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 石油ストーブの仄かな赤を見ながら、白い息に気持ちが弾む。ただの寒い朝だけれど真冬に満たない冷たい空気のこの感じ、毎年この時期は嬉しくなる。
 台所のテーブルに着くと、あたしは湯気の立つカップスープに持ち上げた。クルトンの歯ごたえに喉を通過していく柔らかく熱い液体。
 壁に掛けられたカレンダーを見ると今日は月曜日だと確認出来る。憂鬱な月曜日のはずなのに愉快な気分に満たされているのは、明日があたしの大事な日だから。
 階段から降りてくる足音、寒い寒いとハル姉がドアを開けて石油ストーブまで一直線に電光石火のスピードで移動した。
 ほんとっ寒がりね、猫みたい。

「おはよーアスカ~」
「おはよ。ねえ、ウチもコタツ買わない? 寒がりなハルヒお姉さまのためにさ」
「アスカは寒くないの?! 毎朝起きると氷河期に直面してるような寒さなのよ!」
「別にぃ~これぐらいへっちゃら。ハル姉は我慢が足りないの」
「なんですって!」

 寒くないならあんたの誕生日プレゼントはかき氷機にしてやるわよ!
 そう、来たる12月4日は眉目秀麗才色兼備のあたしがこの世に誕生した日。大好きなケーキ屋の誕生日ケーキだって予約済みだし、日曜日にパーティ用の買い出しもした。

 顔だけをこちらに向けてハル姉は口を尖らせぶぅたれた。体は依然として石油ストーブから離れようとはしない。なんだか笑ってしまう。

「そんなこと言ってぇ、日曜日に買ったあたしへのプレゼントはどうすんのよ」
「クーリングオフって手も有るのが日本よ、アスカ」
「はいはいハルヒお姉さまゴメンナサイね」
「朝っぱらから二人ともうるせぇですぅ~体力有り余った体育会系は汗臭くて困りますぅ~」

 いつの間にか下に降りてきた妹の翠星石こと翠が長い髪を揺らしながら台所を横断していく。紅茶のために適温な湯を沸かすのだ。

「聞き捨てならないわね翠! 麗しいお姉さまに向かってなんて口の聞き方なの!」
「はいはいハル姉ビークール、翠も寂しかったらそう言えば良いのに」
「……アス姉? どっかで笑いダケでも拾い喰いしたんじゃねえんですかぁ」
「どうしたのよあんただってここは怒ってもいい場面展開よ」
「別にぃ~」

 目をまあるくした翠もぽかんと見つめるハル姉もなんだか可笑しい。
 今日は怒る気がしないあたしはなんだか明日に向かって大人に近付いている感じで、尚のこと嬉しくなった。

 立ち上がってあたしの横に立ったハル姉が手をあたしの額に当てて首を傾げる。翠がその動作に気付いて用具棚を漁りだした。

「ハル姉、なによ」
「知恵熱でも出たのかと思って」
「そんなわけ……」
「はい、ハル姉体温計ですぅ~」
「サンキュー翠、とりあえず計らせてアスカ」
「ちょっとっ」
「う~ん少し上がり方早いかも」
「やっぱり~」

 二人して真面目な顔であたしの脇に挟んだ体温計の数値を見つめる。
 知恵熱が出たとかなんとか、このアスカ様を子供みたいに、頭が足りないバカシンジみたいに……っ。

「コラー! 黙って聞いてれば、なんなのその言い種! 人をなんだと思ってんのよ!」

「あ、大丈夫そうね」
「右に同じくですぅ~」

 二人はかみ殺しきれない笑みを浮かべて、もう興味が無くなったかのようにあたしに背を向けた。
 またヤカンの前に翠は戻っていき、ハル姉は自分のインスタントスープを棚から出す。
 憤りを持て余したあたしはカレンダーを見て、深呼吸をした。
 落ち着きなさい最高のエースパイロット。
 なんたって明日はあたしの誕生日、同じ誕生日のヤツに微笑みを浮かべられるぐらいの余裕、持ち合わせてやろうじゃないの!


END
結局当日はアスカはライオンと化して大暴走をしたのだが、それはまた別の話。