とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第五章

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着崩した作業服を着て輝くような金髪をなびかせて、運び屋オリアナ=トムソンは人ごみの隙間を縫いながら歩いていく。

その目立ちすぎる外見と脇に抱えた大きな看板のせいでどうにも周囲の視線を集めてしまう。 自分でも浮いてるという自覚はある。

(やはり破壊されているようね)

こんなことにならない為に掛けていたのだが・・・・

 予想外の事態に動揺しつつもその歩調は緩めない。

自分の履いている作業服のズボンのポケットを探り、目的の物を取り出す。

銀色のリングに厚紙のカードが束ねてある。

 取り出したソレは一見、単語帳のように見えた。

オリアナはその単語帳を自分の口の前に持って行き一番上のカードをリングから歯で噛んで引きちぎって外し、はむっ、と口で咥えた。

 単語カードの表面に文字が浮かんでいき、それは白い紙面に〔WaterSymbol〕と黄色い文字の筆記体と書かれていた。


〔WaterSymbol〕―つまり水の象徴、本来なら青をイメージさせるその単語は黄色いインクで綴られていた。


 女は単語帳の束を再びズボンのポケットに押し込んで口に咥えた1ページを耳に当てて誰かに向かって話しかけるように言葉を紡いだ。

「あー、あー、もーしもーし、リドヴィア=ロレンツェッティ 聞こえてますかしらん、こちらはオリアナ=トムソン、聞こえていたら返事をしてちょうだい」

すると耳に当てた単語カードから

『本名を出すな、とあれほど言及しておいたはずです。貴女の肉声は第三者にも聞こえているのですよ、些細な事で厄介な事態を招くこともあるのです。』

咎めるような冷たい、しかし空気を震わせないその声が流れてくる。

オリアナ=トムソンを名乗る女はその言葉に、もう遅かったりして、と苦く笑い

「実はちょーっと想定外の事態に巻き込まれてしまったの。 お姉さんとしてはアドリブでもOKなのだけれど?」

そちら好みの事態ではないと、告げた。

『自慢の〔追跡殺し〕はどうなされたのですか?あなたの異名ともなっているその秘術、それで追手などモノともしないのが貴女の売りでしょう?』

いちいち言うことが感に触るよっぽど説教が好きなようだ、オリアナは嘆息して答えた。

「そうそう、それが本題のトラブルというヤツなんだけどね、リドヴィア=ロレンツェッティ 」

『本名を出すなとさっきから言っているでしょう!?オリアナ=トムソン!!』

なかなか本題に入らせてくれないリドヴィアの言葉を「わかったわかった」と適当に流して

「お姉さんがね自分に使っていた術式がね、破られちゃったの」

『あの術式・・・・[表裏の騒音](サイレントコイン)ですか?』

  オリアナの用いた一種の保険。 自分を追跡しようとするものの追いかけるという気を削ぐ術式。

一緒にいる間は何の効力も無いが 一度背を向けたら[呼び止める]という事をしようとは思わなくなるような効果を生む。

この効果が発動している間は人払いの結界のように[近寄る]気がしなくなる、[呼び止めて引き止める]、さらにはオリアナが掌から炎の塊を生み出そうが

[気にならなく]なる。 だからこそ彼女は妨害を気にせずに取引の準備にかかれる、そのはずだった。

『直接的な原因はなんです?』

「わからないわ」

『では[表裏の騒音](サイレントコイン)の再構築は?』

「それは無理、あの術式は再構築できないわ」

『ならば、これからの対応策は?』

「わからないわね」

『切りますよ、オリアナ=トムソン』

「わーっと、まってまって! お姉さんにはそういう冷たい態度にでられて喜ぶような趣味はないんだから」

『ではこれからどのように動くか、代案の提出を要求します』

代案・・・、と少し考えて

「じゃあ、とりあえず後ろから追っかけてきた坊やを撒かないと行けないわね」

自分の後方の人ごみを掻き分けて進んでくる上条当麻の姿を見つけて運び屋オリアナ=トムソンはそう呟いた。


◇◇◇


目的地の到着したのだが、肝心の待ち合わせの相手の姿はどこにも見えない。

(ヲイヲイ、いないぜぃ。カミやん、なんでここで待っといてくれない)

彼は上条からここの場所しか聞いてない。 つまり、恐らくオリアナ達を追って行ってしまったであろう上条当麻を探そうにも

どの方向を進めばいいか見当もつかない。

 (カミやん、本当の魔術師ってやつをなめてかかったらあかんぜよ)

薄い青色のサングラスの奥に普段の軽薄さとは違う猛禽類のような鋭い眼光を称えた[魔術師]である土御門元春の顔になる。

(思考はシャープに、どんな事態が起ころうともクールに対処するそれが本来の土御門さんだぜぃ)

彼は体操服の短パンをポケットをごそごそと探り二つ折りタイプの青い携帯電話を取り出した。

そのままアドレス帳から上条当麻を検索する。

(か、か、OKあったぜぃ)

ピっピピッピ、携帯電話を操作する音が辺りに響くが、周囲の雑踏はそんな音には耳をくれず流れる。

いまどき道端で携帯電話をいじる学生なんて珍しくもなんともないのだ。

携帯電話の画面に〔カミやん〕と表示される。

土御門はそれを確認すると通話ボタンを押した。

 トゥルルルルルル、トゥルルルルルル、ガチャ

二回のコール音のあとに回線が繋がった。

「カミやん、どこだ! なぜあそこで待っていなかった!?」

『わりぃ、でもあのままじゃ追いつけ無そうだったんだ!』

どうやら走りながら電話にでているようだ、時折上条の息遣いが聞こえる。

上条当麻の語気は荒い。 走りながらの会話は疲れる、仕方ないだろう。

(カミやんはやっぱカミやんだぜぃ)

そう思いながら更に続ける。

「やっぱり追跡中か!? でいまどこに?」

『場所は・・・・クソ!目印になりそうなものが無い。 携帯のGPSデータを送るからそっちで探してくれ!』

 GPS機能付きの携帯は友人の位置を探す、というサービスがある。

それは相手の方から使用コードを送ってもらわないと使用することはできない。 プライバシーを尊重した処置なのだが

今はそれがもどかしい。 しかも30分経つとその使用コードは使えなくなってまた相手から使用コードを送ってもらわなければならないのだ。

『――♪』 土御門の持つ携帯電話がメールを受信し軽快なメロディと振動を出す。

 上条から送られてきたGPS座標検索サービスの使用コードだ。 土御門はそのメールを開いてGPSを開き上条から送られてきた使用コードを打ち込む。

[しばらくお待ちください]と表示されて数秒、土御門の携帯電話の画面に学園都市の簡略地図と青い点で表示された上条の位置が表示された。

(って遠いな、俺が来るまでにどんだけ走ったんだよ1キロは離れてる)

 悪態をつきながらGPS画面を見て進むべき方向を決め走りながら一旦GPSを終了する。

人ごみを縫うように走りながらアドレス帳から自分の同僚を探し通話ボタンを押す。

そのまま耳に当てて魔術師―土御門元春は告げた。

「ステイル。 カミやんがオリアナ達を発見した。」

電話口の相手が息を呑む気配がわかる。

◇◇◇

(クソ!?どんだけ足はえーんだよ!?) 

さっきから全力で追いかけているのに一行に距離が縮まらない。 上条は通行人を掻き分けながら追跡する。

 さきほど土御門から電話が掛かってきた後、上条は運良くあの女の目立つ金髪と作業服姿を発見できたのだが、女はそんな上条をあざ笑うかのように

角を曲がった瞬間に速度を上げてしまった。

どうやら上条の存在に気づいたようだ、上条もへたくそな尾行をやめ全力で追跡しだすが女の姿ははるか先に目立つ金髪がなんとか確認できる程度にしか見えない。

 体操服を着ていたのは幸いだったかも知れない、別に上条が着ているのは航空力学を利用した最先端技術で作られた陸上選手のユニホームではないが

それでも学生服で走るよりは大分ましだろう。

上条の視界の端で女がまた角を曲がる。 

(あの先は3本に道が分かれた細い分かれ道だ、見失っちまう。)

案の定上条が分かれ道の分岐に差し掛かった時には女の姿は見えない。

目の前には細い路地が3本あるだけだ。 上条は耳を済ませて響く靴音に当たりを真ん中の道へとつけて進んだ。

路地を抜けて突き当たりを曲がり上条は視界の端に女の金髪を発見するがかなり遠い。

「くそっ!!」 

疲労が蓄積された体に命令を送り速度を上げようとして上条は、バシっ、と背中を叩かれた。

土御門元春とステイル=マグヌスの2人だ。 ずいぶん早い、電話があってからそんなに時間は経過してないはずだったが。

 彼らは恐らくGPSで上条の現在位置から予想ルートを割り出して近道をしてきたのだろう。 ステイルは学園都市に土地勘が無いが土御門は普段からこの学園都市で

諜報活動を行う多角スパイだ。 それこそ抜け道のひとつやふたつ知っているだろう。

「どれだカミやん、[刺突杭剣](スタブソード)は看板に偽装してるって話だったよな」

「ぜぃ・・・あ、あいつだ、あの金髪の女だ」

 上条が視界の端になびく金髪を指差すと、土御門とステイルはなにやら顔をあわせて頷き速度を上げて同時に走り出す。

上条を置き去りにしたのはおそらく、ここからさきはプロの仕事だ、という意思表示だろう。

 それでも上条は息を整える事も無く、再びステイル達の後を追い駆けた。

◇◇◇
 (しつこい・・・ッ!!)

自分の背後を振り返りながら走り、オリアナは密かに舌打ちする。

距離は約50m、確かに離れてはいるものの裏を返せば追手との差はわずかそれだけしかない。

何度も角を曲がり、分岐の多い道を通り、時には人ごみを盾にするように姿を見失わせる。

そのように努めてきたが効果はまったく上がらない。

 脇に抱えた看板を見て自分の格好を再確認する。 看板を持った塗装業者、そう見たものは思うだろう。

この格好は見るものに『仕事中』というイメージを植えつける。 看板さえなければデパートだろうがレストランだろうが特に目立ちはしないだろう。

だがこの馬鹿でかい看板を抱えた状態で客と一緒の入り口から入れば、十中八九、従業員の目に留まり声をかけられるだろう。

 いくらでもごまかす自信はあるが追手が振り切れる確証は無い。 それに何度も説明してごまかすのも面倒だ。その間にも距離を詰められてしまう。

かと言って正面以外の出入り口を利用しようとすればIDやキーなどの手段が必要になってしまう。 そんなものは用意していないし、今からでは調達もできない。

それがあの少年の尾行を振り切れない理由でもあるのだが。

 彼女の術式が破られること、そもそもそれが異常事態なのだ。 アレはちょっとやそっとで破られるような代物ではない、そのはずだったが

現に破られてしまっている。 それにこれだけの距離を開けられてもいまだに追いかけてくる。 これは少々異常だ。

その上追手は1人から3人に増えてしまっている。 

 最初の1人は尾行が素人くさかったが、新手の2人が来てからは追跡の精度が格段に上がっている。 おそらくプロだ。

(こちらの心理を読み、行動を先読みして逃走ルートを割り出しているのね、なかなかテクニシャンだわん)

 学園都市では科学、魔術の勢力のそれぞれの事情によってうかつに手は出してこない、そういう話になっていたのだが・・・

(そうは問屋が卸さない、というやつかしらん、世の中甘くはないわね・・・ッ!)

逃走を続けるオリアナの足が急ブレーキをかける。

(ッ! こんなときに・・・!)

前方にテレビカメラが来ているのか、異様な人だかりができていている。

人の間を縫うような隙間はなくとてもではないがこの『巨大看板』を持ったままこの人だかりを突破するのは難しい。

当然『巨大看板』を捨てれば突破は可能なのだが、それでは本末転倒というやつだ。 ここまでやっている意味が無い。

(ちょっと苦しいけど・・・ッ! 作戦変更だわ)

 素早く思考し決断するとオリアナ=トムソンは人だかりを突破するのを諦めて横合いの小道へと飛び込んだ。

◇◇◇
「よし!差が詰まってきたぞ2人とも」

「まったく・・・よく逃げる、ボクはこういう戦いは苦手なんだがね」

「だぁー、いい加減へばってきたぞ!?土御門ォォ!!?」

 逃走するオリアナを全速力で追いかけながら口々に叫ぶ

「くくく、運動不足かい?上条当麻。 所詮は科学なんていうものにどっぷりつかってるもやしっ子だな君は」

「ッてめ!? てめえだって俺と同じくらい走れば息ぐらい切れンだろうが!! [幻想殺し]すんぞゴルァァ!!」

「奇遇だね、ボクもいい加減キミのそのまぬけ面を見てるのは飽きてきたところだ」

「やんのか!? このへっぽこ魔術師!」

「こ、この・・・・ッ! オリアナ=トムソンより先にキミを始末したほうがスムーズに仕事できそうな気がするよ!!この直情熱血馬鹿が!!」

「やめるにゃぁぁぁぁ!! ガキかおまえら!」

 走りながら「なんだと!?」「なんだと!?」と喧嘩し始める上条とステイルに土御門が一喝する。

「ほら!ケンカするなら後で存分にしてくれ、とにかく今は[刺突杭剣](スタブソード)が優先だぜぃ。」

 土御門の言葉に渋々、上条は腕まくりした右手を戻し、ステイルはルーン文字の刻まれたカードを懐にしまいこむと

「ふん、命拾いしたようだね、上条当麻」
「お・ま・え・が・な!!」

言い放つととりあえずは解決したらしく真面目に追跡しだした。

 30mほど前方を走っていたオリアナが突然歩道の真ん中で急停止し、辺りを見回して脇にあった小道へと入っていった。

走りながら眉をひそめて土御門が言う。

「ん!? これまでと行動パターンが変わったにゃー・・・? 考えがかわったのか?」

喋りながらでも全く速度が落ちない。 上条も運動神経は良い方だがこの男のソレは上条のソレを軽く凌駕してる。

悲鳴を上げる肺と心臓とその他もろもろに気合で動け!と指令を送らないと置いて行かれそうだ。

 オリアナが急停止した場所までくると前方に人だかりができているのが見えた。

「にゃー、どうやらアレに捕まるのを恐れてのルート変更かにゃぁー」

「確実に追い詰めている、という事だろうね。 ルート選択にも余裕がなくなってきている。」

同感だぜぃ、土御門はそういうとオリアナが消えた小道へと走り出す。 ステイルがそれに続いて少し遅れて上条も小道に入る。

 小道を抜けると開けた場所に出た。 差し込む日差しに目を細めて上条が呟く

「バスターミナルかよ」

一面のアスファルトの空間が広がる周囲を四角いビルに覆われた馬鹿でかい敷地。

横幅は30m、奥行きにいたってはそれこそ何百mとあるだろう。 ここからではちっとも端が見えない。

 そのくせ『広い』という印象が全く持てない。 所狭しと大型車が並んでおり台数はぱっと見ただけでも6、70台は止まっている。

車両は全て無人の自律バスだ。 あちこちには金属の柱が立っていてその上をトタン屋根かなにかが覆っていた。

整備場も兼ねているのか天井には金属性のロボットアームのようなものがいくつもぶら下がっていた。

「あー、これは多分あれだな、大覇星祭用に急遽作られた自律バス用の臨時整備場ってやつだな」

 街中で走る無人バスも走れば燃料を消費するし、当然だが故障したりもする。

だから燃料を補給したり、部品を交換し整備する。そんな目的で作られた場所なのだろう。

まさかずっと同じバスが走り続けてるなんてことは無いだろうから、いくつかの車両をローテーションで運営してるはずだ。

となると今ここに止めてあるバスは全て待機中ということになる。

 上条達の目の前で1台の自律バスが無音で目の前を通り過ぎて整備場へ走っていく。

視線を上げてバスの上部に取り付けられてる行き先表示を見ればそこには[回送]と表示されていた。

土御門が先ほどの自律バスの後を追って一歩、整備場へと足を踏み出したとき

 轟!!―突然天井から下にいる上条達へ向けて青白い爆炎の柱が降り注いだ。

◇◇◇


 「ビンゴ! どうやら上手く引っかかってくれたみたいね」

微かに感じ取れる自らの魔力の残響を感じ取りオリアナの顔にわずかな笑みが浮かぶ。

 オリアナはバスターミナルを抜けて大分距離を稼いで場所にある狭い路地を走りながら意識を集中させる。

(でもだからといって完全に撒けた訳じゃあ無いみたいなのよね、若いと回復が早いわねぇ)

1つ、2つ、3つ・・・・自らの施した術式の波動はまるで糸で繋がっているかのように確認できる。

 オリアナの意識に弾けては消えてまた弾ける、そんなイメージが浮かぶ。 

最初に仕掛けた術式『反逆の炎』に続いて『災いの礫』、『旋風の暴帝』、『極寒の導』、『矛盾する魂』・・・・どうやら仕掛けた順に発動しているようだ。


(んふ・・・存外にタフなようね、まだまだイケるのかしら、お姉さんはそれでも構わないんだけどね)

 仕掛けた術式がまたひとつ発動する、まだまだ追手は健在のようだ。

それなりに時間は稼げた、そう判断するとオリアナは狭い路地を走り抜け、角を曲がる。

そのままいくつかの道を抜け、何度も角を曲がり


ドンっ!


 何個目かの角で誰かにぶつかってしまった。

 ぶつかったのは大覇星祭実行委員と背中に書かれたパーカーを着込んだ学生達だった。

彼らはなにやら大きなカゴのようなものにポールが付いた物を運んでいる最中のようで、4人の男女がそれぞれ一本づつ同じものを抱えている。

どうもオリアナがぶつかったのはその先頭の女の子のようだ。

「あー、ごめんなさいねー。 怪我とかしてない?」

アスファルトの歩道に尻餅をついている女の子に手を貸して立ち上がらせると、傍らに転がっていたカゴに手を伸ばして拾い上げ彼女に手渡す。

ごめんなさいね、と告げると彼女達は頭を下げて「いえ、こちらこそ」と軽く頭を下げて答えてくれた。

 それじゃ、そう言うとカゴを担いだ運営委員の学生達は人ごみの中に姿を消す。 

(――まあ、『保険』と言ったところかしら)

オリアナ=トムソンは銀のリングが付いた単語帳を片手で弄び、再び仕舞い込むと追手のあの少年達を振り切る為距離を離し始めた。

 幾分か余裕を取り戻した頭で

(唯一の懸念はお姉さんが現場に残して来た痕跡なのだけど・・・)

すでにその対策も仕込みが完了しているが決して安心は出来ない。

なにせ相手も自らと同じ存在―自らの生きる目的を名とし、思いによってその業を振るう[魔術師]なのだから。

◇◇◇

 自分の真上から迫る青白い炎の塊を見て先頭の土御門は上条とステイルに向かって

「やべッ!どうやらこちらを迎撃して足を潰す作戦に変更したようだぜぃ!? っ!カミやん!ステイル!!避けろ!」

 上条の頭を掴んで押し倒すように飛びついてきが。 突然ステイルに上条の頭を横取りされた。

赤髪の不良神父は

「なにを言う、こういうときはこうするに限る」

そんなことを言って迫り来る爆炎の塊に向かって上条を放り投げた。

「あれ?!」 直前で掴むはずの目標を失って土御門が間抜けな声を上げる。

「ッて!!あれ?!じゃねぇぇぇぇええぇぇぇぇええぇ!!」

 轟!! 魔術によって生み出された不自然な炎は筒の中を通るようにまっすぐに上条へと向かってくる。

上条はその炎をとっさに突き出した右手で打ち消す。

上条の右手『幻想殺し(イマジンブレイカー)』に触れた瞬間に炎はあっけないくらいに消滅する。

「って、ステイル!! いきなり何すんだよ!死ぬかと思ったぞ!」

あまりにも理不尽な行為に対して上条はタバコをぷかぷかさせる赤髪魔術師に罵声を浴びせる。

「我ながら、惚れ惚れするようなチームワークだね、役割分担がはっきりしてるのって素晴らしい」

「この!? 人を目減りしない便利道具みたいな使い方するんじゃねぇよ」

「なんだ、自覚があったのかい? 本当に便利だねキミの右手は」

ステイルは上条の罵声なんて気にしてない様子で悪びれなく答え、ニコリと不気味な笑みを浮かべると

「それ、ああいうのは君の役目と決まってるんだよ、三沢塾の時もそうだったろ?」

停車している自律バスの一台を指差して言う。

自律バスと地面の隙間を通ってなにやら土の塊でできたボールのような物が飛んできた。

 ジャキッ!とその表面からトゲを出しウニみたいな形になると上条のすこし手前で急激にホップする。

「うわっ!」

上条は顎の下を狙ったウニボールを『幻想殺し(イマジンブレイカー)』でなんとか防御して荒い息を吐く。

「あ゛~なんか思い出したらムカムカしてきた!? 神様、この罪深きへっぽこ魔術師を殴り殺してもいいですか!?いいですね?」

「カミやん、右だ!」

 大気を切り裂きながら飛来する旋風の刃を咄嗟に飛びのいて避ける。

ズパン! 旋風の刃はそのまま先にあった自律バスのタイヤに当たって辺りにバスのタイヤの構成素材であるワイヤーやホイールの残骸を撒き散らす。
「そら!まだまだくるぞ」 

 ステイルが洗車場の水溜りから飛んできた無数の氷柱を爆炎で迎撃する。

高温の炎と氷柱がぶつかりその中間で爆発が起こる。 コンクリートやらアスファルトやらの破片と一緒に視界を奪うような土煙が上がる。

「これは・・・・一個一個相手していたらキリがないぜぃ、カミやん強行突破するぜぃ!とりあえずアレを破ってくれ!」

 舞い上がる土煙から目を守りながら土御門が言う。

「おう!・・・ってなんだありゃ!?」

ウネウネウネー

 土御門が指差した先には10m四方ぐらいの白いウネウネしたナニカが蠢いていた。

上条はおもわず、気色わるッ!!?と後ずさる。 ステイルは早く行けとばかりに指でそのウネウネを指すといまだに後ずさりを続ける上条に告げた。

「あれはエクトプラズムを媒介にした暫定物質だね。なぁにその右手なら問題なく突破できるさ」

だからさっさとやれ、と

「なんかブヨブヨしてそうで心底嫌なんだけど・・・・うわーん、ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!」

◇◇◇


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