第3場
60年代。ヒルトン・ホテル・香港
(上手オーケストラを仕切った紗のカーテンに「希街頓酒店」のプレート)
♪WALTZING MATILDA(中国語バージョン)♪
歌いながらグランドピアノを弾いているピーター、ギターを弾いているクリスが下手から登場。
上手から正装した男女が何組もワルツを踊りながら登場。下手からもパートナーがいない男女が登場。
その中に、ジュディ・ガーランド、夫のマーク・ヘロンと手を取り合い踊りながら登場。(ジュディは他の女性のようなドレスではなく、上下とも赤い服、スカートはタイトスカート姿)
ジュディ、かなり酔った様子でワルツの列から離れる。
ジュディ「中国の歌じゃないじゃない」
マーク「みたいね」
ジュディ「WALTZING MATILDAよ」
マーク「みたいね」
ジュディ「オーストラリア、オーストラリアの歌よ」
マーク「みたいね」
クリス、ジュディに気付いてピーターに合図を送る。ピーターも気付いて驚く。
ジュディ「あの国に追い出されたことがあるのよ。どこ行ってもブーイングの嵐。何て言ったっけ?あのクソ町」
マーク「メルボルン」
ジュディ「あー!何で思い出させんのよ!あんな国、カンガルーのケツの穴に突っ込めってんだ!」
ジュディの台詞の途中でピーター、バンドに合図して音を止め、マイクを掴む。
ピーター「さすがジュディ・ガーランド!見事な退場!」
ジュディ「Shit!」
ピーター、マイクを持ってピアノの前から立ち上がって横に移動。
ピーター「皆さん!ガーランドさんに一曲歌っていただきましょう!」
ジュディ「(ピーターに向かって)あんた、頭おかしいんじゃないの?」
ピーター「世界一の歌手でいらっしゃる」
ジュディ「それがどうした」
ピーター「僕、大ファンなんです」
ジュディ「安っぽいこと言うんじゃないわよ」
ジュディ、その場から去ろうと上手の方に移動。
ピーター「あ、ちなみにそのドアはトイレに通じてます」
あら、とジュディ、ノブを回(すフリを)しかけた手を引っ込めて、ピーターに向き直る。
ジュディ「大スターだって、おしっこぐらいするわよ。失礼」
再び去ろうとするジュディ。
ピーター「お願いです、一曲だけ」
ジュディ「あのね、私は病院で15時間も意識不明だったのよ」
ピーター「それは何よりの骨休め」
ジュディ「気休めにだってならなかたわよ!よく言うわ、歌えだなんて」
ピーター「歌わしたいのは僕じゃない」
ジュディ「誰よ」
ピーター「ファンの皆さんです」
ピーター周囲に拍手を求める。周りの客拍手。
ジュディ「ファンが私に何をしてくれたって言うのよ!意識不明で死にかけてたのよ!」
静まる客たちにジュディ気まずくなって。
ジュディ「・・・でも、今の私を支えてくれるのはファンだけ。ま、いいか、今更失うものなんて何にもないし」
客たち再び拍手。
ジュディ、クリスからマイクを受け取りピーターのピアノの元へ。
ジュディ「『夢だけでいい』って知ってる?」
ピーター「勿論!」
ピーター感激してピアノの前にスタンバイ。ジュディ、ピーターの隣に座ってマイクを構え、ピーターの演奏に合わせて歌い始める。
♪夢だけでいい(ALL I WANTED WAS THE DREAM)♪
歌い始めてすぐ、歌詞を忘れつまったジュディに、ピーター「忘れやしない」と耳打ち。ジュディ再び歌い始める。
ノッて来たジュディ、マイクを持って立ち上がり、舞台中央へ。
見事に歌い上げ、客から喝采を受ける。
感激した客に囲まれるジュディの横で、その夫マークはマイクを受け取るとピーターの元へ。
マーク「また会ったな」
ピーター「まさか、ジュディ・ガーランドと釣るんでたとはね」
マーク「俺達は一夜限りの関係だ。知らせてる暇はなかったんだよ、な」
とマーク、ピーターの手を取ろうとするが、ピーターするりと身をかわし二人の間を指差して
ピーター「この線見える?」
マーク「どれ?」
ピーター「俺が今引いた線。一線を越えるつもりはないね」
と言い置いて、舞台中央のジュディの元へ。
ジュディ「感謝するわ」
ピーター「何を?」
ジュディ「キーを合わせてくれた」
ピーター「ああ、そっちが合わせてくれたんだ。・・・最後の音だけだけど」
ジュディ「あははは」
ピーター「はっはは」
舞台暗転。
ピーター、ナレーターに戻り客席に向かって
ピーター「自分が虹の向こうに行こうとしてたなんて、知る由もなかったですね、当時は。それも、山あり谷ありだった訳ですけど。俺の人生にとって、大きな波を遥かに超える、最高の波がやって来ていたんです」