第二幕【溢れた欲と学園の暗黒】

 

魔方陣の事件から一週間後、以前と変わらない日常が学園にもどってきていた。しかし、逢魔人の数奇な運命はその日常を脅かす怪異を引き寄せてしまうのだ…。

 

青原学園の生徒はオカルト話が好きなのだろうか。学園には新しい噂が広まっていた。学園の敷地内に存在する6つの鎮石。それには実は恐ろしい悪魔が封印されているというのだ。鎮石の1つである“ト”の鎮石と呼ばれるものの巻きつけられた縄が黒ずんでいることから、封印がもうすぐ解かれるなどと好き勝手に噂されている。この噂を逢魔人も知ることとなる。

 

使用されることの少ない意見箱をぼぅっと眺めながら、新聞部の3年である押方純平は佐藤熙八、今井芳樹に問いかける。「どうしたら皆、学園新聞を読むようになると思う?やっぱ皆が注目するような大きな事件でもないとなー。」そういいながら意見箱をひっくり返すと一枚の紙が出てくる。期待して内容を確認した 押方は、あからさまにがっかりしたように言う。「また、これか。」「何ですか、それ。」そう言った今井に押方は紙を渡す。その紙には、“ト”の鎮石に封印 されている悪魔が復活するというようなことが書かれていた。「本当に復活してくれたら良い記事が書けそうなんだけどな。」

 

図書館にて。館田本成は悪いことが起きる予兆を感じていた。真面目な図書委員の1年である樋田あかりが、何やら思い悩んでいるようで、短い溜息を頻繁にし ている。気になった館田が訪ねても樋田は誤魔化すだけで、すぐに仕事を終わらせて出て行ってしまう。入れ替わるように図書館に入ってきたのは国語教師の倉山菜摘だった。「樋田さん、何か悩みがあるみたいで。」倉山も樋田の様子がおかしいのに気が付き、心配しているようだ。「それに、今学園内ではやっている 噂も気になっていまして。」そういって館田に鎮石の噂を伝える。前の一件があるため、ただの噂だと流すことができず不安になっている倉山を館田は元気づけ るように言う。「大丈夫ですよ。彼女の様子はちゃんとみてますし、何かわかったら伝えます。」

 

図書館を訪れた後、倉山菜摘は“ト”の鎮石の前で警備員の神明あおいと偶然出会う。ただ古くなっただけであろう黒ずみが、なぜだか恐ろしいもののように思えて倉山は神明にも噂を伝える。「以前だったらただの噂だと笑えたのですが…。」怪異の存在を知ってしまった今では、無視できない内容である。「大丈夫ですよ。」倉山菜摘はその言葉がほしかったのだろう。少し力を抜いて答える。「そうですね。」そのとなりで神明あおいが鎮石を見つめる瞳を、彼女がみることはなかった。

 

山田貴大と兎吊木数一は綾川なおから今回の噂についてきいていた。綾川なおは自分とは全く関係のないことのように今回の噂について話していた。山田貴大とわかれ、兎吊木は綾川なおの後を追う。兎吊木は彼女のことで気になっていたことがあった。前回の事件で、なぜ彼女は魔法陣の形をしっていたのだろうか。探偵としてはこの謎をほうっておけない。よくわからない使命感と好奇心で後をつけていると、行き止まりにたどり着く。綾川なおはくるりと体の向きを変えると兎吊木をまっすぐ見つめる。「こりないなぁ。私を調べてもいいことないよ。」あきれたように、でもどこか楽しそうに彼女は言葉を続ける。「私よりもさ、気にするべき人がいるんじゃない?“あの人”は本当に君の仲間かなぁ。」あの人…?いきなり何のことだかわからないことを言われ、混乱する兎吊木に近づき、囁く。「ねぇ、誰の事だと思った?」

 

逢魔人達はそれぞれ、自身の使命のために情報をあつめる。協力しあいながら。

鎮石はその一つ一つが悪魔を封じており、全ての封印が解けたとき邪神が復活すると噂されている。本当かはわからないが、地元の人に話をきくとそろって口を閉ざすため、好き勝手に噂されている。鎮石の中でも“ト”ノ鎮石はもう封印が解かれる一歩手前だという噂もある。

そんなことがわかった。また、樋田あかりは逢魔人達に話した。

自分はたまたま“ト”ノ鎮石の封印を解く方法を知ってしまった。しかし封印は解いてはいけないと思っている。学園の生徒のだれかが興味本位で解こうとしたらと思うと心配でたまらなかった。

そんなことを。誰かに話を聞いてほしかったのだろう。言い終えた彼女は少し落ち着いた様子で逢魔人達に協力を求め、その方法を教える。万が一それをしようとする人がいた時に、防いでほしいから、と。実際、調べてわかったことだが新聞部の押方純平は封印を解こうとしているのだ。ほかにも事の重大さを知らずに封印を解こうとする人がでてきてもおかしくないだろう。学園の平和のためにも、自分自身のためにも彼女に協力しようと、彼らは決意する。一部をのぞいて。

 

今井芳樹は寝っころがっている押方純平を見下ろしていた。「いってー。おお。今井じゃん。」押方純平は鎮石の情報を手に入れようとし、樋田あかりに近づいた。駆け付けた山田貴大に思いっきり返り討ちにあい、このざまである。「先輩、“ト”ノ鎮石の封印の解き方、わかりました。」がばりと起き上がり、目を輝かせながら今井の話をきく。封印の解き方を教え、今井はにこにこしながら付け加えるように言う。「それで先輩、ちょっと手伝ってほしいことがあるんですけど。」

 

山田貴大は押方純平を追い払い、樋田あかりに注意するように言った後、一人で校舎の廊下を歩いていた。押方純平が鎮石の封印を解こうとしているのは間違いない。もしかしたら、彼以外の誰かも同じように封印を解こうとしているのではないだろうか。協力し合っているように振る舞い、なんでもない顔をして、逢魔人の中の誰かが…。嫌な予感はあたることになる。いつの間にか、今井芳樹と押方純平が目の前に立っていた。二人とも怪事件を起こそうとするのは、記事のネタにするためなのだろう。くだらないが状況が不利なのは間違いなかった。はずであった。たぶん。うん。山田貴大が二人に勝利できたのは、彼自身が強かったからなのか、相手が弱かったからなのか。なんにせよ山田貴大は二度目の勝利を手にしたのである。

 

そんな裏で、他の逢魔人達はこの地の伝承を聞く。青原学園があるこの土地には昔、良い神様と悪い神様がいた。良い神様は悪い神様を滅ぼすことができなかった。そこで、良い神様は悪い神様をこの地のどこかに封印したのだという。鎮石の封じている悪魔とは、この悪い神様のことなのだろうか。ならば、良い神様はいったいどこに…?

 

そして逢魔が時がやってくる。

 

逢魔人と押方純平は鎮石の前に集結していた。もうすでに大きなダメージを受けている押方純平と今井芳樹を止めることくらい、難しくはないだろう。山田貴大は思っていた。「悪いな。」そう言って神明あおいがむかってくるまでは。今井芳樹、神明あおいが儀式を行おうとするのを、山田貴大、館田本成、佐藤煕八が止めようとする。いつの間にか兎吊木数一は姿をけしていた。痛いの嫌だもんね、仕方ないね。

 

結果として、鎮石の封印は解かれてしまった。白い光に包まれる彼らを、綾川なおはじっと見つめる。静かに瞳を閉じ、ゆっくりと光に包まれる彼女の表情は、もう誰にも確認することはできなかった。

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最終更新:2014年06月20日 13:59