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323 :反応ないから落とそう :2006/11/21(火) 22:07:44.00 ID:q0JLildg0
僕は、女と無人の公園で話し合っていた。
「もう、やめてくれ」
「え……? 今、なんて言ったんですか……?」
「もう付きまとわないでくれって、言ったんだ」
「あ、あはは。冗談やめてくださいよ! 私は男さんを愛しているんですよ!? 男さんだって私を愛しているに決まってる!」
「自分が好きだから相手にも好きになってほしいだなんて、ただの脅迫だ」
 そんな考え方を許容できる人間が、この世にどれだけいるのだろう?
「ち、ちがうっ! お、男さんだって、わかってくれる! いつか、気づいてくれるって、思ってる!」



324 :宿屋の女中:2006/11/21(火) 22:08:08.87 ID:q0JLildg0
 半ば半狂乱のようになりながら、女は叫ぶ。
 その必死な声も、茜色の空に吸い込まれるように消えて行き、ただむなしい響きとなるだけだった。
「その為に、嫌がらせを毎日続けるのか?」
「嫌がらせじゃありません! 私なりの愛情表現です! わ、私は。他に、愛し方を、知らないんですよぉっ!」
 そうなったのは、女さんの責任じゃないのかもしれないけれど。
「それでも……僕には、女を大事に思うことができないんだ」
「じゃ、じゃあ。男さんの大事な人って誰なんですか!? 大切な人って誰なんですか!?」
「幼や……家族ももちろん大切に思ってる。……だけど、君みたいな……狂った人は、受け入れられないんだ!」
「わ、私……狂ってませんよっ!! 私はただ自分の気持ちに正直なだけでっ……!」
「ごめん。もう話すこともないから」
 ゆっくりと、女さんに背を向ける。
「お、男さん、待って……待ってぇ!」
「…………」
 振り向かない。僕は、もう二度と女さんの方に、心も体も振り向かないと決めていた。
「ひ……あははは……うふふ……あははははははは……お、おとこさん、血、ほら、血が、だくだく、でちゃいましたよ?」
 ……大方、いつも懐に忍ばせている彫刻刀で、リストカットをしたのだろう。
「……救急車くらいは呼んどいてやるよ」
 歩みを止めないまま、振り向かないまま、携帯を取り出して、119の番号をプッシュする。
「あ……はは……ひ……ひっ……く……あははっ……!」
 狂ったような笑い声が、背中に届く。ここまで拒絶すれば、女もあきらめるだろう。
 僕は、そう思っていた。

「じゃあ……周りの人を順番に消していったら……いつか私が……大切な人になれますよね……?」
 そんな、女の呟きを、僕は聴いていなかったから。


325 :宿屋の女中:2006/11/21(火) 22:10:00.90 ID:q0JLildg0
「ただいま……」
「あら、お帰り。さっき幼ちゃんが来てたから、部屋に通しといたわよ?」
「わかった」
 母さんが言ったとおり、部屋には幼が来ていて、ベッドの上に寝そべりながら漫画を読んでいた。
「お前な、少しは遠慮ってもんを知らないのか?」
「いいじゃない。親しい仲に礼儀無しってね」
「……ま、いいけどな」
 僕は溜息をついて、勉強机から椅子を引き抜いて座る。
「……女さん、どうだった?」
 幼が上半身を起こして言った。
 幼は、僕が女さんと会っていたことを知っている。それはそうだ。女さんと会う前に、ケリをつけてくると話したのだから。
「はっきり、言ったよ。この上ないくらい。はっきりと。もう大丈夫だと思う」
「そっか……」
 幼も、ほっとしている。
 それはそうだろう。女の被害を受けてきたのは、幼も同様なのだ。


326 :宿屋の女中:2006/11/21(火) 22:10:29.17 ID:q0JLildg0
「え……?」
「どうした?」
「今、窓の下に女さんが……」
「!?」
 咄嗟に窓から外を見る……が。
「誰もいないぞ……?」
「……気のせいだったかな?」
「多分、そうだよ」
 それに、女は今ごろ病院にいるはずだし。
「そっか……じゃ、さ。久しぶりに、しよ?」
 幼が、猫のように甘えた声をだして、僕をとろんとした目つきで見つめてくる。
「…………大きい声、出すなよ。親いるんだし」
「うん♪」

バンッ!!!

「!!」
 ……何かが、窓を叩いたが。その犯人らしき姿は何も無い。
「風、かな」
「多分……」




327 :宿屋の女中:2006/11/21(火) 22:11:17.80 ID:q0JLildg0
翌朝。
「つ……首いて……」
 窓から差し込む光で、目を覚ます。
 鳥のさえずりが聞こえてきそうなほど、爽やかな空。
「……もう、九時かよ」
 幼は、自分の方を見ないようにして、まだ寝ている。
「ほら、起きろよ幼。もう九時だぞ?」
 肩をゆすって、ころん、と。何か丸いものが転がった。
「…………え?」
 その丸いものには、目がついていて、鼻も口もついていて、髪の毛が生えていて。まるで、幼の顔みたい…………。
「え…………?」
 さっきまで揺すっていた、幼の体に目を遣ると。
 首から上が、切断されていた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
 ベッドから転がるようにして、部屋を出る。幼の死体も転げ落ちたが気にしている余裕などない!
 足がもつれそうになるほどのスピードで階段を駆け下り。
 ダイニングのドアを開こうとノブに手をやって……日常の音が聞こえた。
 トン、トン、トン。
 包丁の、音。
「……」
 よかった…………よかった?
 幼が死んでた、異常だ。もう、この家は普通じゃない気がする。
 異常な空間で、正常な音がするのはおかしいと、思う。
 だとすれば、異常が、正常な人間が中にいたとしたら?
「っ!!」
 ドアを開ける。
 ダイニングのテーブルには、父と母が座っていた。
 ただし、母が僕に対して挨拶をすることは決してない。父が新聞を読むこともない。
 だって、二人にも、首がなかったのだから。
 首は、テーブルの上の皿に、綺麗に添えられていたのだから!


328 :宿屋の女中:2006/11/21(火) 22:12:51.08 ID:q0JLildg0
「あら、男さん、ようやくお目覚めですか?」
「あ……ア……」
 喉が震えて、声がでない。自分の足で立ってはいられない。
「親御さんには、先にご挨拶を済ませてしまいましたよ? 二人とも、快く私達の交際を認めてくださいました♪」
「な、なに……」
「男さん、これでもまだ、私のこと……大切な人に、なりませんか?」
「は、は……はあ!?」
「だって……男さんの周囲の人が皆いなくなれば、私の順位が繰り上がりません?」
 違う。違う違う違う! そういう意味じゃない!
「……まあ、いいですよね? これからは、ずーーーーーーーーーっと、一緒なんですから」
「あははははははははははははははははっ!!!」
 女の哄笑が響く。
 くるくると、狂々と、世界が回る。
 僕はそのまま意識を失った。

「はっ……!!」
 ベッドの上で目を覚ます。
「夢…………?」
 そうだよな。あんなことが現実にありえるはずがない。現にこうして幼も隣に寝て……。
「ん……」
 え……? 幼の髪が、こんなにも……長い……?
「あら……」

「おはようございます、男さん♪」