第191話~第200話

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airi-kumai

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だれでも歓迎! 編集
398 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2009/09/16(水) 02:15:19.74 0
>>324
第191回

「おはよ、なっきぃ」

朝、教室で本を読んでいたら声がして顔を上げた。
白い制服のシャツから伸びた日に焼けた長い腕が目に入る。
この腕は、千奈美ちゃん。

「なっきぃさぁ、昨日熊井ちゃんのこと手伝ったよね」
「え、あ・・・し、してないよそんなこと」
その長い腕を組んだ千奈美ちゃんは問い詰めるような口調でそう言った。
私は、冷や汗が出て誤魔化した。
「うそ。バレバレだよ、会長も気付いてたし。何も言わなかったけど」
でも、あっさりバレてて・・・。あぁ、会長に怒られるのかな。
怖いなぁ。あんなにいつもイライラしてなくていいのになぁ・・・。

「・・・・ごめん、放っておけなくて。それに向こうが頼んできて・・・」
「そういうの、よくないない。断らなきゃ。ミスは熊井ちゃんのミスなんだから。」
「で、でも、あれないと会議できなかったし・・・チームワークも必要かなって」
しどろもどろになって必死で言い訳を考える。
千奈美ちゃん、なんだか最近会長に似てきた。口調とか、そういうの。

「・・・・ふーん」
「ごめん・・・」
「なっきぃってさ、熊井ちゃんのこと好きだよね」
「へっ?あ、え?」
唐突に、そんなことを言われて私は一瞬固まってしまう。
「慌てすぎw」
千奈美ちゃんは笑いながらそう言う。
「・・・・だったらなんなの」
下を向いて、言い返しても、私の言葉に力はない。

399 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2009/09/16(水) 02:17:10.83 0
>>398
第192回

薄々バレているような気はしてたけど、こうはっきり言われると恥ずかしい。
千奈美ちゃんやその友達の茉麻ちゃんが友理奈ちゃんを好きなのは
なんとなく態度でわかってはいた。
・・・ま、あの鈍感さんはどの好意にも気付いてはいなかったんだけどさ。

「あの、鈴木愛理って子・・・好きじゃないでしょ?」
「・・・・・・・」

好きじゃない、いや、ちょっと違う。気に入らなくて許せないだけ。
それに私はあの子のこと何も知らないし。

「しゃべったことある?」
「ううん、ない」
「しゃべってみたくない?なんで、あんなの選んだのか、さ」
「・・・・・・・でも」
「今日のお昼休み、話に行ってみない?一人じゃ、あれだし」
「う、うん・・・・なにしゃべるの?」
「さぁ?その場の雰囲気じゃないの。あと、茉麻連れてくし。茉麻文芸部入ったから」
「うーん・・・」
「決まり!じゃあ、お昼休み迎えに行くから!後輩相手なんだから気ぃつかわないの!じゃ!」
「え、ちょ、千奈美ちゃん!・・・・って行っちゃった」

千奈美ちゃんは計画通り、なんていう風な笑顔を残して私のクラスを出て行った。
しゃべるって一体なにしゃべるのー・・・もう、困ったなぁ。

・・・でも確かに、ちょっと興味はある。どんな子なんだろう、とか
千奈美ちゃんの言うとおり、なんであの子を選んだんだろう、とか。
不安もあるけど、・・・でも、ちょっと楽しみだ。


452 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2009/09/18(金) 02:18:55.56 0
>>399
第193回

お昼休みの少し前、須藤先輩からメールが入った。
お昼休みに教室に行くからいて欲しい、とのこと。
勧誘活動しなきゃいけないんだけど、そう言われたからには待つほかない。
私は、チャイムが鳴った後も教室で待っていた。
りーちゃんもいてくれると言ってくれたけど、悪いから部室へ行ってもらった。

なんだろう?ないしょの話なのかな。と、思っていたら・・・・


「愛理ちゃんごめーん、お待たせ」
「あ、いえ・・・あの?」
「うん、私の友達が愛理ちゃんと話してみたいって言うもんでさ。お昼一緒に食べない?」
「あぁ・・・・平気です。どんな方ですか?」
「2人いるんだけど、2人とも生徒会でさ。あ、でも安心して。文芸部はカンケイないから。」
「はぁ・・・」
「じゃあ、行こう。屋上だから」
「はい」

私は須藤先輩に引っ張られるまま、屋上へとやってきた。
生徒会の人が私なんかに・・・・なんでだろう?心当たりないんだけど・・・。

「どうも。徳永でーす」
「あ、ごめん急に。中島って言います。」
「こんにちは、鈴木です。鈴木愛理」

屋上に着くと、以前の意見交換会で見覚えのある2人が地べたにシートを広げて待っていた。
手を振りながら、自己紹介をしてくれる。
とても気の良さそうな、優しそうな2人の先輩たちに、見えた。


521 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2009/09/20(日) 03:11:31.55 0
>>452
第194回

「・・・だめだ、完敗」
「同じく」

茉麻が愛理ちゃんを送っていって、屋上には私となっきぃが残った。
2人がいなくなって、私は開口一番そう口にした。
「・・・・隙がないし、可愛いし、性格もいいし、頭もいいねあの子」
「だね。なんてことない子に思っていたけど実際話してみるとよくわかった」

私もなっきぃも、始めは萎縮して緊張してる愛理ちゃんを少々からかい気味に話していた。
嫉妬もあるし、悔しいのもあるから素直に優しくできようものか。
と思っていたんだけど、話せば話すほど欠点のない子であることがわかって
自分のささやかな自信も、嫉妬もバカらしくなった。
なっきぃも、きっとそう思っているんだろう。

もちろん、熊井ちゃんがあの子のそういう部分を好きになったわけじゃないことはわかる。
熊井ちゃんはそういうこと、欠点のない子、にあまり関心がないからだ。それは知ってる。
なぜなら、自分がそういう人間だから。同じような人には興味がない。

じゃあ、あの子の何がよかった。
熊井ちゃんほどではないにしても、愛理ちゃんは自分と同じような人間のはずなのに。
それは話せば話すほどわかった。

愛理ちゃんは、温厚で優しくてとても笑顔が多いのだ。大らか、そんな言葉よく似合う。
熊井ちゃんは少々気難しいところもあるから、愛理ちゃんの笑顔が好きなんだろう。
それに、愛理ちゃんは自分が何でもよくできるということをあまり自覚していない。
だから全体的に自信がないように見えた。
・・・・自分に自信を持て、と育てられたと語っていた熊井ちゃんとはその点で対照的過ぎる。

だからこそ、熊井ちゃんは愛理ちゃんを選んだんだ。・・・・私は、勝てない、そう思った。

522 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2009/09/20(日) 03:12:18.43 0
>>521
第195回

「茉麻は強いなぁ。きっと、わかってただろうに」
「・・・だねぇ。私には、無理・・・でも、好きなんだけどね」
「そりゃ、うちだって好きだよ」
「茉麻ちゃんは、わかってても好きで、奪い取ってやるって自信があるんじゃないかな」
「・・・さすが、まあさ。いや、まあさすが」
「なにそれ」
「さぁね・・・・なんか気が抜けた・・・・はぁ」
「うん・・・・・はぁ」

私はため息をついて、屋上に寝転がった。
暑いし、熱い。
そして、空は不自然なほど青い。
夏はもう本番だ。
生徒会もどんどん忙しくなる。
秋には学園祭がある。

文芸部はどうなるんだろう。
・・・・なんだか、応援してあげたくなるな。会長はきっと怒るけど。
それも、あの子の魅力なんだろうか。だとしたら、すごい子だ。

目を閉じて、想い人を思い浮かべる。
背が高くて美人で頭がいい、そんな人。
でも、ちょっと気難しくてたまにとんでもないことやらかして
みんなを巻き込んで泣きそうな顔でごめんね、って言う。

そんな、そんなところが好きなんだ熊井ちゃん。

「んー・・・・!」
と、背伸びをして目を開けた。

523 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2009/09/20(日) 03:13:54.21 0
>>522
第196回

「・・・ってことがあったんです」
「えぇ、聞いてないなぁ」
「でも、楽しかったです。3人とも、すごく優しくて」
「そっか。なら・・・まぁ、よかった」
「先輩のお友達と仲良くなれるのって嬉しいです」
「うん、うちも嬉しいよ」

お昼休みが終わる少し前、先輩の教室へ行って報告をした。
徳永先輩も、中島先輩も2人ともすごく優しくしてくれた。
はじめは怖いかなぁってちょっと思ってたけど・・・でも、
話していくと笑わせてくれし、気を使ってくれるし、
すっごく楽しい時間だった。・・・緊張はしたけれど。

「そうだ、矢島さん・・・いやいや舞美ちゃんって呼んでって言われてた」
「え?」
「放課後、屋上に来て欲しいって言ってた」
「そう、ですか・・・直接いえばいいのに」
「なんとなく会いたくない。とか言ってた」
「なーんだそれは・・・もう」
「楽しい話じゃないからね。重たくて辛い話だから・・・本人も構えみたいなのが必要なんだよ」
「・・・なんとなく、わかります」
「気を張らずに、聞いてあげて。・・・一人で抱えきれないなら
いつでも胸を貸すから。今日は遅くまで生徒会だし、学校にいるよ」
「はい。」

先輩が、私を勇気付けようと微笑んでくれる。私も微笑を返した。

そして、放課後はすぐにやってきた。


20 :名無し募集中。。。:2009/09/22(火) 02:13:03.66 0

第197回

「よっ。」
「早いね」
「まあね」

放課後、屋上に着くと舞美ちゃんはすでにいて、段差に腰掛けて私に手を振る。
私はその隣に座って、舞美ちゃんが話し出すのを待っていた。

「愛理、先に聞きたいんだけど、どこまで知ってるの?」
そう言う舞美ちゃんに、昨日舞ちゃんから聞いた話をかいつまんで話した。
舞美ちゃんはうんうん頷きながら聞いてくれる。
「そう・・・じゃあ、どこから話そうかなぁ」
「任せる」
「楽しい話じゃないし、重いからホントは言いたくない」
「うん」
「でも、こうなったからには全部喋る。愛理にだから話す」
「うん・・・ありがとう」

一呼吸置いて、舞美ちゃんは話を始めた。

「・・・・・あれは・・・そうだなあ・・・私が」


21 :名無し募集中。。。:2009/09/22(火) 02:13:44.10 0
>>20
第198回

誰かを憎んでいるわけじゃない。
悪いのは結局全部自分なんだ。

だからこそ、今の私には何も価値がないと思う。
求められたって、もはや何もできない。
辛いけれど、それが突きつけられた現実。

去年、インターハイや国体が終わり、3年生が引退した。

私は先輩から主将に指名されて、この陸上部のキャプテンになった。
引退をせず部に残り、一緒にトレーニングをしている先輩も相当数いたけれど、
部の中心は私たち2年生と1年生たちであった。
また、舞ちゃんや千聖のように近くの中学から練習に参加に来ている子もいた。

みなから信頼され、気軽に相談にのってあげられる、そんなキャプテンになりたかった。
引っ張って行くことも大切だけれど、それ以上にチームとしてのまとまりを重視していた。
陸上は基本的には個人競技だけれど、学校としてチームとしての
まとまりは非常に重要なことなのである。そう、実感していた。

2年生のインターハイ、女子100mで優勝した私の将来は明るかった。
キャプテンに指名され、既にいくつもの大学からも誘いがあった。
慢心があったと言われても、否定はできない。

だからこそ、私はあんなことになってしまったのかもしれない。

事の起こりは、年が明けてすぐ、1月のことだった。


22 :名無し募集中。。。:2009/09/22(火) 02:14:24.67 0
>>21
第199回

日々、とても寒い東北の高校。
でも、そういうときにこそ走って走って温まるのが私の日課で。
朝から2時間たっぷり走って、お昼休みには15分くらいランニングしていた。
練習のときも、キャプテンとして率先して声をかけ、士気が下がらないように
目を配り、気を配っていた。
そのことに必死で、自分の足の状態を軽視していた。
これくらいならいつもと同じだ、くらいに考えていた。

その日、私は足の大きな怪我に見舞われた。
全く予想外の事故。
ストレッチも入念に行っていたし、その前だって少し痛いと思っていたけど
平気だと思っていた。その慢心が、事故に繋がった。

全治は最大で6ヶ月。
手術をすれば日常生活に問題がないほどには、治ると言われた。
…けれど、いくつもの怪我を併発していたようで
元通り、インハイレベルで走ることはもうできないかもしれないと言われた。

明るかった私の将来がどんどん真っ暗になっていくのを感じた。
大学で活躍して、大学の間にオリンピックに出て将来的には・・・・と
描いていた私の夢は散っていった。

病室のベッドの上で私は何度となく泣いた。
監督も、部員たちもみんな励ましてくれたけどそんな言葉は耳に入らなかった。
走れない私には何の価値もない。
走って結果を出して認めてもらってこの高校までやってきた。
なら、走れない私は?

そんな問答を日々繰り返した。


23 :名無し募集中。。。:2009/09/22(火) 02:15:06.51 0
>>22
第200回(お、200か!)

そんなとき、私を支えてくれたのが愛理だった。
なぜだか、ふと愛理の笑顔が浮かぶことがあったからだ。
中学を卒業してからなんだかんだと忙しくて一度も実家に帰っていなかったから
愛理にだって、実家を出てから一度も会っていない。

なのに、不意に浮かぶ愛理。満面の笑みで、頑張れって言ってくれている。
そう、この笑顔は中学最後の試合を見に来てくれたときの・・・・。

親も忙しいからワザワザ東北へ見舞いに来たりはしない。
部員も学校がある。日々私は、病室の中で愛理やその親友の梨沙子、
親友だったえりのことを思っていた。
…・もう、帰りたい。精神的に限界だった私はそう、考えていた。

そんな私に追い討ちをかけたのが、手術後の医者の言葉だった。
「残念ですが、もうトップレベルでの陸上は出来ないと思ってください。」
もう、言葉もなかった。あぁ、そうなんだ。なんて他人事。
でも、それから周りの人の態度が目に見えて変わった。
それはもう、すごくわかりやすい変化だった。

新学期間近、私は学校の特待生から外された。
スポーツクラスから普通科のクラスへ移動になった。、
授業料免除はなくなり、部も退部した。やんわりと転校まで勧められた。
こういうことはあっさり決まって、私が口を挟む余地はなかった。
大学からの推薦の話も一切なくなった。それはもう、示し合わせたかのようになくなった。

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