いっちぃ、ぜーろぉ」
十全部数えるのも面倒なので、トリガーに力を込めようとした時――――――

(朝っぱらから笑えないセルフジョークをかましてるのは貴方だよー!!!ってミサカはミサカは現在の前頭葉に配信される定期型電気信号の正常機能にリサーチをかけてみたりー!?)

大声で叫ぶラストオーダーの声が「聞こえた」。

「ァッア!?どっから叫んでんだぁ!?」
脳に響くほどの大声。声は銃口を向けている方向の逆。つまり居間のほうから聞こえた。『打ち止め(ラストオーダー)』はすぐ近くにいる。それは間違いない。しかし、辺りを見回しても誰もいない。

(ミサカはいないに決まってるじゃん!って当り前のことを言わせないでってミサカはミサカは朝から緊急時の演算アプリケーションを起動させられたことにプンプン怒ってみる!)

「うおおぉオッ!?」
『一方通行(アクレラレータ)』の体がフワリと宙に舞った。
さらには右手にあった拳銃は、ユラユラと元にあった下から二番目の戸棚へ飛んでいきながら、空中でカチャリカチャリと安全装置などがかかっていく。まるで透明人間がそこにいるが如く。

「お、おいっ!これはお前の仕業かッ?とっと下ろしやがれこのクソガキがァ!」
(俺の能力が『打ち止め(ラストオーダー)』に操作されてるだと?しかも、拳銃みてェな小さい物体にあんな細かい動作も同時に演算できンのか!?)
大気の流れを組む大規模な高速演算も困難な部類に入るが、実は微小な『ベクトル』演算の方が難しい。
重い物質を動かす時にはその物体が動くほどの『ベクトル』を加えればいいし、人を吹き飛ばすほどの風圧を生み出すためには人間が吹き飛ばされ、かつ人間が死なない範囲の『ベクトル』量を加えればいいだけのことだ。しかし、空中で携帯電話のボタンを的確に押すような精密な演算は困難を極める。拳銃の場合なら些細な演算誤差で安全装置をかけるどころか引き金に『ベクトル』が向き、誤って発砲してしまうかもしれない。
地面から一メートル程の高さで何のなす術もなく浮上している彼だが、現在の状況を冷静に分析していた。

(…………ッ!!)

いきなり、大きな音をたてながら彼は地面に叩きつけられた。
「がっ!…あっ」
たかだか100センチ程の高さとはいえ、受け身もとれずに仰向けに倒れると痛い。
(クソガキって言った言ったぁ!!絶対言わないって約束したのにぃー!『貴方のこと、信じてたのに!』とミサカはミサカは人気ドラマの手塚かなめの名ゼリフを真似してみりぃー!?)
頭が割れそうなくらいの大声が『一方通行(アクレラレータ)』に「聞こえた」。
(何なんだァ?こいつの声は直接脳に響くみてぇに…)


ちょっと待て。直接、脳に響くだと?―――――――――


「……ラストオーダー。お前、俺のアタマに何埋め込みやがった」
腑に落ちた。姿を見せない少女の声が「聞こえた」ワケが。
しかし、疑問は募るばかりだ。
「一体何処からこのメッセージを流してンだ?…『上』にやられたのか?」
ドス黒い怒りが彼の心に湧きあがってくる。
だが、彼の心の闇をさらに濃く染め上げたのは他ならぬ彼女本人の言葉だった。



(何を言ってるのかなー?ミサカの肉体はとうの昔に無くなってるよー、ってミサカはミサカは呆れながら貴方に呟いてみる♪)






12時04分
「ふ、ふふふ、ふふふふ、不幸、か?俺は…」
ここは長点上機学園内の中央に噴水がある大広場。長椅子にもたれつつ上条当麻は呟いた。現在は正午を過ぎた頃であり、昼休みになるまであと30分ほどはある。右手には先ほど学園内にある喫茶店の少女からタダでもらったカプチーノを持っている。
チュルルー、とストローからカプチーノを飲み干して一言。
「…どうなってんだ、本当に」
携帯に表示されていた日時は、普通の世界から丸一年たった「未来」だった。







長点上機学園二年特別クラス。兼『風紀委員(ジャッジメント)』第七学区担当委員長。

これが現在の上条当麻の肩書だった。はぁー、と大きなため息をついた。
長点上機学園に編入するだけでも異例中の異例なのに、『風紀委員(ジャッジメント)』第七学区担当委員長まで務めていると来た。これはもう頭を抱えるしかないだろう。『風紀委員(ジャッジメント)』となるにも試験を含めて最低6か月程度はかかるというのに、この一年余りで生徒数が一番多いこの第七学区担当の長になるというと、正攻法では到底たどり着ける筈もない。
つまり、この一年の間に、それだけの地位につける「何か」を俺がやらかしたのだろう。
と、未来に起こりうる自分が巻き込まれる「事件」に少しブルーになった。
それに御坂美琴。一年であれだけの成長を遂げた美琴の成長ぶりにも驚きだが、それ以上に驚愕したのは彼女との関係。この一年で御坂美琴と上条当麻は、情事を軽く言い合えるほど深い関係にまで至っていた。現在の上条当麻はそんな記憶は無いので、ただ驚くばかりだ。
しかし、一つだけ分かることがある。これは単なる罰ゲームの延長線上では無く、二人の相思相愛の下で至った結果なのだと。
携帯電話の裏側を見る。
そこには顔を寄せ合い、無邪気な笑顔で写っている一枚のプリクラが貼られていた。御坂美琴と上条当麻のツーショット。そこにある二人の表情からも読み取れる。本心から互いに惹かれ合っているのだと。
「…あいつ、こんな顔で笑うんだな」
今朝に会った美琴の笑顔、仕草、言葉。上条当麻が抱いている彼女のイメージとはずいぶんと異なる。上条は彼女の知られざる一面を垣間見ているような気がした。周囲をビリビリと帯電させているような攻撃的な御坂美琴では無く、愛らしい一人の少女としての御坂美琴。そんな彼女の姿に心奪われ――――――

「って、何考えてるんだ俺はああああああああああああああああああぁぁ!!!」

バサバサァッ!と噴水の周囲にいた鳩の群れが上条の突然の叫びに驚き、四方八方に飛び散っていく。頭を抱えながら立ち上がった上条当麻は、数回、深呼吸を繰り返し徐々に落ち着きを取り戻していった。
(冷静になれ、クールになれ。これは現実じゃない。リアルじゃないんだヨ!)
可愛らしい御坂美琴や家事を手伝ってくれるインデックスにちょっぴり心にひっかかりを覚えた上条だったが、今はそれどころでは無いと自分に言い聞かせていた。
そして―――

「カーミやーんっ。お届けもの、持ってきたぜ―い」

救世主の声が、聞こえた。





「つ、土御門っ!!」
声が聞こえた背後に振り替えると、長点上機学園の制服姿の土御門元春の姿があった。
「なっ!?そんなに大声出して、これがそんなに待ち遠しかったのかにゃー!?カミやん、今回はマ、マジでご堪能する気かー?常盤台のエース様にあんなことやこんなことをっ?この果報者がぁぁ!!」
「土御門、聞いてくれ!実はブゴハァあああっ!?」
訳も分らぬまま、上条当麻は金髪グラサンに思いっきり殴られた。



「………ほう、カミやんは俺に殴られたせいで記憶がぶっ飛んだと、そう言いたいのかにゃー?」
「だから違うって言ってんだろ!マジだ、大マジだよ!」
「わかってるって、分かってるってー。カミやんが嘘を言ってないことくらい顔見ただけでわかってるにゃー?」
「…何で最後が疑問形なんだよ」
土御門にはすべてを話した。自分が置かれている状況、記憶の全て、空白の一年があること、そして、現在は自分がいる場所では無いことを。
広場には長点上機学園の生徒がチラホラ見えてきた。時間は昼休みに入ったようだ。

「それで、土御門もこの学園の生徒なのか?」
「……マジみたいだな。いや、違うぜい。長点上機に編入したのは後にも先にもカミやんだけだ。今年の春からだったな。小萌センセーなんて、ショックで丸一週間酒とタバコを忘れていたらしいからにゃー」
「じゃあ、なんでココの制服着てんだよ」
「そりゃあ、親友の頼みの為にワザワザ危険を冒してまで来たんだぜい?」
「?その紙袋はなんだ?」
「ふっふっふっ…、それは開けてのお楽しみだにゃー。カミやんがソレを俺に頼んだんだぜい?これで前の借りは返したってことにゃー」
「???」
「まぁ、今は分からなくっていいぜい。時が経てば教えてくれるからなー」
あばよ、という感じで手を振りながら去っていく土御門。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。土御門!俺一人じゃあ何も出来ない。協力してくれ。この通りだ!」
上条は土御門に大きく頭を下げた。
「当たり前だろ、カミやん。今からツテに連絡を入れるところだ。残念だが俺はカミやんと同じ状態では無い。むしろカミやんのほうが異常に見える。しかし、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を持っているカミやんが魔術の類にかかるとは思えない。早急に手を打つぜい」
「…土御門」
いつもフニャフニャしていて義理の妹にゾッコンなアブナイ野郎だが、いざという時には頼りになる。いい友達を持ったもんだと上条は思った。

「超能力って線もあるかもな」

そう言った時、土御門の顔から笑顔が消えた。
「土御門?どうしたんだ。一体…」

「カミやん。この世に『超能力』なんて、何処にも存在しないぜ」


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