どがしゃぁぁぁぁぁぁんっ!

「光喜ぃぃぃぃぃ!! 大丈夫かぁぁぁぁ!!」
「ちょ、先輩! 落ち着いて下さい! ドアがまた壊れましたよ!?」
「そんなの関係ねぇ!」

―――熊谷さんが去って一時間ほど経った後、
鉄製である筈のドアが破壊される凄まじい音に、俺は驚き思わず振り向くと。
其処にはひしゃげたドアを片手に血相を変え息を荒げたパジャマ姿(ひよこ柄)の虎姐と、
そして恐らく虎姐を止めようとして腰にしがみ付き、そのまま引き摺られてたのであろう、薄汚れた獅子沢さんの姿があった。
をいをい、また、か……ここのドアを壊されるのはこれで何度目だ……?

「光喜、お前、大丈夫か!? あの熊女に何かされなかったか!?」
「いや、俺は別に大丈夫だが……それより、ドア……」
「すみませんすみません、光喜さん。先輩がドアを壊してすみません!
目を覚ますなり「光喜が心配だ!」とか言っていきなり飛び出して止める間もなかったんです、本当にすみません!」

ひしゃげたドアを片手にしたまま詰め寄る虎姐をジト目で見る俺に
獅子沢さんが昔懐かし(?)の水飲み鳥の様にペコペコと必死に謝り倒す。
……獅子沢さん……こんな先輩をもって……多分、何時も苦労してるんだろうな……

「あ~、良かったぁぁ………あたしはてっきり、今頃、光喜はあの熊女に喰われてないかって思ってなぁ……」

安心した様に深い溜息と共に肩を撫で下ろす虎姐。
……ごめんなさい、既に性的な意味で喰われました。

「ほら、先輩………結局、先輩の心配はただの杞憂だったじゃないですか。
まあ、私も光喜さんに何も起きなくて安心し――あれ?」

をや?……どうしたんだろ、獅子沢さん。何に気付いたんだ?
そういや、心なしか鼻をひくつかせているような……
……なーんか、すっごくヤな予感を感じるのは気の所為か?

「あの……先輩、何か臭いません? 何か独特の……そう、強いて言えば獣の臭いのような……?」
「そういや、そうだよなぁ………どっから臭うんだろ。ゴミ箱か?」

言って、虎姐ががさがさとゴミ箱を探り始める。
なんだろうか、何かものすっごく見付けて欲しくない物があるような気がする。
と言うか、もう今直ぐ逃げ出したい気分なのは、最早気の所為ではない。

だが、俺が逃げ出すよりも早く、虎姐はゴミ箱の中の”ある物”を取り出した。
それは……熊谷さんに犯された時の後始末に使った、愛液と精液をふき取ったティッシュ。
恐らく、ふき取った熊谷さんが適当にゴミ箱へ放りこんだ物なのだろう。
その僅かな臭いに気付くとは……恐るべし、獣人の嗅覚。

「…………」
「…………」
「…………」

―――そして、鉛の様に重苦しい沈黙が場を支配した。
俺も虎姐も獅子沢さんも、その視線は虎姐の手にある、丸まった異臭を放つティッシュへ向けられている。
果たして、この時、虎姐と獅子沢さんは何を思ったのだろうか。
ただ、わかる事は、俺は今、とてつもない危機を目の前にしていると言う事だけだった。

そして、虎姐と獅子沢さんが動いた。

「光喜……少し、お前に聞きたい事があるんだけど、良いかな?」
「そうですよ、このティッシュの事、光喜さんが詳しく教えてくれるだけで良いんですよ?」

俺が逃げ出せない様に、俺の両脇を固めた虎姐と獅子沢さんがとっても良い笑顔で尋ねる。
ただし、その目は全然笑ってはいなかった。

多分、ここで俺が何を答えた所で、今のこの状況では虎姐も獅子沢さんも聞く耳は持たないだろう。
いや、むしろ下手な言い訳をしようものなら、余計に状況が不利になる事うけあいだ。

結果、俺に残された選択肢はただ一つ
―――運命を受け入れる、それだけしかなかった。

「とりあえず、この事に関しては光喜の身体にみっっちり聞くとしようか」
「そうですね~」

そして、俺は何も出来ないまま、何処か楽しそうな彼女らに引き摺られて行く。
恐らく、俺はこれから天国のような地獄をみっちりと味合わされる事になるだろう。

引き摺られている最中、俺は一つだけ心配していた。
……明日は欠席せずに済むのだろうか、と。

―――――――――――――――――了――――――――――――――――――――