とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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匿名ユーザー

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とある二人の恋愛物語

1日目

9月某日 PM7:30

「……で、なんでこうなってんだ?」
「なによ、男だったらつべこべ言わないの。」
あれから上条と美琴は少し歩いた繁華街にあるファミレスに来ていた。最終下校時刻が過ぎているので開いている店はあまりないがそれなりに人が溢れていた。
「あんたが言ったんじゃない。さっきの侘びに晩御飯奢るって。」
「半ば強制的でしたけどねぇ!!壁に追い込んで電撃十二回もぶっ放されたらそんな和解策でも出さない限り収集つかねえだろうが!」
「男に二言はないって言うでしょ?自分が言った言葉には責任取りなさいよね?」
当初の上条の予定ではその辺の安いファーストフード店にでも入ってハンバーガーでも奢ろうと思っていたのだが、そんな上条の浅はかな考えを踏みにじるように、店の前に吊るされた看板には無慈悲な文字が綴られていた。

『改装工事中』

―――というわけで仕送り日前にもかかわらずファミレスで外食という上条的には贅沢な食事をとる羽目になってしまった。

(不幸だ……。)

とはいえ、美琴の言うとおり自分が言った言葉に責任は感じているようで、それ以上のことは言わなかった。

「仕送りあと幾ら残ってたっけな…。あんまり高いのは勘弁してくれよ?」
「わかってるわよ、さすがにそこまで酷な事はしないって。」
上条はため息をつくと携帯電話を取り出し、会計アプリを起動させた。
「なにしてんのよ?」
「ん?家計簿。少ない仕送りで遣り繰りすんのもなかなか大変なんだよ。」
「あんたって意外とマメなのね…。」
意外とはよけいだっての、と上条は軽く流す。こういった面に関しては彼は小心者なのだ。
「どうでもいいけどさ、お前門限とか大丈夫なのか?常盤台ってそういうとこ厳しいだろ?」
「あー、まあ少しやばいけど多分その辺は黒子がなんとかしてくれるでしょ。」
軽く言っているあたり、美琴の門限破りはもはや日常茶飯事のようだ。妹達とかの件もあったが、それを除いても私用でしょっちゅう抜けている事が多いのだろう。
「まあ俺が言えた口じゃねえけどさ、夜遊びもほどほどにしとけよ。いくら超能力者(レベル5)だからって常盤台中学のお嬢様が一人で町を出歩いてるってだけでも悪い虫に絡まれるかもしんねぇしさ。」
「そんなの日常茶飯事よ。つかあんたが一番分かってるでしょうが。」
「?」
それはいつの話だろうかと上条は考えていた。少なくとも今まで美琴が不良に絡まれている光景を見た覚えはない。記憶を失う前の話なのだろうか。だがここで何も返事をしないのは怪しまれるので差しさわりのない返事を考えていると、店員がオーダーを聞きにきた。


「この店で一番安くて腹にたまるメニューでお願いします!」
「は、はい?」
上条のウェイターの営業用マニュアルには載っていないであろうあまりにイレギュラーな注文に店員は少し戸惑った。まあとうぜんだが。
「ア、アンタなに恥ずかしい注文してんのよ!どんだけお金にこだわってんのよこのバカ!!」
「バカとは何だ!貧乏学生にとって、仕送り日までの残り一週間弱をどう効率よく切り抜けるかは死活問題なんだ!常盤台のお嬢様にはわかるまい!」
「少しは一緒にいる私の気持ちも考慮に入れなさいよ!恥ずかしくて今度からこの店使えなくなるじゃ…な…い?」
「? どうしたんだ?」
「な、なんでもないわよ!」
(そういえば前にもこんな会話したような…。確かあの時は――。)
『貧乏学生にとって、特売品を手に入れられるかどうかは死活問題なんだ!常盤台のお嬢様にはわかるまい!』
『こっちだって大変だったんだから!汚れたスカート脱ぎだすわ、しょうがないから洗ってあげるわ、挙句の果てにツン―――!!?』
『…ツン?』
(………な、なんて事思い出してんのよ!そしてなんで赤くなってんのよ私はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?)
「おい大丈夫か?なんか顔赤いけど熱でもあるんじゃ…」
上条はテーブルから身を乗り出して自分の額を美琴の額に重ねた。
「!!?」
美琴はあまりの状況変化に言葉が出ず、口をパクパクさせた。
「んー、ちょっと熱いような…ってなんで、お前、なんで全身ビリビリっつーかバチバチいってんの!?俺またなんか悪いことしましたか!!?」
はっとようやく正気に戻ったのか、美琴はただでさえ赤かった顔をさらに赤く染めて俯いてしまった。
「? なんなんだ?」
「あ、あのー、ご注文の方は……?」
すっかり忘れてた。ずっと蚊帳の外に置かれながらも、それどころか電撃だって巻き込まれてたかもしれないのにしっかりとさっきと同じ姿勢で立っている事に上条は感心した。単に固まって動けなっただけかもしれないが。仕方ないので俯いてしまった美琴の代わりに何か手ごろな女の子向けの料理を探し始めると――。
「あ、あの、ただいまキャンペーンを実施しておりまして、こちらの期間限定カップルメニューからお選びいただきますとドリンクバー無料で二割引になっておりまして、さらにご会計後にゲコ太キーホルダーをプレゼントさせていただいてます。」
「え!?ゲコ太もらえるんですか!じゃあそれに……!!」
「おぉ、復帰した、って二割引?しかもドリンクバー付で!?しかもお手ごろ価格じゃねぇか!」
「………」
「………」
「「はあ!!?」」
「カッカカカカカカカカカップルてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
上条は店内という事も忘れて叫んだがショックがでか過ぎたのか呂律が回らない。そんな上条たちに店員はこの人たち何!?みたいな顔で少し引いている。だがそんなのは関係ない。
「え、ええ。あ、まさか違ってました…?」
「違うも何も俺とこいつはそんな――!」
(ん?待てよ……?このまま弁解してしまうと二割引はパァになり、余分に支払わされるだけだ。しかし、御坂を彼女ということにしておけば料金も安くなって、御坂の欲しがっているなんだかカエルみたいなマスコットももらえるらしい。それは御坂の機嫌も良くなることにも繋がる。ということは―――。)

(一石二鳥じゃねぇか…!)

「そ、そうなんですよぉ!俺たち付き合い始めたばっかりでまだ実感が沸いてないんですよ!」
「なっ!!?」
美琴がなんか喚いてるが上条は気にせず続ける。
「いきなり言われたんでちょっとてんぱっちゃって、な!みさ…美琴!」
「え!?あの、その…は、はい。」
「そ、そうですか。で、では改めましてご注文の方をどうぞ。」
「じゃあオススメAセットで、みさ…美琴は?」
「お、同じので……。」
「かしこまりました。出来上がり次第お持ちします。」
そう言ってウェイターは水とお絞りを置き、メニューをさげて厨房に戻っていった。
「よし!これで残りの仕送り日まで何とかつないで行ける…ってどうしたんだ御坂?」
「な、なんでもないわよ!……バカ!」

(…?変なやつ。)




一日目
PM7:50

注文を終えてから料理は案外速く運ばれてきた。運んできたのがさっきと同じ店員さんだったので、大変気まずい思いをした上条だったが、美琴はさっきから黙ったままだ。さっきとっさに彼女扱いした事に腹を立てているのだろうか。それとも知らぬ間にまた何かしてしまったのだろうか。
「おい、どうしたんだ?」
「………。」
「さめちまうぞ?」
「………。」
返答がないので一旦席を立ち、美琴側のテーブルに回り込んで顔をのぞいた。どうやらなにか考え事をしているようだ。
「おーい、御坂さん?」
「…に………な…私。」
「ん?なんか言ったか?」
「!!?な、なななななななにやってんのよそんなところで!」
美琴は驚いて思わず上条に思いっきりビンタをかましてしまった。
「へぶし!?」
上条は急の衝撃に耐えられず後ろに沿って床に頭をぶつけてさらに悶えた。
「はっ!ご、ごめん!大丈夫!?」
美琴は自分のビンタで床に転がった上条を抱き起こした。
「み、御坂さん…なぜ…?」
「ご、ごめん!で、でもアンタも悪いのよ?あんなデリカシーのないこと…!!」
「うぅ、スマン…。」
なんだか理不尽のような気がしなくもないが、確かに自分にも非があると思うので素直に謝る。上条はビンタされたところを擦りながら席に戻り、美琴もそれに続いた。
「ねえ…。」
「ん?なんだ?」
「さっきさ…私を彼女扱いにした時――。」
「あ、わりぃ、気に障ったんなら謝るよ。俺はただ御坂があのマスコットが欲しかったみたいだし、それに――。」
「そ、そうじゃなくて!」
「?」
「そうじゃなくて……さっき、私の名前を美琴って呼んでくれたじゃない…?」
「ああ。呼んだけど?」
『呼んだ』ではなく、『呼んでくれた』と言っているのだが、そのニュアンスが意味することどころか、ニュアンスの違いにすら鈍感な上条は気づかない。
「せ、せっかくの機会だしさ、これからはずっとそれで呼んでくれない?」
「え?」
「い、いや、たいした意味はないのよ?ほら私ってさ、普段同級生相手でも御坂さんとか、堅苦しい呼び方されるからさ、下級生にいたってはお姉さまよ?だからタメで呼べる相手ってあんまりいないのよ。あんただったら別に気を使う必要もないし軽く話せるからいいかなって、それだけ。」
「……一応俺も年上なんだが?」
「それがどうかした?」
「オイ。」
思わず突っ込んでしまったが、もう正直どうでもよかった。
「まあお前ががそうして欲しいってんならそうするけどな。美琴。」
「!!」
「? どうした?」
「な、なんでもない。じ、じゃあ冷めないうちに食べましょう?」
すこし不審に思った上条だったが特に追求せず、料理に手をつけようとしたところで携帯がなり始めた。
「ん?悪いみさ…美琴。先食べててくれ、ちょっと電話してくるから。」
「え?う、うん。」
上条は席を立ち、お手洗いの方へ足を運んだ。急に呼び方を変えろといわれてもしばらくは慣れそうにない。いままでも時々美琴と呼んでしまった時もあったが、それは無意識に呼んでいたから特に気にしてなかった。まあ本人が望んでるのでその通りにすることにする。
上条は、お手洗いにはいってから携帯を取り出し、通話ボタンを押した。


PM7:55
上条がお手洗いに入っていったのを見てから、美琴は大きく溜息をついた。
「はぁ…どうしちゃったんだろ私」
あの馬鹿と一緒にいるとどうも調子が狂う。いつもなら一発電撃をおみまいして終わらせるのだが、なぜかそれができない。さっき彼女扱いされたとき、そんなに嫌な気分ではなかった。むしろ少し嬉しく感じでいる自分がいた。この気持ちはどこから来るものなのだろう。妹達の事件以降、私のあいつに対する思いが変わった…そんな気がする。あいつが一方通行との戦いの時に殺されるかもしれない境地に立たされたとき、私は超電磁砲の標準を一方通行に向けていた。打ったら自分がどんなことになるか理解していたはずなのに、あの時確かに思った。
私はどうなってもかまわない。だから、私たちのために戦ってくれているこの少年を助けてください。と……。
つい先日も海原に変装していた能力者(学園都市の書庫には幾ら探しても載っていなかったが)と戦っていた。なにか会話していたようだったが美琴には理解できないところが殆どだった。だが、わかったことが一つだけある。彼らは私、御坂美琴という少女のために戦っていたということを…。

「…なにやってんだろうな私、すごく助けられてるのに。なのに…。」
美琴はぼそっと口に出した。

こんな感じで軽く思いにふけっていると、店の入り口から二人組みのお客が入ってきた。そのご飯時なのでそれ自体は珍しくないが、美琴が気になったのはその二人の顔だった。

「(ん?あの二人…どっかで見たような……?)」


「はい、もしもし上条ですけど。」
『あ、カミやん?やっとつながったわー。』
「なんだ青髪か。何の用だ?」
『今、メシ食いにきとるんやけどカミやんもどや?』
「悪いけど俺も外食中だ。」
『ん?自炊派のカミやんが外食とは珍しいわな。いったいどういう風の吹き回し…ってちょっとまってな。』
後ろの方から「代われ」という声が聞き取れた。少し雑音が混じり、その声の主が出た。
『はぁーい、カミやーん。元気かにゃー?』
「土御門か。お前も一緒だったのか。」
『だにゃー。親友二人の誘いを断るって事はまさか女の子と仲良くお食事なんて素敵イベント中だったりするのかにゃー?』
ぶはぁ!と土御門の言葉に上条は思わず吹き出した。
「なななななにを言っていらっしゃるのですか土御門さん??この不幸の塊の上条さんにそんな素敵イベントが起こる幸運なんて持ち合わせてるわけないじゃないですかー?」
『にゃー。なんで敬語かつ最後が疑問形なんだ?まさか本当に…。』
「そんなわけないだろ!第一仕送り日前の上条さんの家計には余裕の文字なんて存在しないのですよ?」
『そうだにゃー。幾ら節操なしのカミやんでもそんなことないわなー。』
そのあと小さな声で(おそらく青髪ピアスに聞こえないようにするための配慮だろうが)ぼそっと『(大方、禁書目録にでもねだられたんだろ?)』と言ったその言葉に適当に相槌を打って誤魔化す。ちなみにインデックスは小萌先生のところにお泊りに行っている。なんでも姫神も呼んで焼肉パーティをやるらしい。できれば自分もご相伴に預かりたかったが、さすがに小萌先生に悪いし、なにより女三人の中に男一人というのも居心地が悪い。だからインデックスが居ない分、食費が浮いてラッキーと思っていたのだが。
「(結局、美琴に奢る羽目になちゃって、俺自身の値段も含めるといつもとあんまり変わらないんだよな……。)」
『しっかし、旗男のカミやんが抜けるとなると今夜も無理かにゃー?』
「あぁ?なんのことだ?」
『ナンパに決まってるぜよー。』
「………は?」
今この変態シスコン野郎は一体なにを言いやがりましたか?
『ナンパぜよ、ナ・ン・パ』
できれば聞き違いであって欲しかった。自分の数少ない友人達が悲しい境遇に苛まれている事を知ってしまうから。いや、いまさらか?
『にゃー、ここ連日この相棒と街中でいい女を見つけてはアタックしかけてたんだが、これがなかなかうまくいかないんぜよ。店にはいった今も探してるんだけどにゃー?』
「念のためにお聞きしますが、それと俺が一体どういう関係があるってんだ?」
土御門から携帯を受け取った青髪ピアスが言う。
『そんなのきまっとるやん。クラスの女の子やおろか、常盤台のお嬢様までもカミやんの手に堕ちた今!カミやんのその女の子属性を逆手にとって、一緒に行動することでおこぼれを頂戴するというナイスな作戦やで!?』
ちなみに考えたのは俺だぜよ?と、後ろのほうから土御門が答える。もうここまで言われると物も言えない。どうでもいいが、それって自力では彼女なんて作れませんって敗北宣言掲げてるのとニュアンス的に同じなのでは……?
『というわけでカミやん!親友の頼みを聞いてくれ!俺達に春を!青春を!!希望を!!!愛を!!!!正義を!!!!!優勝を!!!!!!ぎゃっ。ブッ ツー、ツー、ツー、ツー、』
これ以上聞いていられなかった。
「はぁ…、なんかさらに疲れた。早いとこ美琴のとこ戻って飯を食おう。」



とある二人の恋愛物語

1日目
PM8:02

美琴はさきほど店内にはいってきた二人の会話を聞いてた。否、聞こえてしまっていた。彼女も聞きたくて聞いているわけじゃない。ただ彼らの声が少々大きかったから嫌でも聞こえてきていた。彼らのテーブルは美琴たちのテーブルの二つ向こうで、しかも店内もそれなりにがやがやしているにもかかわらず、これだけ聞こえるということはよほど大きい声で喋っているのだろう。無視もできたが、上条も帰ってこないし、先に食べているのなんか嫌だったので暇つぶしに聞いていた。先ほどから繰り広げられている会話に美琴はドン引きしていた。一応、美琴は忘れているが一度彼らに会っている。そして彼らは上条の知り合いだったりする。
「あれ?もしもし、カミやん?切られてもうた。」
それはガラの悪そうな二人だった。一人は髪の毛を青く染めていて、耳にピアスを付けてる。服装は上条の制服に良く似ていた。青髪ピアスはツー、ツーとなる携帯を折り畳み、もう一度開いて掛けなおしたが繋がった様子はない。どうやら相手に電源を切られたようだ。
「にゃー、カミやん抜きとなるとやっぱり自力で何とかするしかないぜよ。」
もう一人は短めの金髪をツンツンに尖らせ、薄い青のサングラスを掛けている。服装は地肌にアロハシャツ。下にはハーフパンツをはいている。おまけに首からは金の鎖をぶら下げている。いかにもな不良っぽい格好をしていた。
「せやかてここ1週間、一つも収穫がなかったんよ?どうすりゃええねん。」
金髪サングラスはうーん と顎を右手で押さえて考え始める。青髪も一緒に考え始めた。
「やっぱりアプローチの仕方に問題があったんじゃないかにゃー。今どき『僕達とそこでお茶しない?』なんて切り出し方はないにゃー」
「じゃ、どうすりゃえーねん?」
「じゃあちょっと変えて『僕達とそこでいいことしない?』のほうがいいんじゃないかにゃー?」
「おぅ、斬新やなぁ!なんだか刺激的な感じがするで!」
だろ?と金髪サングラスはキリッとサングラスを掛けなおす。他人から聞いたら如何わしい事をされるのではないかと誤解されかねないアプローチ方法だ。下手したら風紀委員か警備員を呼ばれかねない。だが突っ込み不在のこの会話に歯止めは聞かない。美琴は知る由もないが彼らの問題点はもっと根本的なところにある。
金髪サングラスこと土御門元春は顔自体そんな悪い方ではないが、見ての通りの性格なので自分からチャンスを逃している節がある。先日も少しうまく行きかけていたことがあったが『僕の妹になってください』発言で自ら破滅を招いていた。(去り際に思いっきりビンタされていた。)
青髪ピアスにいたっては、頭がお花畑(抽象的表現でなく)になっている黒髪ショートヘアーの中学生くらいの少女に話しかけたところ、ちょっと会話しただけで泣きながら逃げられていた。しかも一緒にいた常盤台中学の制服を着たツインテールの女の子に痛い目にあわせられ、風紀委員(ジャッジメント)の詰め所に連行されかけた。(彼らは後知ったが、二人とも風紀委員だった。)そんなこんなで二人は変体発言を連発していると店員がオーダーを聞きにきた。
「い、いらっしゃいませ。ご注文は―――。」
顔が若干引きつっているのは先ほどからの変態トークを聞いてしまったからだろう。二人は気づいていないようだが。
「僕(俺)の彼女をください!いや、なってください(にゃー)!!」
「は、はい?」
「にゃー!抜け駆けは許さないぜよ!!」
「それはお互い様やろ!いくら相棒でもゆずれないちゅーの!!」
今日は変な人たちばっかり!イヤー!!と店員は心の中で絶叫していたが、そんなこと露知れず金髪サングラスと青髪ピアスは にゃー!! シャァー!!と、まるで獣のように威嚇しあっていた。
止めに入ろうと思ったが、すぐに店長が来て二人は静かになった。
この光景に美琴はさらにドン引きしたが、それとは別にほかの事を考えていた。
「(つかあの二人、やっぱどっかでみたような気がするよのね……)」
どこだっけ?と、考えたところでちっとも思い浮かばない。こんなインパクトが強い二人、普通なら忘れない。美琴はしらないが、彼らをみた日はさらにインパクトが強いことが立て続けに起こったので彼らの印象が無意識に薄まってしまったのだ。そんなおぼろげな記憶の中を探っていると、あの馬鹿がやっと帰ってきた。


PM8:06

「遅い!10分近くも待たせるなんてどういうことよー!!」
お手洗いから帰ってきたら美琴にいきなり怒られてしまった。あの後ついでに用も足したとはいえ、どうやらさきほどのあほあほトークに以外にも時間を取られたようだ。普段からあほあほトークをしている上条にとってこれは以外だった。自分がしている時はそんな時間は経っていないように感じていたのだが、他人から見るとそうでもないらしい。ということは自分はこんなしょーもない会話で青春という時間を浪費しているのかと思うと少し鬱になった。
「? 何落ち込んでんのよ?」
「いや、わりーわり!思ったより話が長かったんですよー!」
「ったく、すぐ帰ってくると思ってご飯に手を付けないで待ってたのにアンタってやつは!」
「だから悪かった……って、あれ?先に食べてていいって言わなかったけ?それで手を付けずに10分近く待っててくれたのか?そりゃ、まあ、悪かったな。」
「………!?」
美琴はビクッと肩を震わせた。
「ち、違っ……あ、あれよ!ちょ、ちょっと気になる輩がいて気になってただけよ。べ、別にアンタのために待ってたわけじゃ……!」
「じゃあ俺待ってないじゃん。何で俺が怒られなくちゃなら…ってなんで美琴センセーはバチバチ体の周りに帯電させてんのー!?」
「もう!いいから座んなさいっ、早く食べるわよ!」
だからなんで怒ってんのー!?と上条は心の中で叫んだが、これ以上何か言うと電撃の槍が飛んできそうなので、素直に従う。上条が座るといただきますと言って、なぜか不機嫌な顔で勢いよくバクバクと食べ始めた。
「も、もしもーし。み、美琴サン?そんなに急いで食べたら咽ますよー?」
「うるさいわね!もぐもく、あんたもさっさと食べなさい!もぐもぐ」
ものを食べながら喋るんじゃありません。と突っ込もうと思ったがやめた。良く分からないが、こういうときは下手に突っ込まない方がいいと経験上分かっているので、上条は習って先ほど取ってきたウーロン茶を少し飲んでから食べ始めた。ファミレスにしてはなかなかうまかった。だが本来、これはカップル向けで分け合いながら食べるものらしい。一人分にしては量が多いし、フォークとナイフとスプーンが二つずつあった。美琴も同じのを頼んだので実質3、4人分くらいあるはずだ。良くメニューを見ずにとっさに決めたのが完全に裏目に出た。
「(まいったな……俺は食えないこともないけど美琴には多すぎるんじゃ。)」
……予想通り、前半は飛ばして食べていた美琴も、後半に差し掛かるとなんだか無理しているのがわかる。
「み、美琴?別に無理して食べる事ないんだぞ?」
「う、うるさい…!こ、これくらいどうってこと……。」
美琴はまた食べるのを再会したが、勢いよく掻きこんだせいで咽返った。
「………!!」
苦しそうに胸をどんどんたたいている。
「ほら、言わんこっちゃない。」
上条は美琴が飲んでいた水をとって飲ませようとしたが、うっかり手を滑らして通路にこぼしてしまった。
「あ、ヤベッ…!」
全部こぼしてしまったので新しいのを取りに行こうと思ったが、美琴は水を催促している。
「しょうがねえ、ほら。」
上条は自分が飲んでいたウーロン茶を差し出すと、美琴はそれを奪い取るように、全部飲み干した。
「だから言っただろ、無理して食べる事ない……ってどうした?」
美琴は顔を赤く染めて上条を睨んでいる。
「これ…さっきあんたが飲んでたやつ?」
「ああ、悪い。お前のうっかりこぼしちまったんだった。代わりになんか取ってくるわ。」
上条はこぼして空になった美琴のコップを取り、ドリンクバーのほうへ歩いていく。
「………だから、ちょっとは気にしなさいよ。……ばか。」
あまりに小さな言葉に上条は気づかなかった。


PM8:32

結局、美琴は全部は食べ切れなかった。もったいないからと、上条は残りを平らげようとしたが何故か美琴にかたくなに拒否された。無理やり食べようとしたら美琴にアッパーカット(適度なビリビリ入り)を喰らった。
「1487円になります。、あとこれ、キーホルダーです。よかったらどうぞ。」
店員が渡してきたのはカエルのキーホルダーだった。確か『ゲコ太』とかいうキャラクターだった気がする。
「ほれ。」
キーホルダーの袋を美琴に差し出す。
「え?いいの?」
「いいもなにも、お前これが欲しかったんだろ?」
「……あ、ありがとう。」
美琴はキーホルダーの袋を受け取ると、嬉しそうにギュっと抱きしめた。
「(嬉しそうだな……最近の女の子ってこういうのが好きなのか?)」
それは単に美琴がファンシーな趣味の持ち主というだけなのだが上条は知らない。
「(ま、こいつが喜んだならそれでいっか。)」
上条は財布を取り出し、二千円札を取り出しトレイにおき、店員からお釣りを受け取ろうとしたところでなにか背後から殺気を感じた。美琴ではない。彼女は上条の右側にいる。

では誰か?

上条はおそるおそる後ろを振り返ると血に飢えた獣達がいた。
「つ、土御門、青髪…?」
え、こいつらアンタの知り合い?と、美琴は聞いてきたがそれどころではない。
「カミやーん……親友の頼みを断っておいて自分は常盤台のお嬢様と楽しくお食事ですか。けっこうな身分やなー………?」
口調こそいつも通りだが目が笑ってない。おまけに声もいつもよりずっと低い。
「にゃー…カミやん。俺達、義兄弟の誓いを忘れたのかにゃー……?」
サングラス越しでもわかる。今のこいつの目は獲物を狩る目だ。
「お、お二人さん?ここは一つ穏便にですね……?」

「裏切り者には死、あるのみじゃー(にゃー)!!!!!!!!!!!」

弁解の余地もなく、二人は上条めがけて飛び込んできた。

「ふ、不幸だぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!」


とある二人の恋愛物語

一日目
PM8:53

上条は日常的に美琴がご厄介になっている自販機がある公園にきていた。迫りくる野獣達か
ら命からがら逃げてきた上条は意気消沈気味だった。

(うぅ、不幸だ……。なんだってあいつらピンポイントであのファミレスで食ってんだよ。
しかもあいつらに襲われたおかげでお釣りもらい損ねたし…)

確か、二千円札をだしたから大体五百円くらいだろう。かといって、今からファミレスに戻
っても土御門達と鉢合わせになる可能性が高い。しかし後日言ったところでレシートも受け
取ってないし、毎日大勢の客を相手にしているのだからそんな瑣末なこと覚えていないだろ
う。そうなると、上条の元に五百円が戻ってくるのはもはや絶望的である。

(不幸だ…。しかもとっさのことで美琴置いてきちまったし、あいつ怒るかな…起こります
よねやっぱり)

「ちょっと!いきなり走って置いてくなんて酷くない!?」

(そうそう、きっとそんな感じに今度あった時罵倒されるかもな…)

「ちょっと?ねえってば。聞いてるの?」

(はぁ…やっと機嫌もなおったのに。やっぱり不幸だー)

「だから…、無視すんなって言ってるでしょこのボンクラァァァアアアアアア!!」

上条はその叫び声でようやく美琴の存在に気づく。そして彼女の前髪から電撃の槍が飛んで
くるのもほぼ同時だった。上条はなんとかそれを右手で受け止める。あまりの不意打ちに上
条は少し涙目だ。

「あ、あぶねえじゃねえか!たまにはもう少しやさしく呼びかけるとか肩を叩くとか、そう
いう普通の選択肢を美琴センセーは持ち合わせていないんでしょうか!?」

「うっさい、あんたが無視すんのがいけないんでしょうが!あーもう、ムカつく!たまには
素直に喰らってなさい!」

「死ねって事ですか!?」

ぎゃああ! と二人はいつも通りの言い争いを始める。しばらくしてお互い不毛に感じたの
か、二人してため息をつき近くのベンチに座り込んだ。

「つか、あいつらが追っかけてこなくなったのはまさかお前の仕業か?」

「そ。まあアンタの知り合いっぽかったし、手加減はしといたわ。って言っても改造スタン
ガン押し当てられたときぐらいの衝撃は感じたでしょうけど、まあ死にはしないでしょ?」

「…なんで最後が疑問系なんだ?」

上条は土御門と青髪ピアスの冥福を心よりお祈りしていると、

「あ、そうそう。はい、これ」

美琴はスカートのポケットに手を突っ込み、いくらか小銭を取り出す。大体五百円ぐらいか
と上条は見積もる。

(ん?五百円?……!ま、まさか……!!)

「み、美琴さん??ましゃか、ましゃか…?」

「? なんで幼児言葉になっんてんのよ。アンタお釣り受け取らないで逃げちゃったから代
わりに受け取っといたわ。感謝しなさいよね……って、何泣いてんのよ?!」

「美琴…おまえ…やっぱ良い奴だなぁ……グス」

「い、言っとくけど!べ、別にアンタのために受け取ったわけじゃないんだからね!?えっ
と…そう!ただ、アンタに貸しを作っといたほうがなんか後々役立つと思っただけ…ってち
ょっと、人の話ききなさいよっ!地べたに這いつくばって土下座すんな!」

美琴は思わずスカートを抑える。どうせ短パンで見えないはずなのだが気分的な問題がある
ようだ。美琴は上条の頭を軽くひっぱたいて正気に戻すとお釣りを上条に渡した。。


「つかそもそもアンタはなんで逃げていた訳?」

「それを話すとあいつ等の人権に関わってくるから深く突っ込めねえけど、要は俺とお前が
楽しそうにいちゃいちゃしてた(ように見えた)のが気に食わなかったんだとさ」

「………!?」

美琴の顔がに一気に真っ赤に染まっていく。頭からは煙が出てるように見えた。

「い…いちゃいちゃってななななな、なに言ってんのよこのド馬鹿!」

ズバチィ!と凄まじい音がしてさっきよりはるかに強いであろう電撃が上条を襲う。それも
なんとか受け止める。正直さっきの不意打ちの時にこれをかまされていたら受け止められた
自信がない。そう思うと上条はゾッとした。

「い、今のはマジであぶなかった…。こらビリビリ!さっきといい、俺を殺す気か!」

「うっさいわね!やっぱアンタムカつく!ここで半殺しにしてやるからじっとしろ!」

「それがわかっててジッとしている馬鹿なんているわけねぇだろうが!」

ぎゃああ!とまたもや言い争う。上条は気付いていないがここは公園だ。何も知らない人が
この部分だけ見たら常盤台のお嬢様と高校生のカップルが痴話げんかしているようにも見え
るわけで、その証拠に先ほどから上条たちをチラ見してはひそひそ話をしているのがわかる
。そのことに美琴は気付き、恥ずかしくなったのか素直に再びベンチに座り込んだ。

「ふぅ…なんかどっと疲れたわ」

「こっちの台詞だっつーの……」

なにをう?と美琴は軽く睨んできたが上条はスルーする。上条はポケットから携帯電話を取
り出し画面を開く。気付けばもう9時を回っていた。

「美琴、もう遅いし送っていくよ。」

「え?べ、別に良いわよ。子供じゃないんだから一人で帰れるって!」

「いいよどうせ途中まで帰り道だし、常盤台の寮から俺んちだったらそんな遠くないしな」

「い、いやでも…」

「遠慮すんなって、らしくないぜ?おまえが遠慮なんて」

「…し、しょうがないわねえ、素直に送られてやりますか」

「なんだそれ?」

上条は少し苦笑して、ベンチから腰を上げた。チラッと後ろを見た時の美琴の顔がなにか嬉
しそうだった。上条は少し首を傾げたが特に気に止めず、前に向き直った。

「あ、ちょっとまって。喉乾いちゃったからジュース取ってくるわアンタもなんか飲む?」

「あ?いいよ別に」

「こういうときは遠慮すんなっていったでしょ?すなおに奢られなさい」

(やれやれ…こういうことに関しては意地っ張りだよなこいつも…ん?とってくる?ま、ま
さか…!)

上条の嫌な予感は的中した。美琴は自販機の前まで行き、息をすぅー と吐くた。そしてち
ぇいさーっ!というふざけた掛け声とともに自販機の側面に上段蹴りを叩きこむ。ここまで
はいつも通り。だが今日の自販機はとても不機嫌だったらしくジュースが出てこなかった。

そのかわり―――

「あれー?この自販機じゃなかったっけ、おっかしいなー?ってちょっとなに!?」

上条は美琴の手を取り、一目散に自販機から離れた。後ろから聞こえてくる夜の公園の静け
さをかき消すような自販機の絶叫と、先ほどまで上条たちが立っていたあたりに警備ロボが
数台群がってくる音が聞こえるが上条は決して振り向かなかった。


PM9:26

上条と美琴はしぶとくついてくる警備ロボの追跡を振り切り、なんとか帰路についていた。
二人で並んで歩いているので傍から見たらカップルに見えなくもないが、今の上条は気にす
る余裕などなかった。警備ロボを美琴が操っていなかったら上条は今頃、警備員(アンチス
キル)のお世話になり、どうみてもよくて小学生にしか見えない担任教師の小萌先生を泣か
せ、後日クラスメイトたちにタコ殴りにされるという結末を辿っていたことだろう。

とはいえ――

「はぁああああ……、やっぱり不幸だ」

「なにさっきからため息ばっかりついてるのよ。なんか嫌なことでもあったの?」

「そのセリフまじめに言っているんだとしたらその理由、意見、感想を含めて三時間は語り
つくす自信がありますよ!ハイ!!」

「むぅ…悪かったってば、まさか失敗するとは思わなかったんだもん……」

美琴は少し俯き加減になって落ち込んでしまった。彼女もいつもやっている事なので失敗す
るとは思わなかったのだろう。上条は思わず「うっ!」と怯む。こんな事されたら許さない
わけにはいかないじゃないか、こういう時って本当に女の子ってずるいと上条は思った。

「はぁ…もういいよ、わざとじゃなかったんだろ?ならこの話は終わり。だから――」

上条は美琴に慰めの言葉を掛けようとしたら、

「あ、でもアンタの顔はバッチリカメラに撮られたと思うわよ。細工はしたけど私の所だけ
映らないように細工したから」

「俺の慰めの言葉を返せえぇぇぇえええええええええええええ!!」

「くっ、あはははは!!バーカ、冗談よ冗談。なに本気にしてん………くくっ、あはは!!
ってジョーク!ジョークだってば!臨戦モードで間合はかんなって!」

「ったく、人がせっかく心配してやったってのに。こいつは」

「あはは、ごめんごめん。でも礼は言っとくわ」

「あ?」

すると美琴は上条の前に回りこみ、


「わたしのこと、本気で心配してくれてありがとね」


それは普段の彼女からはみられないとても柔らかな笑顔で、上条の心を大きく振るわせた。
ドクンと鼓動が高鳴るのが胸にてを当てないでも伝わった。

(………や、やべっ中学生相手になに動揺してんだよ俺、しかもあの美琴だぞ!気を確かに
持て!)

「クスッアンタ、今ドキッっとしたでしょ?いつもの私らしくないって」

「なっ!?」

図星だったので返す言葉が出てこない。うまく回らない頭で言い訳の言葉を考えていると、

「ははっ確かに今のは私らしくなかったかな、でもずっとお礼言いたかったの。良く考えて
みたらちゃんと言えてなかったし」

「? なにがだ?」

「妹達(シスターズ)の件やその他諸々のことよ。今更だけどさ私だけではどうにもならなか
った。アンタが助けてくれなかったら今頃私はここにいなかった、一方通行に返り討ちにあ
って殺されてこの世にすらいなかったはず。今、ここでこうして普通の日常を送っていられ
るのもアンタのおかげ、ありがとう」

「ん……まあ……どういたしまして?」


上条は照れ隠しに頭をガシガシと乱暴にかいた。こういうことを面と向かって言われると結
構恥ずかしい。面と向かって直接本人の口から感謝の言葉をかけられるのはこれが始めてで
はないが、こういったことは幾ら言われても慣れるものじゃない。

「アンタってホントおせっかいよね、思えば始めて会った時からそう、関わらなくてもいい
ような問題に首突っ込んで怪我をするなんて馬鹿のすることよ」

「馬鹿ってお前な…」

「ねえ―――」



「もしまた私が危ない目にあったらさ、たとえ地獄の底でも救い出しにきてくれる?」



上条はこの時強烈なデジャブに襲われた。そう、過去に似たようなことを誰かに言われたよ
うな気がした。記憶のない上条にはそれがいつの事だったのかわからない。しかし心はこの
言葉には真面目に返事すべきだと叫んでいる気がした。

「……さあな、俺はただのおせっかいな人だからな」

「………」

「でも、もしもお前がそんな状況になったとしたら迷わず俺は絶対助けにいく。漫画の中の
ヒーローみたいにうまくいくかはわかんねえけど、絶対助けにいく。どうにかならなくても
どうにかしてみせる。そんな誰かが不幸にならなくちゃならない物語があるんなら、そんな
つまんねえ幻想はおれがぶち壊してやる」

上条は自分の右手を一瞥して強く握り締め、上条は笑った。その言葉は何の根拠もなく、乱
雑な言葉だったが、なにか重い信念のようなものを感じた。まるで、なにがあってもこの少
年ならばどうにかなってしまうのではないかと思うほどの力強さが込められていた。たとえ
明日世界が終わるとしても諦めないと言うかのように―――。

上条の言葉を聞いてから、美琴の顔は真っ赤に染まっていた。夏休み最後の日に聞いたあの
言葉と今の言葉が同時に頭の中を駆け巡る。胸の鼓動は上条に聞こえてしまうのではないか
というくらいに高鳴っていた。

「な、なななななに言っちゃってくれてんのよアンタ……!ち、ちょっとした冗談だっての
に……」

「別に俺は冗談言ったつもりはないぜ?さっきの言葉は大マジだ。いつでもヒーローみたい
に駆けつけて、なにがあっても守ってやるよ」

それはある魔術師との約束でもあった。

「――――!そ、そっか…。じゃあ今の言葉、忘れないことね。破ったら背後から超電磁砲
お見舞いしてやるんだから、まあせいぜいがんばんなさい」

それは恐ろしいと上条は思う。あんなもの人体に当たったらそれこそ肉片すら残るまい。い
くら幻想殺しで無力化できるとはいえ、右手に当たらなければ意味がない。よって奇襲とい
うのは一番怖い。

「じゃあ、はい」

美琴はかばんから袋を取り出し、さらにその中から二つのビニールの小包装を取り出す。さ
っきファミレスでもらった『ゲコ太』キーホルダーだ。その内の一つを上条に渡す。

「? さっきのキーホルダー?」

「そ。アンタと私、同じセット頼んだから二個もらえたの」

「これがどうかしたのか?」

「それを肌身離さず持ってなさい。絶対無くさないでよ?約束を交わした証みたいなもなん
だから、なんかロマンチックじゃない?こういうの」

「約束の証か、わかった。絶対になくさねえから心配すんな」

そう言うと目の前にいる少女は、

「……ありがとね」

またにっこりと笑った。上条はこの瞬間、『この少女のこの笑顔は絶対に守る。』そう心に
誓った。


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