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「おはよーございます」
ミサトさんのヒソヒソ声が聞こえてくる。
「ただいま、午前の5時をまわったところです」
うっ、酒のニオイがカメラ越しにも伝わってくる・・・
「リポーターはわたくし、仕事で徹夜明けの葛城ミサトと」
真っ赤な顔をしてよく仕事で、だなんて言えるもんだ。尤も、飲むのも仕事のうちだといわれればそうなのかもしれないけどね。

俺はカメラをミサトさんの隣に振る。
「やっほー、鶴にゃんだよー♪朝はやっぱり気持ちいいねーっ!めがっさ最高っさ!」
腰に手を当て、最高の笑顔を向けてくれる鶴屋さん。朝陽に照らされた黒髪がお美しゅうございます。ていうか元気すぎ。
「鶴ちゃん、シーッ!この任務は迅速且つ隠密にこなさなきゃいけないんだから、抑えてね」
「ありゃりゃ。ごめんにょろ」
ミサトさんに怒られてしょんぼりしてる鶴屋さん。この人ほど隠密行動に向いてない人もいないと思うんだけどな。
一体どういう人選なんだ。人選といえば、どうして俺がここにいるのか。思い出すと気が重くなる。


俺が何故ここにいるかというと、それは3日前、自宅に突如として訪れた酒徒もとい、ミサトさんに事を発する。
いきなりのミサトさん訪問に喜んで迎え入れた俺。ミサトさんはこれを見てほしいと、俺に1枚のディスクを渡した。
唐突な展開に、多少混乱しながらも再生したディスクの中身は、俺の混乱をさらに強くするものだった。

真っ暗な背景に1人、こちらに向かって独特のポーズで座っているヒゲ面サングラスの男。うわ、シンジの親父さんじゃねーか!
「・・・・・・撮影を許可する」
そう言ったかと思うと、映像は途切れた。

「ア、アハハ・・・今のじゃわかんないと思うから、わたしから補足するわね?」
そんな感じでミサトさんから受けた説明を要約すると、こうだ。
最近、みんながなんだか弛んでる気がするから、危機意識をチェックしたい。
特に寝起きの反応を見たい。・・・なんだか願望のような気はするが、ともかくそういう事らしい。

「で、まずは3日後にアスカ達の家、翌週にレイ達の家に行くってワケ。
 司令にしてみれば、本命はレイ達の方ね。アスカの家で前例作っといて、ただの変態じゃない事にしたいのよ」
いややっぱどう考えても変態でしょ。
「万が一失敗したらしたで、アスカ達に変態呼ばわりされたり、訴えられるのはわたし達だけ。トカゲの尻尾ね。」
シナリオ通りってワケですか。ネルフってこんな事もしてるんですか?
「ん、ネルフつっても広いからね~。ま、寝起きドッキリなんて初めてだろうけど」
断れない・・・ですよね?
そう聞くと、ミサトさんは急に真顔になった。
「悪いけど。だからお父さんがネルフにいるあなたが選ばれたのよ」


「そしてカメラマンは、相田ケンスケ君。しっかり頼むわねん」
俺は黙ってわずかにカメラを縦に振った。こうなりゃヤケだ。
考えてみれば、これからこの美女2人と、美少女達の寝起きを拝めるんだ、こんなに嬉しい事はない。
相田ケンスケ、生まれて初めてのハーレム状態というやつだ。とことん楽しんでやる。


ついに来てしまった、3姉妹の家。扉の向こうは静まり返っている。当然だろう。
「じゃ~ん♪」
ミサトさんがなにやら鍵をとカードを取り出した。そうか、合鍵か。
「おっ、さすがミサトっち、プロの仕事だね~」
「まあね、ここの鍵は複製できないから、シンジ君に借りただけだけど」
げっ、シンジの奴、惣流んちの合鍵持ってやがるのか。ちくしょう、なんだか悔しい。
「それじゃ、いくわよん。静かにね?」
「おーけーさっ」
俺もうなずく。相田軍曹、ただいまより吶喊します!


中に入るとミサトさんが先頭で進んでいく。さすが元自衛官だ。動きに無駄がなく、静かだ。さくさく進んでいく。
ふと動きが止まった。そろそろと歩いていた俺と鶴屋さんが追いつくと、指を指示した。
この中で、誰かが寝ているらしい。ミサトさんはドアノブを音もなく下げ、ドアを押し開けた。


カバンの隣で、小さな女の子が眠っている。翠星石ちゃんだ。
そ~っと近づく。まるで人形のようだ・・・いや人形か。でも人形と言いきれないという事でもある。
人間のような人形、人形のような人間。ローゼンという人はすごいと改めて思う。
寝ていると可愛らしいもんだ。起きてると・・・いや言うまい。

「ウヒヒ、ほぉら、ひざまづいて靴を舐めるですぅ・・・」

3人の動きが止まった。起きたか?互いに目線をやり取りしながら、様子を窺う。
どうやら寝言のようだ。とんでもない寝言だな、前言撤回、寝てても怖い。


ここからはミサトさんの立てた作戦に基づいて行動していく。ただ単に寝起きを覗きに来たわけではない。
危機意識チェックこそが本来の目的なのだ。
第1段階。ミサトさんがポケットから缶を取り出す。そしてプルトップに指を掛け

プシュッ!ゴキュゴキュゴキュ・・・プハーッ!

すごい飲みっぷりだ。
「おぉー、すごいにょろ」
鶴屋さんも音を立てずに拍手している。
というわけで第1段階終了。
ミサトさんによるとこの音で起きるかどうかチェックしたいんだ、との事だけど・・・どう見ても飲みたいだけのような。

続いて第2段階。ミサトさんの合図で鶴屋さんが静かに取り出したのは、ボイスレコーダーだ。
中にはミサトさんの予想している、3姉妹の意中の人物の声が入っているそうだ。
ちなみに俺には録音の依頼はなかった。ちくしょう。
鶴屋さんがレコーダーを操作し、スピーカーを翠星石ちゃんの方向に向ける。

「こら性悪人形、翠星石!」

他の部屋に聞こえないように音量は控えめだ。しかし俺にもはっきり聞こえたくらいだから、翠星石ちゃんにも聞こえているだろう。
反応なし。ミサトさんの予想が外れたか?
ミサトさんが人差し指を立てる。もう1回だ。

「なあおい、本読んでやろうか?」
パチッ

こっちがビックリするくらいに、はっきりと目が開いた。優しい言葉だとこの反応の違い。これがツンデレってやつか?
「あれ?チビ人間?・・・へ?樽人間とゲラ人間?」
「誰がビール樽よっ」
ミサトさんが怒ってる。自爆ですよ、それ。
すかさず鶴屋さんが笑いをこらえながらも、翠星石ちゃんの耳元でフォローをする。なんて言ってごまかしてるんだろう。
「そ、それは面白そうです、翠星石も見てみたいですぅ」
無事に説得を終えたようだ。
「それにしても翠ちゃん、よっぽどジュン君に本を読んでほしいのね~」
「そ、それは・・・チビ人間だからとかじゃなくて、その、習慣で・・・」
「顔が赤いわよ?」
からかうミサトさんと赤くなって俯く翠星石ちゃん。
「プッ、クックック翠っちったら、面白すぎっさ」
そしてなんとかクスクス笑いに抑えている鶴屋さん。この人が一番きつそうだ。
「翠っちって呼ぶなです、ロボットみたいでイヤなんですぅ」
「ごめ、プックック・・・ね、寝起きドッキリって、プック、ほ、ホントに過酷な任務だね・・・」
そういう過酷さは鶴屋さんだけだと思う。


鶴屋さんの笑いが何とか小規模で収まって、翠星石ちゃんを加えた我々は、惣流の部屋へ。
俺にとってはここが本番だ。何せこれからも毎日顔を合わせるわけだから。
「わたしは同居した事があるから知ってるけど、アスカは寝起き悪いわよ、覚悟してね」
「起こされると殊更不機嫌になるですぅ」
「だいじょーぶだいじょーぶ、その時のために鶴にゃんがいるっさ」
なるほど、鶴屋さんなら多少の事は冗談で済ませられる魅力があるのかもしれない。

惣流はこちらに背を向けて眠っていた。顔が見えないのは惜しいようなホッとしたような。
部屋に入る前からエビチュ缶を取り出していたミサトさんが、早速第1段階を実行する。やっぱり飲みたいだけでしょ。

プシッ!ゴッキュゴッキュプハーッ!

なんかさっきと違う。
「大口飲みってやつだね、よほど口に合ってる飲み物じゃないとできないっさ」
まるで経験した事があるかのようにつぶやく鶴屋さん。その視線には尊敬の意が混じって来てる気がする。
鶴屋さんもこうなってしまうのか?俺はそれが心配だ。
「全く、そのうち樽のタガが外れても知らんです」
バカにしてんのか心配してんのかよくわからん事を言う翠星石ちゃん。
そして全く無反応の惣流。

第2段階へ移行だ。鶴屋さんがレコーダーを取り出す。
「これにチ、チビ人間の声が入ってた、ですか・・・」
さっきの事を思い出したのか、また赤くなってる翠星石ちゃん。俺の中で今日ポイント急上昇中だ。
ちなみに違う意味で赤くなってるミサトさんは、現在ポイント急降下中である。

「アスカ、ご飯だよ」
「うぅ~ん・・・」

なるほど、若干の反応ありと見るべきか。ミサトさんの指示で、もう1度。

「ア、アスカじゃないとダメなんだ・・・こ、この気持ちは、本物だと思うから」

いや~んな感じ!・・・なんとか口の外に出さずに飲み込んだ。よくこんなセリフを録音できるもんだ。
シンジめ、俺との差をそんなに広げて楽しいかよ。しかし、まだ続きがあった。

「これでいいですか?ミサトさん」
ガバッ
惣流が起きた。
「なによ、くっさいセリフ言わされてんじゃないわよっ!本気にしちゃっモガモガ・・・」
ミサトさんが口を押さえて、耳元では鶴屋さんがまた説得してる。なにげにいいコンビだ。
「ゲラ人間の説得にアス姉が応じんはずがないです」
そんなにすごいのか。確かに初めこそモガモガ言ってた惣流が、今は大人しくなっている。

「し、仕方ないわね、それでチャラにしたげる。ハル姉のも見たいしね」
惣流を手懐けるなんて、すごいぜ鶴屋さん。是非教えを請いたいもんだ。
「あ、そうだ。相田?」
唐突に名前を呼ばれてびっくりする俺。なんだよ。
「この事・・・他言無用よ?もししゃべったら」
俺だって命も世間体も惜しい。この事を口外するつもりはない。だからその手に持った時計を置いてくれ。
「あっそ。ならいいわ」
この件が外に出ると、俺も親父も路頭に迷うどころか下手すると消されるからな。


惣流はそれだけを確認すると途端に俺に対する興味をなくし、翠星石ちゃんにつっかかっていた。
「翠も覗きに参加するだなんて、アタシは姉として恥ずかしいわよ」
「ち、違うです・・・とも言い切れないのがもどかしいです・・・」
「プッ、翠っちかわいい、クックック」
「だから翠っちって呼ぶなですぅ」
「みんな静かにして。いよいよハルちゃんの部屋に行くわよ」
ヒソヒソ声でにぎわっていた室内が、ミサトさんの一喝で静まり返った。おぉ、かっこいい。酒クサイけど。


そしてこの家の長女、ハルヒさんの部屋にやってきた。
静かに歩くのも、もう慣れたもんだ。部屋の中に滑り込む。
ハルヒさんはお行儀よく仰向けで寝ていらっしゃる。いつものカチューシャをつけてないハルヒさんは珍しいな。
カメラ越しに目に焼き付けておこう。

それにしても、ところどころに女の子の部屋には似つかわしくない変なモンが置いてある気がする。
「お、わたしの山で出たオーパーツ、大事に置いてくれてるねっ、感心感心♪」
鶴屋さんてば、山をお持ちなんですか。この面子の中では笑い上戸以外ノーマルな人だと思ってたのに。
ひいてる俺の事はお構いなしに、早くもミサトさんはエビチュを開けようとしていた。

プシュッ、ゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュパァーッ

またなんか違うな。
「矢継ぎ早飲みにょろっ、息継ぎが難しくて、難易度がめがっさ高いっさ」
また何故か解説をしてくれる鶴屋さん・・・俺はノーマルに見えていた頃のあなたを忘れません。
「樽人間の飲み方は下品ですぅ」
「酒徒だからね、半分人間じゃないのよ」
ひどい言い草だと思いつつも、同意する部分もあるなあ。憧れのお姉さんだったのに。ちくしょう、見たくなかった。
当然ハルヒさんに反応などあるはずもなく、作戦は第2段階へ移った。

今度はどんなセリフなんだろう、覚悟しておかないと。いやんな感じ、と叫んでしまえば終わりだ。

「俺は、ポニーテール萌えなんだっ」

・・・なんだこりゃ。ハルヒさんはこんな事を言える人が好きなのか?だったらミリタリー萌えな俺にもチャンスがあるかもしれない。
そんな事を考えていると次が流れた。

「ハルヒ、お前にはまだ話す事がいっぱい残ってる気がするんだ。だから、目を覚ましてくれっ」
ニヘラ

カメラにははっきりと写ってた筈だ。今ちょっと笑った。ハルヒさんに似合わない緩んだ笑みだった。
「プッ、ハルにゃんてば、クックック」
鶴屋さんも気付いたらしく、ふきだしてる。
「あ~あ~ハル姉だらしないわね」
「妹として目も当てられないです」
おまえらも同じような感じだったんだぞ、なんて事は当然言えない。ヘタレとか言うな。


それにしても一瞬にやけただけで、起きる様子のないハルヒさん。
「ハルちゃんやるわね・・・第3シフト、開始。鶴ちゃん頼むわよ」
ミサトさんが静かに令を発する。カッコイイ時はカッコイイんだよな。顔が赤いけど。
「了解っさ」
鶴屋さんは腕をまくって、指をわきわき動かしている。俺は作戦の第3段階を思い出し、カメラを持つ腕に力を込めた。
要はくすぐり作戦だ。これで起きない人は眠り姫か酔っ払いくらいだろう。最終作戦といえる。
美女が美女をくすぐってくんづほぐれつ・・・なんというエロスだ!これはこっそり焼き増ししなくては・・・
俺がそんな事を考えていると、鶴屋さんはハルヒさんの布団の中に潜り込んでしまった。
くっ、その手があったか。これではエロスな映像は撮れない。

「キョンやめて、そんな急に・・・やだ」

時が止まった。
周りを窺うと、ミサトさんも惣流も翠星石ちゃんも呆けている。
俺は落ち着いて考える事にする。
今の声の主は誰だ?もちろんハルヒさんだ。めちゃくちゃ色っぽかったけど。
なぜあんなセリフを言ったのか?偶然そういう夢を見ていた、もしくは半覚醒状態での妄想。
つまり寝ぼけてキョンとかいう変な名前に襲われたと勘違いしたという事。そしてそれをそんなに拒んではいない色っぽい声。
キョンというのが一体なんなのかよくわからないが、羨ましい奴だというのは間違いない。

「あっはっはっはっ!」
ガバッと布団がめくれて、2人が出てきた。ハルヒさんじゃなくて鶴屋さんが1人笑っている。今まで溜め込んでいた分だろうか。
鶴屋さんのあまりの笑いっぷりに狼狽していたハルヒさんだが、笑い声がひと段落して落ち着いたのか、今度は急に警戒し始めた。
「ねえ、なんなの鶴屋さん・・・に葛城さん?なになに、アスカと翠もいるじゃない!」
名前を呼ばれていない事を俺は気にしない。ハルヒさんにとって普通の人間は興味の対象外らしいからだ。
俺はハルヒさんにノーマル人間認定された事になる。親父、普通に育ててくれてありがとう。息子は頑張ってるぜ。

鶴屋さんが例によって耳打ちを始めた。
ハルヒさんはアヒル口だったかと思うと顔を真っ赤にし、最後にはニヤニヤし始めた。
表情がころころ変わるところは惣流に似てるなあ。
「そういえばハル姉、目覚ましが壊れたって、言ってたわね」
「それでこんな事になったですか・・・ホントにハル姉はとんだお祭りヤローです」
妹達がつぶやく。なんで目覚ましが壊れてドッキリになるんだ?どういう事だ?

「そう、そんな面白そうな事してたの。当然、わたしも混ぜてもらえるんでしょうね?」
ものすごく希望に満ちた顔で言うハルヒさん。太陽のような笑顔というのはこの事か。少し見惚れてしまった。
「う~ん、ていうか有希ちゃん達の家のドッキリは、ハルちゃんに一任するわ」
腕を組んだまま、落ち着いた様子でとんでもない事を言い出す我らが総司令官。
「ちょっとミサト、どういう事?ネルフに映像を渡さなきゃいけないんでしょ?ミサトが関わらなくて大丈夫なの?」
惣流が言う。俺にもワケがわからない。ミサトさんは何を考えてるんだ?


「あのねえ、最初から映像を司令に渡すつもりなら、カメラの前でエビチュ飲んだりしないわ。」
「つまり、ミサトっちは初めからやる気、なかったって事っさ!」
「そゆ事。いくらなんでも乙女の寝起きなんか、人様に、しかもいい年したおっさんに見せるものじゃないもの」
ミサトさんと鶴屋さんが交互に説明してくれた。なんだ、そうなのか。ていうか俺は仲間ハズレだったのかよ。
「アハハ、キミのようなポジションは、いつでもめがっさ大事なんだよっ!」
よくわからないがなんとなく納得してしまった。やっぱり不思議な魅力だぜ、鶴屋さん。

「じゃ、じゃあ初めからやらなければよかったんじゃない!」
まだ食い下がる惣流。
「そうですぅ、これじゃ、翠星石達は樽人間にからかうネタを与えただけになるです」
「その通りよ?面白そうだからやったの。鶴ちゃんもね?そうそう、相田君はわたしが巻き込んだだけよん♪」
したり顔でミサトさんはそう宣言した。惣流と翠星石ちゃんは顔を赤くしたり青くしたりしている。大丈夫か?
「なんですってえぇぇ~~!」
「きいぃぃぃっ!悔しいですぅ!また樽人間に弱みを握られたですぅ」
大丈夫じゃなかったみたいだ。

「2人とも落ち着くっさ。約束は守るにょろ。それと相田君、ちょいとカメラを貸しとくれっ!」
断る理由などない。俺は鶴屋さんにカメラを渡した。
鶴屋さんはカメラからメモリーを取り出すと、ハルヒさんに渡した。
「これに全部入ってるからねっ、煮るなり焼くなり好きにしておくれっ」
そうか。渡しちまうのか。しかし俺の脳内メモリーには今日の出来事は厳重に保管されている。
特にハルヒさんの・・・
「この子が誰かにしゃべったりしないでしょうね?」
げ、気付かれたか。そんなに睨まないでください。視線だけで痛いです。
「大丈夫よ、この子は頭がいいから。喋ったらどうなるかくらい、想像できるわ。ね、相田君♪」
わかってますよミサトさん。むしろ誰にも話したくないくらい貴重な体験でした。

「わかった。葛城さんを信じるわ。そうと決まれば今度の休みに隣に仕掛けるわよ!アスカ、翠、鶴屋さん、作戦会議よ!」
寝起きとは思えないくらいの元気さで、ハルヒさんは早速ノートらしき物をベッドの上に広げて何かを書き込み始めた。
その周りに呼ばれた面々が座っていく。どうやら俺の仕事は終わったらしい。

「相田君、お疲れさまぁ、隠しててごみんね♪わたし達はお暇しましょうか」
ホントに疲れましたよ。
「あ、そうだミサト!」
部屋を出ようとするミサトさんを、惣流が呼び止めた。
「なぁに?」
「あれ、ちゃんともらえるんでしょうね!」
「樽人間、約束ですよ!」
「大丈夫にょろ、ちゃんと作らせてるはずっさ!」
「そうよ、葛城さんを信じましょ、それより誰の部屋から行くべきかしら、順番は大事よね・・・」
あれ?作らせてる?
「大丈夫だから。期待して待っててねん♪ほいじゃ、お邪魔しました~」
「べ、別に期待なんてしてないわよっ!」
「そうです、代償です、代償っ!」
「もらえるもんはもらっとくって事なんですっ!誤解しないでよっ、葛城さん!」
「わーい、3人とも反応がめがっさそっくりにょろ~!」
「「「どこが!」」ですぅ!」
うわ、すごい。これはさっさと退散した方がよさそうだ。


俺は嵐のような時間を過ごした3姉妹の家を出てから、わいてきた疑問をぶつけてみた。
「ネルフにはどう報告するんです?」
「ハルちゃんに気付かれて、計画を乗っ取られたって。それでなぜか上は納得するのよね~」
「なんでわかるんです?」
「さあ?ハルちゃんは只者じゃないから、ってとこかな?」
確かに只者じゃないとは思うけど・・・あのネルフが萎縮するほどなのか。
「それで惣流達には、ネタを提供してもらう替わりに何かあげるんですか?」
「ん?ああ・・・な・い・しょ♪」
唇に指を当てて微笑むミサトさん。憧れのお姉さんが帰って気がした。まだ少し酒クサいのが悔やまれる。

こうして俺の人生で今後体験しないであろう、早朝の冒険は終わりを告げた。


数日後、3姉妹の部屋から毎朝決まった時間にそれぞれ違う男の声が聞こえるようになった、らしい。
俺もアイドルの声で起こしてもらう目覚まし時計、応募してみるかな。