とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 7-690

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匿名ユーザー

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 「どうだい、新しい体は?」
 「悪くはねぇな。能力も衰えてはいねぇ。」
 「なによりだよ。この調子なら、もう少しで退院できそうだね。」
 「あぁ、なによりだな。」
 皮肉気に、学園都市の第二位は口元を歪ませる。
 「もう少しで、あのクソみてぇな世界と感動の再会だ。全く…なによりだよ。」
 「そうだね。でも、最後の治療が残っている。」
 冥土帰しは、そう言って意味深な笑みを浮かべた。

 今考えてみると、垣根帝督がこうしていられるのもあの医者のおかげのだ。少しくらいは、感謝してもいいのかもしれない。
 「発見。相変わらず、間抜けな顔してんなぁ。」
 嬉しそうに呟くと、少年は翼をひろげて飛び立つ。
 標的は、肩を落としたツンツン頭の少年。

 コンコン、と扉をたたく音がした。こんな部屋に来るのは医者以外にはいないだろうと思い、放っておくと案の定、勝手に扉をあけて訪問者が入ってきた。
 「久しぶりだな、大丈夫か?」
 医者ではない。本物かどうかも疑わしい記憶にも、このようなツンツン頭の少年は存在しない。
 少し、返答に迷った。少年を傷つけないためにも知り合いの振りをすべきなのかもしれない、と思ったのだ。


 「うわっ!?って、帝督かよ、おどかすなよな。」
 「いいじゃねぇか。で、いったい今日はどんな不幸があったんだ?」
 「補習と思って学校にいったら、実は担当教師が休みだったってとこか。」
 「何だ、いつもと比べるとスケールがちいせぇな。」
 本当に、つまらなそうな顔で垣根が呟く。
 「スケールの問題かよ…げぇ、どうやら上条さんの不幸はまだまだ続くみたいですよ。」
 疲れたような声で、上条は告げる。
 前方に、学園都市第三位を発見。

 「久しぶりだな、大丈夫か?」
 初めて見る少年だったが、あの医者がわざわざ退院直前の自分を呼びつけて、相手をさせるのだから、きっと知り合いなのだろうと思って声をかけるが、少年は何か考え込んでいるようだった。しばらくして、ようやく少年は口を開く。
 「いったい…誰だ?」
 もしかして、初対面だったのだろうか、と少し焦る。
 「上条当麻だ。お前は?」
 「何だよ、初対面だったのか…まぁ、いいか。未元物質だ。よろしくな、ってかなんで知り合いの振りなんかしたんだ?」
 「ははは、上条さんにも、いろいろあるんですよ。よろしくな、未元物質。」
 そこまで言って、上条は少し顔をしかめる。


 「『未元物質』って、どう考えても能力名だよな。本名は?もしかして、誰かさんみたいにあまりにつかわれないもんで忘れちまったとか?」
 「いいや、一応本名っていえるものはあるけどな、いまの俺を表すのは、やっぱり『未元物質』っつー能力名だけなんだよ。」
 心当たりでもあるのか、誰かさんのところで未元物質の表情が一瞬、険しくなった。
 「俺はな、一度生まれ変わったんだ。」
 「…は?」
 話のつながりが全く見えない、と上条は首をかしげるが、未元物質は無視して続ける。
 「体はバラバラにされて、脳も切り分けられた。今の俺は、垣根帝督から造られたクローンの脳に、垣根帝督って言うオリジナルの脳の中身を移すことによって生み出された存在だ。」
 「脳の中身を移すって…そんなこと、できるのかよ?」
 「脳の中身なんて言ってもな、どうせただのデータの塊だ。学園都市の技術なら、不可能じゃねぇよ。」
 中途半端に魔術側の知識のある上条には、どうにも簡単には納得できそうもない。
 「何にしても、俺は新しい生を得ることができたわけだが、ここで一つ疑問が生まれる。」
 「疑問?何」
 「生まれ変わった俺は、本当に垣根帝督なのか?」


 「記憶の書き換えなんて、いくらでも出来たはずだ。仮に俺の記憶がすべて本物だったとしても、クローンの体である俺が、オリジナルである垣根帝督を名乗る資格があるのか…どんなに本物に似せて造ったところで、偽物は偽物、本物になることなんてあり得ねぇんじゃねぇかってな。経験も、思い出も、感情さえもオリジナルの物かもしれねぇけど、それでもまだ足りねぇんじゃねぇかって…能力開発のため、学園都市第二位の『未元物質』の力を使うためだけの抜け殻なんじゃねぇかって、そう思っちまうんだ。」
 初対面の相手にすべてをはき出して、未元物質は俯く。
 何となく、カエル顔の医者がなにをさせたかったのか、上条は理解していた。だからこそ、上条は口を開く。
 「何だ、それ?くだらねぇな。」
 本当に、あっさりとした口調で告げた。
 「名乗る資格がない?偽物は偽物にすぎないって?そんなつまんねぇことで悩んでんのかよ。」
 未元物質が鬼のような顔をしているのを無視して、上条は続ける。
 「資格なんてどうでもいいだろ。過去のお前なんてどうでもいいだろ。大事なのは今、お前がどうしたいかってことじゃねーのかよ!」


 「お前が垣根帝督でいたいんならそう名乗ればいいし、嫌なら適当に偽名でも使えばいいだけだろうが!」
 「うるせぇな!テメェに何が分かるってんだよ!?こんな惨めなこと経験したこともねぇよぉな奴が」
 「経験したさ。」
 未元物質をさえぎって、上条が告げる。
 「お前、さっききいたよな…なんで知り合いの振りをしたのかって。」
 「あぁ」
 「分からなかったんだよ。お前が知り合いかどうかさえ…俺は、夏休みの前半で記憶をなくしちまってさ、それ以前の思い出が全く残ってないんだ。だから、医者に呼び出されてこの部屋に来たとき、お前を知り合いだと思ったんだ。」
 未元物質は黙ってきいている。
 「今はさ、もう昔のことなんて全く思い出せねぇけど、もう俺は『上条当麻』じゃないのかもしれねぇけど、それでも『上条当麻』でいたかったから『上条当麻』を名乗るし、きかれたら胸を張って『俺は上条当麻だ』っていえる。お前はどうなんだ?」
 「…俺は」
 「さっきも言ったけど、嫌なら嫌でいい。何なら、俺が新しく名前をつけてやってもいいんだ。」
 未元物質は首を横に振った。
 「俺が生きていたのは、未練も何もねぇ、クソみてぇな世界だったが…」


 フッと力のない笑みを浮かべる。
 「それでも、『垣根帝督』を名乗るだけの理由はあったから…」
 「そっか」
 ニコリ、と上条が笑う。
 「それじゃ、改めてよろしくな帝督」
 「あぁ、よろしくな当麻」

 「明日、花火大会でしょ。どうせ一緒にいく相手なんていないんでしょうから、わざわざ誘いに来てやったのよ。」
 感謝しろ、とでもいいたげに、美琴は上条を誘う。何となく予想はしていたが、垣根と同じような目的があったようだ。
 「いや、ありがたいんだけどさ、先約がいるんだよ」
 「…誰よ?」
 その程度は予想済みだったようだ、割と平然とした感じで訪ねる。
 「…一方通行」
 その返答に、美琴ばかりか垣根まで唖然とする。
 じゃあな、といって帰る上条に声もかけれない。学園と市の第二位と三位は同時に固まってしまっていた。
 「私は…あの一方通行より、女らしくないっていうの?」


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