第4場
60年代。中国の小さなバー/香港の町/ニューヨーク
香港の小さなバー。
下手に、カウンター。クリスとマークが酔いつぶれて寝ている。
上手に、テーブル席。ピーター、着席しているジュディの元へ行って隣に座ってグラスを持って乾杯。
ジュディ「今度はどこへ行くの?」
ピーター「もう行く所は残ってない。香港中歩き尽くしたじゃない」
ジュディ「いかがわしい酒場は全部知ってるのね」
ピーター「全部喜んでたじゃない」
ジュディとピーター顔を見合わせて笑う。ジュディ、立ち上がってカウンターの方を見て。
ジュディ「あんたのインチキ兄弟寝てるね」
ピーター「あんたのインチキ亭主も。ははは」
ジュディ、ピーターを嗜めるように指を立てる。
ジュディ「口には気をつけて。(クリスを見て)あの子かわいいけど、才能っていや、あんたの方が勝ちね」
ピーター「俺だってかわいいじゃん」
ジュディ「何よ、(ピーターに身を寄せて)誘惑してるの?」
ピーター「そんな手間かけない」
顔を見合わせ二人でしばしバカ笑い。
再び席について。
ジュディ「・・・これからどうするの?」
ピーター「ああ、国にでも帰るかな」
ジュディ「国に」
ピーター「うん」
ジュディ「いいわねぇ。故郷(ふるさと)があるのはうらやましい」
ピーター「故郷なんて誰にだってあるじゃない。俺なんてさ、所詮田舎者」
ジュディ「田舎者。ああ、何て素敵な響き。素晴らしきかな子供時代」
ピーター「(ジュディの言葉に真顔になって)初めて言うんだけどさ」
ジュディ「うん?」
ピーター「俺、子供の頃辛い思いしてさ」
ジュディ「そんなこと、真面目に言う?麻薬で2度倒れて、亭主を3度替えて、精神病院に4度も入院した、このジュディ・ガーランドに。その方がよっぽど辛いでしょ?」
ピーター「うん」
笑い飛ばすジュディと、苦笑いのピーター。
ピーター「ああ、NYに行ってみたいな」
ジュディ「まだ早いでしょ」
ピーター「ね、前座の歌手とかいらない?」
ジュディ「・・・あのね、そう言うことは、自分で言わないで相手にそう思わせるのが肝心。野心と言うのはオブラートに包んでおかないと。修行が足りないね。あんたはまだひよっこよ」
ピーター苦笑い。
ジュディ「胃の洗浄なんてされたことある?」
ピーター「ううん。まだ」
ジュディ「ちゃんと教えてくれる人が側についてなきゃ。でも用心するのよ。相手を間違えるとロクなことにならないから」
ジュディ、立ち上がって舞台中央へ移動しながら歌い始める。
♪年上の女(ONLY AN OLDER WOMAN)♪
歌が始まる辺りからカウンターで酔いつぶれていたマーク、起きてクリスも起こしてジュディの方を見るよう促す。
途中からピーターも席を離れてジュディの元へ。
歌の途中で台詞。
ジュディ「モンスターの資格は充分ね。気に入ったわ」
ピーター「何言ってるんだか」
ジュディ「ついてらっしゃい。ちょうど前座が欲しかったところなの。本当にNYに行きたい?」
ピーター「それだけが望み!」
ピーター「どうなっても知らないわよ?」
ピーター歌い始める。
クリスとマークも歌に参加していく。
歌の途中でピーター、ジュディとダンス。
ジュディ「あら、ダンスも踊れるのね?
ピーター「お粗末なものですが」
ジュディ「フレッド・アステアの再来?」
ピーター「それよっか、セクシーでしょお?」
ジュディ「はははは」
ジュディとピーターのダンスの後、クリスとマークも合流して4人並びながら舞台奥へ向かって進む。
舞台セットはNYの街並みへ。
4人正面に振り返り、それぞれに散らばる。
ジュディ「さあ!NYに着いたわよ!」
男性3人とジュディと掛け合いのように歌は続き、最後は舞台下手よりで片膝をついたピーターの上にジュディが腰掛、クリスとマークが両側でポーズ。
ジュディ「さあ、NYよ。ご想像通り?」
ピーター「全然!想像以上!」
ライザ「ママ!」
歌が終わった直後、上手からライザが登場。長い髪にピンクのカチューシャ、ピンクのストール、ミニスカートにレッグウォーマー姿。
ジュディ「おお、ライザ!」
ライザ「お帰り!」
ジュディ「(近寄ってきたライザを抱きしめて)おお!ライザ!ライザライザライザ!ライザ・・・ライザ」
最初は喜んでいたジュディだが、ライザの姿を見て段々声が尻つぼみになっていく。
ジュディ「(最初にライザを示し)娘のライザ、こちらが(とピーターを指して)新しい亭主」
ピーター慌てて違うと手を振る。
ジュディ「あ、こっち(と次はクリス。クリスも手を振って否定)、ああ違う!ああもう、おかしくなっちゃう。後の二人は前座のコンビ」
お互いを見つめたピーターとジュディ。その視線を交わす様子にジュディ訝しげに言葉を続ける。
ジュディ「兄弟コンビ。・・・ほんとはインチキ兄弟。・・・さあ、町に繰り出すわよ」
ジュディの言葉も耳に入らない様子の二人をあきらめて、クリスとマークを誘い上手にはけて行く。
舞台中央で二人だけになったピーターとライザ。
ライザ「それじゃあ、あなたが」
ピーター「ん?」
ライザ「例の、オーストリアの人」
ピーター「いや、オーストラリアの人」
ライザ「え、ママの話じゃ・・・」
ピーター「トラップ大佐でも出てくると思った?ラ、ララララ~wearesoundof
music~♪(と歌う)」
ライザ「ママから聞いてた話じゃ」
ピーター「がっかりした?」
ライザ「いえ、予想と違って」
ピーター「予想通りでたまるかよ!」
ライザ「私はどう?予想通り?」
ピーター「いや、予想と言っても」
ライザ「ああ、娘がいるって聞いてなかった?そっか」
ピーター「(ライザのしゅんとした様子に慌てて)ああいや、いつだって君の話はしてたよ!でも・・・あまりにも話と違うからさ。・・・へ~え、君、目が大きいんだ」
ライザ「顔についてるもの全部大きいの、私って!」
ピーター「いやそう言うんで言ったんじゃなくて!・・・でも、本当に大きいよな。・・・大きい目って、綺麗だな」
ライザ「(照れて)やめてよ」
とピーターとライザがいちゃいちゃと話しているところに、上手からジュディが登場。
ジュディ「ぐずぐずしないで!リムジンの手配してないのね。タクシーを拾えって言うの?この私に」
ピーターとライザ、ジュディに気付かない様子で話している。その様子に苛立ち、声を荒げるジュディ。
ジュディ「ライザ!早くリムジン手配して!」
ピーター「(ジュディに向かって)おい!この子にそんな口聞くなよ!亭主にやらせりゃいいだろ!」
ジュディ「亭主になんかやらせてたら、夜が明けちゃう」
鼻白んだ様子でジュディ、上手にはけて行く。
ピーターとライザ、その様子を黙って見送る。
ライザ「ありがとう」
ピーター「何が?
ライザ「庇ってくれて」
ピーター「ああ、うん」
ライザ「嬉しかった。そんなことしてくれた人、初めてだったから」
ピーター「どうしてかな?」
ライザ「ママといると、私透明人間になるみたいなの」
ピーター「どこに目ぇ付けてんだろ!絶対皆気が付くと思うんだけどな!君が」
ライザ「えっ?」
ピーター「特別な女の子だって」
ライザ「ほんと?」
ピーター「いいかい?」
ピーター、ライザの手を取り歌い始める。
♪出来ることはせいぜい(THE BEST THAT YOU CAN DO)♪
歌の間にストールを取ったり、取られたりといいムードの二人。
ちょっとしたダンスもあり。
♪恋に落ちるしかないさ~と歌った後台詞。
ライザ「そうかしら?」
ピーター「そうだよ」
ライザ「だって、無茶苦茶じゃない、そんなの。人間って、そんな風に恋に落ちるもの?そんなのって」
ピーター「映画でしか起きない?」
ライザ「うん。人生って」
ピーター「賭けてみる?」
ライザ「ええ。でも誰で決めるのかしら?私の?それともあなたの?」
ピーター「指を鳴らして、現実に戻ってみる?」
ライザ「うん」
二人、目を瞑り両手を伸ばして指パッチン。
目を開けて二人顔を見合わせて「Shit!」と笑い合う。
再び歌へ。今度はライザとピーターのデュエット。
二人顔を見合わせポーズ。
歌が終わるとライザは上手にはける。
舞台は暗転し、ピーターは上手よりに移動し、ピンスポットが当たる。
ピーター「さあて、小さなオーストラリアから出て来た田舎者が、世界に名だたるハリウッド・スターの娘と恋に落ちて幸せに暮らしました。な~んてありかな?・・・ありだよ!」
下手に母マリオン登場。ピーターと同じようにピンスポットが当たっている。
マリオン「それは、わくわくするわね」
ピーター「そうなんだ。ステージの上のライザを見せたいよ。すごい才能があってさ、勉強になるよ!毎晩ジュディの仕事っぷりも見れるしさ。まあ、袖からだけど。・・・会わせたいなあママにも。いろんなこと知ってて」
マリオン「素敵だけど。あんまり入り込むことしちゃ」
ピーター「大丈夫!もう、家族同然なんだから。彼女はもうお袋状態。あ、但し、ラメの服着てるけどね。・・・マジで心配いらないよ!」
マリオン「そうよね、どうせアメリカ暮らしをするなら、本物のアメリカ人の家族に囲まれてる方が、いいしね」
両側のピンスポットが消え、ピーターとマリオンもはける。