第三話「新たなる仲間」

3.1. 住宅問題(日曜・朝)

「明日から、また一人、同居人が増えることになった」

 黒瀧は、アンドラスとマヨネーズにそう告げた。どうやら、先日の寮全焼事件の関係で、新たな学生達を受け入れられるだけの部屋数を確保出来ないそうで、やむなく、彼の家でもう一人引き取らねばならなくなったらしい。もともと、カノンを含めた3名が寝泊まり出来るくらいのスペースはあった訳だから、黒瀧自身は特にそのことを迷惑には思っていない。ただ、学園に着いて早々1に、マヨネーズの匂いが充満したこの部屋に住まわされることになる転校生に、少しだけ同情せざるを得ない心境になっていた。
 そして、彼は二人に、その転校生を迎えに行くように告げる。というのも、風紀委員会の悪魔レーダーが、この日も危険信号を出していたのである。
 一方、その頃、くらげ館においても、似たような話が持ち上がっていた。この日に転校してくる女子生徒を受け入れるための部屋が足りなくなってしまっていたのである。やむなく、寮長・満月は百合子に相部屋を頼むことになる。特に断る理由もない百合子は快諾し、彼女もまた、その新入生の出迎えへと向かうことになる。

3.2. 悪魔軍の罠(日曜・昼)

 その男の名は、鳴滝真司。彼は、撃退士となるべく久遠ヶ原学園へと向かう列車に乗り込む若者の一人であった。彼は、天魔に対してこれといって特別な感情を持っている訳ではない。ただの「倒すべき存在」、それ以上でもそれ以下でもなく、そこには特に理由も必要なかった。人として、男として、自分自身が自立した存在となるために、自分自身の中で目覚めたアウルの力を身につけ、ルインズブレイドとしての力を覚醒させる。それが、彼を突き動かす動機であり、それ自体が目的でもあった。
 そして、彼と同じ車両には、もう一人、撃退士となるべくこの学園へと向かう若者がいた。その者の名は、夢野まど。ダアトの力に目覚めた少女である。彼女がこの学園を訪れるのは、彼女自身が撃退士として、目標としている先達がこの学園に通っているからなのだが、そのことはまだ彼女自身、誰にも伝えていない。そして彼女とこの学園を繋ぐもう一つの接点が、アメリカ人留学生サルビア・クローバーの存在である。彼女からの後押しもまた、この学園を選んだ一つの理由でもあった。
 そんな二人を載せた列車が、突然の急停車を余儀なくされる。黒瀧の予感は的中した。二週間前の襲撃とは比べ物にならないほどのブラックシープの大軍が、彼等二人を初めとする転校生達を載せた列車に、襲いかかってきたのである。

「これ以上、厄介な撃退士が増えても困るからな。ここで始末させてもらおう」

 そう呟きながらブラックシープ達を指揮しているのは、ルシファーと呼ばれる悪魔の眷属である。だが、この列車に乗っている者達の大半は、多かれ少なかれ撃退士としての力を身につけている者達であり、そう易々と倒される筈もない。真司とまどもまた、すぐに列車を飛び出し、目の前に迫るブラックシープに応戦しようとする。そして、くしくもその時、彼等を迎えに来ようとしていた、アンドラス、マヨネーズ、百合子、そして偶然通りかかった月が、その場に現れて彼等に加勢することになったのである。
 初の共同戦線だったにも関わらず、この6人の連携攻撃が功を奏し、彼等の目の前のブラックシープ達は圧倒されていく。しかし、実はそこに、悪魔軍の仕掛けた罠が待ち構えていた。前回の戦いでの汚名返上に燃える百合子が、目の前の敵に止めを刺そうと武器を構えたその瞬間、ブラックシープ達の張ったトラップを発動させてしまったのである。
 その時、彼女には、何が起こったのか理解出来なかった。ただ、激しい爆音と共に、彼女以外の者達が全員、吹き飛ばされてしまったのである。狼狽しながらも、孤軍奮闘しようとした彼女であったが、さすがに多勢に無勢。やがて彼女自身も戦線離脱を余儀なくされてしまった。

3.3. 再会(日曜夕方)

 その後、どうにか駆けつけた援軍達によって、悪魔軍は撤退し、6人も一命は取り留める。その援軍の中には、彼等の見知った顔の者達もいた。

「マド! 久しぶりネ! もうこの学園に来てたの?」

 そう言って、まどに駆け寄るサルビア。そして、真司の前にも、意外な顔見知りが姿を現す。

「お前、たしか、前に一度、東京で対バンしたことあったよな?」

 彼の名は、竜堂明良。マヨネーズ、月、そしてカノンと共にバンド「QUATRO ACES」を組むベーシストである。日頃はバイト生活のため、滅多に大学に来ることのない彼であるが、今回はたまたま、バイトの巡回コースと重なって、救援に駆けつけたらしい。彼を介して、マヨネーズも、月も、そして真司自身も思い出す。確かに、QUATRO ACESの面々が以前、東京のライブハウスに出張に、真司とは同じステージで共演したことがあった。お互い、すぐにそれが分からなかったのは、舞台上と日常(戦闘)時のイメージの違いが原因であろう。
 そして、信司は黒瀧邸に、まどはくらげ館の百合子の部屋に下宿することになった。運命の糸に導かれるように、こうして彼等はまた、新たな仲間を迎え入れることになったのである。

3.4. 再襲撃計画(月曜〜水曜)

 翌日、信司とまどは、アンドラスやサルビアと同じ3年9組に配属されることになった。すっかり転校生馴れしたアンドラスは、再び彼等に学園内を案内しつつ、少しずつ彼等(主にまど)との関係を深めようとするが、二人共、いきなり南欧男のハイテンションなノリをそのまま受け入れられるほど柔軟な性格ではないようで、ほどほどに距離を保ちながら、粛々とその案内を受けることになる。
 一方、百合子と月は、学内で自主トレに励んでいたビルクライムの部員を手助けしたことで、港から学園への直通電車の時刻表を手に入れる。そして、その中に栞として挟まっていた、謎の羽が気になった彼女達は、アンドラス達とも協力してその羽に関する情報を調べてみたところ、その羽こそがまさに、昨日の時点で彼等を襲ったあのルシファーの羽である、ということが判明した。というのも、昨日の襲撃現場に落ちていた羽と同じものだったのである。
 その栞の作成者である鉄道部員に確認してみたところ、どうやらその羽は、学内の僻地にある廃墟で拾ったものらしい。そして、列車の時刻表から推測した結果、悪魔軍の次の襲撃は木曜朝となる可能性が高い、ということを察した彼等は、昨日の時点での借りを返すべく、6人で奇襲作戦を掛ける事を決意する。
 ちなみに、この間に、マヨネーズとミハイルの仲が急接近していたり(火曜)、薊が3年9組に転校すると同時に真司にモーションをかけてみたものの微妙な空気に終わってみたり(水曜)、といった事柄もあったのだが、そんな形で構築されていく彼等の人間関係が意味を持ち始めるのは、もう少し後の話である(たぶん)。

3.5. 反撃の奇襲(水曜・夜)

 そして、皆が寝静まった水曜の真夜中、6人が廃墟に向かうと、彼等の予想通り、そこにはルシファーを初めとする多くの悪魔達が集っていた。まさに、翌日の襲撃計画に向けての準備を進めていたのである。
 だが、その計画は全て水泡に帰すこととなった。綿密に敵の位置を把握した百合子の合図の下、悪魔達の準備が整う前に襲いかかる彼等の奇襲攻撃によって、一瞬にして悪魔達を殲滅することになったのである。そこには、馴れない土地と合わないフォーメーションに苦戦する以前の彼等の姿はなかった。新たな仲間を加え、心を一つにした彼等にとって、もはやルシファーもブラックシープも、敵ではなかったのである。

3.6. エピローグ

 こうして、無事に悪魔達の再攻撃を防いだ彼等に対して、風紀委員会からは報奨金が出される事になった。彼等(特に、百合子、真司、まど)にとっての、実質的な初勝利であり、これでようやく、彼等もまた本格的な「撃退士」としての一歩を踏み出すことになったのである。


裏話

 前回までのキャンペーンの流れをぶった切る形で、突然、PCが二人も追加され、しかも物語的にも全く関係のない話となっているので、参加者以外でこの記事を読んでいる方々は戸惑ったと思いますが、前週に引き続き、この週もまた追加の新入生がラガドーンに加わった結果、このエリュシオン卓も二人の追加PC(プレイヤーは二人とも完全な初心者)を加えることになった訳です。
 で、とにかく時間がなかったので、急遽、空席だったルインズブレイドとダァトを選択してキャラメイクをしてもらった上で、当初予定していたシナリオをひとまず後回しにして、すぐに終わる簡単なシナリオということで、ルールブックの最初に載っている「初心者用シナリオ」を、ほぼそのまま使うことになりました(一応、前に別のところで回したことはあったので、手掛かりカードもコピー済み)。
 ただ、ここで失敗したのが、「PCが学園に来た経緯」をランダムで決めてしまったことでした。まどは「憧れの先輩を追いかけて入学」という設定だったので、まだ使い勝手が良かったのですが、真司が「自立するため」という、PCともNPCとも絡ませようのない設定だったので、この後、どうやって物語に引き込めば良いのか分からず、色々と悪戦苦闘することになります。正直、私は「GMが作った設定をプレイヤーに押し付けること」が嫌いなので、極力、PCの意志もしくはランダムで設定を作ってもらうことにしている訳ですが、今回ばかりは「キャンペーンの途中から加わる初心者プレイヤー」ということで、もう少し絡ませやすい設定を、こちらから提示すべきでしたね。
 ちなみに、ここで「竜童明良」というNPCが、何の脈絡もなく登場していますが、実は彼こそが、第1話の開始直前に消えてしまった「幻の主人公(仮)」のデータを流用&リファインしたNPCだったりします(そして、彼は「本来予定していた第3話」で登場する予定でした)。とりあえず、カノン・マヨネーズ・月の3人が同じバンドという設定があったので、彼等と同じバンドに所属する青年として、今後の物語に深く絡ませていく予定だったのですが……、正直、このタイミングで出す必要は全くなかったですね(一応、真司もバンド設定があったので、その方向から「過去に面識があるNPC」として彼とマヨネーズ達を繋げようと思っていたのですが、イマイチ不発でした)。
 そして、シナリオ内容的にも、それまでの「カノン&雛菊の物語」とは全く関係ない話になってしまったことも、以後の物語においてこの二人が他のPCと絡みにくくなった要因の一つです。後に、アンドラスのプレイヤーの人からは「第3話のラスボスを、ヘラクライストの関係者にすれば良かったのに」と言われたのですが、手掛かりカードに「黒幕はファウスト(悪魔)」と書かれてしまっているので、そこまで応用が効かなかったのですよ(まぁ、それでも、もう少し何か工夫する術はあった気もしますが)。
 ちなみに、戦闘バランスに関しても、「とりあえず、人数も多いし、レベルも上がってるから、ルールブックに載ってる敵キャラを少し強化して出せばいいかな」と思っていたのですが、あっという間に瞬殺でした。前回&前々回の敵があまりに強すぎたので、今回は少し弱くてもいいかと思ったのですが、こういう時に限ってプレイヤー側の出目が安定するという、なかなか厄介な展開。
 そんな訳で、シナリオにおいても戦闘においても、GMとして色々と反省点の残る第3話でありました。

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最終更新:2013年08月26日 12:43