第二話「錯綜する想い」

2.1. 少年の決意(月曜・朝)

 雛菊とカノンの消失事件に関して、生徒達の動揺を抑えるため、二人共「行方不明」とだけ発表することが、風紀委員会の決定として下された。ただし、カノンと親しかった者達にだけは、例外的に真実を伝えるよう、黒瀧からアンドラス達に指令が下った。それは、カノンが彼等に個別に接触し、彼等をも天界の陣営へと引きずり込む可能性を未然に阻止するためである。
 特に要注意人物と見なされていたのが、カノン・マヨネーズと共に「QUATRO ACES」として活動していたバンド仲間の島村月[ライト](中1)と、竜童明良[アキラ](高2)の二人である。しかし、明良はここ数日、バイト漬けの日々を送っていて、学校にすら来ていない状態のため、まずは月にのみ、事実を報告することにした。
 月はカノンと同じディヴァインナイトで、彼への憧れが強く、バンド内でも彼と共にツインギターを組む間柄であった。そんな彼だからこそ、自分が尊敬する先輩が使徒と共に駆け落ちしたという事実は、全くもって受け入れ難いことであった。

「カノン先輩は騙されているんです!」

 そう言い放った月の目には、自分の敬愛する先輩を取り戻そうとする、強い決意に満ち溢れていた。こうして、年若き少年がまた一人、この闘いへと足を踏み入れることになったのである。


2.2. 能面の女(月曜・午後)

 一方、そんな月にも、少々気がかりな点があった。というのも、今朝から何者かに尾行されているような、そんな気配を感じ取っていたのである。そして、時を同じくして、校内に「陰陽師の装束を着て、能面を被った小柄な女性」が、深夜に校内を散策している、という噂が流れていたのである。
 月に身を案じたアンドラスが、彼と共にその尾行の主を確かめようとしたところ、そこにいたのは、まさしくその「能面の女」であった。

「雛菊さん、ですか?」

 アンドラスがそう声をかけると、その女は能面を外し、こう告げた。

「妹が、ご迷惑をおかけしたようですね。雛菊の姉の薊(あざみ)と申します」

 彼女曰く、雛菊が久遠ヶ原学園に向かった後、彼女の部屋に残っていた奇妙な気配から、彼女が天界の者と接していたのでは、という疑惑が発生し、その真偽を確かめるために学園に潜入していたのだという。月を尾行していたのは、雛菊からの最後の手紙で、彼女が「QUATRO ACESというバンドでギタリストを務めるディヴァインナイト」と懇意にさせてもらっている、という旨が書かれていたから、とのこと。
 アンドラスから事情を聞き、既に時を逸してしまったことを理解した薊は「橘の失態は橘が処理します」と彼等に告げた上で、今後、彼等とは情報提供などで協力することを約束した。


2.3. 二つの手紙(月曜・火曜)

 そして、この動きと時を同じくして、彼等にはもう一つ、調査すべき案件があった。それは、風紀委員会に届けられていた、差出人不明の一通の手紙である。それは「天使軍が、今週の水曜日の夜に学園に届けられる宅配物を載せた車を襲撃する計画を立てている」という内容であった。
 黒瀧からの依頼で、アンドラス達がこの手紙の真相を調べてみたところ、どうやら、この手紙は悪魔軍の手によって書かれたものだということが判明する。しかし、その真偽を裏付ける証拠はない。悪魔による虚偽の陽動作戦の可能性もある以上、風紀委員会としても、そう易々と兵力を割く訳にはいかない、というのが黒瀧の見解である。

 一方、百合子は、海月館の雛菊の部屋に残っていた雛菊の実家からの手紙を、寮長の満月から受け取っていた。中身は全て梵字だったので、その内容は分からなかったのだが、薊に確認してみたところ、どうやらそれは薊自身が彼女に送った手紙で、「木曜朝着の便」で、雛菊の好物であった「八ツ橋(全ての変調を全快させるアイテム)」と、彼女の身の回りの品を送る、という内容であるらしい。

「まさか、自分の好物のために襲撃計画を立てる、なんてことはないと思うけど……」

 百合子はそう思っていたが、アンドラスが一つの可能性を指摘する。それは、彼女が持ち去った「リリスの心臓」である。あの魔道具は、天使・使徒以外の者が用いれば、多かれ少なかれ身体に変調が起きる。もし、カノンがまだ使徒になっていないのであれば、彼があの宝玉を使用する上で、八ツ橋は必須の道具となりうるのである。そして、彼は続けて、もう一つの可能性も指摘する。

「もし、彼女にとっての八ツ橋が、アイツにとってのマヨネーズだったら?」

 彼の視線の先に誰がいるのかを確認するまでもなく、その場にいた者達は全員納得し、(陽動作戦である可能性も考慮して、風紀委員会の手は借りずに)彼等自身の手で襲撃計画を阻止することを決意する。


2.4.  哀しき再会(水曜・深夜)

 そして、アンドラスの予想は的中した。彼等四人(アンドラス、マヨネーズ、百合子、月)が、荷物を載せた運搬車が通る予定のその道の片隅を警備していると、そこに、天使軍とおぼしき影が現れたのである。それは、紛れもなく使徒・雛菊と、彼女が呼び出した天使の眷属・サブラヒナイト達の姿であった。

「私は、実家からの荷物を受け取りにきただけです。あれさえあれば、あの人の身体の副作用を止められる」

 雛菊がそう言ってアンドラス達を攻撃しようとしたその瞬間、彼等の後方から、別の女性の声が聞こえてくる。

「ひーなぎーくちゃーん、他所様に迷惑かけたらあかんて、言うたやろ?」

 その声の主である薊の姿を確認した直後、雛菊は狼狽した表情で叫ぶ。

「お、お母様!? なぜ、こんな所に……」
「人前でそう呼ぶな言うたやろーが!」

 形相を一変させて雛菊へと襲いかかる薊の姿にアンドラス達は呆気にとられつつ、雛菊の相手は彼女に任せた上で、彼等は遅い来るサブラヒナイト達と応戦する。序盤は互角の闘いであったが、徐々にサブラヒナイト達の猛攻に耐えきれなくなり、遂には百合子が倒され、そして皆を守り続けた月にも彼等の必殺の凶刃が振り下ろされそうになったその瞬間、謎の影が月の前に立ちはだかる。その風貌は大きく変貌してしまったものの、それは紛れもなく、カノンの姿であった。

「お前は、これ以上関わるな。俺は俺の道を行く」

 そう言って、今も自分を後輩を庇った彼は、薊の繰り出す妖術に押され気味であった雛菊の加勢へと向かう。最終的に、アンドラスの援護を受けたマヨネーズがどうにか全てのサブラヒナイト達を葬ったことで、形成の不利を察したカノンは、雛菊に撤退を促す。

「でも、このままだと貴方の身体が……」
「大丈夫。俺も、もう覚悟を決めた。お前と同じ道を進む」

 そう言って、二人は再び彼等の前から姿を消す。カノンの最後の言葉が、人間としての身体を捨てて使徒となる決意を示していることは、その場にいる誰もが理解していた。


2.5. エピローグ

 その後、学外からの貨物を載せた運搬車は、無事に学園へと到着する。実は、彼等が雛菊達と戦っていたその間、漁父の利を狙った悪魔軍が車を襲おうとしていたのだが、そのために配備されていた戦力は、ミハイルと桃香の二人によって駆逐されていたのである。
 そして、雛菊を取り逃がした薊は、再び彼女が学園に現れる可能性も考慮して、彼等にこう告げる。。

「ほな、私もこの学園に転校させてもらいますわ」

 先刻の雛菊との会話から、(「赴任」ではなく)「転校」という言葉に違和感を感じつつも、既に瀕死の状態であったアンドラス達には、余計な詮索をする余裕などなく、ただ、その宣言を粛々と受け入れるしかなかった。


裏話

 衝撃的な第1話を踏まえた上で、ひとまず仕切り直してリスタート、という気持ちで作ったのが、この第2話でした。新キャラ・月を他のPC達と合流させるためには、やはり、一番分かりやすい形で「カノン」が敵に回ったという事実を突き付けるのが良いかな、と。
 そして、実質的にこの第2話の鍵は「橘薊」というNPCだった訳ですが、実はこの人、当初の私の予定には全く存在しないキャラでした。というのも、実はあのイラストは、当初は「雛菊」案として描いてもらった代物だったのですが、「ちょっとこれだと、大人っぽすぎるというか、露骨に腹黒そうで、犯人だとすぐバレてしまいそう」ということで、没にしたイラストだったんです(つまり、実際に使った雛菊のイラストは、実は第二稿)。
 ただ、せっかく描いてもらった絵をお蔵入りにしてしまうのも勿体無い、ということで、「じゃあ、お姉さん役として使うことにしよう」ということになった訳ですが(ちなみに「薊」は菊の一種です)、ここで、「ただのお姉さんじゃあ、面白くないよな……」ということで、色々考えた結果、「実は母親」というトンデモ設定が思い浮かんでしまった訳です。
 ちなみに、彼女がなぜあんな若作りなのか、本当の年齢は何歳なのか、という点については、GM自身も考えてません。まぁ、陰陽師だし、なんか色々と秘術とかあるんでしょう、多分(陰陽師用のサプリがまだ出てなかったことで、こういう無茶な設定を導入しやすかった、という事情もあります)。GMとしては、今後、とりあえず「シリアスな笑い」を演出するための便利なコマとして、物語の要所要所で重宝することになりました。
 で、セッションの内容について、もう少しテクニカルな話をすると、前回は「証言カード」を合計8枚も作ったのですが、さすがに1日で終わらせるには多すぎて2日かかってしまったので、今回はそれを半分(4枚)まで減らしたところ、予想以上にスピーディーにクライマックス戦闘に突入。
 これなら、今日はかなり早く終わりそうだなと思っていたら、なぜかその最終戦闘でPCがファンブルを連発し、あわや全滅という危機的状況に。さすがに、2回続けて全滅は今後のキャンペーンの士気に関わるので、結局、ゴールデンルールを発動して、無理矢理(本来、その戦場にいなかった筈の)カノンに月を庇わせるという荒技で、なんとかギリギリ勝利を得たものの、このゲームにおける戦闘バランスの難しさを、改めて痛感させられた私でありました。

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最終更新:2013年08月26日 12:42