本当はこの時期、森の中を通るこの道を歩くのは危険だと言われていたのだ。
 けれど僕が中学校から帰るのに、森をぐるりと回る道を通るのは明らかに遠回りで、他の時期には普通に通っていたこともあって軽い気持ちでその道に入った。
 森の中を二キロほど。未舗装の砂利道で、幅も狭く、乗用車が通れる程度。轍の間には草が茂っている。
 人気のない道だった。
 もちろんそれには理由がある。ある危険な生き物がいるのだ。
 けれど――僕は馴れた道を自転車で進みながら、それに出くわすことなど考えもしなかった。
「あっ!?」
 道の真ん中に立つ影に、反射的にブレーキをかける。急ブレーキに車輪がロックし、砂利で滑った僕は前のめりに転んでしまった。
 草地に手を着き、顔を上げた僕を見下ろす、彼女――。
 やや病的に白い肌、鋭利な印象の目元、深い森のような黒髪、赤い唇。細い喉もとに、白い肌の下に張り詰めた筋肉を備えた肩と二の腕と――豊満な乳房の頂上で控えめに主張している桜色。
 服は着ていない。しかし、服を必要とする場所はそれくらいだ。
 顔や肩、胸やお腹までは美しい女性のものだが、ヘソがあるはずの位置から下は昆虫の腹部。
 カマキリと人間が融合したのような生物だった。
 胸部と腹部の付け根あたりからカマキリの二対の脚が伸び、ほぼ直立して僕を見つめている。
 腕は肘から先がカマキリを象徴する鎌になっていて、腋を締めた姿勢――いつでも鎌を繰り出せるよう、構えていた。狩りの体勢と同じである。
 マンティネス。カマキリの女性――この森の食物連鎖の頂点に立つ蟲人。
 もちろん、その食物連鎖に人間は勘定に入ってない。……この時期を除いて。
 彼女たちの平均的な『全長』はおよそ130センチ。四足なので、頭の高さは1メートルほど。大型犬程度の大きさのはずだが、目の前で鎌を構えられ、見下ろされていると、自分よりもずっと大きく感じてしまう。
「ぁぅ……」
 漏れそうになった声を抑える。彼女たちとにらみ合いで大きな動作や音はご法度だ。たとえ人間でも、鹿やイタチと同じように反射的に捕らえて頭をかじられてしまう。
 と――マンティネスが動く。見えないほどのスピードで伸びた鎌がジャージの肩を引っ掛け、引き寄せられる。
 彼女に引き立てられ、膝立ちに。腰にも鎌を回され、ぐいと上半身が密着する。
 顔面数センチに迫る、整った綺麗なお姉さんの顔。
 口紅もつけてないはずなのに鮮やかな色の唇や柔らかそうな頬に視線が吸い寄せられるが、彼女の口の中には人間のような歯や舌の代わりに、肉食昆虫の大顎が隠されている。
 今だって軽く開いた口から、硬質な外骨格の一部が覗いている。あの大顎で、獲物の肉をむしり、骨を砕くのだ――。
 獲物。今の僕がまさにそうだ。恐怖に体が震え、呼吸が浅く、早くなる。
 だというのに――ジャージ越しに触れる彼女の乳房の感触、立ち上がってくる甘い匂いに、僕の下半身は充血し始めた。
 死が迫っているというのに――心臓の鼓動が、恐怖によるものなのか彼女の魅力によるものなのか、わからなくなっていく。
 ジャージのズボンを押し上げる肉棒がマンティネスの昆虫の腹に押し当たる。
 僕の顔をまじまじと見つめていた彼女は、腹部に当たった感触に反応したらしく、にやり、と頬を持ち上げた。
 笑っている――?

「痛ッ」
 腰に回されていた鎌に力がこもり、ジャージを引き裂かれる。布地を突き破っていた鎌の棘に、肌が浅く切り裂かれた。
 同時に下着も破り取られ、下半身丸出しの状態で地面に押し倒され、マンティネスは鎌で僕の太腿あたりを押さえつける。
 そして彼女の胸が固くなったままのペニスに押し当てられ、僕は彼女が何をしようとしているのかがわかった。
 発情期なのだ。
 マンティネス――カマキリの女性。その名の通り、同種に雄がいない。そのため、繁殖に必要な精子は、人間から奪わなければならないのだ。
 今の僕のように。
 マンティネスは人間は襲わない。ヒトとしての要素が共食いを避けていると言われているが、発情期だけは別だ。
 人間と見ればこうして捕まえて、男かどうか、射精できるのかを調べる。
 そして彼女の眼鏡にかなわない者――女性や子供、不能の男――は、産卵を控えた彼女たちにとって、上質な栄養源となる。
 彼女は僕が男だとわかった。今度は生殖可能かを調べるのだ。
 この、豊満な乳房で。
「ぅあぁ……!」
 雑誌のグラビアでも見たことのない大きさのおっぱいが、勃起した僕のペニスを挟み込む。
 マンティネスが肘で両乳房を圧迫し、押し下げるよう動かす。みっちりと吸い付いた肌に引っ張られた皮がむけ、亀頭がむき出しにされてしまう。
 すっぽりと包まれ、柔らかさと温かさ、押し返してくる弾力とともに、熱く湿ったヌメリを感じた。
 マンティネスの胸の谷間と乳首には、フェロモンの分泌腺がある。それがヌルヌルの粘液として乳房に包まれたペニスに塗りたくられているのだ。
「ッ――! はっあぁ……!」
 最初は先っぽが熱いような感じで、それが全体に、そして今までにないほど硬くなっているのがわかった。
 粘膜で吸収されたマンティネスのフェロモンは強力な媚薬だ。揺さぶり始めた乳房の中から響く粘音は、彼女から分泌されたものだけではない。
 じわじわと際限なく先走り汁が漏れている。
 ――き、気持ちいい……。
 大きなおっぱいに一番敏感なところを掌握されて、どんどん気持ちよくなっていく。
「あ、う。お姉さん……」
 快感に身を委ね、襲われたはずのマンティネスに甘えたくなった僕は、呆けた声を上げながら彼女の顔をのぞいた。
「ッ!」
 彼女の目は、獲物を見定めるような、捕食者の目つきだった。
 そうだ。これは僕が生殖できるかどうかのテストなんだ。彼女の気が済むまでに射精しなかったら、不能者と見なされて僕は食べられてしまう。
「ふぁ……早く、イかなきゃ――!」
 しかし、腰を動かそうと力をこめると、太腿を捕らえた鎌がグイと肌に食い込んだ。
 動くな――そう言ってるのだ。
「そんな、ちゃんとイけるから、気持ちよくて、もうすぐ――あ、あぁ……!」
 鎌で腰を封じられ自分で動けないまま、乳房の揺さぶりが刷り込む快感の中に、僕は男の証を放った。
 捕食者に対する恐怖と、ペニスに与えられた乳房の愛撫が一体になった快楽に、僕は鎌が食い込むのもかまわず腰を震わせてしまう。
 太腿が解放され、僕は草の上に仰向けにされる。
 でも解放されたのは一瞬だ。僕をまたぐように覆いかぶさったマンティネスは、僕の肩と首に鎌をまわす。
 胸元に引き寄せながら、僕の顔を見つめて、ニィ、と笑いかけた。
 それは変わらない、捕食者の笑み。
 捕らえた獲物をこれから味わう、喜びの笑みだ。
 僕は今の射精で、自分がおいしい獲物だと明かしてしまったのだ。
 放った精液は男の証ではなく、僕を食べてくださいという、屈服のサイン。

「あ、う……。お姉さん……」
 一度射精して萎えかけたペニスにうにうにと動く柔らかな何かが触れる。
 マンティネスの生殖器だ。彼女たちが男を受け入れる――いや、男を貪るための穴は腹部の先端にある。ようするに尻尾の先だ。
 顔に柔らかい乳房が押し付けられた。大きなおっぱいはたちまち僕の顔を包み、女性の匂いに鼻腔が満たされる。
 ぬめった感触はフェロモンを含んだ粘液だ。気化したそれの効果か、乳房に抱かれた感触のおかげか、僕は妙な安心感に捉われ、脱力してしまう。
 僕は顔を胸に抱かれる格好で、男根を生殖器に咥え込まれる。
 入り口は粘液で湿り、唇や舌が食べ物を口の奥に運ぶように柔肉が蠢き、柔らかくなったペニスでさえも関係なく、奥へと引き込んでいく。
「あぁ――。あったかい……。ふあぁ」
 柔らかい何かが敏感な所に絡みつき、撫で回し、締め付ける。瞬く間にペニスが硬くなり、射精するための状態になる――。
「あ、あぁ――!」
 ぬめった柔らかい肉が膨らんだ亀頭に絡まり、圧迫して蠕動する。
 容赦なく快楽を刷り込まれ、僕は耐えることなどできず精液を搾り出された。
「あッあッ、あぁぁッ」
 射精の最中も膣内の動きは続く。精液を吸い上げ、胎内へと。
 まるで食べられているみたいだ。いや、彼女にとって、捕食も生殖も同じことなのだ。
 捕まえたのが雄ならこうして交わり、そうでないなら、肉を貪る。
 大顎で頭をかじり、血を啜る代わりに、柔肉でペニスを咀嚼し、精液を搾り取る。
 どちらも命の営みに必要だという点は同じで、彼女にとっては僕も自分や子のための獲物でしかない――。
 乳房に埋もれた僕に、マンティネスがニィ、と笑う。僕を射精させ、精液を胎内に取り込んだことへの、悦びの笑み。
「うぅ、お姉さぁん……」
 彼女が悦んでくれてる。それが、なんだか嬉しい。
 獲物でもいいと思った。もっと、彼女を悦ばせたい。もっと精を捧げたい……。
 甘えるように、右手を彼女の乳房に近づける。
「うわっ」
 けれど、彼女の足が鋭く動き、僕の右手を打ち払うと手首を踏みつけて動きを封じた。
 ――獲物はおとなしく食べられなさい、とでも言うように、首を捕らえた鎌に力がこもってむっちりと乳房が顔面を圧迫する。
「むぐ……!」
 口と鼻をふさがれ、息ができない。谷間から分泌された粘液が頬でぬめり、わずかに開いた隙間から吸い込んだ空気は、フェロモンで飽和していた。
 女性のおっぱいに圧迫される興奮とフェロモンの効果に、股間がまた硬くなって膣の蠕動が再開される。
 苦しいのに気持ちいい。イジメられているのに嬉しい。もっと彼女に食べられたい。
 口を開けて舌を伸ばし、谷間にぬめる粘液を舐める。甘い味と熱い感覚が口いっぱいに広がって、飲み下すと熱が体中に広がっていく。
 ――もっと、もっと欲しい……。
 首を動かし、彼女の乳首を探る。唇に触れた乳首に吸い付き、舌を絡めた。
 甘く熱い粘液があふれ、フェロモンの効果で肉棒が痙攣する。
 膣の蠢きにたっぷりと精液を献上し、最後の一滴まで吸い上げられる。射精の快感に翻弄されながら、僕は彼女のおっぱいを吸い続けた。
 そうすれば、フェロモンの効果で、もっとたくさん精液を出せるからだ。
 懸命に乳房に吸い付く僕を見つめ、彼女は手首を踏みつけていた足を離す。
 僕は恐る恐る手を乳房に近づけ――右手がずぶずぶと柔らかな肉に埋まり、抜群の弾力と圧倒的な質量、夢中になる感触を堪能した。
 これは彼女からのご褒美だ。僕が従順に精を捧げる意思を示したことに、彼女は胸に触れることを許してくれたのだ。

 ご褒美はそれだけではなかった。
 今まで、肉棒を咥え込んで膣の蠕動だけで精を搾っていたマンティネスが、腹部を動かし始める。
 フェロモンで硬いままのペニスに、きつく締め付ける柔肉と彼女の腰の動きに貪られ、今まで以上の気持ちよさで射精に導かれた。
 射精の最中も彼女は腹部を上下させ、快感を送り込む。鼻をふさがない程度におっぱいを押し付け、満足げな笑みを向けてくれる。
 直接飲み込んでいるフェロモンのおかげでペニスは元気なまま。上下の運動と膣の締め付け、精液を吸い上げる蠕動に、ほとんど連続で次の射精が始まる。
「むぐ……! はふっ」
 激しい快感に一瞬乳首を放してしまう。
 ダメだ、おっぱいを吸わなきゃ、射精できない。お姉さんを悦ばせて上げられない……!
 慌てて乳首を咥えなおし、乳房を揉む手にも力をこめる。
 また、射精が始まる。どんどん絶頂のインターバルが短くなっている。気持ちいい。お姉さんが喜んでる。嬉しい。もっと射精してあげたい。もっと食べられたい――!
 彼女の膣は貪欲に僕のペニスを貪り、やがて射精が終わらくなった。


 どれくらいそうしていただろう。
 いつの間にか鎌から解放され、僕はお姉さんに抱きつくようにしておっぱいに吸い付いていた。
 ペニスも膣から抜かれており、フェロモンの影響で空射ちの射精を繰り返すだけで、もうお姉さんに精を捧げることができないことを示していた。
「あ……そんな」
 乳首を放してつぶやく。これじゃ、お姉さんに悦んで貰えない。食べてもらえない。
 お姉さんが僕から離れる。
 あなたはもう用なしよ、とでも言うように、冷たい目で見下ろして茂みの中に消えていく。
「ああっ、お姉さん……。まって、少ししたら、また出せるから……行かないでぇ……」
 追いかけようとしても手足がまるで利かない。腰がガクガクと震えるばかりで、立ち上がることさえもできないのだ。
 そして、なんとか動けるまで回復して、暗くなり始めた森を探しても、彼女を見つけることはできなかった。


 あれから三日経った。
 あれからマンティネスのことを詳しく調べた。
 彼女たちは一度に数十から、百近い卵を産む。当然、そのすべてが受精しなければならないのだが、一回の交尾で受精する卵はそう多くない。
 よって彼女たちはすべての卵に受精させるために、繰り返し男を襲って精を奪わなければならない。
 あの場所に行けば、あそこを縄張りにしているお姉さんに――男を待ち伏せているお姉さんに、また会える。
 そう思って僕はまたあの時の場所に自転車を走らせた。
 三日待ったのは、精巣に蓄えられる精液は三日でいっぱいになると聞いたからだ。出来るだけたくさんの精液をお姉さんに搾って欲しかったし、そのほうがお姉さんも悦ぶはずだからだ。
 そして――
「あぁ……お姉さぁん……」

 森の中、僕の姿を見つけてくれたお姉さんが近づいてくる。
 僕は服を脱ぎ捨て、裸になってお姉さんの胸に抱きついた。
 僕を受け止めたお姉さんは、そのまま地面に仰向けに押し倒し、あの、捕食者の笑みを向けてくれたのだ。
 ああ、悦んでくれてる。僕が従順にまた精を捧げに来たから、きっとご褒美をくれる。そう思って胸に触っても、やっぱり今度は叱られなかった。
 おっぱいに吸いつき、股間を膨らませる僕に、お姉さんは腹部の先端を押し当てる。
 これから、また食べてもらえる。
 そう思うとあっという間に射精してしまいそうになる。でも我慢しなきゃ。中に入れてくれるまでは――。
「うぐ、お姉さぁん……」
 亀頭と挿入口が擦れ、それだけの快感で三日間溜め込んだ精が暴発してしまう。
 ビクビクと腰が震え、入り口で放ってしまった。当然、飛び散った精液は彼女に食べてはもらえない――。
「ぅあぁ、ご、ごめんなさい、お姉さん……!」
 謝る僕に、しかしお姉さんは冷たい目で見つめると、僕の両手を足で踏みつけ、肩を鎌で引き寄せておっぱいを顔に押し付けた。
 息ができない。
 お仕置きだ。僕が勝手に射精してしまったから。
 酸欠の苦しさの中、ペニスが呑み込まれ、膣の蠕動が開始される。
 じわじわといたぶるような、それでいておっぱいの圧迫はまったく緩まない。射精するまで許さないのだ。
 許してもらわなきゃ……ちゃんと射精して……。
 窒息寸前のなか、僕は屈服の証を捧げ、少しだけ呼吸を許されたが、またおっぱいが顔を圧迫する。
 まだお仕置きは終わらない。
 けれど、おっぱいを押し付けるお姉さんが楽しそうに笑っている。
 悦んでいるのだ。そう思うと、息の苦しさも気持ちよさに変わってくる。おっぱいに自分から埋まり、僕はもっとお仕置きして、と主張する。
 そうして、僕はマンティネスのお姉さんに食べられ続けるのだ。


おわり

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最終更新:2010年07月17日 13:54