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―――あれから、どれほどの時間が経ったのだろうか?

―――真っ暗な視界にチカチカと見える火花が、夜空に広がる星空の様に見える。

―――ああ、そういや、兄貴はこの星空の向こうに…………


「――……う、ん……?」
「む、起きたか?」

意識が覚醒し、うっすらと目を開けると、
其処には見なれたボロアパートの天井と、此方を覗きこむ熊谷さんの心配げな顔があった。

「あ…れ…? 義姉さん……ここは?」
「光喜、ここはお前の住むアパートだ。お前が気を失っている間に私が運び込んでおいた。
で、身体の具合は如何だ?」
「……虎姐は……?」
「虎姐……ふむ、あの虎獣人の女の事か?
彼女なら、気を失ってはいたが、その他はお前がクッションになったお陰で大した事は無かった。
で、あの後、獅子沢と言う彼女の友人が『先輩は家で寝かせておきます』とか言って、彼女を背負って帰っていったよ。
多分、今頃、彼女はお前と同じ様に布団に寝かされている事だろうな」
「そうか……」

応え、俺は立ち上がろうとして――

「―――痛っ!?」
「無理はするな。……一応、お前は怪我人なんだ、今は寝ていろ」
「わ、悪い……」

ズキリ、と身体中に走った痛みで思わず呻き声を上げてしまい。
傍に座っている熊谷さんに制され、布団に再び横になる。

そういや、投げ飛ばされた虎姐の身体の下敷きになったんだっけ……
病院送りにならなかっただけでもマシだと思わなくちゃな―――って、あれ?

「……それにしても、光喜、お前は自分の彼女を大怪我させぬ様に身を呈して受け止めようとするのは良いが、
幾らなんでも、身の程、と言う物を知っておいた方が懸命だぞ? 無茶した挙句、お前が怪我をして如何するんだ。
まあ、今回は打撲だけで済んだから良いが、あんまり無茶はするな。次も大怪我しないとは限らんからな」

そう言って俺に説教する熊谷さんだが、

「……あの、義姉さん? アレは如何考えても、俺が、身を呈して虎姐を受け止めた、と言うより。
義姉さんが、うっかり俺のいる方へ虎姐をブン投げた、としか思えないんだけど……?
と言うか、そもそも、義姉さんが面白がって虎姐をからかわなきゃ、こんな事にはならなかったような……?」

ジト目な俺の反論に、ぴくりっ、と一瞬だけ彼女の身体が硬直し――

「……ま、まあ、地方によってはそう言う考え方もある、な。
と、とにかくだ、お前は過ぎた事を一々気にするな、うん」

とか、真面目な表情で語る彼女の額に一筋の汗が見えたのを俺は見逃さなかった。
どうやら思いっきり図星だった様で……。

「まあ、義姉さんが虎姐たちに誤解を招くような発言をした事と、
その後で虎姐を俺へブン投げた事故に付いての追求は後にして―――」

気を取り直した俺の発言に、彼女が何度か身体をぴくつかせるが、敢えて構わずに続けて言う。

「少し聞きたくなったけど、義姉さん、何で今になってこの街に来たんだ?
観光で来たとか、にしてはこの辺りは特に見るような物は無い訳だし……」

俺の言葉に、彼女は少しの間、顔を俯かせて黙った後――

「……少しだけ、過去と向き合いたくなった。ただ、それだけだ………」

少しだけ、隻眼の瞳に悲しげな色を浮かべ、彼女は言った。

「過去と、向き合う……」
「最近、私はアイツの夢を見る様になってな………
その夢から覚める度に私は、アイツはもう居ない、と言う事実を思い知らされてな………」

熊谷さんも……辛いんだな……

「幾ら忘れようとしても、結局は忘れられない物なんだな………どんなに辛い過去でも、決して………
忘れたつもりでも、何かの拍子で思い出してしまう。そしてそれと同時にそれが心に重く圧し掛かってくる。
そう、忘れていた時間の分だけ、重く、圧し掛かって、な………」
「…………」

俺は何も言えなかった。
聞いている俺自身もまた、その過去が、今も尚重く心に圧し掛かっているのだ。
6年前のあの日から、ずっと………

「だったら、私は思いきって過去と向き合う事にしたんだ。
過去を忘れられないなら、過去から逃げられないのなら、いっその事、乗り越えていこう、とな」

言って、彼女は立ち上がり、窓の傍に立つとカーテンを開け、窓の外の景色を眺め――

「この街はアイツと出会い、そして思い出を作っていった場所だ。
この街の中央公園も、スーパーマーケットも、ゲームセンターも、商店街も、動物園も
その全てが、私にとっては、アイツとの思い出が詰まっている場所なんだ。
―――今でも思い出せるよ、あの場所で何時、アイツは何をして、私と何を語らったか、ってな」
「……辛くは、無いのか?」

俺の問い掛けに―――

「フ、辛いさ。これで辛くないと言うのは、やせ我慢か嘘吐きかのどちらかだな」

ふと空を見上げて、悲しげな笑みを浮かべて言う。
そして、彼女はテレビの上に置かれている倒されたままの写真立てを手に取り、

「けどな、幾ら辛いからと言って、何時までも過去から逃げている訳には行かないんだ。
逃げたとしても何も変わらない、むしろ、余計に辛いだけでしかないんだ。
光喜、お前も逃げているのだろう? だけど、逃げられないままでいる。そうだろう?」

その写真立てについた埃を手で撫で取りつつ、俺に向けて問いかける。
俺は、ふ、と視線を彼女から逸らし、

「他人から見りゃ、逃げているんだろうな、俺は……」

俺は自嘲気に言葉を漏らした。

俺の兄貴は宇宙開発公団の一員として働いていた、俺にとっての憧れの兄貴だった。
そんな兄貴と熊谷さんは出会い、熊谷さんは兄貴と同じ道を進む事を選んだ。
そして、6年前、兄貴は宇宙技術者として、熊谷さん日本在住の獣人初の宇宙飛行士として、宇宙ヘ上がった時、
其処で事故に遭って……そして、兄貴は2度と帰ってくる事は無かった。

その時、如何言う経緯を辿ったとかは詳しくは聞かされてはいない。
唯一知っている事とすれば、その時、兄貴と一緒に居た熊谷さんが心身ともに深い傷を負った事と、
今も尚、兄貴は遠い遠い星空の向こうを漂い続けている事くらいである。

憧れの人であり肉親である人物の喪失と言う事件は、当時小学生だった俺の心へ癒える事の無い深い傷を刻み込んだ。
(無論、両親もまた深いショックを受け、そのショックを忘れる為か兄貴の写った写真他持ち物を全て処分してしまった。
それは同時に俺と両親との確執の始まりでもあった)

それに対して、熊谷さんは実際に兄貴の死を目の当たりにしてもっと辛い筈だ、
だけど、其処から立ち直ろうと頑張っている。

それなのに俺は……情けない……

その俺を、熊谷さんは隻眼の瞳でじっと見つめ

「そうだな……逃げるなとは言わん。お前が幾ら逃げ様とも、別に私には関係は無いからな。
だがな、辛い過去と言うのは逃げるよりも、乗り越えて行く物だと私は言いたい」
「乗り越える………?」
「そうだ……乗り越えるんだ、どうせ逃げられないのなら乗り越えて行くまでだ」
「……乗り越える、か。
それが出来れば、俺は今に至るまで苦しみ続けていないよ」

言って、俺は自嘲する様に小さく笑う。
そんな俺を熊谷さんは責める事無く、続けて言う。

「『もし、昨日に辛い事があったなら。その辛い事を今日乗り越えて行こう、明日笑って行ける様に』
…………アイツの良く言ってた言葉だ。……つい最近になるまでな、アイツに言われたこの言葉を私は忘れていたんだ」
「義姉さん……」
「馬鹿だよな……私は、辛い現実から逃げようとするばかりに、大事な事まで頭の中から消し去ろうとしていたんだから。
アイツとの思い出も、アイツの温もりも、アイツの匂いも……全て忘れようとしてた。
……忘れられる筈もない事を、誰よりも分かっていながらな」

ほんの少しだけ、顔を俯かせた後、彼女は顔を上げ。

「だからこそ、忘れられないのならばいっそ、乗り越えて行こうと思ったんだ。
大切な、かけがえの無い記憶を胸に、明日笑って生きて行ける様に、な」

言って、彼女が浮かべた笑顔は、何処までも美しく見えた。

「義姉さんは強いな……それに比べて俺は割り切る事も出来無ければ、
忘れる事も出来ないままだ。駄目だな、俺は……」
「私は強くなんかないさ。さっきも言った通り、つい最近まで私も迷っていたのだ、
光喜、お前も何時かはその悲しみを乗り越えて行ける筈だ」
「………それって、いわゆる女のカンって奴か?」
「バカ。こんな時に何言っているんだお前は」

俺のからかい半分の一言に、彼女は俺の頭を小突くような仕草を取りつつ返す。

「……ま、ここで冗談を言えると言う事は、お前もそれなりに立ち直った訳だな」
「まあ、な……それなりにだけど」

言って、俺は苦笑する。
その様子を、静かに眺めた後、

「ふむ、それはお前が虎姐と呼んでいる虎獣人の女のお陰かな?」

「ぶ ぼ っ ! ? げほげほげほっ」

「どうやらその様子だと当りの様だな。
……全く、光喜も、アイツと似てガッチリとした獣人女に目が無いと言う訳か。
やはり、血は争えないみたいだな?」

いきなり言い放たれた言葉で、大きく噴出してそのまま咽る俺に
彼女はニヤニヤと笑みを浮かべ、納得したかのように頷く。

「ちょ、義姉さん! 俺は別にそう言う訳じゃ……」
「いやいや、別に隠す必要は無い。それは生物の本能としては間違っていない事だからな。
強い雌に惹かれる雄、大いに結構。私も好きだぞ、そう言うのは」
「ったく、からかうかうのは止め――――……んっ!?…んむーっ!?」

含み笑いを混じらせた言葉に、俺が憮然と答えようとした矢先
――――彼女が俺の口を唇で塞いだ、

その突然の事に、俺が反応するよりも早く、熊谷さんに馬乗りに圧し掛かられ、
そのまま押し倒されるとレスリング仕込みの凄まじい力で俺は身体を抑えこまれてしまう。
密着する彼女の身体が、何処か熱っぽく感じるのは気の所為ではないはずだ。

「んっ…んんっ! うむむっ!?」

柔らかい唇の感触を感じると共に半開きになった唇の隙間に彼女の舌が割って入り、
舌先が頬の裏をなぞって、歯茎を撫で回してゆく。
俺は思わず侵入している彼女の舌を自分の舌で押し返そうとするも、
逆に彼女の舌にねっとりと絡み付かれ、唾液を吸われてしまう。
拙い、これは……気持ち良い……

「ん…ふぅ……フフフ」

暫く経って、俺の口内を存分の犯した事に満足したのか彼女の顔が離れ、
酸欠で咳き込む俺へ、彼女は鋭い八重歯を見せる様にニマリと笑って、何処か艶を含んだ声で笑う。

「……ぁ…っ…な、何の…つもりだよ、義姉さん……?」
「何のつもりって……フ、こう言う事に決まっている」

ディープなキス&酸欠によって意識がやや朦朧としつつも、何とか問い掛ける俺に
彼女は舌なめずりをして、隻眼の潤んだ眼差しを俺へ向けつつ、そっと股間を舐る様に摩る。
ヤバイ、これはかーなーりヤバイ状況! 

「ちょ、待ってくれよ、義姉さん!
俺には虎姐、もとい虎山 妙と言う名の彼女がいる訳で、こんな事はいけないと思うし
それに義姉さんは兄貴を裏切るつもりなのか!? そんな訳―――」

ある種の身の危険を感じた俺は、彼女を押し止めようと必死になって説得するが
彼女はそっと俺の口を塞ぐように手を添えて、「何も言うな」と言わんばかりに首を横に降り。

「さっきも言ったと思うが、最近、私はアイツの夢を幾度となく見る様になってな……。
その夢から覚める度に、私の……ここがな…熱く、疼くんだ……」
「――っ!」

言って、俺の手を取るとその手を強引にズボンの中へ引き入れ、自分の股間へ触れさせる。
それはパンツの上にも関わらず、熊谷さんのソコが熱く湿っている事を俺の手に伝えてきた。
……ううっ、この人、本気だ!

「……ね、義姉さん……けど……」
「『兄貴の婚約者だったんだろ?』と言うつもりか?
それは私自身、良く理解している事だ。私が今、義理の弟を襲おうとしている事。
そして、これはアイツに対する裏切り行為だと言われても仕方ない事だと」
「だったら……何故……?」

俺の、掠れた声の問い掛けに対し、彼女は何処か辛そうに両腕で自分の身体を抱き締め、

「けどな、それを分かっていながらでも、この身体の疼きは抑えられないんだ。
そう、アイツがいなくなってから、私はずっと自分自身で慰める事で、この疼きを抑えてきた……
しかし、それにも限界だ。最早、今の私はあいつの顔を思い出すだけで、身体が熱く疼き始める所まで来ている。
これでは、日常の生活にすら支障をきたしてしまう。最悪、私は本能の獣と成り果ててしまうかもしれない。
ならば、この疼きを止める為に、行きずりの誰かと身体を合わせる?……いや、それこそ、アイツに対する裏切りになる。
だったら、せめて、アイツと血の繋がった人間、そう、光喜、お前とならば………」
「……義姉さん……」
「フ、随分と身勝手な理由だろう? お前に、アイツの代わりをやれ! と言う訳だからな。
それも、ただの自己満足の為だ……これではあの虎獣人の女に恨まれても仕方ないだろうな。
何せ、その恋人であるお前を、今、私が襲おうとしているのだからな。
……とんでもない悪者だよ、私は……フフ……」

言って、彼女は俺に向けて何処か物悲しげな笑みを浮かべた後。

「……だが、それを気にしていられる程、私に余裕は……もう無い!」
「―――うわっっ!?」

俺が止める間も無く、彼女の獣毛に覆われた熊手の鋭い爪が俺の着ている服を引き裂いた。

「光喜、お前もいけないんだ。そう、アイツと似た姿と声になるからいけないんだ!
行動もそうだ、孤独を愛するくせに妙に寂しがり屋で意地っ張りで変な所に鋭くて、
その上、大事な人の事になると向こう見ずで! 
そんな所まで似ているから!私は、気を失っているお前を見ているうちに……我慢出来なくなったんだ!」

叫ぶ様に捲くし立てながら、ズボンも下着諸共引き裂いて行く彼女。
その暴威に対して、俺は彼女を止める事はおろか何かを言う事すら出来ず、されるがままになる事しか出来ない
――――否、出来なかった。

それは何故か―――そもそも、虎姐よりも強い熊谷さん相手に、
腕っ節のなまっちょろい俺が抵抗を試みた所で完全無欠に無駄でしかない事もあったのだが。
それに、俺の服を引き裂いている彼女の顔を見た時、その隻眼の瞳に光る物が見えたからだ。
……それに気付いた時点で、俺は全ての抵抗を諦めざるえなかった。

だが、そんな俺の思考とは裏腹に、俺の愚息はさっきから布ごしに感じる、
彼女の柔らかい乳房や尻の感触に反応し、その本能を奮い立たせていた。……節操の無い奴め!
無論のこと、彼女はいち早くそれに気付き、

「フ、フフ……こんな状況で起っているとはな……ますますアイツと同じだ。
私が初めてアイツと身体を合わせた時……アイツは私に服を破かれている最中に起っていたのだからな!」
「……うう……っ」

口に獰猛な笑みを浮かべ、存在を天に示し始めた愚息を手で扱き始める。
……どうやら、愚息の節操の無さは兄貴譲りだった様で……何だか泣けるで!

「―――うぼぁっ!?」

――と、変な所での血の繋がりに悲しさを憶えている間も無く、
突然、布のような物が顔に何度か投げつけられ、思わず変な声を上げてしまう。
……こ、これは彼女の着ていた服、と言う事は……?

「如何だ、光喜、私の裸は……?」

顔面に被さった服を振り払った俺の視界に入ったのは、既に全裸となった彼女の姿だった。
着衣の一切を脱ぎ捨てた彼女の身体は、虎姐や獅子沢さんよりも引き締まっており、
それでいながら女性らしさを失っていない、しなやかなボディラインの彼方此方に刻まれた傷跡は
痛々しいと言うよりも、むしろ彼女の野生美を強調している様に思えた。
……って、何じっくり観察しているんだ、俺は……

「フ、どうやら観念した様だな……。
しかし、流石は血の繋がった兄弟だな、汗の匂いも……似ている……。
これは、堪らない物があるな……フフ……光喜、お前も、感じているんだろう?」

服を脱ぎ去った後、彼女は覆い被さる様に、俺の上に熱く火照った身体を圧し掛かると
片手で愚息扱きを再開しつつ、俺の首元に顔を寄せてスンスンと鼻音を立てて匂いを嗅ぎまわる。
その際、俺の胸の素肌へ直に彼女の乳房が押し当てられ、
更にほぼ密着している事で、興奮しきった彼女の体温と発情した雌の体臭を直に感じている所為か、
襲われている方である筈の俺もまた、興奮をしていたのか、無意識の内に息を荒げている事に今更ながら気が付いた。

「フ、そう焦るな、直ぐに気持ち良くさせてやる……なんたって、熊は情が深いのだからな。
と、そういえばアイツと初めてやった時も、私は同じ事を言ってたな……」

そう、俺の耳元に語りつつ、彼女は騎上位の状態で愚息を握り締めると、
股間の黒い茂みの奥の、熱くしどどに濡れた秘所へ愚息の先端を誘導して行く。

「さて、思い出話はここまでにして……行くぞ、ん…っ!」
「うくっ!」

そして、愚息の先端が秘所の熱く蠢く肉穴ヘ触れた事を、俺が感じ取る間も無く
彼女が一気に腰を落とし、じゅぶりと言う淫猥な水音と共に胎内へ愚息を飲み込ませた。
即座に愚息全体が肉壁に熱く強く抱擁され、俺の思考は快感によって真っ赤に染まった。

「んっ……フフッ、何だ、”ここ”だけは、アイツと、少し違う……か?
いや、雁首の高さは……んんっ、似ている、かも……」

根元まで愚息を飲みこんだ彼女は腰を左右に揺さぶりながら、
中の愚息の感触を味わい、恍惚とした笑みを浮かべて感想を漏らす。
当然、俺は彼女が腰を揺らすたびに愚息が肉壁によって舐り回され、否が応に快感の度合いを高められて行く。

「さて、動く、ぞ……んんっ…くふ…っ」
「ぁうっ……くっ…うぅっ」

愚息から伝わる快感に呻き声を上げる俺を、
快楽で蕩けた表情で見下ろしながら、熊谷さんは最初は小さくゆっくりと、そして次第に大きく激しく腰を上下させてゆく。
忽ち結合部から先走り混じりの愛液が溢れ出し、ズチュズチュと淫猥な水音が室内中に響き渡り、
その動きの激しさにボロアパートの床がギシギシと抗議の声を上げる。

「くっ、良いぞっ、やはり、お前とも、相性良いみたいだっ!」
「ぁっ、義姉、さん! ゆ、ゆっくり!」

無論のこと、彼女が激しく動けばそれだけ肉壁によって愚息が揉み扱かれ、強烈な快感となって俺を責め立てて行く。
腰の奥底から加速度的に熱く込み上げてくる射精感に、
ある種の危機感を覚えた俺は動きを緩める様に言おうとする。

「今は、義姉さんと、呼ぶなっ! ムードが、ぶち壊しだっ!」
「――――っ!!――――っ!?」

だが、俺の言った『義姉さん』の一言がよほど気に食わなかったらしく、
彼女は腰の動きを打ち付けるような動きに変え、更に腰に力を入れ肉壁の締め付けを強くしたのか
ぎゅうぎゅうと愚息が締め付けられると同時に、先程よりも激しく粘膜で擦り合わされ、俺は声にならぬ声を上げて悶絶する。
……い、いかん…このまま では 出して しまう!

「フン、イきそうか? ならば、出せっ! 私は、別に構わん! いっぱい、出すんだっ!」
「で、でも、出し、たら……っ」
「避妊は、している。だから、遠慮無く 中にっ、出せッッ!!」

射精感に堪える俺の様子に気付いた熊谷さんが嬌声混じりに言いつつ、腰を揺さぶって射精を促してくる。
だが、俺は流石に中はマズイと思い、声を搾り出す様に彼女へ止める様に言おうとしたが
彼女がきっぱりと言い放つと共に、愚息の先端を子宮口へ叩き付けんばかりの勢いで腰を下ろし、
それと同時に愚息全体を肉壁に締め上げられ――

「う、あ、あああぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

――俺は限界を迎え、熊谷さんの中へ精液を勢い良く解き放った。

「―――――っっ!!あ……ぁぁぁぅっ!」

それと同時に、熊谷さんも絶頂を迎えたらしく、
絶叫のような嬌声を上げると、身体を大きく後ろに仰け反らせ、ビクリビクリと小刻みに痙攣した後。
そのまま力を失ったかの様に俺の胸元へどさりと倒れこみ、肩を上下させて荒い息を漏らす。
やがて結合部分から泡立った精液混じりの愛液が溢れ出し、布団を汚して行った。
……あ、ああぁぁ……やっちまったぁ……

「フ、フフ……久しぶりだ、私が達したのは……」
「ねえ…いや、佳子さん、もう良いだろ?」

その後、彼女は絶頂の余韻で陶然とした声で、俺に笑いかける。
彼女のその様子に、俺は満足したのかと思い、今が好機と彼女へ止める様に促すのだが………

「いや、まだだ。私の身体の疼きはまだ消えていない」

だが、俺の懇願は虚しく、彼女はきっぱりと俺に向けて言い放つと、再び腰を動かし始める。
愚息はと言うと俺の教育が悪かったのか、俺の考えとは裏腹に未だに元気なままで、萎える様子が見えない。
お、お父さんはそんな息子に育てた憶えは(ry

「フフッ、ほら、ぼうっとしている暇は無いぞ? 私が満足するまで5回は覚悟しろ、光喜」
「……は、はは……」

そんな、獲物を貪る野獣の様な――否、野獣その物の笑みを浮かべて、腰を動かす彼女に対し、
今の俺は抗う事も出来ず、ただ、乾いた笑いを浮かべるしか他が無かったのだった。

   *             *              *

「―――それは、たった数cm四方の小さな部品だった、宇宙(スペース)デブリと呼ばれるそれが、
6年前、私とアイツ、そして他のクルー5名のいた宇宙ステーションに衝突した。
……丁度その時、私とアイツは、機能不全を起こした太陽電池パネルの交換作業を行っている最中だった」

ぽつり、ぽつりと、熊谷さんは語り始めた。
6年前のあの時に起きた事故の始終を。

俺が言う様に頼んだ訳ではない。
”こと”の後片付けをした後。彼女自身が、自ら進んで聞いてきたのだ。
そう、「あの時の事を知りたいのならば、話してやる」と。

―――そして、俺は少し躊躇した後、首を縦に振った。
これは、何が何でも知っておくべき事だと、俺が判断したからだ……。

「ぱっ。と目の前が一瞬光った様に感じた。最初は何が起きたか分からなかった。
だが、身体に走り始めた痛み、狭まった視界に映る罅の入った自分自身のバイザー越しの景色、
そして耳元で叫びに近い声で私に話し掛ける通信機越しのアイツの声
……それで自分の身に何が起きたかを私は理解した。
――そう、私はデブリの衝突による爆発に巻き込まれた、と」
「…………」
「……状況ははっきり言って最悪だった。
爆発による衝撃で、船外で活動中だった私とアイツも二人ともステーションから漂流をし始めていた。
直ぐにMMU(有人軌道ユニット)を動かしてステーションへ戻ろうとしたが、
私のもアイツのも爆発の影響で何処かが故障して動かず、自力での帰還は不可能な状態だと認識するだけで終わった。
加えて、私はデブリ衝突の際、飛び散った破片を全身に受け、重傷を負った状態………この左目も、その時の物だ」

言って、彼女は眼帯をずらし、閉じられた瞼の上を走る裂傷の痕を見せる。

「対してアイツの方はと言うと、私の影に隠れる位置に居たお陰か、私に比べ怪我は大した事の無い様に思えた。
しかし、それでも宇宙服の数カ所に破片による裂け目が生じており、其処から酸素が漏れ出していた。
おまけに、徐々に離れつつあるステーションに刻まれたデブリの衝突痕の凄まじさからも見て、
恐らく、その応急処置にクルー全員が追われているであろう事は目に見えて明らかで、救援は期待できない有様だった。
そんな私とアイツを、宇宙ステーションに辛うじて繋ぎ止めているのは、
飛び散った破片によってボロボロになり、今にも切れそうな通信用のか細いケーブルのみ。
もし、何かの拍子でケーブルが切れてしまえば、私もアイツも確実に宇宙を永遠に漂う氷漬けの死体と成り果ててしまう。
例え運良くケーブルが切れずにいたとしても、
酸素が漏れ出している状況では救援が来る前に酸素が尽きて結果は同じ事だ。
そう……私達は、生き残る為に、ある決断を迫られる事となった」
「それ、は……?」
「どちらかが犠牲となる事で、もう一方を助けると言う決断だ」
「…………」
「私は、自分が犠牲になる事でアイツを助けようと思った。
……方法は簡単だ。ただ、宇宙ステーションに向けて、私がアイツを軽く押し出せば済む話だ。
死ぬのは怖くなかった、むしろ、私が犠牲になる事でアイツが助かるのなら。私はそれでも良いとも思った」

悲しい決断、熊谷さんは自分を犠牲にしてまで兄貴を助けようとしていた、けど………

「だが、私が意を決し、アイツを押し出そうとした矢先だった。
アイツは私に向けて言った。そう、『大丈夫、大丈夫だよ』とな………」

俺が他人を励ます時、何時も口癖の様に使う言葉。
それは兄貴の口癖でもあった言葉。
そして、兄貴がその言葉を使う時は何時も………

「最初、私はアイツの言っている意味が分からなかった。
思わずアイツの顔を見た時、アイツが笑顔を浮かべている事がバイザー越しでも分かった。
その笑顔は、何処か悲壮な覚悟を決めた、けど、それを相手に悟られない様にする為に
必死に浮かべる何処までも悲しい笑顔だった」
「…………」
「私が、アイツの笑顔に気付き、何を考えているのかを理解し、通信機越しに声を掛けようとする寸前。
―――とん、と胸を押される感触がした。
身体を押された、と気付いた時には、私は徐々にステーションに向けて流されていく所だった。
当然、私を押したその反動で、アイツは逆方向に流されていった。ステーションから離れていく方向に。
そう、アイツは、自分の命を顧みずに、私を助ける事を選んだんだ」

兄貴は、何時も自分の事よりも他人の事を気にかける人だった。
そんな兄貴が『大丈夫、大丈夫だよ』と、誰かに言う時は決まって、
兄貴はその誰かの代わりとなって、一人苦労を背負い込み人知れず傷付いていた。
そう、兄貴は、誰かの為ならば、自分は幾ら傷付いても構わない、そんな人だった。

そして、この時も……。


「私は言葉にならぬ叫びを上げながら、虚空の向こうへ離れつつあるアイツに向けて必死に手を伸ばした、
けど、最早、私の手はアイツの身体に届く筈が無かった。
だけど、私は手を伸ばし続けた、無駄だと知りながらも。何時までも。何時までも。
その私にアイツは言った、『僕の分まで、生きてくれ』と………」

彼女が話すその声に、次第に嗚咽が混じり始めた。
その表情は、悲しそうな、いや、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
それを前に、俺はどうする事も出来ず、ただ、黙って話を聞くしか出来なかった。

「不敗と呼ばれるまでに強くなった結果。
レスリングを続ける事に対して虚しさを感じ始めた私に、宇宙飛行士と言う道を齎してくれたアイツ。
宇宙へ上がる為の過酷な訓練に挫けそうな私に、満天の星空を指差しながら、ロマンたっぷりな話を聞かしてくれたアイツ。
不安で眠れない毎日を過ごし疲れ切った私に、何時も優しく微笑みかけ、励ましてくれたアイツ。
そんなアイツを、私は助けたかった、だけど、助けられなかった」
「…………」
「宇宙にぽつんと浮かぶ星の様に小さくなった姿が、私の見たアイツの最後の姿となった。
……其処からは殆ど憶えてはいない。ただ、おぼろげながら、誰かに救助された事だけは憶えている。
気が付けば、私は地上の病院のベットの上だった。そして、誰に聞かされずとも、私は理解した。
―――アイツは、帰らぬ人となった、と」

泣いている、熊谷さんがぼたぼたと涙を流し、身体を震わせて泣いている。

「無力だった。私は、本当に無力だった。
幾ら力が有ろうとも、そう、かつては不敗と呼ばれるまでの実力が有ろうとも。
この時の私は、産まれたての赤子よりも無力だった。
幾ら悔やんでも悔やみきれない。どうして、私は何も出来なかったのだ、と。
いや、後悔する事に意味はあるのか!? 幾ら後悔しようとも、アイツはもう帰ってこない、何も変えられない!
何度か、私は自殺まで考えた。だけど、出来なかった。
自ら命を絶つと言う事は、命を賭してまで私を助けたアイツの行動を、全てフイにしてしまうと分かっていたから。
ならば、私は、どうすれば良い……! どうすれば……」
「義姉…さん…」
「……すまない、光喜。少し取り乱してしまったな。
これが、6年前のあの時、私とアイツに起きた事の全てだ。後は、お前も知っている事だろう。
……辛い話を聞かせて、済まなかったな」
「いや、謝るべきは、俺の方だ。
多分、この話をする義姉さんの方がもっと辛かったと思う
それなのに、俺は……」
「フ、光喜は優しいな。
―――さて―――私はそろそろ帰るよ」

彼女は微笑を浮かべると、唐突に言った。

「義姉さん、もう帰るのか?」
「ああ、私にだって用事はあるし、それにやるべき事をやった以上、
何時までもお前の家にいたら、お前の彼女にまた勝負を挑まれかねんからな?
そんな面倒にならない内に、さっさとお暇させてもらうとするよ」

言って、彼女はジージャンを羽織って立ち上がり、玄関へと向かう。
玄関のドアを開けると、外の景色は既に黄昏色に染まっていた。
見送りに立つ俺に、彼女は振り返り、

「……っと。ああそうだ、光喜。言っておくが、虎山 妙 彼女を悲しませるような事はするなよ?
私の勝手な私見だが、彼女は私と同じ様に、屈強な身体の割に心は傷付き易いと思うからな」
「ああ、良く心がけておくよ。俺だって、虎姐を傷つけたくないしな」
「フ、そうか、なら心配は要らないな」

俺は彼女の顔をまっすぐ見据えて応え。
彼女は安心した様に微笑んだ。

「……所で、これから義姉さんはどうするんだ?」
「そうだな……」

尋ねる俺に、彼女は空を見上げ

「やっぱり、教えない」
「な……?」

振り向きざまに言った言葉に拍子抜けし、口をあんぐりとさせる俺に
彼女は悪戯っぽく笑った後、再び空を見上げると、

「まあ、心配するな、私は、アイツに貰った命の分、強く生きていくつもりだ。
過去を乗り越え、明日を笑って生きていく為にな」

その時、熊谷さんの見せた笑顔は、
何処までも清清しく、それでいて、何処か物悲しげな笑顔だった。

「そうか……――それじゃ、義姉さん、後達者で」
「ああ、光喜もな―――」

言って、彼女は背中を向けて歩き始めた。
過去を乗り越えて未来へ歩き始める熊谷さんの背に向けて、俺はそっと、小さく手を振った。

そして、沈み行く夕日を眺めつつ、俺は一つの決心をした。
――俺も、彼女の様に、過去を乗り越えて、生きて行こう、と。