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 「クリスマスは騒がなきゃ嘘よね」
天上天下唯我独尊女涼宮ハルヒがそんな事を俺に言ってきたのは、
予想してなかったと言えば嘘になる。
こいつがクリスマスなんていう一大行事を見逃すはずが無いからな。
しかし24日、つまり前日にそんな言葉を聞くとは思わなかったね。
俺自身、こいつから何の話も出て来ないところを内心訝しがっていたのだが。
しかし決して期待していたわけではない、不気味だと感じていたのだということを付け加えておく。
ちなみに今は朝だ。朝っぱらに携帯が鳴って俺が嫌な予感を抱きながら
電話に出たところでハルヒが冒頭の言葉を吐いたという訳だ
また鍋パーティーでもするのかと俺が尋ねるとハルヒは例のアヒル口をしながら答える。

 「何言ってんの、そんなのつまんないじゃない!
 二回も同じことやってちゃ不思議に逃げられるわよ!」
そもそもクリスマス自体が年に一回必ず来る恒例行事ではないのか。
そんなツッコミを心の中でしながら俺は、じゃあどうするんだ、とハルヒに言う。

 「あたしの家で騒ぐのよ!」
…………………一瞬思考が停止した。ハルヒの家でだと?
 「そうよ!万が一予定があるとも知れないから、既にあんた以外に話はつけてるわ!」
なんだってお前は俺にばかり驚く話をするんだ。
というか俺の予定は考えなかったのか?
 「何言ってんの、あんた以上にクリスマスが暇そうな人間なんて他にいないわよ。
 それからSOS団以外にも、うちの妹達の知り合いも呼ぶから、きっと最高のクリスマスになるわよ!」
なんて言い草だこの野郎。悪いがおまえと関わってから俺は絶対常人の三倍は忙しい。
それにしても知り合いか…彼ら、彼女らとは何回か面識がある。
せっかくのクリスマスをこの傍若無人女の予定に上書きされた不幸に手を合わせずにはいられないね。

 「という事であんた明日あたしの家に来なさい!6時!遅れたら死刑!」
有無を言わせず一気に捲くし立てるハルヒ。
…こうなっては最早止める事が不可能という事は周知の事実だろ?
だからそれをわかっている俺が言う事は一つしか無いわけだ。
 「やれやれ、わかった。」

 「それでこそ雑用係よっ!明日は思いっきり働いてもらうからねっ!」
………前言撤回。俺は反論すべきだった、無駄とわかっていても。

ちなみにハルヒ曰く泊りがけでパーティだそうなので、親にも説明しておいた。
母親がニヤニヤしてたのが非常に不愉快だ。
妹もついていくとごねてたが、結局家で留守番させることになった。
まあそんなわけで、今俺はハルヒの家にいる訳だ。料理への期待も少なからず持ってな。

…しかし今俺がこの手に持つ皿の類はなんだろうね?

 「雑用係なんだから当然よ!他のみんなは7時に来ることになってんの、
  ちゃっちゃと運びなさい。」
おのれ。昼飯をわざわざ抜いて来たというのにこの扱いか。
何故に何も食わなかった、あの時の俺。

 「大変ねー、ま、頑張ってね。」
 「キョン人間は雑用してるのが一番似合うですぅ。」
二人共、なぜ手伝わん。俺が餓死しても構わんと言うのか。
後キョン人間と言うな。なんだその100万年前ぐらいに絶滅してそうな人種は。

 「こっちは色々とやることがあるのよ!今は確認してるの!翠は知らないけど」
 「翠星石だってやることも考えることもあるですう!」
わかったわかった。手伝いを所望しても無駄なようだな。

 「こーらキョン!話してないでちゃっちゃとしなさいよー!」
………はあ、やれやれ。今日も厄日になりそうだ。

…で、だ。ほぼ7時ピッタリに、他のSOS団員と、アスカちゃんと翠星石ちゃんの知り合いが来た訳だ。
…多いぞ。
 「パーティは大人数の方が楽しいに来まってるじゃない!!」
さいですか。

 「キョンくん今晩は。」
ああ、相変わらず麗しいですよ朝比奈さん。

 「………」
何も言わず5ミリほど会釈する。
おう長門。相変わらず制服か。

 「その様子ですと、大分苦労なされたようですね。」
やかましいぞ古泉。

 「あははっ!キョン君今日はめがっさよろしくねっ!」
どうも鶴屋さん。元気そうですね。

 「…………」
何も言わず2ミリほど会釈する。
レイ…さんか?一応アスカちゃんの同級生の筈だが、
なぜだか敬語で話さなければならないような強迫観念に襲われる。
長門の姉だしな。

 「キョンさん今晩は。」
今晩はルリちゃん。君も来てたのか。
「ええ、姉さん達が『ルリも来るべき』と言うので…」
…結構強引なとこあるなあの二人。

 「あ、今晩はキョンさん」
おうシンジ君。アスカちゃんに呼ばれたのか?
「あ、はい、『まさか来ないなんて言わないわよねー!?』とか言われて…」
…ハルヒそっくりだな、そういうとこ。

 「どうも。キョンさん。」
うっすジュン君。翠星石ちゃんが噂してたぞ。
「いきなり来いとか言われて…あの性悪人形…」
わかる、わかるぞその気持ち。

 「キョン君今晩は、ハルヒちゃんのお手伝い?」
ああアキトさん今晩は。ユリカさんは?
 「ユリカはちょっと艦長の仕事の方がね。せっかくプレゼント用意したんだけど」
幸せそうですね。

と、まあこんな感じのメンバーだ。
…しかし全員が漏れなく俺のことを「キョン」と呼ぶのは果たしてどういうことなんだろうね?
俺は全宇宙的に「キョン」なのか?ええくそいまいましい。
ええい誰も聞かないだろうが言ってやる。俺の本名は
 「じゃーーーーーーーーん!」
俺の思考は、例によってハルヒの声にかき消された。おのれハルヒ。
せっかく史上最大級の自己紹介をしようとしたのにとハルヒの方を振り向くと

サンタの格好をしたハルヒがいた。

ここは室内だからいいが、こんな格好でプレゼント配ってたら
ほぼ確実に凍死するであろうと言うような薄着の格好である。
俺は目を見開いてハルヒを見ていた。

 「ほら、あんた達も!」
ハルヒがそう言って、隠れている人を引っ張る。アスカちゃんと翠星石ちゃんだ。
アスカちゃんはハルヒと同じく薄着、
翠星石ちゃんは本家サンタの物を小さくしたようなモコモコしたサンタ服だ。

 「どう!似合うでしょ!やっぱりクリスマスったらサンタよねー!」
…正直、似合わんと言えば嘘になる。というか凄まじく似合っている。
 「え…」
ん。何、ちょっと待て、声にでてたか今の。おい、誰か拳銃を持ってきてくれ。
部屋全員の視線が俺に集まっている。見るな、見ないでくれ、見ないで下さいお願いします。

 「…と、当然よ!似合わないなんて言ったら獄門打ち首の刑なんだから!」
とんでもなく物騒な事を言うハルヒ。顔が赤いように見えたのは気のせいだ、きっと。

 「アスカ…その格好…」
 「違う!違うのよ!これはハル姉に無理矢理着せられたのよ!
 いい!別に私が望んで着てるわけじゃないのよ!私はこんなもん今すぐ脱ぎたいのよ!
 そ、それにプラグスーツよりはマシでしょ!あんなぴっちりした服よりはマシでそのあの」
 「似合ってる…」
 「なっ!?…と、当然よ!私に合わない服なんてないのよ!」
アスカちゃんの方ではそんなやりとりをしていた。仲いいなあの二人。

 「ちちちび人間!この格好を見て何か言う事はないですか!」
 「いや…まあ、似合ってるけど」
 「そそそそれでいーのです!いつもそれぐらい冴えてればいーのにです!」
 「何だとこの性悪人形!」
翠星石ちゃんの方からはそんなやり取り。仲がいいのか悪いのかわからんな。

 「では!来年は不思議な事が見つかるようにかんぱーーい!」
まあそんなこんなでパーティは始まった。
所狭しと並べられた料理を口に運んで行く。美味い。
俺が昼飯を抜いて来た事も考慮する点ではあるだろうが、それを抜きにしても美味い。
去年の鍋でも味わったが、ハルヒの料理のレベルは高い。
特に長門は凄い勢いだ。これは別に早食いじゃないんだが。

 「このスコーンは翠星石が作ったですぅ!」
と翠星石ちゃんが言った物を食う。これも美味い。
菓子料理人になれるな。


ケーキまで食っても、結局量が足りんと言うので、アキトさんがラーメンまで作る事になった。
屋台を経営しているだけはある。これまで食ってきたどのラーメンよりも美味い、これは。

 「ルリちゃん、美味しい?」
 「おいしいです。」
そんな話が聞こえる。いやこれは本当に美味い。

 「…すいませんアキトさん、ユリカさんも来てないし、ラーメンまで作らせることになって…」
 「いや、いいんだよ。皆おいしいって言ってくれてるから、作りがいがあるさ。
 特にルリちゃんのお姉さんは凄い勢いだし。」
 「すいません、大食いで…」
 「多く食べてくれる方が作る方としては嬉しいよ。…あ、ルリちゃんクリームついてる。」
そう言ってアキトさんがルリちゃんのほっぺのクリームを取った。
 「え?わ、あ、ありがとうございます…」
まるで親子だ。微笑ましいな。

 「やあ、楽しんでいますか?」
何の用だ古泉。
 「まあそう邪険にせず。珍しいと思いましてね。」
何がだ。
 「いえ、涼宮さんがあなたを買い出しの要員として使わなかったのが」
…まあ、俺もそれは少し不思議に思った。
そもそもクリスマスパーティの唐突な発表なんてやる意味がない。
しかも今日なんかは俺を雑用としてこき使いまくったくせにな。
 「僕が思うにですね、これはジンクスと言うやつですよ。」
何だそりゃ。
 「いえ、あなたは以前、クリスマスの買い出しに向かう中で事故を起こし、
 三日間昏倒したでしょう?」
あの三日の事か。悪いが俺はその点については全く覚えていないぞ。
 「まあ、ともかく買出しの途中であなたは事故に会いました。
 ですから涼宮さんは、今回はあなたを買い出しに連れて行かなかったのでしょう。」
………
 「あなたがまた倒れたりしたら嫌だ、とね。いや、羨ましいですね。」
やかましい。不愉快だ。どっか行け。
そう言うと、古泉は肩をすくめて俺から離れていった。

………さて、と俺は持ってきた自分の鞄からある物を取り出した。

 「朝比奈さん」 
俺は珍しくメイド服でない天使を呼ぶ。
 「はい?」
 「これ」
俺は鞄から取り出したぬいぐるみを朝比奈さんに渡した。
 「え?これ、くれるんですかあ?あ、ありがとうございますう」

ハルヒが俺のことを凝視する。
予想はしていたが、とっとと済ませないとまずいな。
鶴屋さん、これ。
 「おっ?あたしにもくれるのかいっ?ありがとねっ!キョン君太っ腹だねっ!」
鶴屋さんには櫛を渡した。
ハルヒはわなわな震えながら俺に視線を集中する。早くしなければ。
長門。
 「……………」
長門には文庫本。文芸部室にはないものを選んだが、もし読んでたらすまん。
 「ありがとう」
いつも通り、だがはっきりと長門は言った。

ハルヒの方を見る。さっきのレーザーカッターのような視線がうって変わって、
今度は無理矢理ひん曲げて作ったような無表情をしている。

 「おいハルヒ。」
 「…何よ?」
 「ほら。」
と、俺は小さく包装された箱を取り出し、ハルヒに渡した。
ハルヒはニヤリと笑い、その箱を開けようとした、が止めた。
 「何よ?」
 「まだ開けないでくれ。」
ハルヒは、まるでお年玉を貰ったそばから奪われた子供のような目をした。
 「何でよ?」
 「何でもだ。」
今ここで開けたら俺は恥ずかしいんだよ。
ハルヒはフン、と鼻を鳴らして箱を机に置いた。
若干頬に赤みが差してんのは絶対に気のせいだね。

 「アスカ、綾波…その…これ。」
見るとシンジ君もアスカちゃんとレイさんに何か渡していた。
考える事が似てるらしいな。
 「しっしかたないから有難く受け取ってやるわ!感謝しなさいよね!」
顔を真っ赤にしながらアスカちゃんが言う。
 「………ありがとう、碇君……」
レイさんは笑っていた。貴重な場面だ。

 「ちちちび人間!おめーも翠星石に何か渡すものはねーですか!」
 「あーいや、その…」
 「!…ないですか…?ベ、別にいいですよ…別に欲しかったわけでもないですし…」
翠星石ちゃんがうなだれる。
 「いや、あるにはあるんだ…けど、間に合わなくって…」
 「…?」
 「いや、服作ってたんだよ、お前らの。でも予想以上に時間掛かってさ…」
 「…!し、仕方ないですぅ。特別サービスで待っててやりますう!」
こっちの方もやることは一緒か。やれやれ。


食事も終わり、やっとみんなが床についた。
しかし俺はハルヒに、「起きてて」と言われたので未だに起きている。
というか一体いつまで起きてればいいのだハルヒよ。
眠気覚ましに素数でも数えたら更に眠くなった。
おお、やばい、どんどん眠くなって…
 「キョン」
うお、びっくりした。
やっとかと俺が起き上がると、ハルヒが物凄く近くにいた。何でこんなに近くにいるんだ
 「だって小声で喋らないと起きちゃうかもしれないじゃない」
それはそうだが、近すぎだ。
 「うるさいわね、いいから来なさい。」
半ばハルヒに引っ張られ、みんなが眠る寝室から離れる。

 「キョン」
寝室から離れ、ハルヒがこちらを振り向く。
 「はい。」
ハルヒが差し出してきたのは、綺麗に包装された箱。
正直、目を丸くしたね。
 「プレゼント。有難く受け取りなさい」
ハルヒはこちらの顔も見ようとせず、箱を持った手だけを俺に突きつける。
 「いーい?これはサンタの義務なんだからね。他に意味はないんだからね。」
俺だけに配るのが義務なのか、変わってるな。
 「中身、見ていいか?」
 「…別に、いいわよ。」
慎重に箱の包装を開ける。中から出てきたのはクッキーの詰め合わせだった。
 「あたしの御手製よ。感謝して食べることね。」
何故か口元が綻んだ。悟られないように顔を隠しながら、クッキーをまたしまう。

 「ハルヒ。」
 「何。」
 「ありがと、な。」
 「………ベ、別にいいわよ。義務なんだから」
ハルヒの顔が赤くなったように見えた。……多分これは気のせいじゃない。

 「キョ、キョン」
何だ。
 「あたしの方もさ…中身、見ていい?」
…いいぞ。

どうやらずっと持っていたらしい。
俺の渡した箱を取り出すと、急いでその包装を剥がし、中を見た。
何も言わない。何だ、不満だったか。
 「……………ありがと、キョン」
正直意外だったね、ハルヒが礼を言うとは。
なんだか気恥ずかしくなったから、その後はお互い何も言わずに、寝た。


翌朝、起きて来たハルヒの姿を見て、みんな一斉に俺の方を見た。
…ハルヒよ、何も朝一で付けずとも良かったんじゃないのか。
全員が注目するのが分かっていたから昨日の食卓で開けさせなかったと言うのに、
やれやれ。
…そして、皆微笑ましそうに俺とハルヒの両方を見比べるのはどうなんだろうね?
自分に迫撃弾でも撃ち込みたい気分になってくるのだが。


そんな視線を意にも介さず、
ハルヒは、100ワットの笑顔で、首に掛けたネックレスを弄んでいる―――――