85 :パート1:2006/11/20(月) 21:40:30.03 ID:1NOPTj+K0
女「ねぇ、男さん」
男「・・・何、かな」
女「キス、してください」

目をそっとつぶってそう言う女さんの表情は、色っぽいというより可愛らしいという表現がしっくりくる。
僕は彼女の頬に手を触れ、そっとキスをした。
それだけで唇を離そうとしたが、女さんの舌がそうさせてくれない。
僕は抵抗もせず、それを受け入れた。
何秒か何分か・・・とにかく少しの間そうしたあと、女さんは言った。

女「男さん・・・好きって、言ってくれますか?」

僕は、彼女が望んだとおり、答えを返す。頭に手を乗せて、そっと撫でてやりながら。

男「あぁ、好きだよ。愛してる」
女「・・・嬉しいっ」

心なしか潤んだ瞳で、女さんは僕の顔を見上げた。
そんな彼女をそっと抱きしめながら、僕は思う。

男(ごめん・・幼・・・・もう少しで終わるから)

この地獄が終わるまで、あと6時間。

続きます。



86 :パート2:2006/11/20(月) 21:41:16.62 ID:1NOPTj+K0
続き

女さんは前から僕に好意を持ってくれていた。
ただ、その好意の示し方が異常だったことは周りも認める事実だ。

『愛してます。大好きです。男さんになら私を全て捧げてもいいです。それくらい愛してます。
好き好き好き好き好き好き好き好き好き・・・・・・』

そんなラブレターをもらったこともあった。文字は赤黒いインクで書かれていたが、今思えばあれは女さんの血だったんだろうと予想できる。
プレゼントだ、と言われてもらった小箱の中に、女さんの髪の毛がつまっていたこともあった。
延々と「愛してる」と吹き込まれたMDをもらったこともあった。
自宅を出た瞬間から自宅に帰るまでの、僕の行動を記したノートを見せてもらったこともある。

女「だって男さんがやってること、全て知りたいんです」

ノートを見せてくれたとき、女さんはそう言って笑った。
背筋が凍りそうな、狂った笑みだった。

92 :パート3:2006/11/20(月) 21:54:05.19 ID:1NOPTj+K0
続き
いつのまにか、僕の自宅での行動も全て監視されるようになった。
どんなドラマが好きで、どんなCDを聞いていて、食事は何を食べて、何回トイレにいって、何時に寝て何時に起きるか。それすらも女さんは知っていた。
恥ずかしいことだけど、オナニーの回数や何をオカズにしているかまで知られてしまった。

女「そんなに1人でしたいんですか? 私だったらいつでもお相手しますよ?」

そう言って、可愛らしい紙袋をもらったが、中身は怖くて見ていない。
とにかく、そうまでされた僕は、心底参ってしまったのだ。

幼「女さんの望みは何?」
男「さぁ・・・僕がいればそれでいいって、いつも言ってるけど」
幼「なるほどね」
友「ヤバイ相手に見初められたもんだな、男」
男「ヤバい、で済んだらいいけどな」

耐え切れなくなった僕は、幼と友に相談を持ちかけた。
場所は友の家。ここなら、遊びに行ったことは分かっても、何を話したかまでは女さんに伝わらないだろう、との判断だ。

106 :パート4:2006/11/20(月) 22:16:23.95 ID:1NOPTj+K0
続き
友「幼と俺じゃ、その相手に太刀打ちできないだろうしなぁ」
幼「警察に言っても、動いてくれるまで時間かかるだろうし」
男「・・・だよな・・・せめて家の監視はやめてもらいたいんだけど・・・」
友「・・・ん? お前からそう言えば言うこと聞くんじゃないのか?」
男「いや。『好きな人の全てが知りたいだけなんです』って、その一点張りで・・・」
友「そうか・・・そうだよなぁ。言うこと聞くんだったらそれで収まってるもんな・・・っと、どうした幼?」

会話の途中から、幼はとても深刻な顔をして悩んでいた。
何かを思いついたはいいが、それを口には出せない。そんな顔だ。

友「何でも言ってみろよ。解決の糸口にはなるかもしれないぜ?」
幼「う・・・うん・・・あのさ、友。ちょっと男と2人で話しさせてくれない?」
友「おう、いいぜ。ついでにジュースでも取ってくる」
男「悪いな・・・」
友「気にすんな」

幼と2人になり、どことなく気まずい雰囲気になる。

男「・・・どした?」
幼「・・・・あのね、1つだけ思いついたことがあるの」
男「うん」
幼「だけどそれ・・・男も嫌だろうし、アタシもすごく嫌なの・・・上手く行くかも分からないし」
男「そっか・・・それってどんなこと?」

108 :パート5:2006/11/20(月) 22:17:27.61 ID:1NOPTj+K0
続き
すると幼はいきなり僕に抱きつき、それから言った。

幼「男・・・ごめん、アタシ、アンタのこと大好き」

僕はその場でフリーズした。

幼「こんなときに言うべきことじゃないけど、今じゃないと言えないと思って・・・ごめん」
男「いや・・・ちょっとびっくりしたけど・・・」
幼「あのね、アタシ、ホントに好きなの、男のこと。だからホントならしてほしくないんだけど・・・」
男「うん」

僕はそこで作戦の趣旨を聞いた。
無茶がありそうだったけど、やってみる価値がないとはいえなかった。
全てを話し終えた幼はそっと僕から離れ、目をそらした。

幼「・・・ごめん」
男「何でお前が謝るんだよ。むしろ嬉しいよ」
幼「えっ?」
男「うん・・・あのさ、幼が言ってくれた、好きっていう気持ち、まだ完全に受け止められてないけど」
幼「うん」
男「女さんのこと片付いたら・・・2人で遊びに行こうか」
幼「・・・いいの?」
男「うん・・・だからそんな泣きそうな顔するなよ」
幼「・・・うん」

泣きそうというか、幼は実際に泣いていた。僕は幼の涙を手で拭ってやりながら言った。

男「大丈夫、上手くやってみせるから。だからデートプランは任せたからな」


109 :パート6:2006/11/20(月) 22:18:09.87 ID:1NOPTj+K0
続き
ここで幼は耐え切れなくなったらしい。急に立ちあがると部屋を出て、どこかへ行った。多分トイレにでも駆け込んで、びーびー泣いているに違いない。

友「幼のヤツ、どうしたんだよ。目にゴミが・・・とか言ってたけど」
男「気にすんな。いつものことさ」
友「ふーん」

落ち着いた幼が戻ってきた後、僕らは作戦を練り上げた。友も初めは驚いていたものの、作戦に協力してくれることになった。

友「男、お前、無事で帰ってこいよ」
男「んなオーバーな。戦争に行くんじゃないんだから」
幼「でも、気をつけてね」
男「もちろん」

そうして別れた次の日、僕らは作戦を決行した。

118 :パート7:2006/11/20(月) 22:39:33.18 ID:1NOPTj+K0
続き
女「男さん、おはようございます。今日はいい天気ですよ。おでかけしないともったいないくらいですよ」

午前9時。女さんが僕の家に来たことで作戦はスタートした。

男「・・・おはよう」
女「あれ? 今日はやけに素直ですねぇ。私のこと、やっと好きになってくれました?」

頷きたくはない。だけど、ここで我慢しないと全てがパーになる。

男「実は、そうなんだ。好きだよ」
女「うふふふ、ホントですか?」
男「本当だよ。1日ずっと同じ部屋で、女さんのことを見ていたいくらい」

女さんの顔に浮かんでいた、薄っぺらな笑顔が消えた。

女「ホント、ですね・・・?」
男「何度言ったら信じてくれるのかな。本当だよ」
女「・・・良かった」
男「え?」
女「男さんのこと、やっと独り占めできるんですね・・・」

女さんは優しく僕に体を預けて、本当に良かった、と言った。
とても優しい声音で、これであの異常な執着心がなければ間違いなくモテるだろうに、と思う。

女「じゃあ、今日1日何をしましょうか?」

爽やかな表情で女さんは言った。その顔がとても眩しく、そしてとても魅力的に見えた。


119 :パート8:2006/11/20(月) 22:40:32.76 ID:1NOPTj+K0
続き
部屋で人生ゲームをしたり、家にあったDVDを見たり、一緒にお昼を作ったり、少し昼寝したり、
トランプをしたりして、僕らは一緒の時間を過ごした。
今まで女さんの異常な部分ばかり見てきたけど、こうして一緒にいればなんてことはない、普通の女の子だということに、僕は今更気づいた。
まぁ、部屋に落ちていた僕の髪の毛を拾い集めたり、僕の服のにおいをかいだり、制服を勝手に着ていたり・・・
っていう部分は、やっぱり女さんだと思ったけれど。

女「ねぇ、男さん」
男「・・・何、かな」
女「キス、してください」

空がオレンジ色になったころ、女さんはそう言って目を閉じた。
あぁ、やっぱり来たな、というのが僕の感想だった。でもここで逆らっちゃいけない。
作戦の趣旨はそこにある。つまり、1日一緒に過ごして、女さんの気持ちを満たしたところで、これからはこんなことしないで欲しい、ということをオブラートに包んで話す。それが今回の作戦だ。
無茶な作戦で、しかも上手く聞き分けてくれる可能性は低いけど、僕はこれに掛けるしかなかったのだ。



120 :パート9:2006/11/20(月) 22:42:35.91 ID:1NOPTj+K0
続き
女「男さん・・・好きって、言ってくれますか?」
男「・・・・・・あぁ、好きだよ。愛してる」
女「・・・嬉しいっ」

僕は女さんを抱きしめ、時計を見る。

この地獄が終わるまで、あと6時間。
6時間経って―つまり午前0時を回って、もし家から女さんが出てこなかったときには、友と幼が家の中に入ってきてくれる算段になっている。
あと6時間もあってこの状況・・・か。

男「マズいな・・・」
女「え? どうしたんですか、男さん」
男「あ・・・いや・・・・」
女「・・・あっ、ごめんなさい気づかなくて。そろそろお夕飯にしましょうか」
男「ん、あぁごめんね・・・実ははらペコなんだ」
女「うふふふ、そうですよね。せっかくですから、男さんの好きなハンバーグにしましょうか」
男「うん、ありがとう」

女さんがひとまず傍を離れてくれたことで、僕は安心して思わずため息をこぼした。
女さんの言うことを聞くとはいえ、さすがに体の関係を持つのはためらわれる。


121 :パート10:2006/11/20(月) 22:43:11.17 ID:1NOPTj+K0
続き

女「男さーん、ごめんなさい卵ってどこに入ってますかー?」

女さんに呼ばれた僕は、キッチンへ向かおうと1歩踏み出した。
すると急に体のバランスが取れなくなり、僕はその場に倒れこむ。
目は開けているが、視界がどんどんと狭くなっていく。

(何だこれ・・・・もしかして・・・毒・・じゃ)

僕の意識はそこで途切れた。

141 :パート11:2006/11/20(月) 23:15:30.86 ID:1NOPTj+K0
続き
しばらくして目を覚ますと、不気味な笑顔を浮かべた女さんが目の前にいた。
どうやら僕はベッドに寝かされているらしい。

女「うふふふふ、男さんたら、嘘ついてもバレバレなんですよ?
  まぁ、そこがまた可愛いんですけどね」
男「・・・・」

僕は答えない。いや、答えられないのだ。
予想でしかないけど、多分キスをする前に、女さんが唇にしびれ薬でも塗っていたんだろう。
僕は必死に目線でやめるように訴えるが、女さんは悲しげに呟いた。

女「男さんの言葉は、全部嘘だったんですよね」
男「・・・」
女「本当はするつもりなかったんですけど・・・ごめんなさい、やめられないんです、もう」

女さんの手にはハサミが。そしてその後ろにはナイフやら包丁やらが見えている。
やめろ、その一言を叫ぶことさえ、僕はできなかった。

女「大丈夫ですよ、私の中でずっと生き続けてください」

      • ほのぼのレスが多い中、空気壊してすみませんwww


142 :パート12:2006/11/20(月) 23:16:06.41 ID:1NOPTj+K0
続き
―――その頃、幼と友は。

幼「大丈夫かな、男・・・」
友「大丈夫だろ。女さんだって、むやみやたらに手出ししないだろうし、男が傍にいれば」
幼「・・・やっぱり、エッチくらいしちゃうのかなぁ」
友「いやぁ・・・それはさすがにないんじゃ・・・」

約束の午前0時まで、あと30分を切っている。未だに女さんが男の部屋から出てくる様子はない。
あと30分経って、女さんが出てこなくて、アタシと友が家に行ったら男が・・・・。
さっきから、嫌な予感がする。アタシは勘が鋭いほうだけど、今だけは、この勘が外れることをただ祈った。
と、その時だ。

友「おい、幼! 誰か出てきたぞ」
幼「えっ?」
友「行ってみるか」
幼「うん」

アタシと友は男の家の傍まで駆け寄った。するとそこを女さんが通りかかった。



143 :パート13:2006/11/20(月) 23:16:45.07 ID:1NOPTj+K0
続き

女「あら、幼さん?」
幼「お、女さん・・・」
女「どうしたんですか? こんな時間に」
友「いやぁ、塾が伸びちゃってさ・・・女さんは?」
女「あぁ・・・私はこれを・・・・」

女さんはそう言って、次の瞬間、友にそれを刺した。

友「!?」
幼「友!」
女「あなたたちがグルだったんですね? でも、もう邪魔はさせませんよ」
友「お・・まえ・・・」
女「・・さっさと死んでください、私と男さんとの時間が少なくなっちゃいますから」

女さんがそれ―よく見るとそれは包丁だった―友に深く突き刺す。
友は口から血を吐いて、そして動かなくなった。

幼「友! 友、友・・ねぇ! 返事してよ友!」

倒れた友に声をかけるが、友はもう返事をしてくれない。

女「あははっ、邪魔者を消すって楽しいですね!」
幼「アンタ・・・狂ってる・・・・」
女「なんとでも言ってください、私はただ、男さんを愛してるだけですから」

アタシはそれ以上動けなかった。ただ、胸の辺りに鋭い痛みを感じて倒れこむ。
女さんはさして興味もなさそうにアタシを一瞥し、そして男の家へ戻っていった。


144 :パート14:2006/11/20(月) 23:17:23.06 ID:1NOPTj+K0
続き

女「ただいま帰りました、男さん」
男「・・・・」
女「ふふふ、そんな目で見ないで下さい。残したりしませんから」
男「・・・・」
女「男さんの血、男さんの毛、男さんの内臓、男さんの爪、男さんの皮膚・・・食べ終えるまでちょっと時間
掛かりますけど、それはしょうがないですよね」
男「・・・・」
女「・・・あぁ、私、すごくすごく幸せですよ、男さん」

部屋はあたり一面に血液が飛び散っていた。
その中心で、女は我を忘れたかのように男の死体に貪りついてる。
体中を血で染めて、女はそれでも微笑むのをやめない。

女「うふふ・・・あは、あははははははは!!」



うし、終わった。お疲れ。

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最終更新:2006年11月21日 13:14