ススキノハードボイルドナイト



題名:ススキノハードボイルドナイト
作者:東 直己
発行:寿郎社 2001.4.18 初版
価格:\1,800

 凄い本であるなあ、としみじみ&つらつら眺める。まずモノクロの陰の多い写真がいい。札幌在住の林直光というカメラマンの腕が実に冴えている。生々しさで。

 よくぞ、こんな本に印刷されるのを承諾したなあ、と思われるほどに怪しい人々や、すっかり躁病モードになっている酔っぱらいたち。毒々しいお水さんたちのケバイ笑い。そういう写真集に囲まれて、よりモノクロの哀愁を湛えたコラムが、一冊の分厚い本という音楽を奏でる。本当に怪しげな本だ。アングラ(いいなあ、この響き)関係の本かい、と言いたくなるような、しかしそれにしては立派な装丁の、本当に作りたくって作った本という、多くの仕事が結実したひとつのかたち。

 実は『すすきのバトルロイヤル』が北海道新聞連載コラムより70本を纏めた本家版であったのに対し、本家が捨てた残り150本を纏めたものがこれである。もちろんそれなりのニーズがあったからこそ生まれたコラム集……いいなあ、そういう本って。

 こちらはそれぞれに小テーマに分類されていて、その間をリアル極まりないススキノ裏写真みたいなページが真っ黒に彩る。凄いなあとつくづく思うのは、やはりススキノに群がる人間たち。酔っぱらいたち。いいなあとしみじみ思えるのは、酔いどれ世界に通う人間愛。東ハードボイルドに通底する人間の愚かさも滑稽さも暖かさもすべてここにある。

 冬は道が斜めに凍りついて酔うと相当に危ない街。吹雪の中で深夜ラーメン店にできる行列。客引きとケバくも魅力的なお水ギャル、お水おばさんが袖を引く交差点。明るくいつでも人間臭さが満載されている街。5年も続いたコラムをまとめれば、やはりそれはススキノに良く似た形になるのだな、とやけに納得の行く重厚な一冊なのであった。

(2004.1.31)
最終更新:2007年01月05日 02:17