がやがや……

男「なあ女友、ちょっといいか?」
女友「うん? どったの?」
男「あー……その、例のことなんだけど……」チラッ
女「…………む?」
女友「……あーはいはい、あれね。じゃあちょっと廊下に出ようか」
男「ああ」ガラガラッ
女「……むう」
友「おやおや、ご機嫌斜めのようですなあ、女ちゃん」
女「!!?!?」
友「あ、悪い悪い。別に驚かすつもりは無かったんだよ」
女「…………ふん」
友「ありゃ、完全に機嫌損ねちゃったか。じゃあしょうがない、あの二人の行動について色々知ってるんだけど、
  言ったら余計怒られちゃいそうだから止めておこう」
女「……」ピクッ
友「んじゃあ俺はこの辺で――」
女「待って」
友「ん? どうしたのかな、女ちゃん」
女「……一応、聞く」
友「んーそうかいそうかい、やっぱ気になるんだねぇ」
女「……女友が心配だから」
友「はいはい分かってますって」
女「女友が、心配だから」
友(意地張っちゃってまあ……)

友「実はさ、最近あの二人しょっちゅう会ってるみたいなんだよ、放課後」
女「……ふーん」
友「まあ会うって言っても夜の十時からだけど。しかも会う場所が男の一人暮らししてるアパート」
女「………………ふーん」
友(さっきより反応が遅い。結構動揺してるな)
女「……それで?」
友「ああっ。えっとぉ……それでさ、何で俺がそんな事知ってるかというと、ちょっと悪戯心で男の携帯開いたら
  なんと着信履歴には女友の名前がびっしり!」
女「…………番号、私知らない」
友「ん?」
女「なんでもない……それで?」
友「あ、ああ、それでなんとなく気になって開いたらさ、何かこう……怪しい文章が多いんだよな」
女「例えば?」
友「んー、例えば『この前のは気持ちよかった、ありがとう』とか、『もっと深くねじ込むようにした方がより効果的』だとか」
女「………………」
友(お、珍しく顔を赤らめてる)
女「…………それで?」
友「うん、それで俺も気になってこの間男の家にこっそり盗聴器を仕掛けたのだよ」
女「……犯罪」
友「真実を知るために多少は法に触れることはすべきだよ。で、さ」
女「?」
友「ここにその密会時の会話を記録したテープがあるんだけど、聞く?」
女「……ええ」
友「あっ、でも一つだけ注意! このテープは帰ってから聞くことをオススメするよ。出来れば……夜寝る前とか」
女「? ……分かった」

――女宅

女「……よし」カチッ

 ざーーーー……

男『――うおっ、女友それは……』
女「っ!」ドキドキ
女友『どう? こういうのいいでしょ』
男『あ、ああ……まさかそんな風なやり方があったとは。うっ、それいい』
女友『ふふっ、それだけじゃないわよ。ほら……』
男『ちょっ! それはマジでやばいって!』
女友『ほらほら、気持ちいいからって涎垂れてるわよ』
男『あ、悪い』
女友『ったくぅ……じゃあ今度はあんたの番ね』
男『おう……』

 がさごそ……

女「…………」
男『んじゃいくぞ。……よっ』
女友『……ん、そう……んんっ……男、大分上手になったじゃない』
男『そ、そうか?』
女友『ええ、最初の頃のへたくそ振りといったら……あ、そこそこ……』
男『ここか?』
女友『んっ、そこ……ああ、気持ちいい……ふあ……』

男『よし、それじゃ……』
女友『え? ……ッ! ちょっと、いきなり、そんな……』
男『ヘ? でもこうしたほうがいいって女友が』
女友『い、言ったけど! ちょっと強すぎ……』
男『あ、悪い……いまいち力加減が分からんくてな』
女友『まあそこら辺もやってるうちに分かってくるから。あせらず、じっくりね』
男『ああ……んじゃ改めて……』

 ガチッ

女「…………はうぅ」
女(男と女友……そんなとこまで……私、諦めた方が……でも……私だって、男のこと……せめて、本当の気持ちくらいは伝えたい……)
女「…………男……好き」
女「……」
女「……」
女「……」
女「…………はうううぅぅぅぅっ!!!」ジタバタジタバタジタバタッ
女(無理っ! 絶対無理! 独り言程度でこんな恥ずかしいのに、本人を目の前にしてこんなこと言えない!)
女「はうぅぅぅううぅ! ふゅぅうううぅうぅ!」ドタバタドタバタ
女妹「ん~……お姉ちゃんうるさい~」
女「!? ……ご、ごめん」
女妹「も~~…………むにゃむにゃ」(※女と女妹は同じ部屋に二段ベッドで寝ています。二段ベッドの上に女、下に女妹です)
女(…………明日、告白しよう。それが無意味だとしても、私の気持ちは知ってもらいたいから……)
女「でも…………あうぅぅぅう!」ボフッボフッボフッ
女妹「む~~……うるさ~い」

女「ご、ごめん」


 ――翌日、学校

女(よし、頑張れ私。うん、大丈夫……大丈夫……大丈夫……)
男「女、ノート貸してくれないか? ちょっと昨日やってなくって」
女(大丈夫……大丈夫……大丈夫……)
男「? 女? おーい……」
女(大丈夫……大丈夫……大丈夫……)
男「おいっ、女!」
女「?!?!!」ガタンッ!
男「うおっ!」
女「お、男……?」
男「お、おう……どうした、ぼーっとして」
女「…………別に」
男「そ、そうか」
女(……駄目だ。告白するのが恥ずかしいとか以前の問題で、男の前じゃ無愛想になっちゃう……ばか……)
女「……それで、何?」
男「ああ、ノート貸してくれ。昨日色々あって予習できなかったんだわ」
女「…………色々」
男「……? どうした?」
女「…………ん、ノート」グイッ
男「あ。えと……サンキュウ」
女「…………はあ」
男「ああっそうだ! 一つ言い忘れた」
女「!!? ……な、何?」
男「……ええっとだな…………今日、俺んち来ないか?」
女「………………へ?」
男「あ、いや、別にいやらしい気持ちで言ってるわけじゃなく! 純粋に女を招待したいというか……」
女「…………分かった」
男「え? い、いいのか?」
女「……ええ」
男「そ、そっか! じゃあ放課後に」
女「……分かった」
女(OK……しちゃった。でもこれは告白するチャンス。二人っきりなら、何とかなるかも……でも、何で? 女友は……)

 ――放課後、男宅

男「まあ上がってくれ。ちょっと散らかってるけど」
女「…………お邪魔します」
男「適当に座っててくれ、俺飲み物持ってくるから」
女「……ええ」
女(ここが……男の部屋。……男の匂いがする。ここで、毎晩男と女友は……って、何考えてるの私)
男「おまちどー。麦茶でいいよな」
女「っ…………ええ」
男「ふー……」
女(男が隣に座ってる……どうしよう、すごいドキドキする。……もっと近くに寄りたい。手を繋ぎたい。
  ギュって抱き締めたい。……キス、したい。……駄目っ、そんなことしたら男と女友を裏切ることに……)
男「女? どうした? 顔赤いけど……」ズイッ
女「っ!?」
女(……やめて。顔を近付けないで。優しくしないで。何で? 何でそんなに私に構うの? 女友と恋人なんでしょ?
  何で私をあなたの部屋に呼んだの? やめて、この匂い。男の匂い。胸の鼓動が五月蝿くなるの。頭がボーっとするの。
  体の芯から熱くなってくるの。私が、私じゃなくなってくるの。このままじゃ、私……)
男「女? 具合が悪いならそう――っ!」

女(我慢、できなくなる)

男「……」
女「……」
男「……お、女? ……どいてくれるか?」
女「……」
男「女、頼むって。この体勢マジでシャレに――」
女「――なの」
男「え?」






女「好き、なの……男のことが」


男「へ、え、えぇっ?!」
女「分かってる、こんなこと言われても困るってことは! でも、あなたが悪いのよ! あなたがそんなに優しいから!
  あなたがこんな私にも優しいから! だから……こんな……こんな想いしなきゃ……」
男「女……。別に困るなんて」
女「困るでしょ!? 女友とのことがあってこんなことしちゃいけないのは分かってるの! でも、でもぉ……男の部屋に入って、
  男の匂いがして、それで……それで……」
男「えっ、ちょ、ちょっと待て待て待て!」
女「何? 確かに初めてだけど、男にだったらあげても」
男「いやそんな爆弾発言しなくていいから! そうじゃなくて、女友がなんだって?」
女「? ……だから、女友と付き合ってるのにこんなことして悪いと――」
男「は? 付き合ってる? 誰と?」
女「……男と」
男「いや、ないないないない! 俺と女友が付き合ってるとか無いから! 誰だよそんな事言ったの」
女「……ヘ? でも……これ……」ごそごそ……
男「ん? テープレコーダー?」
女「……友からもらった」カチッ

男「――なるほどな」カチッ
女「……」
男「とりあえず友、次会ったときコロス」
女「……」
男「まあ、その、なんだ……この会話はだな、実は今日女を呼んだことに深ーく関係してんだよ」
女「……え?」
男「まあ、実際やった方が早いな」
女「へ……? っ!? ま、待って男! わ、私まだ心の準備が! こ、来ないでえええ! ――――――」

男「よっ……ほっ……はっ……」
女「ん…………もう少し右……」
男「はいよ……ここか?」
女「あぅ……うん、そこ…………はあー、唯のマッサージだったって……」
男「いやぁー。いつも女には学校でかなり世話になりっぱなしだったからさ。何かお返ししたいと思ってたんだよ。
  でも女の子にプレゼントなんてあげたことないから勝手が分からなかったんだよ。況してや普通の女の子とは
  一味も二味も違う女になんだから余計に分からん」
女「…………悪かったわね……あ、もう少しそこ強く」
男「へい。……いや、実際そうだし。でさ、女友に女に何あげたらいいか相談したんだよ。そしたら――」

女友『それなら、普段の疲れを取ってもらうってことでマッサージしてあげるってのは?』

男「――って言ってさ」
女「……ふーん。痛い、少し優しく」
男「こうか? ……んで、なんでも女友がマッサージがすごい上手いって言うんで、放課後に俺んちでレクチャーしてもらってたって訳」
女「……それは分かる。何度かマッサージしてもらったことがあるから。……次、腰の方もお願い」
男「ういうい。……そうだよな? 上手いよなあいつ。将来そういう仕事したら繁盛するな」
女「うん…………でも、何でそんな夜遅く?」
男「ああ、何か女友の入ってる部活に夜練が入ってたらしくてな、それが終わるまで特訓できないから
  結果的に夜も遅い時分になっちゃうんだよ」
女「…………男」
男「ん、どうした? 少し強かったか?」
女「それ……女友に利用されてる」
男「なぬっ?!」
女「男に教えるついでに自分にさせて夜練の疲れ取ってた……と思う」
男「マジかよ……」
女「…………マジ。そういう娘だから……」
男「はあ~……ま、そのおかげでお礼は出来るわけだし、結果オーライ」
女「……ポジティブ過ぎ」
男「いいんだよ。それに、こっちは予想外だったけど……女の本音も聞けたしな」
女「うぅ……~~~~~っ」バタバタバタバタ
男「痛い痛い痛い! 蹴るな! てゆうかうつ伏せの状態でどこからそんな威力が出るんだ」
女「…………ふん」
男「ありゃありゃ、いつものだんまりモードか」
女「……」
男「…………俺も」
女「?」
男「俺も好きだぞ、女の事」
女「!!?」
男「確かにさ、お前はいつも無愛想だし、話しかけてもほとんどだんまりだし、話したと思ったら一言二言だし、
  人付き合いがびっくりするほど下手くそだけどさ。でも、実はきちんと周りを見ていてみんなが気付かないようなこと気付いたり、
  知らないとこで人に親切にしてたり、それでお礼言われたら何でもないように装うけど本当は内心ドギマギしてて。
  そういういいとこや可愛いとことか一緒にいるうちに色々見えてきてさ、最初はいい友達になれるかな程度だったのが
  その内欲張って恋人になれたらいいなって思うようになってた。だからさ、女――」
女「……ぐすっ……ずぅっ……うぐぅ……」
男「ちょ!? 何泣いてんだよ!?」
女「……だ、ってぇ……ぜった、い……断られ、るとぉ……思っ、てた、からぁ……」
男「……はあ。ばーか、お前みたいないい女の告白、断るわけ無いだろ?」
女「うぅ…………ばかぁ……」ゲシ……ゲシ……
男「はは、さっきの蹴りより痛いな、こりゃ」

――数十分後

男「ほい、マッサージ終了」
女「……ありがとう」
男「ん、どう致しまして。ん~~~……もうこんな時間か。帰り送ってくよ」
女「…………あの」
男「ん? どした?」
女「二つ……お願いがある」
男「ああ。いいぞ、できる範囲なら何でも言っていいぞ」
女「………………ん」
男「携帯……?」
女「…………番号と、メアド。知らないから……」
男「……あー、そっか。そう言えば女と番号とメアド交換してないな。何か学校で会ってるときが充実してたからすっかり忘れてたな」
女「……こ、恋人同士になったし……その……」
男「はは、よしじゃあ交換するか」
女「…………うん」

男「よし、これでいつでも話せるな」
女「……うんっ」
男(……気のせいかな。何かいつもより女、すごく可愛く感じる。何か、表情が柔らかいというか、素直というか……)
女「…………でね? もう一つのお願い……」
男「え? あ、ああ、うん、何だ?」
女「…………その…………えと……」
男(……そんなに言い難い事なのか?)
女「…………あの、ね? ……今日、泊まっていきたい」
男「…………へ? え、えぇーとぉ? ……ここに?」
女「……」……こくん
男「……ま、マジで?」
女「…………だめ?」
男(っ!? そ、そんなベッドにちょこんって女の子座りして抱いてる枕で赤くなった顔隠しながら潤んだ目で俯き気味に
  見詰められらあああぁぁっ!)
男「お、親にはなんて――」
女「……友達の家に泊まるって言う」
男「……あ、明日学校――」
女「……明日は土曜で休み」
男「い、いや、さすがに駄目だろ!? そ、そんな男の家に泊まるとか……」
女「…………ばか……どんかん」
男「……へ?」
女「……そ、その…………だから……ね?」






女「………………しよ?」




 ――週明け、学校

友「おう男、おは――」
男「ハラワタをブチ撒けろォッ!!」
友「パピヨオオオオオンッ!?」ドシャアアアアアアッ!
男「ふぅーすっきり……」
友「すっきり……じゃねえ! 週明け早々なんでみぞおちにドロップキックを喰らわなならん!?」
男「ひとんちに盗聴器仕掛けた分際で何言ってやがる!」
友「俺達そんな関係じゃねえのかよ!?」
男「どんな関係だよそれ!」
女友「ホント、週明けだってのに元気ねあんた達」
女「……うるさい」
友「おお、二人ともおはよう」
男「おはよう、女、女友」
女友「はいおはよう」
女「……ん」
男「……」

女『……恋人になったこと、まだみんなに内緒にしたい。……だって、恥ずかしいし……女友とかそのことで茶化しそうだし……。
  だから、学校ではいつも通り……ね?』

友「ん? どうした男」
男「……んにゃ、なんでもねえ」
女友(……ふーん)キュピーン

女友「ねえ男、ちょっちいいかな?」
男「ん、なんだよ?」

 ガシッ

女友「で? 結局どうだったの、この間のは」
男「ん?」
女友「だぁーかぁーらぁー、金曜のことよ。誘ったんでしょ、女を」
男「……あー、はいはい」
女友「もう……あんたに秘伝のツボを教えたのは誰だと思ってんの? レッスン料として結果を聞くのは当然よねえ?」
男「レッスン料はそれでいいのか?」
女友「金よりもネタなの私は。で、どうだった?」
男「どうって……喜んでもらえたよ。ホント、ありがとな」
女友「…………え? それだけ?」
男「それだけ」
女友「そんな訳ないでしょおよぉ。その後何にも無かったの?」
男「その後、ねぇ…………………………ふふ」
女友「な、何いきなり笑ってんの、気持ち悪い」
男「いや? ただ自分しか知らないことっていうのは何か嬉しいなって」
女友「?」

 キーンコーンカーンコーン――

男「ほら、鐘鳴ったぞ。教室に入ろう」
女友「むぅー……なんかいい様に丸め込められたような……」
男「気のせいだよ」

男(そう……女のあんな表情を見られるのは、俺だけなんだよな)

 ヴゥゥゥゥゥゥゥ ヴゥゥゥゥゥゥゥ

男「ん? メール?」カパッ
男「……くくっ。なるほどね」チラッ
女「…………ふん」プイッ
男「くくくっ…………了解、っと」ピッ

 『件名:放課後さ……

  また男の家に行っていい? またマッサージして欲しくなっちゃった。
  あ、もちろん私も男をマッサージしてあげるから。



  ……だめ、かな?』




  ~完~

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最終更新:2006年12月01日 00:59