動脈硬化の退縮と再発予防

スタチンによる動脈硬化性疾患の予防の考え方を Pick up 。

LDL-Cの効果とそれ以外の効果を、どう考えていくのか・・・今後も気になる点です。

 

(ポイント)

日本でもLDL-Cが正常基準値以下で あっても、CHD予防を目的にDM合併脂質異常症には、

Pleiotropic effectを期待して、早期からスタチンを使って動脈硬化性疾患の予防を目指すそう。

 

動脈硬化性疾患とその背景

・日本人の動脈硬化性疾患の死亡率は増加の一途。

・増加の背景は、DMの急増。

・久山町研究で、40~79歳男性の約56%が耐糖能異常であった。

主要冠危険因子の高血圧、脂質異常症で、耐糖能異常の合併が多い。

PCI適応患者は高い糖尿病罹患率を示したと報告あり(畠添ら)。

・狭心症患者の66%は無症候性心筋虚血であったと報告あり(畠添ら)。

 

耐糖能異常を伴う動脈硬化性疾患への予防策

   ・ADAGL2009CVDの一次・二次予防目的に、DMと脂質異常症合併には積極的な脂質管理。

 

CVDの既往が無い時、以下でスタチン投与:LDL-C管理目標値<100mg/dL
  

  40歳以上+CHDリスク1つ以上有、 

  40歳未満+LDL-C100mg/dLor複数のCVDリスクを有。

 

CVDの既往の有りは、高用量スタチン投与:LDL-C管理目標値<70mg/dL

 

最大 忍容量のスタチン投与で管理目標値に達しない場合は、30-40%LDL-C低下を代替目標

 

HDL-C(高比重リポ蛋白)の管理目 標値、男性>40mg/dL・女性>50mg/dL

※ スタチンの安全性

・高用量・低用量・非投与で比較しても、癌発症の増加はない。

・横紋筋融解症についても、日本で使用可能なスタチンでの発症頻度は低い。

 

動脈硬化性疾患の若年化

・若年者の心筋梗塞の多くは、耐糖能障害HDL-C低値CRP高値と動脈硬化性疾患の家族歴、

    冠危険因子はないことも多い。

・未破裂不安定プラーク(Vulnerable Plaque)は血管内超音波(IVUS)・

   光干渉断層撮影(OCT)・冠動脈CTで診断・治療しない限り、心筋梗塞の予測や予防は難しい。

 

   急性冠症候群と不安定プラーク

急性冠症候群(ACS:Acute Coronary Syndrome):急性心筋梗塞+不安定狭心症

・ACS発症:動脈硬化進展→冠動脈血管内膜にプラーク(粥腫)形成→プラークの不安定化

   →線維性被膜のラプチャー(破綻)→粥腫露出による血栓形成  という段階を経る

・急激な冠動脈閉塞が起こった場合は急性心筋梗塞。

・不安定プラークは線維性被膜が薄く、粥腫のLipid Coreが大、三日月状、

   マクロファージ、Tリンパ球などの炎症性細胞の浸潤が強い。

・安定プラークは線維性被膜が厚く、高度な狭窄でも破綻しにくく、ACSを発症しにくい。

・ACSの発症予防には、不安定プラークの早期診断と治療が課題

・一方で、必ずしも不安定プラークを持つ症例でACSを発症するのではない。

・ACSの発症には全身の炎症や易血栓性の血液性状も関与。

 

   動脈硬化性疾患における炎症の意義

・動脈硬化性疾患は、血管壁の炎症過程を基盤に進行していく慢性疾患。

・冠危険因子(喫煙・糖尿病・高血圧・脂質異常症など)は催炎症作用を有す。

・冠危険因子は全身性炎症反応を惹起して局所炎症を亢進させ、動脈硬化を促進。

・炎症の病態評価には、血中炎症性マーカー(CRP・MMP)を検討。

CRP(Interleukin-6などの刺激で主に肝臓で産生)・・・国際標準化されていて、検討の中心

・MMP(Matrix Metalloproteinase:プラークラプチャー時に必要な蛋白分解酵素)

・動脈硬化の慢性炎症ではCRPは微増米国では、高感度CRP(hsCRP)で評価

  (本邦保険適応外)。

米国健常人でCRP<0.1mg/dL→0.1~0.3mg/dL→>0.3mg/dLとなるほど、CVDリスクが有意にup

Framingham Risk ScoreにCRPを加えてCVDイベント発症率を予測すると精度が上がる

LDL-C低値でもCRPが冠動脈硬化進行の独立した予測因子

・ACSでは、健常時や安定狭心症と比べてCRP高値は、不安定プラークor全身の炎症性活動指標

    となり、予後予測の指標となる。

・日本人ACSを対象の観察研究では、CRP≧0.3mg/dL群は未満群に比べて、

   プラークラプチャーしやすく、またプラークラプチャー箇所が増えるほどCRPは上昇

   (Sano Tら Circulation 2003)

 ・久山町研究でもhsCRP>0.102mg/dL群は非上昇群に比べて、

    14年後の冠疾患のHR 2.98(95%CI 1.53-5.82)、冠疾患の予測にhsCRP>0.1mg/dLが

     cut-off値となる可能性が示唆(Arima HらArterioscler Thromb Vasc Biol 2008)。

・CAG(冠動脈造影)によって診断された冠動脈に有意狭窄(≧75%)のある患者を3年間追跡した

  J-CAD study(Japanese Coronary Artery Disease Study:多施設大規模前向きコホート研究)

   では、冠動脈硬化症患者の危険因子や管理状況、転帰などを調査。

・対象患者はハイリスク患者が多く、従来の研究と比較して高いイベント発生率。

・JLIT研究(Japan Lipid Intervention Trial)のように危険因子数依存性にイベント発生率の増加は

   認められなかったが、危険因子数が多いハイリスク患者ではイベント発生率が増加

  (Circ J 2006)。

血管イベントに対するスタチンの多面的効果を調べたサブ解析では、スタチン使用群は非使用群

  に比べて有意にイベント発生率が低かった(RRR 25%,P=0.0016Fujita MらInt J Cardiol 2008)。

・冠血管イベント予測に対するCRPの効果について、サブ解析ではCRP≧0.1mg/dL群では

   非上昇群に比べて、有意にイベント発生率が高かった(HR 1.29,95%CI 1.14-1.46 )。

   さらにスタチン・ACE-I・ARB・βブロッカー・Ca拮抗薬などの薬剤使用の有無で層別化解析で、

   スタチンを除いた薬剤では、使用有無に関係なく、CRP≧0.1mg/dL群は非上昇群に比べて、

   イベント発生率は有意に高かった。しかし、スタチン使用群では、CRP≧0.1mg/dL群と非上昇群

   とのイベント発生率に差は無かった(Shimada Kら Circ J 2009)。

 

動脈硬化の退縮に向けてのスタチンのPleiotropic effect について

スタチンは脂質改善作用に加えて、抗炎症・抗酸化・血小板凝集抑制・プラーク安定化などの

    多面的な効果によって、動脈硬化の抑制が生じていると考えられている。

1.抗炎症作用

 ・CRPを下げる薬剤は、スタチン・ピオグリタゾン・EPA・ARB

 ・スタチンは多くのエビデンス有り。

心血管疾患や糖尿病の既往がなく、正常LDL-C(<130mg/dL)でhsCRP 高値(≧0.2mg/dL)を

   対象としたJUPITER試験では、主要初発心血管イベント(心筋梗塞+脳卒中+動脈血行再建+

  不安定狭心症での入院+心血管死)の発症率は、プラセボ群と比べてロスバスタチン群

  (20mg/日)で有意に減少した(HR 0.56,95%CI 0.46~0.69)。

→ 5年後の推定NNTは25人。

→ LDL-Cが正常でhsCRP高値の患者へのロスバスタチンによるCVDの一次予防効果が示唆。

→以前よりLDL-Cは50~60mg/dLで十分とされており、正常基準値が高い可能性。

→本試験2年未満(中央値)中、重篤な有害イベントは両群で差が無く、ロスバスタチン20mg/日

   によるLDL-Cを50mg/dL台の忍容性は示されたとしている。

   2.動脈硬化退縮

・動脈硬化退縮とCVD予防にはHDL-Cも含めた積極的脂質管理が重要(ARIC 、Framingham)

・心血管疾患の一次予防・二次予防においてもLDL-Cはより低いほど発症率が低下する。

  (lower is better  参考図1     参考図2

・LDL-C管理目標値への到達率は47.2%。

・最新のエビデンスから、LDL-C・HDL-C・CRP・頸動脈エコー・冠動脈CTなどを総合的に

    判断し、ストロングスタチンの高用量を用いて、積極的な脂質管理を行うことも

    多くなってきた。

・CVDは動脈硬化進展が引き起こし、その退縮が抑制する(von Birgelen C Circulation 2004)。

・IVUSでプラーク退縮を評価した4試験(REVERSAL・CAMELOT・ACTIVATE・ASTEROID)の

   結果から、プラークはLDL-C/HDL-C≦2.0で退縮に向かい、≦1.5でさらに顕著になる

Stephen J Nら JAMA 2007)。

ASTEROID試験では、PCI適応患者を対象にロスバスタチン40mg/日による動脈硬化の退縮効果

 (IVUSおよびQCAで判定)を検討した結果、LDL-Cを53.2%(平均60.8mg/dL)低下させ、

   HDL-Cは14.7%(平均49.0mg/dL)増加させ、LDL-C/HDL-C比は1.3で58.5%減少し、

   動脈硬化の退縮指標であるアテローム体積および最大病変部位のプラーク体積変化率を有意に

   減少(共にp<0.001)。

・これまでのスタチンの効果をみた試験では、動脈硬化の進展抑制効果を認めたものであったが、

    ASTEROID試験ではロスバスタチン40mg/日の効果として、LDL-Cの約50%低下とHDL-Cの

    約15%上昇と動脈硬化の退縮効果が観られた(Nissen Sら JAMA 2006)。

・日本の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007でも、HDL-Cの管理目標値を≧40mg/dLとし、

   HDL-Cへの対応を推奨。

・LDL-Cの管理目標値は、冠動脈疾患の一次予防では主要危険因子数〈0、1~2、≧3〉に応じて

  (<160mg/dL、<140mg/dL、<120mg/dL)とし、二次予防では<100mg/dLである。

LDL-C/HDL-C比は、日本人においても≦2.0でプラークは退縮に向かい、≦1.5でさらに顕著。

・LDL-C、HDL-C、LDL-C/HDL-C比を総合的に評価するのがよいと考えられている。

 

そういえば、うちもクレストールの処方増えているなぁぁ~~~

動脈硬化の進展抑制と退縮の違いも覚えておこう!

・進展抑制は、対照群に比べて動脈硬化の進展率が下がっていること。

・退縮は、動脈硬化が小さくなること

ヾ(*'-'*)

最終更新:2010年02月09日 14:56