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「あなたが好きです」
その手紙はこんな言葉から始まった。
ゲタ箱の中のシンプルな封筒。その裏にはハートのシール。
これだけで100人中100人がラブレターだとわかるだろう。
B5の紙には僕への真摯な想いが、女の子らしい文字で綴られていた。
ふと差出人が気になり封筒を裏返す。そこにあった名前を見て僕は驚いた。
そこにあった名前は、クラスいちの美人の女さんのものだった。
物静かで、艶やかな長い髪が印象的な美人。彼女はクラスだけでなく学校中の男子の憧れだった。
ただ、なぜか浮いた話を聞いたことはなかったが。
その彼女が僕に好意を向けている。ふと、辺りを走り回りたくなる様な昂揚感が湧き上がってくる。
僕は逸る気持ちを押さえながら教室へと向かった。

「手紙、見たよ」
「ぁ・・・・・・・・・」
教室に着いた僕はすぐさま彼女の元へ向かい、告げた。
それを聞いた彼女は頬を赤く染めうつむいてしまった。
「その・・・すごく嬉しい。ありがとう」
「じゃあ・・・」
視線に微かな期待を載せ、彼女が見つめてくる。
僕は彼女の瞳を見つめながら答えた。
「うん。僕でよければ付き合ってください」
「・・・・はい」
彼女が淡く微笑む。僕は思わず、そのユリのような笑顔に見惚れてしまった・・・・




「おはようございます。今日はいい天気ですね。
5限に体育がありますが、体操服は持ってきましたか?」
僕と女さんが付き合い出した次の日にも、ゲタ箱には手紙が入っていた。
その内容は挨拶のような他愛ないものだった。
おそらく無口な彼女なりのコミュニケーションなのだろう。交換日記のようなそれが僕には無性に嬉しかった。
 手紙は次の日も、その次の日も入っていた。
彼女とはあまり学校では会話出来ないので、その他愛無い手紙が僕と彼女との大切な絆だった。
恋人らしいこともせず、ただ彼女の手紙を受け取り人目を忍んで微笑み合う。
そんな日々が2週間程続いた・・・・
 奇妙なことが起こったのはそれからしばらく経ってからだった。
「おはようございます。今日は小テストですね。男くんは大丈夫ですか?
 私は少し不安です・・・」
書き出しはいつも通りのものだった。ただ・・・
「ところで男くんはどんな音楽が好きですか?私は~~~~が好きです。趣味が合うといいのですが」
妙だった。~~~~はフィンランドのバンドでお世辞にもメジャーとは言えない。
それにあまり女の子向きのジャンルではないのだ。彼女が聴いているというのは驚きだった。
それだけじゃない。何よりも奇妙なのが僕はつい先日、そのバンドのCDを買ったのだ・・・
そのタイミングでこの手紙・・・それまで彼女が音楽の話を振ってくることなんかなかったのに・・・
この日から僕は彼女に対して微かな不安を覚えるようになった。




「あの女の子は誰ですか?」
それは彼女との交際が始まって1ヶ月程たった時のことだった。
まずいところを見られたと思う。別にやましいところは無いのだが・・・
僕は昨日、5年振りに遊びにきた従姉妹に町を案内していたのだ。
そこを見られてしまったらしい。
そう説明すると彼女は微笑みながら「そうですか」と言ってくれた。
よかった。安堵し彼女の傍を離れようとした瞬間、小さな声が耳に滑り込んできた
「でも・・・もうしないでくださいね・・・」

「昨日は大丈夫でしたか?あんな運転するなんて、許せません・・・」
おかしい。僕は彼女に対してそう思い始めていた。
昨日僕は隣街に買い物に出かけ、そこで車に轢かれかけたのだ。
だが当然彼女にそんなことは話していない。なぜ彼女はそれを知っているのだろうか・・・
一度問い詰めてみたが、柔らかく微笑むだけで答えてはくれなかった・・・
それからも、明らかに彼女が知るはずがない事が書かれた手紙が僕のゲタ箱に入っていた。
晩のおかずや昨日見たテレビ、友達とした雑談・・・
彼女への不安が恐怖に変わるにそう時間はかからなかった・・・




そうして夏休みがやってきた。
彼女の手紙はゲタ箱から僕の家の郵便受けへとその場所を変えた。
正直薄気味悪かったが、直接言うわけにもいかずその手紙は続いていた。
そんなある日、僕は泊りがけで従姉妹の家へと遊びに行くこととなった。
従姉妹の家はここから数百kmも離れた田舎だ。そこにいけばあの薄気味悪い手紙も忘れられるだろう。
僕はそう思い、従姉妹に家へ向かったのだが・・・


胸いっぱいに朝の清浄な空気を吸い込む。
身体にまとわりつく眠気が洗い流されてゆく。
昨日は楽しかった。
久しぶりの親戚の家で、かわいらしく成長した従姉妹とお互いの近況を語り合った。
おいしいご飯を食べ、ぐっすり眠り早起きする。健康的な生活がこれほど気持ちいいとは思わなかった。
朝刊を取りに行くなど何年ぶりだろうか・・・
郵便受けを開ける。中から、新聞と数枚のチラシが出てくる。
その中に。
あってはならないものがあった・・・
「男くん、そっちでの生活はどうですか?私は男くんがいなくて寂しいです。早く帰ってきてください・・・」
手の震えが止まらない。そんな・・・だって。僕は彼女に一言もここに来るなんて言わなかった!
なのに、なのにどうして!!
なんで彼女はここに僕がいる事を知ってるんだ!
なんで彼女はここの住所を知ってるんだ!!
いつのまにか、朝の清浄な空気は凍てつく冷気へと変わっていた・・・

気づかなければ良かったのに。僕は、さらに身も凍る戦慄の事実に気づいてしまった。
その手紙には
 切 手 が 、 無 か っ た の だ 
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああッ!!」