だが男はそれに気付いていながらなおも動かない。焦らすように腰をのろのろと動かした。もっと強い刺激を欲して少女はもじもじと身体を震わせ、その膣から愛液がだらだらと垂れる。
「もぅ……だめらぁ……ちんぽほしいのぉっ! ……おまえのゆびでぇ、けつあなかきまわされたいのぉ……ひぐっ、すんっ……そんくらい分かればかぁ……」
見得も忘れてえぐえぐと泣き出してしまった少女に、男はこの上も無い快感を覚えた。雁首で少女の子宮をずんと突き上げ、指で少女の腸の掻き回す。
「ふぅぅーっ! これぇっ! こうしてほしかっらのぉ! ちんぽきもちいっ、もっとぉ、おまんこぉついてぇっ」
鼻息を荒くしながら幼い少女が自分の膣と菊門をむちゃくちゃにされて満面の笑みを浮かべている。それどころか「もっともっと」と更にねだっている。
そんな異様な光景に男は興奮して更に抽送を激しくする。少女の身体は大きく上下しその卑猥な胸が形を変えながら揺れ動く。
「はぁーっ、ふっふぅーっ、んあっ、らめ、おまんこずぼずぼされて、……ろうにか、なりそおだっ、あっ、あっ」
少女は悶え、ぶんぶんと頭を振った。金色の髪がきらきらと反射して乱れた。

「んんっ、あひぃっ、んあっ、くふっ」
もう憎まれ口も叩けなくなり喘ぎ声しか出せなくなった少女は一心不乱に腰を振る。その腰付きはまさに狩猟動物で、快楽という獲物を貪り続けている。
少女の膣は自分の為に作られたのではないかと錯覚してしまうほど男の肉棒にぴったりと密着する。
次第に突き上げは激しくなり、ぱんぱんと肉と肉がぶつかり合う音や、ねちゃねちゃと粘膜を互いに擦り合う音も大きくなる。
「ふぁっ、だめ、くるぅっ、おまんこいっちゃうのぉーっ!」
男も限界が来て、少女の中に熱い欲望の塊が注がれた。
少女は男の胸にしな垂れかかると、二、三度、弓なりにのけぞる。
肢体は死体のように生気を失い弛緩していたが、媚肉は電流が通っているかのように不規則にひくついて男の肉棒から残らず精液を搾りとった。
うっとりとした様子で繋がった部分から垂れるその液体を見つめていた。

ようやく我に帰り、男が本題に戻そうと口を開くと、今まで恍惚としていた少女はどこへやら、男をきっと睨みつけた。
「お前は、本当に分からず屋だな。……まぁいい。わたしは優しいからな。馬鹿なお前が理解するまで、たっぷりその身におしえてやろう」

短時間に二度射精した男の肉棒は、先程までの勢いを失っていた。萎えて縮んだそれが少女の陰部からぼたぼたと垂れる白い液体と共に抜け落ちる。
久しぶりに外の寒空の下に晒されたそれに少女は膝をぐりぐりと押し当てた。
「目の前にぜっせいの美女がいるというのに、たった二発だしただけで、こんなちいさくなるなんて。……このへたれちんぽ」
ねちねちねちねちと、夫の浮気を責め立てる妻のように、しつこく男のみすぼらしい肉棒を膝でつつく。

「聞こえてるか? いや聞け」
男の耳に少女は口を近づけた。生温かい吐息が耳をくすぐる。かぷりとその耳朶を噛み、耳の穴へと舌を挿し込む。
両方の足の裏と指を使って男根を扱き、大きくて柔らかい生乳を男に押し付け男の触覚を刺激していく。
「こんだけされてぼっきしないなんて、幼女だいすきな変態としてはずかしくないのか?」
いやいや色々とおかしいですよと男が抗議するも耳を食べる勢いで強く噛まれた。血が流れる感覚が伝わる。
しかし少女の舌が全て舐め取っている。ぺろぺろとミルクをすするように少女は懸命に舌を動かした。
その綺麗な朱色の舌を今度は耳の穴にねじ込む。じゅぼと大きな音が聞こえる。外耳道の壁を温かい粘膜が擦っていく。
耳の穴へ卑猥に抽送を繰り返すその舌はまるで膣に出し入れされる男性器を模しているかのようだ。
「んっ、このみにくいちんぽを、んっ、わたしのおまんこにケモノのように、んっ、つっこみたいんだろ、あむっ」
はぁはぁと盛りの付いた少女の息遣いが耳の裏に当たる。奥へ奥へと舌は侵入していくが、肉棒への刺激も忘れず少女は細い足の指で指圧する。
華麗に旋律を弾くピアニストのような繊細な指遣いに、荒々しく耳の穴を侵す舌に男は良いように弄ばれた。
次第に雁首は上を向いていき、やがて少女の足の中で大きくなった。
「ふふ、やっぱり、そうなんじゃないか。お前のおちんぽは正直でいいな」
足の指で肉棒を一度弾くと、ぴんと直ぐに起き上がった。


少女はこんもりと盛り上がった無毛の丘にその膨れ上がった肉棒をあてがうと、男に意地悪く笑みを向けた。
「お前のちんぽ、わたしのまんこに入れたいって、びくびくしてるぞ。ほんとにがまんが足りないだめちんぽだ」
本来ならば固く閉じられているであろうそこは、少女らしい外見にあるまじき毎夜毎夜繰り返される淫欲まみれた交合によって肉襞がはみ出で、綺麗な桃色であるはずの茶味がかった陰唇は、男の屹立した雁首を誘うように蠢いている。
「けどいれてやらない」
が、そのまま滑って恥丘の上に逸れた。少女のすべすべとした肉感の良い太股に挟まれてそのまま肉棒がその顔を腿に隠れたり現れたりするようになった。
濡れそぼった入り口を亀頭が擦り付けられるが、少女は先程のお返しとばかりになかなか入れようとしない。
「どうした目が血走ってるぞ。ちんぽだけでなくて持ち主じしんも節操なしだ」
男とは対極的に、雁首に陰核を突付かせて少女はこれだけでも結構な快感を得ているようだ。
「わたしは、えらいから、こんじょうなしの、おまえをきたえてやる。ばかには、しつけがひつよーだからな」
ふふんと少女は男を見下して、股を恥ずかしげも無く擦り付ける。いつのまにか包皮が剥かれて淫核が大きく勃起していた。
「ふん……うんっ……ん……」
くぐもった声を上げて気持ち良さそうにしている少女を尻目に、男は物足りない快感に身を焦がす。
「いれさせてほしいか?」
こくんと男が頷くと少女はびくんびくんと身体を震わせた。軽く達してしまったらしい。
「発情期の犬みたいにだらしなく腰を振って、まんこにびゅくびゅく射精したいのか?」
焦燥感は羞恥に勝る。男は骨髄反射でこくんこくんと頷いた。
「さっきはお前はわたしが泣くまで言うこときかなかったからなー」
どうしよっかなーと少女は滑らかな内腿で肉棒を刺激し続ける。太股は、雁首から先走る透明の液体と少女の膣から溢れ出る愛液でおもらしをしたみたいになっている。
はっと口を大きく開け、先程までの余裕を無くして言い繕った。
「いまのは、なしっ! いや、ちがう、わたしが泣くわけないだろ! ぜんぶ演技っ、わたしのたぐいまれなる演技力のなせるわざだからな!」
はい分かってますだから早くと急かす様にぶんぶんと頭を縦に振る男に、少女は「のうたりんのお前もようやくわかってきたか」とうんうん頷いた。

「よし、じゃあ、ほんのちびっとかしこくなったお前にほうびをやる」
仰向けに倒れる男に抱きつくように覆い被さっていた少女が一旦立ち上がる。
行為の前の意気込みはどこに行ったのやら、ようやく膣に入れられるのかと男の呼吸が早くなった。

「お前のだいすきな足だぞ、ほら」
男の期待はものの見事に打ち砕かれた。この少女が素直になにかをしてくれる筈が無いのだ。
猛る男根を少女は少し前と同じようにその染み一つ無い綺麗な足で踏みつける。それはそれで気持ちいいが、なんだろうこのわびしさは。
「おまんこにちんぽ入れたくてがまんできないって、なさけない顔してるぞ。ほんときもちわるい」
貴族が物乞いに向けるような見下した目でそういった後、ふわりと少女は天使のように微笑んだ。
「うそだ。ちょっとしたおちゃめだ。ちゃんとごほーびをやろう」
細いが適度に肉の付いた美術彫刻の女神のような足が離れると、沈み込んでいた肉棒が褒美を前に姿勢を正したみたいにぴんと反り返って屹立する。

「右と左、どっちの足がいいかえらんでいいぞ」
はあぁぁ~……。
溜め息が出た。魂が抜き出たとはこういうことだろうか。本当に大きな溜め息が出た。
せっかくだから、俺はこの左の足を選ぶぜ! などと無理やり気分を持ち直す。
男の雁首に左の足が重なった。


「お前のきたならしくてみすぼらしいちんぽをこのわたしのおまんこに入れようだなんて、なんておこがましいやつなんだ」
指を使って男の亀頭を器用に引っ張る。加減されているが、少女は男を罵って興奮しているのでたまにきりきりと痛みが走る。
「足をつかわせてやってるだけでも、ありがたいと思え。この愚民」
さわさわとくすぐるように撫でたかと思うと、嬲るように肉棒を責め立てる。時に艶かしく、時に初々しく。この多彩な快楽の波がたった五本の指で起こされているとは到底思えない。
「それなのにお前は、ちんぽをしゃぶらせたり、おっぱいにはさませたり、子宮をつくくらいはげしくおまんこにぶっさしたり」
亀頭の中心、その割れ目を中指が沿っていく。そして指の腹が尿道口に入り込む。全身に電撃が走る。その刺激のあまりの強さに身体が浮き上がった。
「お前は年がら年中発情期なんじゃないか? このへんたい」
ぐりぐりと中指が動き、快感とも痛みとも取れる強烈な感覚に男は言葉も出ない。
「くやしかったらそのばかづらをどうにかしてみろ、ほら、この、この」
リズムよく指を押し入れ続ける。本当に僅かにしか入っていないのにこの快感。頭がどうにかなりそうだった。
「でるのか? 指入れられてしゃせいしちゃうのか?」
射精を促すように足の裏でくいくいと肉棒全体を揺らされ男は達した。
黄ばんだ白い粘液が足の裏に吐き出され、男を絶頂に導いた愉悦に少女の膣がきゅうきゅうと蠕動した。
「なんどかいでも、慣れないな。くさい。くさすぎる。この世のものとは思えない」
そう言う割には鼻をひくつかせて、くんくんと自発的にその臭いを吸い込んでいる少女は男に跨って膝を付いた。
「こんなくさいものにはふたをしてしまうのが、いちばんだ」

もう随分と長い間ご無沙汰だった気がしてしまうほど、待ちわびていた少女の中。
肉棒をぎちぎち締め付ける肉襞は、男の進入を心から喜んで抱擁しているかのようだ。
「こんなのの何がきもちいんだか。へんたいのお前の気が知れない」
口ではなんと言われようと少女が自分を受け入れているという確かな実感。尿道口を責められるのとは次元が違った。
「ふぁっ!?」
どくどくと根元から精液が這い上がってくる。男は一往復もせずに射精した。

「みこすりはんどころか、入れただけだぞ……そんなにおまんこがうれしいのか。この早漏ちんぽ」
防波堤が決壊したかのように止まらぬ射精に少女は満面の笑みを浮かべて男を貶す。
ゆっくりと腰が動き、愛液と精液の混ざり合ったものを潤滑油にしてじゅぽじゅぽと卑猥な音を奏でる。
「よだれが、ふっ、たれてるぞっ、んっ、はっ、はっ、そんなにうれひいか?」
顎まで流れた唾液を舐めとり、少女は男と舌を絡ませ合う。べちゃべちゃと顔に唾液が付いても構わず激しく絡ませ、既に上も下もべちゃべちゃだった。
「足でいじられて二回も出して、んんっ! 自分よりも小さな娘のまんこに精液出したいと無様にねだったあげく、はっ、んあっ、入れただけで射精して」
男の手がふっくらと柔らかい巨大な胸へと伸びていき、パン生地をこね回すように弄ぶ。
「おっぱい好きの幼女趣味の上に、色情魔で、んんぅっ! ひっ、んっ、そーろぉおっでっ、のーなしでっっ」
ぷにょぷにょと軟度の高い透き通るような白い肌の感触を手の平で味わい、硬くしこった乳首をミルクを絞り出すように指で扱く。
「んっ、あっ、いっ、そんな変態をっ、あいへしてくれるようなぁ、んっ、ふぅーっ! 寛大なこころの持ち主は、わたしくらいな、もんなんだからなっ」
激しく奥を突き上げていた腰の速度を落とし、緩やかな抽送を繰り返す。
「そこらへんっ……をぉっ、ぜんぜん……んあっ、あう……わかっれないんらぁっ、おまぁはっ、あっ、ふっ、いっ」
かと思えばまた激しく揺さぶる。緩急をつけた動作に幼い少女の膣は男を褒めるようにうねうねとうごめいた。


「ふっ、ほはっ、ふっ、ほっ、はっ」
少女が減らず口を叩かなくなり呼吸をするのが精一杯という具合になったかと思うと、肉棒をきゅうぅぅっと締め付ける感覚が。
「んんうぅぅぅっ!」
弓なりに仰け反り、膣が痙攣する。少女が絶頂に達したのだ。ぽーっと頬が紅く色づき虚ろな目でどこかを見つめる少女の膣を構わず突き上げる。
「ひぐっ、あっ、こら、やめ、んっ、んっ、はぁっ」
飛んでいた意識が戻り男を制止させようと声を出そうとするが、自らの喘ぎ声に邪魔されてしまう。
「い゛っれるのに、んんっ、あっ、まんこ、またっ、」
小刻みに痙攣し続ける肉襞の心地よさを感じながら、少女のくびれた腰に手を添えて荒々しく子宮を突き上げる。
そしてしばらくして男は少女の子宮に白濁を注ぎ込んだ。もう何度も出したというのに、その濃さも量も変わらない。
「ふああぁぁっ!!」
子宮は既に精液で満たされていて、どんどん外へ溢れ出る。男と同時に果てた少女は男にその全体重を預け、その余韻を味わった。

「こんなにいっぱい精子だされたら、お前の子供をぜったい孕んでいるぞ……」
上体を起こすとこぽりと水っぽい音が鳴った。少女はぽっこりと膨らんだ下腹部を嬉しそうに見つめている。
出産どころか初潮も訪れてなさそうな幼い少女の容姿だというのに、その表情はどこまでも大人びて目に映った。
「小さな娘にこれだけ子種を注ぎ込んで妊娠させようとするなんて、鬼畜いがいのなにものでもないな」
えへへと可愛く笑いながら言われても。
「さっき言ったことをぜんぜん分かってないなお前は」
腰をくねくねと淫靡にまた動かし始めた少女。射精して気だるさの残る男の肉棒を刺激していく。
「きだいの馬鹿だ。これはこのわたしが何度も何度もしつけなければならないようだ」
え、まだやるんすか? いかにも不安といった目を男は少女に向けた。
「きまってるだろ」
なにを当たり前のことを聞いてるんだお前は。そんな顔をして少女はたゆんたゆんと胸を弾ませる。
動く度に精液が零れ落ちてベちゃべちゃと音を立てる。少女は眉を下げ残念そうにそれを見つめた。
「あ、おまえのこだねがぜんぶ落ちちゃう……」
今にも泣き出しそうな少女の髪を撫でると「なでんな」と言いつつも少女は嬉しそうに大きく頷いて、「そうかそうか」と一人納得。

「もう一度わたしの子宮に精液を出すから安心しろと。そーいうことか」
ええぇぇぇぇ。開いた口が塞がらないとはこういう事か。少女の思考回路と、まだやるのかという心的疲労で男は呆然とした。
縦に横に尻を揺らし、時計回りや反時計回りに円を描くようにうねうねと。妖艶な腰使いに男の射精感は強まっていく。
びゅるっ! と精子が飛び出るがさすがに勢いが弱まっている。
「……早漏。こんなもんじゃ落ちたぶんの方がおおいぞ。出し惜しみするな貧乏性」
となぜかいらいらした様子でまた腰を振るが、ぬぽっと陰茎が抜け落ちる。
「もうっ! 世話のやけるっ!」少女は身体を前後に反転。しなびた雁首を咥えるとずぽずぽとしごき始める。
男の視界には少女の形の良い尻と精子でべとついた秘部とひくついた菊門がでかでかと占拠し、口淫をする少女の動きにあわせてゆらゆらと揺れている。
「このわたしにくっさい精子まみれのちんぽをくわえさせるなんて、とんでもないやつめ……これはおしおきだからなっ」
ちゅうぅぅと吸い付き尿道口から残った精液が吸い取られる。少女がちゃくちゃと濃厚な白濁を味わっている内に肉棒がむくむくと起き上がった。
「なんだ、いやだいやだと言いながら、おちんぽぼっきさせて……このみえっぱりやさんめ」
……。


少女がまた膣に挿入する。気持ちいい反面、男はどんどんと疲弊して衰弱していった。対して少女に疲れは見えない。
ぶるんぶるんと、まるで触ってくれと言わんばかりに淫らに揺れる胸を見ても腕が動かない。揉みたい。揉みしだきたい。
「ああんっ、はぁっ、ふぅっ、んんっ」
男の欲求は強くなっていくが思うようにいかない身体に思考回路がおかしくなっていく。
ぬちゅぬちゅと抽送は繰り返され、快感は十分なのに何故か身悶えするような鬱憤が溜まっていく。解消する術は無い。
その内また精液が吐き出され。その度に萎えた肉棒を少女がまた勃たせて。その繰り返し。
いくら精液と愛液でだらだらの膣内といえど、次第に男の陰茎は擦れてひりひりと痛み出した。
「も……やめて、くださ……」
指一本すら自分で動かせないほど身も心も枯れた男がどうにか出すことの出来たその懇願は、木々の擦れ合う音よりもかすかであった。
「……」
放蕩とした顔を一変、不満である事がありありと分かる表情を作って少女はこれ見よがしに腰を上下させた。
意識的にやっているのか、それとも無意識なのか、少女のその容姿に似合わぬ成熟した肉襞は男根の根元から雁首、亀頭、尿道口と締め付ける箇所を移していき、巧みに射精を促した。
精巣から作られたばかりの精液が精管を通る。疲弊した肉繊維を白濁により広がった精管がさらに苛めて尿道口へと上るにつれて鋭い痛みが男を襲う。
しかし実際のところ、男の胸中にあったのは苦痛だけではなかった。それすらも男は快感を覚えていた。
やがて今宵何十度目かの射精が始まり、少女の少女らしからぬ熟れた肉壷はそれを全て受け止め、子宮を膨らませるほど満杯に溜まっていた白濁液がその独特の臭いを撒き散らしながら外へ吐き出される。
黄ばみがかった白い不透明の粘液は、何百、何千と男の肉棒を貪っていやらしくその色を淀ませた、茶味がかった薄桃色の膣を通り、呼吸をしているかの如くその口を開閉する菊門から男の大腿へと流れ雑草の茂る地面へと垂れた。
男の股下、ぼたぼたと泡を立てている精液は白く濁った水溜りとなっている。
きゅぽんと音を立て、男の肉棒が抜けた。今夜だけで何百往復と膣口を突き立てたそれは、摩擦で赤黒く色を変え、腫れ上がり元よりも一回りも二回りも大きさを増している。
血流が分かるほどに血管の浮き出た男根を眺めて少女は満ち足りた顔を浮かべた。
ようやく終わりかと男が安堵した。

「あと何回わたしのおまんこに攻め入れば気が済むんだ?
愚鈍なお前は数なんて覚えてないだろうから明晰なわたしが言ってやるけど、もう今夜だけで何百回もわたしのおまんこはお前のちんぽにずぼずぼされているんだぞ?
万年発情期の人間の中でもお前の性欲はとびぬけているんじゃないのか。このしきじょうまめ。
ほら分かるか、お前のちんぽがなんべんもなんべんも深く強く私のおまんこを出入りするから、綺麗に閉じていたはずのおまんこにお前のちんぽの型がくっきりついてしまって半開きになってしまったんだぞ。
お前のちんぽは見るも無残に腫れて痛々しいかぎりだ。
それなのにその醜い肉の塊が萎えることを知らないせいで、私のおまんこのなかは火傷してしまうかと思うほど熱を帯びているんだぞ?」
少女は後ずさり前屈みになり、男根のすぐ前に自分の顔をもって来た。そして亀頭へふぅっと息を吹きかける。
火照った肉棒が涼やかな甘い風に冷やされて気持ちいい。
「こんなに傷つき疲れきったちんぽなのに、わたしのおまんこに入るとかならずその欲まみれのくっさい精液を吐き出して」
男の股下で蹲る自分を上体を少し起こして見つめる男を罵るが、位置関係から上目遣いになってしまいどこか媚びた印象を抱かせる。
「私の中の、隅までもう入り込む隙間が無いほどどろどろの愚民子種で満たされているというのに、物の一つ覚えのように注ぎ込むことしか知らないから、まんこから溢れ出て垂れてしまっているじゃないか。
お前は地面でも孕ませるつもりなのか?」

すると少女は一晩の内に出来た白濁色の小さな泉に舌を這わし始めた。ミルクを舌を伸ばして飲む子犬のようである。
「ほら、こうやって喉の渇きをいやせるくらい、たくさんの精液が、役割を果たせずに無駄遣いされている。こんな考え無しだからいつまでも貧乏なんだぞ」
貪るように地面の上の粘液を飲み干し、少女は鼻の下に白いひげをたくわえた。黄ばみがかった白色のそれを少女の桃色の舌が艶かしい弧を描きながら舐め取った。
「ねとねとと粘っこい精液をなんべんもなんべんも擦り込まされて、きっと何年、何十年たとうともお前のくっさい精子の臭いがこびりついているに違いないぞ。
街を歩いても、山を歩いても、森の中でも、どこにいたって、わたしはお前の牡の臭いをぷんぷんさせなきゃいけないんだ。
このべっとりと纏わり付く、くっさい臭いのせいで周りにいるどんなものにもわたしがお前のものだなんて勘違いをされて一生を終えなきゃならない。
全く、本当に、ほんとうにほんとうにほんとうに! 気がめいってしょうがない。
この落とし前、どうしてくれるんだ?」
完全な言いがかりである。
少女は金色の髪を揺り動かしながら前へ進み、また男の身体にまたがり、閉じられた。跨る為に足を大きく動かした時、たわわに実った双房が愉しそうに跳ね上がる。
「千年に一人いるかどうかの変態だからな、そうだったら嬉しいんだろ?」
そしてその水鞠のように弾む乳房を「触っていいぞ」と許可ではなく命令を男に下し、男は脱力した腕に力を込めて大きな胸へ運んだ。
「どうせ、この胸が不遜にも自分のものにできるなんて妄想をいだいてるんだろ? お前のちんぽがまた大きくなったぞ」
男の肉棒は血管が破裂するかと思われるほどに滾る血が集まり、死んだような全身とは裏腹にそこだけ生気溢れる興奮に満ちていた。
「このおまんこだってな、お前のちんぽの太さだって、固さだって、少し左に曲がって反っている形だって、火みたいな熱さだって、雁首の張り具合だって、なにもかも覚えこまされてしまっているけど、だからって、なにもお前だからこんなに締めつけ、からみつく訳じゃないんらぞ。お前とまぐわっても、わたひは、ふぅ、本当にぜんぜん、うれしく、ないんだからな」
本当に嬉しくないと、もう一度少女は念を押して、男の肉棒を味わうように深く強く抽迭を繰り返す。
「脳味噌のなかにはいやらしい欲望しか詰まってないんだな。心配するな。この私が、完全に全部出させてやるからな」


「んんっ、ひぃっ、ふぃっ、あんっ」
いたいのに、もう出せないのに、気持ちいい。
男はすでにうめく事すら億劫になっていた。
じゅぼじゅぼと水気のある音と喘ぎ声が月の出る夜の空に響きわたっていた。

びくんびくんっ。射精をした時のような快感があるが、何もでない。ついに、やっと空っぽになった。
これで終わりだ……。 男がとてつもない開放感を味わう。すごいうれしい。自由だ。少し息苦しいが。自由の味は甘いんだな……。
……あれ?
気付けば口には桃色の乳首が咥えられていて、鼻の穴の片方が存在感たっぷりのたぷたぷとした乳房で塞がっていた。
もう出ませんよ?
「しつれいな。わたしはかしこいからな。しってるぞ。あらしのまえのしずけさというやつだろ?」
男は死を覚悟した。
そして死にたいと思っても死ねないので、そのうち男は考えるのをやめた。


◇◇◇

「いままでとかわらない毎日。なぁ、それで十分じゃないか? これ以上、なにがほしいんだ?」
少女の口から漏れたその言葉は、もう何も出ないほどに搾り取られて疲れ果てた男の耳を右から左へ通り抜け、辺りの静けさに吸い込まれていった。


事後の気だるさが抜けず、間抜けた顔で草の上に転がる男とは反対に、少女はばっと立ち上がり辺りを見回している。
その顔は険しく、男は一度もそんな表情をした少女を見た事が無かった。獲物を狩る狼のような鋭い眼光に、どこか既視感を覚えるもののどこで見たのか思いだせない。
ようやく異様さに気付いて、疲れ果てた上半身を起こすと、その目をこちらに向け、そしてその両手に備えた鋏をこちらに振りかざした。
鋏を開かずに節で叩かれたので切創はなかったが、喉に直撃したため呼吸が出来ない。身体三つ分後方に飛ばされた。息を吸うのも吐くのも激痛が走る。
暗闇のなか目を凝らすと、自分が寝転がっていた位置に黒い『何か』がいるのが見えた。全身を毛で覆われていて、それが魔物である事に程無く気付く。
もしそこにそのまま自分が居たら――。想像した男の背筋からどっと嫌な汗が噴き出した。
その汗は一瞬の内に引いた。十を軽く越す夥しい数の魔物の群れが、少女の周りを囲んでいた。

目の前で血が飛び散り、頭蓋を砕く鈍い音が響き、腸を引きずり出されて苦痛に喘ぎ、糞尿を漏らした死骸が転がった。
脳味噌が頭からはみ出している。辺りはこんなに暗いのに、そこで何が行われているのかは明らかだった。
頬にぴとりと何かが付いた。
地面に落ちてころころと転がった丸いモノ。眼球。黒目がこちらに向いていた。
吐き気がした。吐瀉物が食道を這い上がり、口はおろか鼻の穴まで一杯になった。吐き出す物が無くなっても胃液が何度も口から吐き出された。
あまりの不快感に涙が勝手に流れ出た。胃液の酸っぱい臭いも朝食べたチーズトーストの臭いも分からない程の悪臭だった。
それは虐殺と呼ぶにふさわしい光景だった。
男は血塗れの少女を見つめた。数刻前まではその服が水色のワンピースだったのだと言っても誰も信じないほどにムラ無く赤一色に染まり上がっていた。

彼女は襲い掛かってくる人間より二周りも大きな魔物を、容易く対処していった。つまらない単純作業のように。虫食い穴の開いた葉をちぎるように、容易に。
少女は血塗れだった。
しかしそれは全部返り血で、彼女から出た血は一滴も無い。その腕の鋏は、茹でた蟹のように真っ赤だ。

骨の割れる音も、絶叫も、何も聞こえなくなった。動いているモノは見えなくなった。
辺りはとても静かだった。まるで何事も無かったのようにしんとしていた。
けれど、そこには何十もの肉片が転がっていて、今まで生きてきた中で一度も嗅いだ事の無い異様な臭いに満たされていた。


積み上がった骸の上で少女はぼうっと自分の腕を眺め、そして男に視線をよこした。
「わたしのことが知りたいと。考えてることを話せと。そう言っていたな」
表情をなくした彼女は本当に作り物めいた人形に見えた。ただ口が動くだけのその顔からは何の感情も読み取る事が出来ない。
「なんでわたしが昨日の晩、街の人間をにらみつけたか。お前にはえいえんに分からないよ。
お前をたよった所で何も変わらない。わたしはね、お前がだいっきらいなんだ。お前たち人間がきらいで、とくにお前がだいっきらいだ。」
少女の瞳は今まで見たこと無い位に冷たかった。その様子に男は目を見開く。
「お前に服をきがえさせられて、床やテーブルに落ちた食べかすをお前に掃除させて、満月の夜にお前を組みしいて。なれない敬語で話しかけられて。
お前と関わったすべてが苦痛でしょうがなかった」
辛い言葉を投げかけているのは彼女自身なのに、その本人が一番辛い顔をしていた。

「わたしがお前を奴隷のように扱う? そんな態度でもしてなきゃ逃げられないじゃないか。
ひとりじゃ服も着れないことから。だされた料理をナイフやフォークを持つ事ができなくて、犬のようにみっともなく食べる事しかできない事から。
ほうきも持てないから部屋を掃除する事もできない。頭をなでられる事はできても、なでる事はできない。恋人のように仲むつまじく指をからませあう事もできない。
あれもできないこれもできない。できないできないできないできない……」
子供が癇癪を起こしたように首を激しく振りながら連呼する。やがてそれも落ち着いた。
「けどお前はなんだって出来る。わたしがお前にやらせる事で、『できない』んじゃなくて『しない』だけだと思い込んで必死に逃げてる事を。いとも簡単に。
お前にできて、わたしにできない事。お前とわたしのちがい。それが見つかる度にわたしとお前は違うケモノだとおもい知らされる」
男は声を出そうとした。だが、出てくる声は濁音と吃音だけで、ちゃんとした意味を持った言葉として彼女の耳には届かない。

「たしかに、わたしとお前はヤドカリとイソギンチャクではない。ことばも通じる。けど、同じケモノでもない」
目の前にいるのは誰だ? 彼女によく似た紛いものに見えてくる。こんな彼女を、自分は知らない。
「しょうじきな、それでもいいかと、思ったこともあったんだ」
ふっと弱々しく優しい笑みを浮かべる少女は確かに血の気が通った同じ生き物に見えた。だがその表情は直ぐに変わってしまう。
「けど今日わかった。やっぱりだめだ。ぜんぜんだめだ。わたしがよくても、お前がよくない。なによりな、そんなお前を見なくちゃならないわたしがよくない」

「わたしは『食べる』ケモノで、お前は『食べられる』ケモノだ」
立ち上がって彼女の元に行こうとしたが思うように足が動かず、そのまま前のめりに倒れてしまう。
なんで、こんなに遠くに感じるんだ? たった数歩足を踏み出せば届く距離にいるのに。
倒れた男を見て少女は笑った。狂ったように笑った。それはどう見ても空元気で、熱にうなされて寝込んだいつかの彼女よりも断然痛々しく見えた。
「ほら、現にお前はわたしに怯えていて、立ち上がることすらできないじゃないか。
わたしにできて、お前にできない事なんて、この死骸の中をまんぞくに歩けるかどうかくらいしかないんだ。
……思ってることを口にしたら、わたしはお前への悪口で、お前はわたしに命乞いするだけで一生が終わってしまうぞ?
そんなのはごめんだから、わたしは、お前のとこから出てくことにする。」
背を向けて少女は歩き出した。違うんだと叫ぼうにも、どうしてもそれは出来なかった。
「安心しろ。山にはもうお前ら人間を襲うようなケモノはいない。たとえ新しい群れがここへ越してきたところで、染み付いたわたしのにおいは当分消えない。
お前が生きている間くらいは、夜をおびえる事もない平和な日々がおくれるだろうさ」
少女が遠ざかっていく。男はただ黙って見つめた。
「べつにお前が気にやむ事はないからな。お前のせいじゃない。ぜんぶ、どうしようもないことだったんだ」


「……わたしの『て』は、お前のとはちがうんだから」
彼女の呟きは本当に小さなものだったが、男の頭の中で何度もこだました。何度も、何度も。

◇◇◇

物心ついた時には山でケモノを狩って暮らしていて、そこになんの疑問もいだかなかった。
わたしの姿を見つけると飛んでいく小さなケモノや、うなり声をあげるケモノ、わたしを食べようとおそいかかって来るケモノ。山には色々なケモノがいた。
川に映し出されたわたしの姿は、その色々なケモノのはどれとも全く違う姿をしていて、なんでこんなに違うのだろうといつもふしぎに思っていた。
他のケモノは同じような姿のケモノと群れをなして暮らしているのに、なんで自分はひとりなのだろうといつもふしぎに思っていた。
冬の夜、群れで固まり丸まってよりそいながら眠るケモノたちの横で、わたしはひとり寒さにふるえた。

ある日、わたしと同じような形のケモノの群れがやってきた。その群れは見たことのない、へんてこな毛をまとっていたが、わたしは気にせずによろこんだ。
わたしもようやく群れを作れると思って近づくと、そのケモノは顔を下に傾けて、わたしには分からない鳴き声をあげた。
その鳴き声の意味は分からなかったが、その目はわたしを食べようとするケモノと同じ目をしていたので、わたしはこのケモノとは群れにはなれないことを理解した。
動かなくなったケモノを前にして、ようやくケモノが何を見ていたのか察しがついた。わたしは彼らのような手を持っていなかったのだ。
毛だと思っていたそれは簡単にはがす事ができて、その持ち主のように身につけることは出来なかったが、とても暖かかった。
その年の冬の夜、わたしは変わらずひとりだったが、それをかぶる事で寒さをしのいだ。

春になってわたしは自分の仲間をさがす事にした。おなじような形のケモノがいるのだからきっとわたしとまったく同じ形のケモノもいるはずだ。
山を抜けた先に、私とよく似たケモノの群れを見つけた。山で見たどんなケモノよりも数が多くて、みんなへんてこな毛みたいなものを身につけていた。
その群れは、見たことの無い真四角の岩を積み上げて山を作っていて、それがどんな意味があるのだろうと不思議に思う。
ここにはわたしひとりじゃ相手にできないほど沢山のケモノがいたので、へんてこな毛みたいなので身体を包んだ。

夜が来て、寝床をどこにしようか探していると、ひょろりと高いケモノにぶつかった。
「ああごめん。大丈夫かい?」
疲れていたわたしはその場にしりもちつくと、ケモノがよく分からない鳴き声で私にその手を向けてきた。わたしにはよく分からない行動だったので無視する。
そのケモノの目は今まで向けられてきたどんな目とも違うような気がしたので、興味がわいた私はうなり声も上げずにそのケモノをじっと見つめた。
「うーん、知恵遅れか? 格好からして貧民層の子かな。 しっかし、壁があるとはいえこんな夜中にいたら危ないな……」
なにやらぶつぶつと小さな声で呟くそのケモノが何を考えているかはさっぱり分からない。
わたしの好奇心は飽きずにそのケモノに向かっていた。しばらくして、ぐぅと腹がなった。山から出てきて何も口にしてない事をわたしは思いだした。

「ああ、腹が減ってるのか」
腹の音を聞いた男は何かまたつぶやいたが、わたしには全くわからない。けれど、その目には覚えがある。
山で見た、大きなケモノが小さいケモノに乳を飲ませている時の瞳にそっくりだった。
「今年も不作で、俺も金なんて無いんだけど仕方が無い。家で採れた芋を上げようじゃないか。ここらじゃ絶対に見られない小ささだろ? 芽は出てないからまだ大丈夫なはずだ」
男は丸い石のような形をした物を取り出してわたしの前に差し出した。わたしはためらう事なくそれにかぶりついた。
「おま、そのまま食うなよっ。はは、つーか手を使え手を」
目を細めて何か声を掛けるケモノの言う事は全く分からなかったけど、悪い気はしなかったのでそのままにしておいた。
石のようなものは歯応えがあって、空腹だった事もあってなかなかうまかった。
「おいしそうに食うなお前は。今度はもっと味わって食えよ。じゃあな」
私とは違う形をした手で頭をがしがしとされたが、これもまた悪い気はしなかったのでそのままにしておいた。
するとそのケモノはどこかに去っていき、わたしもこの群れから出ていった。
わたしによく似たケモノは、よく似ているだけでさっぱり訳が分からなかったが、あのひょろ長いケモノが何を言っていたのかを知りたくはなった。


しばらく色々なところを歩いたが、わたしと全く同じ形をしたケモノは見つからなかった。
わたしによく似たケモノはどこにでもいっぱいいたが、あのひょろ長いケモノ以外はなんだかあまり近づきたい気分にはならなくて、その群れから隠れるように遠ざかった。
歩いている内にだんだんとそのケモノの言っている事も分かるようになって、そのケモノは自分たちの事を人間と言っている事も理解した。
ようやく寒い夜から身を守ってくれた人間が身に着けていたそれの本来の使い方も分かるようになった。やっぱりわたしにはきれなかったけど。

そしてわたしは、あのひょろ長い人間が住んでいる街に辿り着いて、その人間の家に住むようになった。
わたしは自分が「やどかり様」と人間に呼ばれているケモノであることを知って、自分の他にも仲間がいる事を知った。
けれどわたしは仲間を探そうとは思わなかった。このひょろ長い人間の寝床はとても温かくて外を歩き回る気にはなれなかったのだ。

……結局わたしはその人間の元を離れてしまったが。
あの人間との生活はとても温かくて、心地よいものだったけれど、結局の所、わたしは人間ではないのだ。
どれだけ人間の言葉を覚えても、どれだけ人間のふりをしようとも、わたしが仲間になれない証としてこの両腕のはさみがいつまでもくっ付いてくる。
人間の群れに、人間じゃないわたしが混じることなんてやっぱり初めからむりな話だった。
その事実を思い知るたびに胸が痛くなって、苦しくなって、耐えられなくなった。

わたしはあの男のもとから離れて、またひとりになった。
最後に見た男は、わたしを目の前にして、動く事も喋る事も出来なくなっていた。
わたしは男と目を合わせず、その場を立ち去った。男の目を見ることは出来なかった。
その姿は、山に住んでいた頃によく見かけた、わたしに食べられる直前の、恐怖で何もできなくなった姿によく似ていたから。
彼の目は、きっとわたしを「自分を食べるケモノ」として見ていただろうから。
見なくても分かるものを見る必要はないのだ。……つよがってはいない。ほんとに。
知らなければこんな事にはならなかっただろうに。『むちはしふく』というやつだ。

小さいわたしがもっと小さかった頃、あの人間とぶつかって倒れたわたしに、彼が何をしたかったのか今ならわかる。
彼は手を差し伸べて、わたしを起こそうとしてくれたわけだ。
それを分かっていたって、わたしがその手を取れるはずなかった。
わたしの手は人間のうでなんて簡単に砕き割く事のできるはさみなのだから。
そんなこと、しらなくてよかった。分からないままの方がよかった。けど、どうにもならない。どうしようもない。

夜が明けて、朝日がのぼってきた。なのになんだろうこのさむさは。こんなにさむい日は初めてだ。
さむい。さむい。
こんな薄い服しか着てないからだ。歯ががたがたふるえて止まらない。
足の靴も、この服も、血の臭いしかしない。人間の匂いなんてどこにも残ってない。

さむい。さむい。ほんとうにさむい。なんてさむさなんだ。さむすぎて涙がでてきた。


◇◇◇

ようやく思う通りに足を動かせるようになった頃には、紺色の空の東の地平近くは違う色が付き始めていて、生まれてから二十数年ずっと住み続けた小さな街に帰った。
街までそこまで遠くはないのだが、とても長く感じられた。
あの地獄のような光景も悪臭も、全て記憶の中で霞んでいき、たちの悪い夢のように思えてきた。
もしかしたら長い間、ずっと夢を見ていたのかもしれない。とてもぶっきらぼうで、だけどそれ以上にいとおしい少女と過ごした夢のような日々を。
そんな風にも思えてきた。


改築を一度もしていない我が家は、築ウン十年の古臭い外観で分かるようにどこもかしこも傷んでいるが、扉だけは新築のように真新しい。
中に入り、部屋を歩くとかちゃかちゃと割れた皿の破片が音を立てた。昨日の朝は大きな破片だけ拾って残りは後でやれば良いと大雑把にしか掃除しなかったからだ。
何年も前に亡くなった両親の部屋にはベッドの上も下も布団の山が出来ていた。その周りには、独力で着ようとして失敗したのだろう、やぶけた服が何枚も散らかっている。
天井には、割れた硝子細工の笠が覆い被さったランプがぶら下げられている。壁にも床にも、どうやって出来たのか他人には分からないきずが沢山あった。

堪らなくなって自分の部屋に戻る。机の上には中途半端な長さの靴下があった。さむがりな彼女のための、作りかけの贈り物。
街の人に編み方を教えてもらって彼女がいない時にこそこそと編んでいた。
あんまり夜遅くまでやるものだから朝起きるのも遅くなって、昨日の朝も彼女の機嫌を損ねたっけ。
なんとか形にしようと手を進めていた。それだけしか頭に無かったから編み目もばらばらで、もうほつれてる。
先の事ばかり考えていて、それに気付きもしなかったし、見ようともしなかった。

彼女のために、なんて思いながら結局なにも考えちゃいなかった。彼女への供え物の中には靴下だってあったのに、何故それを穿かないか考えた事は一度もなかった。
分かろうとするそぶりすらしなかったくせに、「あなたの事を知りたい」だって? 「もっと自分を頼れ」だって? 
彼女に何度も言われた通り、救いようの無い馬鹿だ。ほんと、どうしようもない。

どこを見渡しても彼女がここにいた証が確かに残っていて、逃げるように目を閉じた。

床に染み込んだ牛乳の臭いが鼻をつんと刺激して、いつまでもまとわりついていた。


(crying over spilt milk/了)


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最終更新:2007年07月03日 18:06