第三幕 【忘れた闇と学園の宇宙】

 

封印の解かれた鎮石から、白い光があふれだす。それに包まれ、思わず閉じていた目をゆっくりとあける。そこに見える景色は、青原学園の先ほどまでいた場所で間違いがないはずなのに。違和感を覚え、まわりを見渡す。ぞっとするほどの静寂。自分たち以外、生きているものがいないのではないかという感覚。そんな中に、逢魔人達は取り残された。

 

「この世界にいるのは怪異と、怪異に関わった経験のある人だけです。」樋田あかりは逢魔人達のもとへやってきて言う。そういえば足元に押方純平もいた。「鎮石に封じられていた怪異の力が暴走し、この世界を形成したのでしょう。私たちはそれに巻き込まれ、のまれてしまった…」樋田あかりは、たんたんと説明していく。その姿に違和感を覚える。この子、こんなに饒舌だっただろうか。そして何より…「なんでそんなに詳しいの?」館田本成の言葉に、樋田あかりは説明を中断し、一瞬ぽかんとする。そして少し迷ったように目を泳がせ、鞄から沢山の本や資料を取り出して逢魔人達の前に置く。裏側の世界、隠された闇の神秘、呪術の…うんたらかんたら。怪しげなそれらを前に樋田あかりは胸をはって言う。「趣味なんです。」口調はいつも通りを保ってはいるものの、顔が真っ赤なあたり本人も変わった趣味だと自覚しているらしい。そんなことよりも残念すぎる趣味に逢魔人達は全力で引いていた。唯一、人類学という同じく世間とズレたものに魅了されている山田貴大だけは、同士が見つかったことに喜んでいたとかなんとか。

 

 【共通使命】 もとの世界をとりもどす 

 

樋田あかりの提案により、全員で協力してこの世界から脱却する方法を探すこととなった。しかし、この状況になった原因を考えれば仲良く協力ができるわけもない。現に、今井芳樹は逢魔人達に問い詰められていた。今井芳樹は弁解する。違うんだ。あの時の自分はどうかしていた。というか押方先輩にそそのかされた純粋でかわいそうな後輩なのだ。自分は。「だから、(疑ったりするのは)やめよう。」実に微妙な言い分ではあるが、今回は裏切る気はないようだ。そそのかした押方純平はこの世界に感動してどっかに走って消えていったし、害はないだろう。こうして束の間の協力関係を築いたのであった。

 

兎吊木数一は自分の教室に来ていた。調べろと言われてもこんな世界でどうやって。そんなことを考え、気が付くとここへきていた。本当は期待していたのかもしれない。ここに来ればきっと…。そしてその予感はあたったのだ。「また大変なことになってるね、兎吊木くん。」綾川なおはいつもの調子で笑う。「助けてあげようか?そうだなぁ…私が何なのか、あてることができたら助けてあげる。一回だけね。」そう言う彼女の目は珍しくまじめで、兎吊木は彼女が教室から出ていくまで黙ってみていることしかできなかった。

 

神明あおいは校舎の中を歩きながら、正直頭を抱えたい気分だった。思い出してしまったのだ。自分の秘密を。自分がこの地球上の存在ではないことを。なぜ忘れていたのだろうか。知らないうちに警備員として、普通の人間として暮らしていた。おそらく異質な力と共に記憶も鎮石に封印してあったのだろう。そしてそれが暴走してこの世界が…全部自分のせいではないか。だがもし可能なら、人間としての生活を続けたい。そんなことを思いながらとある教室の横を通り過ぎようとしたとき、教室から物音が聞こえた。これは良くないパターンでは。しかし無視もできない。覚悟を決めて教室に入ると意外な人物、倉山菜摘がいた。「あ、神明さん。なんか変なんです。この学校。誰もいなくって…」ぱにっくになりまくしたてる彼女を落ち着かせる。「ありがとうございます。」そう言った彼女の目は淀み、神明あおいの後ろ姿をじっと睨みつけていた。

 

樋田あかりの資料、旧図書館などを中心に調べるうちに逢魔人達は怪異のことや青原の地に伝わる話を知る。

怪異は、同じ場所に存在すればするほど反発し、より大きな異常を世界に与えることがある。つまり今回のように世界ができてしまうような場合、おそらく原因である怪異の他に怪異が存在している可能性が高いということだ。その怪異についてはよくわからないが、とりあえずこの状況をどうにかする方法は見つけることができた。再び鎮石に封印をする儀式があったのだ。これに成功すればいい。

また、青原にはこんな話が伝わっているらしい。

青原学園があるこの土地には昔、良い神様と悪い神様がいました。良い神様は悪い神様をやっつけることができませんでした。そこで、良い神様は悪い神様をこの地のどこかに封印したのです。悪い神様を封印した良い神様は、ひとりぼっちになってしまいました。悪い神様を封じるために、ほとんどの力を使ってしまった良い神様は、やがて人々に信仰されることもなくなりました。それでも良い神様は、青原の地をずっと見守ることにしました。もう誰も良い神様の事を覚えていなくても、優しく、静かに見守ってくれているのです。

 

佐藤熙八は調べたものを整理する中で、一枚の写真を見つけた。旧図書館の資料のどこかにはさまっていたようだ。ソレを見て、驚愕する。それはとても古い写真だった。自分たちはまだ生まれていない時代。そこにいるはずもない人物が映っていた。他の人に言うべきだろうか。いや、しかし…。ためらいながらも、ソレを旧図書館の本にはさみ直し、本棚へと戻した。

 

そして逢魔が時がやってくる。

 

それぞれ別の場所で調査を続けていた逢魔人達は急に複数の視線を感じる。あらゆる場所から白い人影がゆらりと立ち上がり、逢魔人のほうへ近づいてくる。調査の最中にも何度か遭遇していたのだが、その時とは数が桁違いである。あわてて白い人影のできるだけいない方へ逃げていくと、自然と逢魔人全員がひとところに集まった。不自然にも、トノ鎮石のある場所であった。そこには樋田あかりと押方純平もいた。押方は非常に楽しそうだったので放置することにした。樋田あかりは「はやく儀式を行わないと。」と言ってから気づく、すでに白い影によって囲まれている。その状況に押方を除く全員が恐怖していると、白い人影は動きを変え、ひとつの道をつくるように移動する。その道を堂々と倉山菜摘が歩いてくる。「なにをしているんですか、みなさん。ずっとここにいましょうよ。」そう言って笑みをつくる彼女は明らかにいつもの彼女ではなかった。「ねぇ神明さん。あなたは、だって、こちらの存在でしょう?」神明の特異な性質にひきよせられた怪異により、操られているのだ。「いや、俺は…。」その雰囲気に圧倒されながらも、神明あおいは拒否する。それが戦いの合図であった。

 

倒さなくても、儀式を成功させればいい。だというのにそれすら難しいほどに、倉山菜摘に憑りついた怪異の力は強大であった。怪異の攻撃を間一髪で避け、嫌な想像をする。もしここで倒れたら、一生この世界に…?そんな緊張した空気を壊すように、綾川なおのいつもと変わらない調子の声がした。「助けてほしい?兎吊木くん。それなら、答えてみて。」兎吊木数一は迷いなく答える。「良い神様。」その言葉に綾川なおは満足げな笑みを浮かべて言う。「正解。よくわかったね。」その言葉とともに逢魔人達の体は光に包まれ、戦う力をとりもどす。神の祝福を受けて、逢魔人達は再封印の儀式に成功した。鎮石が淡く光をはなったかと思うと、急激に強い光となり、目を開けていられなくなる。光がおさまり、目を開けるとそこには倉山菜摘を含む全員と、ヒビの入った鎮石があった…。

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最終更新:2014年06月20日 16:11