とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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だれでも歓迎! 編集
(二日目)8時39分
上条当麻は第一八学区の大通りにいた。
あと十分もすれば長点上機学園の正門に着く。制服は昨日と同じだった。
一般の中学、高校は午前八時が登校時間なので、多くの学校が立ち並ぶこの区域でこの時間帯にいる生徒はほとんどいない。見渡す限り、人は誰もいなかった。いつも遅刻寸前に登校する上条にとって、このような光景は日常茶飯事だ。
朝から御坂姉妹から理不尽な攻撃を喰らって、元気がない。インデックスの今朝からの対応から不幸なことが連発だった。
(俺が何をしたチクショウ)
と思ったが二日で二人の女の子とキスしている。
このくらいの不幸はむしろ当然なのではないかと随分と前向きな考え方をする少年だった。
「この『未来』が幸せなのか、不幸なのか、俺には分かんねえな。けど、まあ。あんまり変わってないみたいだな。この日常は」
強い日差しを浴びながら、腕を伸ばした。朝の空気は清々しくておいしい。

だがのんびりとはしていられない。早く元の世界に戻らねば。

そう思って、学園に足を運んだ。学園に行けば、土御門ともまた顔を合わせることもあるだろう。
昨日の御礼をまだしていなかったことを思い出し、無意識に拳を握りしめていた。
その時、彼の胸元のポケットが揺れた。携帯のバイブレーションだ。
取り出して、相手を確認した。
『土御門元春』と表示されていた。
上条は急いで電話に出た。

「土御門か!?何かわかったか!?」
『…おおー、カミやん。いきなり大きな声を出さないでほしいにゃー。まあ、とりあえず報告だ』
「これは前にもあった『御使堕し(エンゼルフォール)』の一種なのか?」
『その通りだ。けど、それとはまったく次元の異なる魔術だ。資料にも載っていたが、術式で理論上可能とされる幻の大魔術だ。
まったく、一人の人間を一分先の未来に送るのに地脈一つ分の魔力を使っても足りないというのに、はっきりいってとんでもない魔術が展開されていた』
「そんな馬鹿げたことを起こした奴の目星はついてんのか?」
『イエス、だ。それに元に戻れる方法もな。だからカミやんに連絡を入れたのさ』
「本当かよ!!なら今からそっちに向かっていいか。お前と合流したい」
『いや、その必要は無いぜい』
「なぜだ?もうそっちでケリをつけたのか?俺は一発殴ってやりたい気分なんだが」
『今からだ。今からケリをつけるつもりだ』
「じゃあ、せめてそいつの名前くらい教えてくれよ。前みたいに不幸な偶然で起きたのなら仕方無いが…」
『ふう、カミやんはどこまでいってもカミやんだにゃー。安心したぜい』
「…何かスゲー馬鹿にされた気がするんだが」
『違う違う。最高の褒め言葉なんだぜ。俺の言葉が信じられないかにゃー?』
「多重スパイの上に自分で天邪鬼なんていってる奴の信憑性は薄っぺら過ぎんだよ!!」
『はっはっはっ、それはヒドイにゃー。ガラスのように繊細な俺の心が結構傷ついたぜい?』
「分かったから!早く犯人の名前を教えろ!」
『…ああ、分かったよ。いいか、一回しか言わないから絶対聞き洩らすなよ』
了解の返事をして、足を止めた。息を止め、携帯に耳を傾けた。




『犯人はお前だ。大人しくぶっ殺されろ』




唐突に電話を切られた。
ふと、足を止めた。

長点上機学園の正門の前に一人の生徒が立っていた。
背丈は一七〇センチ前後。老人のような白髪で赤い瞳をしている。
白髪の少年がこっちを向いて睨みつけていた。
上条と目が合うなり、にやあ、と口を大きく開いて笑った。


「よォ、久しぶりだなア、『無能力者(レベル0)』」


その特徴的な容姿に上条は見覚えがあった。学園都市最強の『超能力者(レベル5)』。絶対能力進化(レベル6シフト)計画の中心人物。
「お前は、『一方通行(アクセラレータ)』!!お前、長点上機学園の生徒だったのか!?」
「…ハハッ!!やっぱ正解みたいだったなァ!テメェ!随分とイカレた悪戯しやがったなア!」

ドバン!と周囲にあった車が上条に襲いかかった。

「本気を出せ!『ドラゴン』よォ!」
「うわっ!」
上条の目の前には白いワゴン車が襲い掛かってくる。
(死ぬ!)
そう思った瞬間、
上条当麻の意識は途絶えた。

目の前の車がふと、消えた。

『一方通行(アクセラレータ)』は何が起きたのか理解できなかった。
刹那―――――

ゾワッ!!という爆風が轟いた。
突然起きた風圧。
風が辺り一面を覆い尽くし、爆風が吹き荒れた。
「ッ!!」
全身に怖気を感じた『一方通行(アクセラレータ)』はベクトル操作でビルの壁に張り付き、上条当麻と距離を取った。
そして、現状を見た白髪の少年は、
絶句した。

そこには何も無かった。

上条当麻が手をかざした方向の壁にはポッカリと大きな穴が空いていた。
それだけではない。その奥にある建物も3階から上が無くなっている。その隣にあるビルも同じだ。まるでスプーンに抉られたプリンのようにコンクリートで出来た建物が削り取られていた。


「―――――――――――――――――――不意打ちとはいえ、なかなかやるではないか」


その元凶たる『彼』は両手をそっとポケットに突っ込んだ。
一歩一歩、ゆったりとした歩調で白髪の少年に歩みよる。
風で髪が揺れているせいで、彼の瞳がよく見えない。
しかし、白髪の少年にはひしひしと『何か』が伝わってきた。
彼の第六感を震わす『何か』を。

「…誰だテメェ。雰囲気がまるで違うぜ」
彼は立ち止まった。
そして、顔をあげた。白髪の少年と目が交差した。
そこにあったのは先ほどと変わらない上条当麻の顔。
しかし、そこにあったのは『無』。
驚きも無い、怒りも無い、ましてや恐怖すらない。
そんな表情だった。

片目を閉じ、彼は呟く。

「『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の枷を外したことに礼を言うぞ、魔王。
余は満足だ」

『余』だと?
聞きなれない一人称に『一方通行(アクセラレータ)』は首をかしげた。


「余は――――――――――――――――――――――――――――『ドラゴン』」


学園都市『絶対能力者(レベル6)』の第一位と第二位。

魔神 対 魔王

『戦争』が、始まる。






(二日目) 9時00分
第七学区。私立常盤台中学校。
第七学区に存在する『学舎の園』にある能力開発で優秀な中学校であり、長点上機学園と肩を並べる名門校。その教室の一室に彼女はいた。

御坂美琴は苛立っていた。
今は授業中だというのに、彼女の周囲は不穏な空気で満ちている。教師はオロオロ、クラスメイトはブルブル震えている。
原因は言わずもながら、あのバカ、上条当麻に他ならない。
昨日といい、今日といい、朝からほかの女とイチャイチャして今日は目の前で御坂妹に唇まで奪われたのだ。怒りの鉄槌を喰らわせたというのに、あの『右手』にはなす術がない。たまにはぶっ飛んでくればいいものを!などと常盤台中学生にしてはえらく物騒なことを考えていた。
その上、今朝から人前で涙を見せるという大失態まで冒していた。人一倍弱みを見せることを嫌う彼女が冷静でいられるはずがない。さらには登校時に指導員から能力の過剰使用についてこっ酷く怒られたばかりだ。
彼女のボルテージは最高潮に達していた。時折、バチバチと電気が帯電する度に、隣の席に座っている生徒たちが「ひっ!」と叫んでいるのだが、彼女の耳には届かなかった。

上条当麻と御坂美琴が恋仲である、というのは周知の事実だ。
だから、御坂美琴の不機嫌な理由が彼に起因していることは大半の生徒が把握していた。
学園都市最強の『絶対能力者(レベル6)』と『超能力者(レベル5)』の第一位の男女。

通称、『最強カップル』

上条当麻が『風紀委員(ジャッジメント)』として着任したこの第七学区の犯罪発生率は去年の一割までに激減した。
それもそのはず、一週間に数度はこの二人が一緒になってこの学区内を徘徊しているのだ。(というかほとんどデート状態である)
数か月前に大規模な高位能力者集団との争いがあった。それがこの二人によって起こされたものであり、一夜の内に壊滅に追いやられた。その事件で、「長点上機学園と常盤台中学のトップ同士のラブラブカップル!今世紀最大のロミオとジュリエット!ここに在り!」などという報道があったために、二人は一躍有名になってしまった。来年にはこの二人を題材とした映画が放映されるという風の噂まであるくらいなのだ。不純異性交遊を誘発しかねない事実なのだが学園側の対応としては禁止するどころか、黙認という実質上『公認』の事態に収束している。あらゆる意味でこの二人は『最強』なのであった。

しかし、彼女にそんなアドバンテージがあったとしても上条当麻を狙うライバル依然として多い。それどころか日に日に増加している恐れすらある。年齢、国籍を問わず古今東西に存在する上条に並々ならぬ想いを抱く女性陣。誰も彼も一筋縄ではいかない女性たちばかり。恋人がいるにも関わらず、隙あらば多くの女性が彼に接近してくるのだ。彼と深い関係を持っているとは言え、まだまだ油断ならない状況なのである。御坂美琴も一人で出歩けば必ず男に声をかけられるほどの美少女なのだが、その数は上条当麻の比ではない。
彼の容姿は中の上といったところだが、それほどいいとは言えない。頭の出来は、現在は英才教育を受けているので少々はいいが、特別良いというわけでもない。背丈は高く、運動神経は優秀な部類に入るが特別優秀な学生でもない。周囲に混ざれば、何の変哲もない高校生なのだ。
しかし、それは彼の表面だけだ。
彼の胸の内に秘める情熱とその思い。ちっぽけな正義感に見えるが誰よりも揺るぎない己の正義を持つ者。そして、いつも絶体絶命の危機を陥りながらも幾度となく乗り越えてきた彼の功績。そして守り抜いた人々の命。その大義に見返りすら求めない彼の姿を見た女性たちが、彼に心奪われるのは当然ではないか。『絶対能力者(レベル6)』だろうが『無能力者(レベル0)』だろうが関係は無い。
皆、彼の心に惹かれるのだ。御坂美琴もその一人だった。その思いを知ってか、ライバルたちを鬱陶しく感じても、嫌悪することができないのである。そんな彼女の優しさも魅力の一つなのだが、彼も自分自身もそれに気づいていない。

上条の(殺す)料理方法を一〇〇通り以上考えたのちに、彼との思い出に耽り、彼との情事を思い出し、赤面して、
「…ふぅ」
とため息をついて御坂美琴は落ち着きを取り戻した。
無論、溜息をつきたいのはクラスメイト一同である。
ようやく教室に平穏が戻り、授業を進めようとしたその時、

バンッ!と唐突に教室のドアが勢いよく開かれた。

クラスメイト全員の視線が集まる。
そこに立っていたのは常盤台中学生。茶髪のツインテールが特徴の少女、白井黒子であった。校内での能力の使用は禁止されている。鞄を持っているところを見ると未だに教室にすら行っていないようだった。登校して一目散に走ってきたのだろう。息を切らしながら御坂美琴を見つめている。
「…黒子?」
教壇に立っていた教師が白井に問い詰めた。
「…貴女は二年の白井さんではありませんか?今は授業中ですよ!」
「すみません先生!今はそれどころではありませんの!」
「お姉様、これを―――――――――――――――――――――――――――――――」
白井の言葉を遮るように校内放送が流れた。

「特別警戒宣言(コードレッド)を発令します。教職員はR-177に従ってください。繰り返します。特別警戒宣言(コードレッド)を発令します。教職員はR-177に従ってください」

(R-177!?)
御坂美琴は驚愕した。
R-177とは『学舎の園』に設置された核シェルターの座標番号だ。すなわち、核シェルターへの避難を意味する。『妹達(シスターズ)』の件で『学舎の園』の情報を探っていたために、緊急コードやセキュリティーシステムの解除番号などは熟知していた。

突然の警報に、周囲に動揺が走る。
校内一体に警報アラームが鳴り響く。
「やっぱり…」
「黒子、何か知ってるの!?」
「お姉様、これを!」
差し出されたのは御坂美琴の携帯だった。彼女は登校時に忘れたことに気づいていた。
「これがどうしたのよ!?」
「『一昨日の』当麻さんからお姉様宛てに送られたメールですの!まずは読んでくださいまし!私は用事がありますので!先に避難してくださいませお姉様!」
「あ、ちょっと!」
それだけ言い残すと、白井は走って行った。彼女は『風紀委員(ジャッジメント)』である。彼女には彼女の仕事があるのだ。
「皆さん、落ち着いて!訓練通りに私の指示に従って動いてください!荷物は持たないで、席を立ってください!ほら御坂さん、席に戻って!」
言われるがままに御坂美琴は自分の席に戻り、教師が生徒たちを先導していた。
教師は携帯電話を取り出し、事実確認を行っているようだった。周囲の生徒たちも同じようなことをしていたり、現状を面白がっているのか、笑いながら談笑している生徒もいた。

御坂美琴は先ほど手渡された携帯の電源を入れる。
心中に大きな不安が立ち込めていた。


「…一体、何が起こったの?」


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