第一話「疑惑の転校生」

1.1. 四人の転校生(日曜)

 親友であった鏡蘭子を天使に殺されてしまった少女・剣百合子(高2)は、その仇を討つために、茨城県沖の孤島に存在する撃退士(ブレイカー)養成機関「久遠ヶ原学園」への転校を決意する。そんな彼女の前に、学園OBのフリーランサー・筧鷹政が現れ、彼女に亡き友の遺品のカバンを渡す。その中には、琥珀色に輝く不思議な宝玉が入っていた。

「あの学園に行くなら、まず、新しい友を作れ。それが、天魔との戦いで生き延びるための最大の武器だ」

 そう言って去っていく筧の背中を見送りつつ、百合子は学園へと足を進める。島に辿り着いた彼女が、学園への直通列車の「4号車」に乗り込むと、そこには、彼女の他に3人の少女が同乗していた。

「ねぇ、アナタはどうしてこの学園に来たの?」

 そう言って百合子に話しかけてきたのは、金髪ポニーテールのアメリカ人留学生・サルビア・クローバー(高3)である。彼女自身は、忍者になるために政府の奨学金を得て留学することになったらしい。アメリカ人特有の慇懃無礼な態度で百合子に接してくる彼女であったが、重い過去を持つ百合子としては、あまり積極的に自らの事情を話す気にはなれない。
 そんな二人の間に、隣で本を呼んでいた眼鏡をかけた三つ編みの少女が割って入る。

「人にはそれぞれ事情があるんだから、あんまり踏み込むべきじゃないわよ」

 不機嫌そうにその横槍を入れた彼女は「相沢桃香(高2)」と名乗り、ダアト(魔術師)コース志望であることを告げるものの、それ以上のことは何も話そうとせず、ただ黙々と読書を続ける。

「ニホンジンって、メンドクサい人多いネ。アナタも、メンドクサい人?」

 サルビアはそう言って、列車の中にいたもう一人の少女に声をかける。白い和装におかっぱ頭で、他の三人よりも明らかに幼そうな風貌の彼女は、やや怯えながらこう答える。

「あ、いえ、その、えっと、私は、橘雛菊(中2)と申します。私は、実家が陰陽師の家系なんですけど、その、私、まだ、力に覚醒していなくて、それで、この学校に……」

 その彼女が答え終わる前に、列車が急停車し、緊急警報が鳴る。どうやら、悪魔軍による襲来らしい。彼女達を含めた列車の乗客と警備員達は、押し寄せてくるブラックシープの大軍との戦いに応戦するも、苦戦を強いられる。そんな中、百合子の宝玉が、彼女に対してこう語りかけた。

「力が欲しいか? 少女よ」

 その怪しげな声に対して、本能的に危険を感じた彼女は、その声を無視して自力で戦い続けるが、武運拙く敗れてしまう。だが、そんな彼女達を救ったのは、突如現れた(百合子にとっての仇敵である)天使の眷属・グリフォン達であった。グリフォン達は、彼女達が乗っていた4号車の周囲にのみ現れ、ブラックシープ達を駆逐すると、倒れている彼女達を襲うこともなく、そのまま去っていく。やがて、学園からの救援もあり、どうにか悪魔軍全体を撃退したものの、百合子やサルビアは重症を負ってしまい、自らの無力さを痛感させられる。
 その後、学園長・宝井正博から学園の生徒としての心得を聞かされた彼女達は、小学4年生の海原満月(うなばら・みつき)が寮長を務める「海月(くらげ)館」へと案内される。

 一方、この襲撃事件に対して、学園の風紀委員長・黒瀧辰馬(大5)は、ある疑念を抱いていた。なぜ? 天使達が4号車の上空にのみ現れ、そしてなぜ、彼等は何もせずに去っていったのか。もしや、あの4号車に乗っていた学生達の中に、天使軍のスパイが混ざっていたのではないか? そんな懸念を、彼は、自分の家に住み込む3人の下宿人に語る。
 その下宿人とは、陽気なギリシャ人のアンドラス・オミフリ(高3)、グンマ出身の優等生カノン・ライヘンベルガー(中2)、そして異世界「迷宮キングダム」からこの世界にやってきたマヨネーズ愛好家の山口マヨネーズ(高2)の3人である。彼等は、この日の前日の不良中年部の部員が起こしたタバコの不始末により、宿を無くし、その責任を感じた同部の部長ミハイル・エッカートの紹介で、不本意ながらも黒瀧の自宅に住まわされることになった者達である。一宿一飯の恩義から、彼等はこの件に関しての調査に協力することを約束する。
 ちなみに、アンドラスはちょうどこの日、彼女達が配属された「海月館」の小学生寮長・海原満月から、「好きです、付き合って下さい」と告白されたばかりであり、(さすがに相手が小学4年生ということで)その答えを保留していたアンドラスとしては、この依頼の遂行過程で彼女と遭遇してしまう可能性だけが、やや気がかりであった。


1.2. 運命の邂逅(月曜)

 翌日、アンドラスの高等部3年9組にサルビアが、マヨネーズの高等部2年42組に百合子と桃香が、そしてカノンの中等部2年1組に雛菊が、それぞれ編入し、各クラスの担任達は、彼女達への学園案内を彼等に命じる。アンドラスはサルビアを中庭へ、マヨネーズは百合子と桃香を図書館へ、そしてカノンは雛菊を屋上へと連れていく。

 猫好きのアンドラスは、サルビアに中庭に住む猫を紹介しようとしたのだが、残念ながら猫に遭遇することは叶わず、また、彼女が犬派だということを知り、やや落胆する。

 一方、百合子はマヨネーズに案内された図書館で、筧から彼女に宛てられた手紙を受け取ることになる。そこには、友の形見である宝玉に関する、彼の調査結果が記されたいた。彼曰く、この宝玉は「リリスの心臓」と呼ばれる伝説の魔法石で、天使と使徒に無限のアウルを与える(撃退士が用いた場合、アウルは回復するが、同時に変調をもたらす)代物であるらしい。そのことを知ったマヨネーズは、この旨を黒瀧に伝えることを百合子に了承させつつ、百合子と桃香に得意のマヨネーズ料理をふるまうが、二人共、まともに手をつけることもなくその場を去ることになる。

 一方、屋上へと向かったカノンと雛菊は、生憎の雨に見舞われてしまうものの、二人で雨宿りをしている間に、徐々に互いの気持ちが近付いていくことを感じる。

「雨は残念でしたけど、素敵な場所ですね、ここは。教えてくれて、ありがとうございます」

 彼女がこの場所を気に入った本当の理由に、この時点でのカノンはまだ気付かなかった。ただ、彼女と出会ったことで自分の中で生じた「何か」に戸惑うばかりであった。


1.3. 深まる疑惑(火曜・水曜)

 その翌日、学校に向かったアンドラス、マヨネーズ、カノンの3人であったが、昨日の深夜に、サルビアが廃墟で、桃香が部室棟で、そして雛菊が屋上で、それぞれ目撃されているという事実を知る。
 詳しく調べてみたところ、まず、サルビアは廃墟で忍者としての自主練をしていたようなのだが、そのことが判明した直後、今度は、彼女の履歴書が何者かの手で改竄されていたらしい、という噂を耳にする。どうやら、彼女の本来のカオスレートは「+」だった筈が、何者かによって「−」へと書き換えられていたらしい。これは、彼女が天使軍のスパイであることを裏付ける上で、一つの状況証拠となりうる事実である。
 一方、桃香に関しては、どうやら(先日の不祥事によって活動停止中の)不良中年部の部室に入り込んでいたことが判明する。しかも、時を同じくして、不良中年部の部長・ミハイルが、百合子のことを調べているらしい、という噂も、彼等と、そして百合子自身の耳に入ってくる。この件について更に詳しく調べてみると、どうやらミハイルは、百合子の持っている宝玉について調べるように、彼の務める多国籍企業からの依頼を受けているらしい。
 そして、雛菊が深夜に再び足を運んだ屋上には、天界とのゲートを開くために必要な「使徒(シュトラッサー)の血による魔導紋」を描こうとした跡が発見された。使徒とは、自らの進んで天使に身を捧げることで特殊な力を得た者のことであり、一度、使徒となった者は、二度と人間には戻れないと言われており、学園の生徒にとって、絶対に倒さなければならない存在、ということになる。だが、その事実を知ったカノンには、特に動揺した様子は無かった。それは、彼女が使徒ではないという確信があったからではない。むしろ、もはやこの時点で既に、彼の中で雛菊は雛菊であり、彼女が何者であろうとも、彼の中での彼女への想いは揺るがぬものとなっていたのである。

 こうした状況に戸惑いつつ、アンドラス達は、現状で最も信頼出来そうな転校生である百合子に共闘を持ちかけ、百合子もまた、筧の言葉を思い出しながら、自らの身を守るため、そして共に戦う仲間を得るために、彼等と手を結ぶことを決意する。
 互いの情報をまとめ、状況を整理したアンドラスは、まず、ミハイルに接触を試みる。自分が、企業の命令で宝玉を手に入れようと画策していることを察知されたことを知ったミハイルは、先日の寮全焼の負い目もあり、この宝玉の件からは手を引くことをアンドラスに約束し、自分に協力して宝玉入手に向けて動いている桃香(彼女は昔、ミハイルに助けられた恩義で、彼を追ってこの学園に来たらしい)にも、これ以上関わらないように伝えようとする。しかし、彼からのその連絡が彼女に届く前に、事件が起きてしまった。


1.4. 愛故に……(木曜・金曜)

 その日の夜、百合子の隣室に住んでいた桃香が、突如、真夜中に百合子の部屋を急襲し、宝玉を奪い去っていったのである。彼女はミハイルの会社での立場を案じて、自らの判断で、強硬手段に出たのだ。
 状況を把握出来ない百合子は、ひとまずアンドラスに協力を申し出て、アンドラスはミハイルを問いただす。すると、ミハイルは驚いた顔で、こう答えた。

「昨夜、彼女が勝手に宝玉を奪ってきたから、『なぜ、そんなことをした! 誰もそこまでやれとは言ってない!』と叱責して、その宝玉は元の持ち主に返すように伝えた筈だったんだが……」

 その後、学園内を探しまわった結果、彼女が寮の近くで傷を負って倒れているのを発見する。どうやら、百合子に返そうとしたところで、何者かにその宝玉を奪われてしまったらしい。暗闇で相手はよく見えなかったが、天使のような翼を生やしていた、とのこと。

 そんな中、カノンは雛菊によって、屋上に呼び出されていた。二人で初めて訪れたこの場所で、思い詰めた表情をして向かい合っていた二人だが、そんな彼等の頭上に突然、落雷が襲いかかる。突如その場に現れたアンドラスの助けもあり、どうにか雛菊を庇うことに成功したカノンだったが、実はその雷撃は、彼女ではなく、カノンを狙ったものだった。その事実に気付かぬまま、彼等の目の前に、一人の天使が現れる。

「何をしている、早くゲートを開く準備を進めぬか」

 彼の名は、下位天使ヘラクライスト。彼こそが、この学園内にスパイを送り込み、内側から崩壊させようとした張本人である。そして、彼にそう言われた雛菊は決意の表情を浮かべ、カノンの前で真の姿をさらけ出す。それは、紛れもなく「使徒」となった彼女の姿であった。彼女こそが、ヘラクライストの命により学園に潜入し、天界へのゲートを生み出すことを命じられた使徒だったのである。

「貴方が教えてくれたこの場所、ゲートを開く上での空間として最適でした」

 無論、カノンにはそんなつもりなど毛頭なかった。ただ、彼女に自分の「お気に入りの場所」を紹介したいだけだった。しかし、結果的にそれが彼女の任務を手助けすることになってしまったのである。
 そして、彼女の右手には、桃香が百合子に返しに行く途中で奪われた『リリスの心臓』が握られている。どうやら、桃香から宝玉を奪ったのも、彼女であったらしい。これは当初の彼等の予定にはなかった計画なのだが、使徒である彼女にとって、この宝玉は、本来の計画を中断してでも奪い取るだけの価値のある代物であった。
 唐突に突き付けられた真実を目の前にして戸惑う彼等に対して、雛菊は更に語りかける。

「私は、この世界から争いを無くしたいんです。天使と悪魔、その両方がいる限り、いつまでも戦いは終わらない。ならば、天使の方々に協力して、悪魔を完全に殲滅することが、この世界を平和に戻す唯一の道だと思うのです。そうなればきっと、天使と人間も昔の関係に戻れるのではないかと、私はそう信じているのです。……私と一緒に、来て下さいませんか?」

 この彼女の願いを、カノンは一切の迷いも葛藤もなく受け入れた。それまでの撃退士としての使命感も、仲間との絆も、全てを投げ捨てでも彼女と共に道を進みたいという覚悟が、彼の中では既に定まっていたのである。
 そんな彼を必死に止めようとするアンドラスであったが、彼の決意は全く揺るがぬまま、天使と雛菊はアンドラスに攻撃を加えようとする。やがてそこに百合子とマヨネーズが加わり、アンドラスに加勢するが、彼等が使徒(雛菊)を攻撃しようとしても、カノンがそれを身を挺して庇うため、彼女には全く傷一つつけられない。やがて、天使の放つ雷撃によって、アンドラスも、マヨネーズも、百合子も、次々と倒れていく。
 そして、彼等にとどめの一撃が加えられようとしたその瞬間、間一髪のところで、黒瀧とミハイル、そして風紀委員の者達が助けに入り、かろうじて一命は取り留める。

「さすがに、この数相手では分が悪い。やむをえぬ、出直そう。今回は、予定外の『収穫物』もあったことだしな」

 天使はそう言って、雛菊の手にある『リリスの心臓』と、彼女に寄り添う『カノン』に目を向けながら、彼等を連れてその場を去って行く。

「待て、カノン! お前は、そっちに行ってはならん!」

 そう叫ぶ黒瀧の声は、もはや彼には届かない。撃退士としてのカノン・ライヘンベルガーは、彼自身の心の中から、既に消失していたのだから。


1.5. エピローグ

 全ては終わった。百合子は友の形見を失い、アンドラスとマヨネーズは友そのものを失った。彼等には、カノンの行動原理は全く理解出来なかった。ただ、友が自分達を裏切って天界へと寝返った、その事実を受け入れるしかなかった。
 そんな中、ただ一人、彼の想いを一定の理解を示していたのは、おそらく桃香であろう。ミハイルを想うが故に、宝石の強奪という、人の道に反した暴挙に手を染めてしまった彼女だけは、雛菊への想い故に人の道を踏み外すことを決意したカノンの心情も理解出来ていたようである。そんな彼女は、自らの過ちを深く反省し、『リリスの心臓』の奪還のため、百合子達に手を貸すことを誓う。そして、桃香の暴走の原因を作ってしまった(そして先日の寮全焼事件の負い目もある)ミハイルもまた、桃香と共に、この事件の解決に向けて、風紀委員達とも協力しながら全面的に協力することを約束した。
 一方、もう一人の容疑者であったサルビアは、この後、「自分自身の手で履歴書を改竄していた」ということを自白する。彼女は、子供の頃からの夢であった忍者となるため、撃退士を目指していたが、自分の生来のカオスレートがプラスであるという絶望的な事実を突き付けられていた。それでも、どうしても忍者への憧れを諦められなかった彼女は、自ら履歴書を書き換えて編入していたのである。だが、この一週間の講義で、自分にはどうしても忍者となるための適性がないことを理解した彼女は、バハムートテイマー科への転向を自ら申し出る。いずれ、ガマガエルを呼び出す力を手に入れることを目指して。
 こうして、若き撃退士達の一つの物語が終わった。大切な絆を失った彼等だが、それでも、彼等は戦い続けなければならない。そう、まだこれは彼等にとって、長く哀しい闘いの序曲にすぎないのであった。


裏話

 ということで、いきなり驚愕の展開から始まってしまった第一話ですが、その裏話を、最初のキャラメイクの段階から色々と語っていきたいと思います。
 まず、今回のセッションのプレイヤー陣は、以下のような面々でした。

百合子:1年生(高校時代にTRPG歴アリ)
カノン:1年生(TRPGは全くの初心者)
マヨネーズ:M1(TRPG歴は5年目)
アンドラス:OB(TRPG歴は私以上)

 そして、実はキャラメイクの段階ではもう一人、ルインズブレイドの男子生徒(プレイヤーは4年生)が参加する予定でした。その時点では、私としては彼を主人公(物語の牽引役)とした上で、百合子・カノンには物語の鍵となる重要な役回りを担当してもらい、マヨネーズ・アンドラスには好き勝手に物語を引っ掻き回してもらおう、と漠然と考えていた訳です。
 で、キャラクターの「経緯(ライフパス)」をランダムで決めてもらったら、百合子が「復習(親友の仇)」という、物語的に一番美味しい設定を引き当てたので、とりあえず第一話は彼女にスポットをあてることに決定。その上で、「恋と冒険の学園TRPG」というこのゲームのコンセプトを生かす物語を考えてみた結果、「彼女+3人の女性NPCが、男性PC4人のクラスに転校してくる」→「その中の一人が敵のスパイ」→「その正体を探るという名目で、男性陣が女性陣をデートに誘いつつ、少しずつ『手掛かり』を解明してもらう」という流れが思い浮かんできた訳です。
 その上で、それぞれのPC達のクラスに、どんなNPCが転校してきたら盛り上がるかな、と(ギャルゲーor深夜アニメ的なノリで)色々妄想した結果、以下のような初期構想に辿り着きました。

サルビア(ハズレ)→アンドラスのクラス
桃香(ハズレ)→マヨネーズのクラス
百合子(PC)→主人公(仮)のクラス
雛菊(正解)→カノンのクラス

 まず、百合子に関しては、早い段階で他のPC達に合流させるために、PC設定的にも中の人の能力的にも一番コミュ力の高そうな主人公(仮)のクラスに入れることに仮決定。そして、もう一人の一年生プレイヤーであるカノンに見せ場を与えるために、真犯人は彼のクラスに転校させると決めた上で、陽気な女好きのアンドラスにはグラマラスな美人、ド変人のマヨネーズには生真面目委員長タイプ、ってカンジで、それぞれのPCの設定に合わせて「ハズレNPC」の設定を考えていった訳です(カノンの年齢の都合上、雛菊は必然的に「ロリ枠」に)。
 ところが、いよいよ二週目からセッションを開始しようとしたその矢先、突如、ラガドーンに大量の追加新入生が現れたことで、臨時で卓を増設する必要が出てきた結果、主人公(仮)のプレイヤーとなる筈だった四年生の彼に新期卓のGMを頼まざるを得なくなり、やむなくセッション開始直前に主人公が離脱という形になってしまいました。ラガ的には嬉しい話だったのですが、こちらとしては、いきなり大黒柱を失った状態でのスタート。さて、困った。でも、「手掛かりカード」の都合上、いきなりシナリオを大幅に変えることは出来ない、ということで、転校してくるクラスを以下のように変更して、セッション開始。

サルビア→アンドラスのクラス
百合子・桃香→マヨネーズのクラス
雛菊→カノンのクラス

 しかし、最初から訳分からない方向に暴走しまくるマヨネーズに対して、百合子が心を開く筈もなく、序盤は全く関係が構築出来ないまま、情報共有が進まないというグダグダ展開。結局、当初は「常識嫌い」というコンセプトだった筈のアンドラスが、自らのキャラをねじ曲げて「まとめ役」に回ってくれたお陰で、どうにか合流を果たせたものの、百合子と他のPC達の距離は微妙な状態のまま、今後もこの「進行役不足」に我々は悩まされることになります。
 そして、もう一つの誤算が「カノンと雛菊」でした。無論、私としても、このギャルゲー的な物語を考えた時点で、雛菊とPCがデートに成功し続けて「好意」を上げまくる可能性も考慮した上で、雛菊からの「私と一緒に来て下さい」に対するPCのリアクションとして、以下の3パターンを想定してました(ちなみに、物語の展開次第では、カノン以外のPCが雛菊と恋仲になる可能性も考えていました)。

パターンA(「PC→雛菊」の好意が低かった場合)
=断固拒否して戦闘開始
 →PC vs ヘラクライスト&雛菊

パターンB(「PC→雛菊」の好意が高かった場合・その1)
=逆にPC側から雛菊に、天使の味方をするのをやめるように説得
 ・B-1(「雛菊→PC」の好意が高かった場合)
  →雛菊が迷っている間にヘラクライスト登場
   →「この役立たずが!」とヘラクライストが雛菊を攻撃
    →PC vs ヘラクライスト(雛菊は瀕死の状態で戦闘圏外)
 ・B-2(「雛菊→PC」の好意が低かった場合)
  →断固拒否して戦闘開始
   →PC vs ヘラクライスト&雛菊

パターンC(「PC→雛菊」の好意が高かった場合・その2)
=PCが雛菊側に寝返る
 →残りのPC vs ヘラクライスト&雛菊&裏切りPC

 上記を見れば分かりますが、ゲーム的にベストの選択肢は「B-1」です。この時点でのヘラクライストは下位天使なので、頑張れば初期PC4人でも倒せます(ただし、そのためにはPCと雛菊が互いに強い好意を持ち合うことが条件)。その上で、勝利後は、雛菊を人間に戻す方法を探す、というシナリオを第2話以降に作ろうと考えてました。

 一方、パターンAとB-2の場合は、まともにやったらPC側が負ける可能性が高いので、戦闘終了条件として、以下の3条件を考えていました。
  1、5R戦ったら、敵は撤退
  2、雛菊を倒したら、ヘラクライストは撤退
  3、ヘラクライストを倒したら、雛菊は戦意喪失
 1&2の場合は、以後のシナリオに登場する「宿敵キャラ」として、物語の連続性を強めることが出来ていいなぁ、と。その上で、2&3において、雛菊を戦闘終了後にどうするかは、PC達の判断に委ねるつもりでした(元に戻す方法を模索するでもいいし、後顧の憂いを絶つために殺すENDもアリ)。

 そして、パターンCになってしまった場合は、これはもうどう足掻いても「裏切らなかったPC」側に勝ち目はないよな、と思っていた訳ですが、カノンがあっさりと「はい」と言ってしまったので、この最悪の(しかし、キャンペーン的には一番面白い)展開が実現することになった訳です。
 実は、この時点で二人の好意は双方向MAXの状態だったので、カノンが逆に雛菊を説得しようと試みれば、「B-1」の流れに持っていけたのですが、TRPG初心者のプレイヤーにそこまで求めるのは、さすがに酷だったみたいですね。ただ、ロールプレイの一つの方向性として、彼のこの選択は何も間違っていませんし、「キャンペーンの第1話」である以上(まだPCの方向性自体が固まっていなかった段階なので)、ギリギリ許される行為だったと思います。というか、まるで「深夜アニメの第1話」のような怒濤の展開に、その場にいた人々全員のテンションが上がりまくっていたのも事実です。
 無論、このような「裏切りEND」はエリュシオンというゲームの本来の楽しみ方ではありません。しかし、初めてTRPGをプレイした一年生に、いきなりこんな「セッション中に構築されたNPCとの恋仲関係を反映したロールプレイ(行動選択)」をされてしまったら、「今回はギャルゲー的なセッションにしよう」と考えていたGMとしては、嬉しくて仕方ない訳ですよ。なので、「本当にここで裏切ってもいいのかな」と、ちょっとだけ逡巡している様子でもあったカノンのプレイヤーに対して、

「うん、大丈夫。君は何も間違ってない。ただ、ここで君が彼等に協力するなら、君は来週から、別のPCを作って参加してもらうよ」

と笑顔で煽りまくって、結果、このような鬱エンドから始まることになってしまった訳です。正直、他のプレイヤーの性格次第では、プレイヤー間でもギクシャクした関係が生まれかねなかった訳ですが、百合子のプレイヤーとカノンのプレイヤーは高校時代からの友人だったので(しかも、百合子の人がカノンの人を誘って一緒にウチのサークルに来てくれた、という経緯だったので)、その人間関係も考慮した上で、「ここで彼が裏切っても、他のプレイヤーは全員、納得してくれる」と確信した上での煽りでした(GMとして「PC vs PC」の展開を煽っていいかどうかは、この点の見極めが一番重要)。
 そんなこんなで、私のラガドーンGM史上、最も劇的な「第一話」は幕を閉じ、「さて、ここからどうやって次の話を作っていこうか」と、かつてない程のワクワク感に包まれながら、妄想を膨らませていった私でありました。

 ということで、なんか裏話の方が長くなってしまいましたが、ここまで書いてしまった以上、ついでにネーミングについても色々と。
 私のシナリオはいつも「NPCが多すぎて覚えられない」と苦情が出ます。それでも私が大量のNPCを出し続けるのは、私自身が「登場人物が多い話」が好きだからです。はい、ぶっちゃけ、ただの自己満足です。で、そんな自己満足の最たるものが、NPC達のネーミング遊びです。正直、NPCの名前を考えてる時が、一番楽しいです。
 で、今回のNPC3人娘については「剣百合子」とセットで(私が)覚えやすい名前にしよう、というコンセプトで考えました。まず、下の名前が「百合」「サルビア」「桃」「雛菊」と花繋がりになっていることは分かったと思うのですが、実はこれ、18年前の某愛天使アニメの主人公4人と被せています(キャラは全然違いますが)。そして名字の方は「剣」から連想して、5代目平成ライダーの4人を元ネタにしました(更にその元ネタを言えばトランプなのですが)。なので、もし気付く人がいたら「橘さん、オンドゥルルラギッタンディスカァァ」とか言われるかな、とか思ったんですが、さすがに若者達には通じなかったみたいですね。
 なお、この「まとめ」では、基本的にNPCは(大人組以外は)「名前」で表記することにしてますが、実際のセッションでは、桃香だけは毎回「相沢さん」と呼んでました。なんつーか、上記のように勢いで名付けたものの、明らかにキャラ的に「ももか」というイメージではないんですよね。しかも、ちょうどこの時期にチャンピオンの某漫画で「藍沢さん」という委員長キャラが出てたもんだから、私の中でも「相沢さん」の方がしっくりきてしまった訳です。
 一方、天使に関しては、当初は一回だけの下位天使の予定だったので、特に名前も考えていなかったのですが、生き残って再登場する可能性があることを考えると、やっぱり、一応は名前を付けた方がいいだろう、ということで、さて、どんな名前を付けようかと色々考えていたら、

「そうだ、俺の脳内には、大量の天使と悪魔の名前リストがあるじゃないか」

ということに気付き、ヘッドロココとかヤマト神帝とか色々考えた末に、「一番カッコいい名前」として、「ヘラクライスト」を選択することにした訳です。当然、アンドラスのプレイヤーさんからは「12人の天使の力でパワーアップするんですよね」とツッコまれた訳ですが、実はこの時点では、全くそんなこと考えてませんでした。しかし、最終的には、その案をそのまま丸ごと採用することになるのですが、それはまだかなり先の話になります。

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最終更新:2013年08月26日 12:30