幸さんの家のお風呂は、確かに大きくて立派だな…がらり、と浴室の曇り硝子の引き戸を開けた僕は、そんな暢気な感想を抱いた。どう見ても浴室の広さは、僕のアパートの間取りよりずっと広い。たぶん16畳…いや、20畳はあるんじゃないだろうか? だが、それよりも目を引いたのは浴槽の大きさだ。それこそ、サメとかシャチとか、そういう大型の海洋生物でも入れそうな大きさになっている。

「うちの風呂は立派は立派やけど、一人で入るには広すぎるやき、普段はシャワーを使っちゅうがよ。
 それで郁人が来たきに久々に風呂を沸かしたがやけど、一人で風呂で使うがは寂しいがやきね。
 まあ折角やから、一緒に入りやあせんか?」

そんな幸さんの爆弾発言に、僕は耳まで真っ赤になってしまった。「え、あ、あの、はだ、はだ…」としどろもどろになった僕に対して、さらに幸さんは屈託のない笑顔のまま、止めを刺した。

「あっはっはっはっは、お互い見られて減るもがやないろう? 大丈夫やよ、見たって構やんきに」

女の人の側からそこまで言われて普通男は断れない、と思う。それに…。

「わ、わわわ、わかり、ました。ご一緒に、入浴、させ、て、頂き、ま、ま、ます!」と答えた僕に「我侭言うてごめんな、郁人。一人で風呂に入るのは寂しうてたまらなかったがぜよ」と、幸さんは憂いを含んだ表情で呟いた。今日一日、ずっと明るくて朗らかだった幸さんが見せたそんな表情に、僕はどきり、としてしまった。僕はぶんぶん、と力一杯かぶりを振り、「ぜんぜん迷惑じゃないです!」と答えたものの、それは同時に、幸さんとの入浴を承知してしまった事でもあるわけで…、

ざばあっ。

「郁人ー、手前味噌やけどええ風呂ぜよ。早く入ってきいやー」

いつものように屈託のない明るい笑顔で、湯船から右手を上げてこちらに手を振る幸さんと、僕は一緒にお風呂に入ることになってしまった…いや、入れるというか、役得というか…。

「あ、え、えっと…体洗ってからで、いいですか?」
さすがに、いきなり湯船に入るのはまずいし、心の準備の時間も欲しいと思ったので幸さんにそう告げると、

「そうやね、ゆっくり体を洗っとうせ。…そうそう、悪ぃのやけど、体を洗うにはそこの液体石鹸を使ってくれんか?」

そう言われて風呂桶の近くを見ると、生協で作っているらしい「手作り液体石鹸」の容器が置いてあった。
容器の頭のポンプを押すと、この辺りの名産なのだろうか、柚子の香りがふんわりと広がる。泡立ちも滑らかで、なまなかの市販品よりずっと品質はよさそうだ。

「それで、頭から足の裏まで全部洗えるきに。うちも彼これ10年は使っちゅうけど、肌荒れも起こさんし、何より海を汚さんがよ」

「あ、そうか。漁師さんにとって、海の水が汚れるのって死活問題ですからね」

そう言えば、台所でも同じように食器洗い用の液体石鹸を使っていた。確か、食器洗い様にも使えるような上質の石鹸があることを何かの雑誌で読んだことはあるけれど、漁師さんはここまで気を使うんだな。
幸さんの言うように、頭から顔から胴体から足から、全身に柚子の香りの泡をふわふわに纏った僕は、シャワーで泡を流していく。今日一日の疲れや、心のわだかまりまでも洗い流されていくような気分だ。
と、シャワーとは別に、お湯が僕の体の泡を洗い流してくれるような感触がある。後ろを振り返ると…、
「確かに海を汚さんも理由やきけど、もう一つ理由があるがよ。人工の香りは、うちは好かんき、特に水の中では」

洗面桶を片手に、幸さんがかがんで僕の背中を流してくれていた、みたいだ。みたいだけど…
幸さんは、いつのまに湯船から出たんだろうか。と、言うか…すぐ目の前に、裸の女性が、居るん、です、けど。

「どうしたなが? 湯船の湯は熱すぎちゅうか?」

不思議そうな表情をする幸さん。いやいやいやいや、湯船のお湯とか、そういう次元じゃなくて…。
目の前に飛びっきりの美人が、全裸で、惜しげもなく美貌の全てを晒しているという事実に、頭の中が真っ白になる。

「お、おおおおおお風呂失礼しますっ!」

僕は慌てて立ち上がって一礼し、湯船めがけて遁走を開始した。だが、五歩ほど走り出した瞬間、足元を滑らせてしまう。

―足裏の石鹸を流し忘れた…?!―

ぐるり、と物凄いスピードで世界が回転し、天井が目の前に広がる。子供の頃、風呂場で転んだときも同じような経験をしたよな…あの時、頭と床がぶつかった衝撃が鼻まで抜けていき、まるで衝撃の匂いのようにアドレナリンと血の混じった匂いを感じたな。あの時みたいに、痛いのかな…これが走馬灯という奴なのだろうか。

だが。

僕の後頭部を捉えたのは、硬い床ではなかった。床にぶつかる角度に到る前に、何か板状の滑らかなものに頭部を支えられている。では腰から落ちるのか、と思いきや、何か滑らかでぬくもりのあるものに落ちたようだ。

「……あ……っ…」
「危ないろう、郁人! 風呂場で走ってはいかんちや!」

幸さんの声が僕を叱る。でも、僕の体を支えたのは、幸さんでは…いや、正確には見慣れた幸さんの体ではなかった。

僕の頭部を抱えたのは、幸さんの肩から伸びる黒い板状の腕。いや…これは、まるで胸びれのようで。
そして僕の体を受け止めた幸さんの体は、腰から下があの美しい脚ではなく、尾びれがすうっと伸びていた。

受け止められながら振り向くと、ちょっと怒っているけど、幸さんのあの綺麗な貌のままだった。けれども、幸さんは僕を受け止めに滑り込んだ勢いのまま、尾びれを反らせて湯船の縁を滑らかに滑り上がるようにして、僕を抱えて湯船に滑り込んだ。岩に挟まったとき、シュモクザメと遭遇したときと同じように、黒い胸びれで僕を抱えて。

「郁人がこがにおぼこいとは思わんかったきに、てがいすぎたがよ…やけど、ほたえ過ぎやないかね?」

幸さんが少し呆れたような、嗜めるような表情で僕の頭をぽんぽん、と叩く…ひれから戻った人間の手で。

「だ、だって、幸さんみたいな綺麗な人があんな近くに裸でいたら、普通びっくりしますよ…」

ついでに言えば、僕は幸さんに抱きかかえられたままだ。幸さんは人間の姿に戻ったものの、僕を放そうとする気はないらしく、幸さんの筋肉質でありながらしなやかで柔らかい体に抱き締められたままで、
背中には丸くて柔らかなものがバッチリ当たっている。普通の男の人なら据え膳喰わぬは何とやら、といやらしい事をするのだろうけれど、僕はそれどころではなかった。心臓はドラムソロパートでも演奏しているかのように
激しく脈打ち、ほとんど生まれて始めての密着する女性の体に頭が真っ白になる。

だが、僕の心臓を激しく脈打たせているものは、幸さんに対する興奮だけではなかった。
幸さんは、恐らくシャチに変身する能力を持つ…いや、もしかするとシャチの姿こそが正体で、人間は仮の姿に過ぎないのかもしれない。陸上でさえ幸さんの力には敵わないというのに、今は湯船と言う水の世界、シャチのフィールドだ。

僕は、幸さんに、生殺与奪を、握られている。

だから、これだけ魅力的な女性と密着しているというのに、僕自身は恐怖に縮こまっていた。でも、これだけはどうしても聞いておきたい事がある。僕は、残る勇気を振り絞って幸さんに問い掛けた。

「あの…もしかして、幸さんが、鯱女房、なんですか?」

その問いに、

「へ…?」

幸さんは一瞬目が点になったが、

「ち、違うがよ! 伝説の鯱女房は500年も前の話じゃき、生きとる訳なかろう! 何を言い出すがか、郁人!」

慌てて頭をぶんぶんと横に振り、否定した。…幸さんの慌てた表情って、可愛いなあ、と暢気にもそんな事を思った。
少しだけ落ち着いた僕は言葉を続ける。

「だって、今日一日で三度も、僕をシャチになって助けてくれたんでしょう? まるで、伝説の鯱女房みたいに」

「…この能力≪ちから≫は、皆川の一族が初代から受け継いじょる力やき。うちは格別、能力が強いけどな」

その言葉と共に、僕を抱きしめる腕に、ぎゅっと力が篭る。締め付けはさほどではないが、まるで鋼鉄の枷でも嵌められたかのように、体が動かせない。…背中に当たるものの密着度も増してはいるのだけれど。
すると不意に、幸さんが右腕を外した。だが左腕一本で抱きしめられていても、まるで体が動かないのは同じだ。
そのまま右手で僕の顎を摘み、幸さんの方に向き直らせる。そして幸さんは、獰猛な笑みを浮かべて僕に問うた…
シュモクザメに襲われた時と同じように、赤く瞳を光らせながら。
「さぁて…ここまで見て、聞いて…生きて帰れるち思うちょらんよな…?」

…どうやら僕は、幸さん相手に調子に乗りすぎたらしい。確かに、ここまでこの島と、住まう人の秘密を聞いてしまった以上、生きて帰れる保証はない。ここで見て、聞いた事を多言してしまわないように、僕はこのまま殺されるのだろうか。
けれど、不思議と恐怖心は湧いてはこなかった。


    ―三度までも命を助けて貰った、この美しい女性の手に掛かり、そして喰らわれる。―


肉食獣に捕獲された草食動物は、喰らわれる瞬間、実は恍惚にも似た境地にあるのだという。弱き生き物の苦しみを和らげる天の計らいでもあるのだろうが…今の僕には、その気持ちが良く判る。この美しい人に喰らわれ、
僕のいのちは幸さんの一部になる。それは愛としては究極の形であるかのように思えた。…よーく考えてみると、生きて帰れないと言われてはいても、殺すとも、ましてや喰うとも言っていなかったのだが、余りにも自然に、
この考えが頭を占めた僕は、目を閉じ、静かに微笑んで、こう告げた。

「三度まであなたに…幸さんに命を救われたんだ、あなたになら殺されても、食べられても、構いません。
 この島のことなら、あの世の閻魔様の前だって絶対に話さないから、安心して僕を食べてください」

僕は安らかな気持ちで、眼を閉じた。

けれど、僕を抱えた幸さんの腕は小刻みに震えるばかりで、一向に僕に牙を突き立てる気配もなければ、その腕で僕の体を力任せにヘシ折るような気配も一向にない。かれこれ一分ばかりそうしていたが、
いぶかしんだ僕がそっと眼を開けると…、

僕の目の前の最愛の人は、眼を少し潤ませ、日焼けした顔を耳まで真っ赤にして、僕の顔を見つめていた。
下ろされた髪ははらりと額に掛かり、ぞくりとする程に妖艶でありながら、その貌は凛とした美しさに満ちている。

「さ、幸さん…?」

初めて見た幸さんの美しくも妖艶な表情に、僕はそれ以上の言葉を発せずにいた。と…

「郁人……郁人……いくとっ!!」

幸さんの腕の中でぐるり、と幸さんと向き合う体勢に、一瞬のうちに向き直らされた僕は、そのまま幸さんに唇ごとファーストキスを奪われ、湯船の中へと押し倒されたのだった。
こつん、と歯が軽くぶつかった。幸さんはキスには慣れていないか、もしかしたらこれがファーストキスだったのかもしれない。
けれど、そんな事も直ぐに気にならなくなった。激しく僕の口を、舌を吸い立てるような情熱的なキスに一瞬戸惑ったものの僕も舌を絡め返し、一心に幸さんとのキスに没頭し、彼女の口を、舌を、むさぼった。…まるで本能が僕にキスの仕方を教えてくれるかのように、幸さんも僕自身もいちばん興奮するキスの仕方を体が勝手になぞる。はじめてのキスが、最愛の女の子とのはじめてのキスが、こんなにも情熱的なものだという幸運に逢ったのは僕くらいのものだろう。

けれど…そこはお風呂のお湯の中な訳で、ちょっと息苦しくなったとしても、息継ぎをする空気が存在しない訳で…、

たぶん、好きな女の子とのファーストキスが水中での出来事で、なおかつ息苦しくてキス中に女の子にタップした男もまた、世界広しと言えど僕だけだろう…。たっぷり一分半ほどキスを堪能した後、酸欠で視界が遠のいて意識も白濁する中、どうにか僕の右手がその肩をタップしている事に気付いた幸さんは、一瞬目を丸くしたものの、すぐに僕を抱きしめたまま水中へと浮上した。

「ぷはぁっ…ぜー、はー…、ぜー、はー…」

「ごめんな、郁人。接吻ち言うもんが、こがに気持ちえぇもんとは思わんかったきに、郁人の息継ぎを忘れて没頭してしもうたぜよ…」

僕の頭を抱えたまま、こつん、と額と額を合わせて、幸さんが申し訳無さそうに呟く。

「い、いえ…ぜー、はー……、ぼ、僕も、凄く、良かったです…。幸さんとの…はじめての…キスって」

「あっはっは、うちが郁人の『ふぁあすと・きす』を貰うたんか。そう言や、うちも初めてじゃきに、これでおあいこぜよ」

直線距離5センチの、最愛の人のこの明るい笑顔に、僕は胸を撃ち抜かれた。ああ、僕は幸さんのファーストキスを貰ったんだ、と。
でも僕には、こんなに綺麗で、明るくて、素敵な人が、今まで男の人と付き合っていないなんて不思議だ、と思えた。すると、幸さんが僕の心の中を見透かすように、静かに語り始めた。

「言うたやきけど、うちは水ん中では鯱の≪力≫で鼻が利くがよ。やけど、鼻が利きすぎて、男の匂いが判りすぎて気に要らんかったがやし、それに『はちきん』が過ぎて、男はさっぱり寄っても来んかったぜよ。まあ、おなごの後輩からはチョコ貰うたりはしたがけどね」

「匂い…」

動物にとって、匂いはパートナーを決める上での重要なファクターだ。体臭の違いは、遺伝子だけではなくその人が持つ抗体の種類によっても左右されるという。つまり、気に入った匂いの持ち主は、自分と違う種類の抗体を持つがゆえに生まれてくる子供はより多くの病気や毒に対して耐性を持ち、また大きく異なる遺伝子を持つがゆえに生まれてくる子供は多様な遺伝子を内包し、より強くより多くの可能性を持って産まれて来ることになる。その事を本能は知って、無意識に惹かれる。

つまりそれは…その事に思い至ろうとした瞬間、幸さんの眼が赤く光った。

「ふふふ…うちは口下手やき、一番伝わる方法で郁人に伝えるきに。うちが、何を考えちゅうかをね…」

首筋に、柔らかくぬめるものが這う。それが幸さんの舌であり、首筋に幸さんのくちづけを受けたのだ、と感じた瞬間。

『Ahhhh.........』

ずんっ。

首筋に衝撃が走る。その衝撃が、幸さんの綺麗なアルトの声と共に、首筋から胴体へ、胴体から四肢へ、そして頭へと拡がって行き、僕の肉体すべてを震わした瞬間、僕は文字通り頭のてっぺんから足先までで、その正体を理解した。

イルカやシャチの仲間は、超音波を発する事が出来、その衝撃と振動とで獲物を気絶させ、捕食することができる。
逃げ場の無い領域に追い込まれ、超音波で気絶させられて捕食される魚たちと、僕も運命を共にするのだろうか。
いや、幸さんの超音波は、もはや衝撃波の領域に達していると考えられる。あの時サメに襲われた僕を助けた幸さんは船の上からでも振動が伝わってくるほどの破壊的な超音波で、サメを退けた…あるいは、サメの肉体そのものを粉砕したのかもしれない。幸さんがその気になれば、この全身を伝う超音波は、たやすく僕を粉砕するだろう。
けれど、僕の肉体をひとしきり揺らした幸さんの声は、そんな敵意や殺意を微塵も感じさせなかった。全身の細胞が心地良く揺すぶられ、ゆっくりと幸さんの腕の中で蕩けていくようだ。そして僕は、シャチの超音波の、もう一つの役割を思い出したのだった。

獲物を気絶させるのに使われる超音波は、同時にイルカやシャチの仲間にとって、重要なコミュニケーションの手段でもある。
その音調は細かく分かれ、多様なメッセージを超音波によってやりとりする事も可能になっている事が、海洋生物学者の手で明らかになっている。いわゆるイルカセラピーと呼ばれる、子供とイルカを遊ばせる療法でも、この超音波が好影響を与えているのではないかという説もあるそうだ。事実、僕は身も心も、幸さんの胸の中で幸さんの超音波を浴びて震え、安らぎ、悦んでいた。そして超音波によってやりとりされるメッセージの中には…

―郁人…―
―郁人が欲しい―
―郁人、おまさんが欲しい―
―郁人、おまさんが欲しい。おまさんの体が欲しい―
―郁人、おまさんが欲しい。おまさんの体が、心が欲しい―
―郁人、おまさんが欲しい。おまさんの体が、心が、命が欲しい―
―郁人、おまさんが欲しい。おまさんの体が、心が、命が、子種が欲しい―
―郁人、おまさんが欲しい。おまさんの体が、心が、命が、子種が、何もかもが欲しい―

ただ、言葉だけでは伝わらないメッセージ。
荒波のように激しく、そして幸島の海のように澄んだ、求愛のメッセージ。
肉体を、遺伝子を、魂をも震わす、幸さんの求愛のメッセージ。

幸さんの中の鯱の≪力≫が、僕の全てを、遺伝子を求めている。超音波だけでなく、背筋をぞくりと走るものがあった。
この強く、美しく、そして健康な女の子…いや、メスが、オスとしての僕を、体を、心を、命を、そして遺伝子を、求めている。
それは『オス』として、凡そ考え得る最上の歓喜である事は疑うべくもなかった。超音波によって届いた幸さんの愛の『言葉』は、僕が『オス』であることを思い出させてくれ、そして僕は命あるもの最大の歓喜に震えた。そして存分に『伝わった』事を悟った幸さんは、僕を震わす事を止め、幸さんの瞳の赤い光が、ゆっくりと消えていく。

そして幸さんが、ゆっくりと僕の首筋から口を離す。つぅ、と銀色の糸が首筋と舌とを繋ぎ、やがて切れる。
再び僕の頭を抱えて、おでことおでこをくっつけ、眼を合わせながら、幸さんはいつもの笑顔で僕に問うた。

「郁人。うちの気持ち…伝わっちゅうか?」

返事は言葉ではなく、僕からのキスだ。言葉なんてまだるっこしいものでは、僕の中に猛るものは伝えられそうに無かった。
僕の言葉にならない返答に、幸さんは眼を細めて応じ、そのまま僕たちは再びキスを交わし、お互いをむさぼった。
一度目のキスでより多くを学んだ僕たちは、お互いの舌を絡め合い、お互いの味を堪能し、息継ぎの心配もなく淫らな音を立てて、たっぷりとくちづけ合った。だが、五分もキスを交わしつづけた後、ゆっくりと口を離された。
そして幸さんは、今まで見たこともない妖艶な、そして淫靡な笑顔を浮かべて僕の手を取り、囁いた。
「接吻だけで達してしまいそうやけど…もうそれだけじゃ足りんがよ。ここを触ってみとおせ、こがに熱くなっちゅうが…」

幸さんに手を添えられて、幸さんの太腿の内側をなぞる。そこには、風呂のお湯でもなければ汗でもない、最も濃厚な雌の匂いを漂わせる熱い滴りが伝っているのを、滑らかな肌の感触と共に感じていた。
くすぐったそうな幸さんの含み笑いと共に、太腿の内側を伝っていく僕の手は…、

くちゅり。

「ふぅぅっ…まっ、こと、気持ち、えぇがよ…ふふふ…」

幸さんに導かれた僕の右手は、幸さんの最も熱く、柔らかく、神聖な、幸さん自身へ迎え入れられていた。

「さち…さん…ここ…あなたの……はぅっ!?」

思わず情けない声を上げてしまう。幸さんに求められ、幸さんを求める中で激しく猛る僕自身もまた、幸さんの右手に、きゅっ、と握られていた。そしてお互いの生殖器に指で触れ合っている僕に、幸さんが囁く。

「接吻も…指も…気持ちえぇがけど…もう、うちは堪らんがよ…だから…」

幸さんが、小さく息を吸ってから、次の言葉を続けるまでの、ほんの2、3秒が、まるで永遠のように感じられた。
そして、幸さんが、甘い吐息と共に、濡れた唇から、恍惚とした顔で、言葉を紡ぎ出す。

「まぐわお…そして、郁人の子種を…うちの中に、子供の袋に…くべておせ…」

僕は、ついに来た交わりの瞬間に、産まれて来てから、最大の歓喜と共に、幸さんに答えた。

「はいっ! 僕の子種を…僕の命を…僕の体を…僕の心を…幸さんに、幸さんに、注ぎます!」

その答えに、お互いの思いと、心と、本能とがひとつになった事を歓び合い、僕たちはもう一度、キスをした。
「んっ、んんんっ…」「んふっ、んちゅるる…」

「接吻だけではもう我慢できない」と幸さんは言っていたけれど、いざキスを再開すると、その愛おしさもキスの気持ちよさも格段で、僕たちは再びお互いの口をむさぼっていた。僕は幸さんにくちづけながら、下ろされた幸さんの髪を指で梳く。しっとりとした洗い髪に指を指し込み、首筋から背筋を撫でるように指を撫で下ろすと、くちづける最愛の人の吐息に、甘いものが混じる。

そう言えば、教授から聞いた事がある。シャチは、いやシャチに限らずイルカやクジラの仲間全般に言えるのだそうだが、スキンシップと遊びを好み、特に口を撫でられると非常に喜ぶ性質があるらしい。幸さんの中のシャチとしての因子にとって、この口付けは最高のスキンシップなのだろう。お互い初めてのキスだというのに、僕たちはこの初めて覚えたコミュニケーションで心を通わせ、お互いを深く味わい、そしてお互い快感を与え合うことに、夢中になっていた。

だがその時、幸さんの瞳が赤く光り、僕とくちづける口を離し、その瞳で僕を見据える。
赤い瞳、それはシャチとしての≪能力≫を行使する証に他ならない。この状況でなぜ…?

「幸…さん?」

何が起きているのか、幸さんに尋ねようとして、僕は幸さんの異常に気付かされる。

「ふぅっ…ふぅっ…はぁっ…はぁ…っ…」

まるで息切れでも起こしたかのように、幸さんの息は明らかに荒い。だが、お風呂の中でたっぷり一分半、息を止めてキスに没頭し続けられる程の肺活量を誇る幸さんが、キスで息切れを起こすとも考えられない。
更に、呼吸が激しく乱れていくと共に、幸さんの瞳から放たれる赤い光も、更にその強さを増していく。

そして、幸さんは荒い息の中、口を開いた。

「郁人…ごめんな…。うちの中の…はぁっ、はぁっ…、鯱の血が…言う事聞かん、がよ…」
「大丈夫ですか、幸さん! 何か僕に出来る事、ありませんか?」

僕のその問い掛けに、幸さんは一瞬口篭もったが、荒い息の中、さらに言葉を続ける。

「うちの中の…ふぅっ…はぁっ…鯱の、血が…、はぁっ…はぁっ…うちに強いるがよ…、郁人、おまさんを犯せ、と。その子種を搾り取れ、と…。ごめんな、郁人…おまさんの、初めての、まぐわいを、はぁっ…、はぁっ…、滅茶苦茶な…ものに…してしまいそうやか…」

その言葉を聞いた瞬間、僕は幸さんのしなやかな体を、抱きしめていた。

「いく…と…?」

驚いた表情で、僕を見下ろす幸さんに、僕は語りかけた。

「幸さん、僕は言いましたよね。あなたになら、殺されても、食べられてしまっても、いいって。
 その想いは、今この瞬間も変わりません。あなたが…いえ、あなたの内なる本能が僕を求めて、僕を滅茶苦茶にしたいって言うのなら…僕は、それを、受け止めます。…だって…、」

僕は小さく息を吸う。この言葉を、自分自身で口にするのは初めてだ。それも、人生で。
だけれど、僕は幸さんに言いたい。いや、言わなくちゃいけない。言葉に、しなくちゃいけない。

「僕は…先島郁人は、幸さん、あなたが、好きです。明るい幸さんも、好きです。
 えっちな幸さんも、好きです。もちろん、鯱の≪力≫を持っている幸さんも、好きです。
 だから…」

眼を見開く幸さんの前で、僕は精一杯の笑顔とともに、幸さんに言葉を告げた。

「僕なら大丈夫です。僕を、犯してください。あなたの中で荒ぶるものが、望むままに。
 それで幸さんが、楽になるのなら、僕はその事を、受け止めますから…」

そのまま幸さんを抱きしめ、顔の前にそびえる幸さんの胸に、顔を埋め、体を預けた。
「ばか…」

少しの間そうしていると、幸さんの言葉が聞こえた。そして、頭に熱い雫が零れ落ちたのを感じる。
顔を上げると…幸さんは泣いていた。精一杯の笑顔を浮かべながら、ぽろぽろ涙をこぼして。

「郁人のばか…。ほがな事、言われてしもうたら…、」

瞳から、更に赤い光芒を放ちながら、幸さんは僕を抱きしめ返して、呟く。

「郁人が愛おしすぎて、止まれなくなるがでよ…もう、知りやせんから…」

次の瞬間、派手な水音を立てて、僕たちは一緒に湯船の中に倒れ込んだのだった。



幸さんに押し倒された僕は、水面から顔を上げるや、幸さんに首筋にキスをされ、そのまま吸い立てられた。
所有権を誇示するように、幸さんは僕の首筋に幾つもの痕を残しながら、首筋から胸元へと唇を這わせていく。
そして、幸さんの舌が鎖骨からゆっくりと胸元を這い摺り…

「うひゃぁっ!?」

幸さんの柔らかくぬめる舌が、僕の乳首を捕らえた。ちろちろと乳首の先端を舐め上げられ、1オクターブ高い素っ頓狂な声を上げてしまう。そのまま乳首を中心として、舌先で円を描くように乳首全体を責め上げられる。
今まで、触るどころか意識した事さえなかった部位からの、ぞわりとした異質な感触の連続に、僕はひきつるように全身を悶えさせ、声を上げさせられていた。心臓に一番近く、酷く敏感なその場所を舌で弄ばれながら、幸さんの左手は喉元から胸元へと、体の正中線をなぞるように僕の体を移動していく。そして、臍の辺りでしなやかな指が、僕の臍に滑り込み、くにくにと円を描くようにもてあそぶ。普段ならなんともない筈のその刺激にさえ、声が出てしまうのだが、幸さんは更に右の乳首へとくちづけて、じゅるりと吸い上げた。

「ひぇ、うひゃぁ!」

幸さんの指が、舌が、僕を弄び、翻弄する。
僕というオスを、手に入れた証を、強きメスとしてオスの肉体に刻み込む為に。
僕というオスを昂ぶらせ、より濃厚な精液を、より活力溢れる精子を捧げさせる為に。

(うへぇ…なんかMとかに目覚めちゃいそうだなぁ…)

そこまでの刺激を受けていても、頭のどこかで、そんな事を考えるだけの余裕はあった。けれど…


さす、さす。


「うわ、うわぁぁっ!?」

幸さんのしなやかな指は、臍から更に舌へと、滑らかに滑り降りていき、僕の下腹部を掻き分け、僕のペニスを捕らえ、摘み上げた。男にとっての最大の快楽中枢である男性器への刺激は、くすぐったさと未知の快感の間を彷徨うかのような他の部位への責めより遥かに直接に、僕を昂ぶらせた。
幸さんの手によって、既に血を滾らせ、張り詰めきった僕の陰茎を更になぞり、根元から先端へと指が奔る。
そして…、
くちゅ…


散々焦らされた僕のペニスの亀頭からは、既にじくじくと先走りの粘液が溢れ出ていたらしい事が、その音で判った。
幸さんが、ちろり、と舌なめずりをしたのは、その快感に「ひゃあっ!」と悲鳴を上げる目の前のオスを、完全に捕らえたから。
既に本能に突き動かされている幸さんは、にぃっ、と笑みを浮かべる。僕を、このオスを、手に入れたという誇らしげな笑みを。

そのまま、僕自身の先端に触れ、僕のカウパー腺液にまみれた指を、舌を突き出して見せつけるように舐める。
さっきまでの明るい幸さんとは別人のような淫らな舌使いに、僕はまるで、自分のペニスをねぶられているような錯覚に襲われた。けれど…幸さんはそれをしない筈だ。なぜなら、幸さんの望みは、僕の精液を飲み干す事じゃない。

「健康ナ…子種…強キ…仔ノ…源…」

熱に浮かされたように、恍惚とした表情で、幸さんが言葉を紡ぎ出す。瞳の赤い光が、一瞬光芒の強さを増したような気がした。
本能に意識を支配されている幸さんは、先走りの味で僕の遺伝子を品定めし、そして合格点を出した…という事らしい。

「ソノ子種…胎内ニ欲シイ…注ゲ…」

僕の腰をまたいだ状態で、幸さんの右手がゆっくりと幸さんの秘部に伸びる。下腹部を飾る和毛は薄く、見上げる幸さんの女性器は、陰唇の周りには殆ど毛が見当たらなかった。手入れをしている、という風でもないし、元々薄いのだろう。
そして、幸さんの指は、彼女自身を、割り開いた。


くぱぁっ…


綺麗だった。幸さんの秘唇は、一瞬、逆レイプされかけている今の状況さえも忘れさせる程に、綺麗だと思えた。
幸さんの綺麗に日焼けした小麦色の肌の中に、ローズピンクの粘膜が、メスの匂いを放ちながら、文字通り花開く。
その中心には、円形のピンク色をした花芯…、 ―恐らく、処女膜だ― が、てらてらと輝くのも、僕を昂ぶらせた。

ネットに繋げば、性教育の画像として手軽に女性器の写真は手に入るし、丹念に女性器を描いたイラストも見たことはある。
けれど、目の前の、幸さんのヴァギナは、過去の『予習成果』を全部吹っ飛ばしてしまうほど衝撃的で、綺麗で、愛おしかった。
そして、僕が幸さんの初めての男になり、幸さんが僕の初めての女になる事に、ぞくりとする歓びを覚えた。それゆえに僕は…

「イキリ立ッテイル…ソノ子種…頂ク…」

人生初めての男女の交わりに張り詰めきった僕のモノを、文字通り飲み込もうと、腰を下ろしていく幸さんの秘唇がゆっくりと迫る。
小麦色の肌をしたしなやかな脚を、太腿から臑へと滴りが伝わる。その中心に位置する幸さん自身が、僕の先端と、くちづける。
そして、軽い抵抗のあと…


ぷつっ…、じゅく、ずぶぶぶ…


僕は、幸さんに、呑み込まれた。

女の子にとって、はじめてのセックスは、異物を受け入れる圧迫感と、
こなれぬ膣を圧し分けられる痛みとで相当な苦痛を伴う…そんな事を聞いたことがある。

だが、僕と幸さんの、お互い初めてであるセックスにおいては、男女の苦痛の関係は、明らかに逆転していた。

「ぐ…っ、うわあぁっ…!!」

僕の口から、肺腑を抉り出すようにして漏れ出る声は、興奮と快感からのものではない。
僕のペニスは、幸さんの膣に飲み込まれ、まるで鯱の顎に咀嚼されるかのように、括約筋に「噛み付かれ」ていた。ぎちぎちと締め付ける括約筋の力は、常人を遥かに凌駕する幸さんの筋力をそのまま反映し、文字通りの「処女地」に受け入れた僕自身を、逆に捕獲していた。
僕自身を丸齧りした幸さんの「下顎」は、そのまま僕を咀嚼するように、奥へ奥へと飲み込んでいく。

そして、僕の下腹部の上に、幸さんの下腹部が密着し、僕は、完全に幸さんに飲み込まれてしまった。
しなやかに背を反らせ、眼を閉じたまま、僕を捕らえた幸さんが、ゆっくりと顔を下ろしていく。
雌豹のように全身余すところなく鍛え上げられた筋肉と、その中でなお女性である事を誇示するような圧倒的に豊かな乳房。下ろした長い黒髪は濡れ羽色に輝き、小麦色の肌の上で乳首と唇が、まるで珊瑚のように桜色に華やいでいる。美の女神と、戦の女神と、淫蕩の女神を一身にその身に宿したような幸さんの艶姿に、僕は一瞬、痛みも、初めての交わりの興奮も、呼吸すら忘れて、幸さんに見入った。

ゆっくりと、僕を捕らえ、僕に喰い付き、僕を見下ろしながら、幸さんがその眼を開く。
その瞳には、彼女の血の中に流れる鯱の《因子》を雄弁に語る紅い光が、浴室の薄明かりの中で爛々と輝いていた。辛うじて湯船の縁に肩から上を乗せた僕に、幸さんが騎乗位で圧し掛かっているが、幸さんは「にぃッ…」と、美しくも獰猛で、そして堪らなく淫らに蕩けた、雌の肉食獣の笑みを浮かべた。

「ひゅ…ふはっ…」痛みと、興奮と、其れ故の神経が裏返るような快楽の予兆と、そしてほんの少しの本能的恐怖がない交ぜになった僕の口から、嘆息が漏れる。そんな僕を完全に征服したことを見届けた幸さんは、鯱の《因子》が呼び覚ます本能のままに、動き始めた。

(ずずず…。)

堅く「食い縛って」いた幸さんが、僕のペニスに対する拘束を、ゆっくりと緩め始めた。
と、同時に、ゆっくりと、浴槽の縁に手を掛けながら、腰を引いていく。途端、痛みとは正反対の感覚が、僕のペニスを包み始めた。

鋼鉄の枷のように僕自身を緊縛していた幸さん自身が、その拘束を緩め、僕自身を労わる様に包み始めた。
尿道の中の先走りを吸い出すような、力強くも柔らかな締め上げに、僕はまるで、女の子のような悲鳴を上げながら、幸さんの腰の動きに翻弄された。結合部の滴りに、僅かに血が混じっているのが見えたが、それが僕のモノによって貫かれた…いや、貫かされた幸さんの純潔の証だなんて思えない位に、僕は幸さんから与えられた快楽に、翻弄された。

そして、ペニスの先端が抜けんばかりに、腰を浮かせた幸さんは……、

(じゅぶぶぶ…!)

再び、僕を奥まで「頬張」り、「飲み込」んだ。僕は、肺腑から声を、文字通り絞り出して、虜とされた幸さんの胎内から与えられる快楽に、喘いだ。柔らかく、暖かく、しなやかで力強い弾力ある手に、ペニス全体を扱き上げられ、握られているような幸さんの膣に、僕は狂わされる。

そして幸さんの腰が、まるでピンポン玉を床に落としたような、段々に早くなっていくリズムで、僕のペニスを咥えたまま、腰の動きを速めはじめた。初めて逢った時からずっと(大きいなぁ…)と思っていた幸さんの乳房が、僕の手でも鷲掴みにし切れない様な、圧倒的なまでの質量で揺れ、視覚からも僕を興奮させる。いや、僕を興奮させるものは視覚だけではない。

汗を浮かせ、結合部から淫らな匂いを振り撒かせ、淫らな水音を浴室中に響かせ、僕は男性器からだけではなく、全身全霊を、本能を、幸さんに絡め取られていた。そして僕は、あっけなく射精の瞬間を迎えようとした。

だが…、

(ぎちちち、ぎゅむっ)

「うぎゅ、ひゅはああああぁぁ…っ!?」

射精の瞬間を待ち望んでいた僕の肉茎を、再び幸さんの膣が、ぎちぎちと「噛んだ」。
僕に快楽を与えていた幸さん自身が、再び鋼鉄の枷となって、僕を縛り上げる。
そして、僕を見下ろした幸さんは、本能に浮かされたまま、僕に残酷な宣言を下した。

「マダダ…マダ果ツルニハ…早イ…ナオ耐エヨ…ヨリ濃キ…子種…ヲ…!」

快楽から一転しての締め上げの苦痛に、僕はがくがくと頭を振り、痙攣したように頭を振らされた。
射精を待ち望んだ僕のペニスが、反射を括約筋の枷で握り締められ、快楽中枢の回路を閉じられる。
萎える事さえ許されない痛苦の中、射精の瞬間が遠のいた事を本能的に理解した幸さんは、「にぃっ」と笑う。
次の瞬間、幸さんは、僕を再び柔らかく包み込み、快楽を与え始めた。

それから十数回、滾るモノが上り詰めようとした瞬間、肉茎が幸さんの括約筋によって噛み締められ、ずきりとした痛みと共に快感の潮が引いていく、それを幾度も繰り返した。射精への衝動を苦痛によって押し留められ、じりじりと焦燥感が募る。幾度となくお預けを食らった僕の先端は、先走りばかりを零し、精巣と精嚢は溜まりに溜まった僕の子種を吐き出したくてぴりぴりと熱くなっているのを感じる。

だが、交互に訪れる快感と痛みのパルスが、その周期を次第に早めているのが自分でもわかる。
僕は、僕の男性器は、僕の精巣は、僕の精子は、幸さんの胎内という至上の地への侵入を、最早堪え切れなくなっていた。痛みと快楽の交互の訪れから、視界が白くぼやけ、ひゅー、ひゅー、と、呼吸器が酸素を求めて喘ぐ。そんな僕を見下ろした幸さんから紡がれた言葉は…、

「子種…濃キニ…濃クナリシ事…判ル…仕上ゲダ…」

その言葉と共に、幸さんは、僕の最愛の人は…、

「幸さん…? うぐ、ぎゅは…ッ…!」
「雄ガ…生涯ノ最期ニ残セシ…子種…ソレコソ…最モ濃ク…強キ…子種…」

僕の首に手を掛け、首を、絞め始めた…!