「……ただいま」
「あらおかえりなさい。今日も獲ってきたわねぇ。先にお風呂にする?」
「……腹が減った」
「そう、では今用意――」

 日が落ちかけて、森が闇に支配されそうになっていた時、俺の旦那の雪(ゆき)が帰ってきた。
 その手には雪が川で獲ってきた川魚が数匹。今日は焼き魚にでもしようかな。
 俺は化粧をし、女物の着物を着て、女の言葉で出迎える。
 そして無口な雪が黙ったまま、俺の唇を奪った。

「んっ……ちょっ……もう、黙っていきなりはやめてって言ってるはずでしょう?」
「……」

 刃物を持っているし危ないから雪の体を押して離れる。
 ていうか、男同士でなんて慣れちゃいるが好きにはなれない。
 向こうが俺を女だと思っていようが、雪の顔や容姿が俺なんかより女のようであってもだ。
 雪と初めて会った時、俺はこいつを女だと思った。
 だけど男らしい。俺と同じ、見た目は女そのものだが性別は男なんだとか。
 まぁ、それでもちゃんと男として生きてると聞いた。
 女として生きてきた俺なんかより全然真っ当な人生……いや狐正を送っている。

「座っててくださいな。お味噌汁の油揚げはたっぷり入れますから」
「……」

 魚を渡し、黙って俺の指示通りに動く雪。
 表情からは何も読み取れなかったが、その代わりしっかりとこいつの尻から生えている大きな尻尾が教えてくれた。
 雪の髪の毛と同じ白い体毛の尻尾が、ブンブン音を立てて振られている。
 やはり狐は油揚げが好物なのだと実感する瞬間だ。
 そう、俺が”嫁”として雇われたのはただの人間の家じゃない。
 山奥に住む、人に化ける”妖狐”の家である。

「せっちゃ~ん、おなかへった~」
「はいはい、もう少しですよ~」
「うぅ、じゃあまた寝てる……」

 不意に寝室の襖が開き、暗闇の中からまた狐が現れた。
 雪と同じ白い髪の毛と狐耳と尻尾を生やした、雌狐。
 名は菊さん。俺を雇った張本人。
 牛みたいに胸が大きくて常に衣服が乱れて、お色気全開なこの人は雪の姉で唯一の肉親らしい。
 菊さんは危なっかしく歩いて寝室へと戻っていった。

「……すまない」

 本当に申し訳なさそうに謝られた。
 別に怒っているわけじゃないが、こんな真剣に謝られたら許すしかないじゃないか。
 今日も朝から酒飲んでいたんだろう、襖開けた瞬間酒臭かったし。
 初めて会ったときも酔っていたから、別に気にせず味噌汁を味見した。
 雪の好物、油揚げたっぷりの味噌汁は今日も我ながら美味かった。
「あの……やめてもらえませんか?」
「雪が居ないときは男になっていいんだよぉ~?」
「お断りします。いいから離れてください、そんなところ触らないでください」

 俺は最近、家から少し離れた小さな山小屋で夜を過ごしている。
 理由は時期である。
 もうすぐ冬から春に移ろうとしているこの時期は狐の繁殖期で、発情する。
 当然妖孤もそうなのだ。この人の場合は年中発情しているけど。
 いい加減鬱陶しくなってきたから、菊さんを引き離す。
 彼女と距離を取り警戒する。少しでも油断したら……やられる。

「ねぇ、1回だけでいいからしましょうよぉ」
「それなら勝手にその辺の寝ている熊とやってください。朝まで帰ってこなくていいですから」
「あたしはせっちゃんとやりたいのよぉ」
「私はやりたくありません。明日も朝早いので寝かせ……」

 子供のように強請ってくる。
 俺が彼女に雇われてからほぼ毎晩このやり取りを繰り返している。
 いい加減学習して欲しい。
 そして、人の話を聞かないのも相変わらずだ。
 菊さんは人蹴りで俺の真上に跳んで来た。

「やられるっ……っ!」

 急激に俺と菊さんの距離が縮まる。
 回避できない……そう思って目を瞑って、反射的に両腕で防御する。

「ぺけっ!」

 目を瞑っているから視界は真っ暗。
 だけど、菊さんのマヌケな声とドサッと重いものが落ちる音がした。
 それと誰かもう1人の気配も感じる。
 恐る恐る、俺は目を開ける……まず目に映ったのは目の前で倒れている菊さん。

「菊さん!? ……あ、あなた……」

 それと、彼女の横に立っている雪の姿。
 どうやら彼のおかげで助かったらしい。
 無表情で気絶している菊さんを見下ろしている。
 まぁ、これもいつもの事なのだが……
 いつも俺が菊さんに性的に襲われそうになると、彼は助けてくれる。

「……すまない」

 いつの間にか、目の前の狐姉弟は消えていた。
 雪の声で小屋の入り口を見ると、気持ちよさそうに寝ている菊さんを背負った雪がいた。
 微妙に申し訳なさそうな声で俺に謝ってくる。
 笑顔で許す。菊さんは己の本能のままに動いているだけだし、もう慣れたし。
 戸を閉めて跳んでった雪を見て後、大きな欠伸が出た。
 恐らく安心感からだろう……明日も早いし、もう寝るとしよう……


 俺の朝は早い……ていうか雪の朝が早いから、妻役の俺も早く起きなくてはならない。
 俺だけぐーすか寝てたらなんか気まずいし。
 早く起きて、近くの井戸で顔を洗ってこようと体を起こした時、隣にいる存在に気がついた。

「……なぜ?」

 何故、菊さんが俺の横で俺と同じ布団の中で寝ているんだ……
 気持ちよさそうに寝息を立て、寝返りをうつと腰にしがみ付いてきた。
 離れないんですけど。
 なんかすごい力で締め付けられてるんですけど。

「ちょっと……起きてくださいよ」

 肩を軽く揺らしてみても菊さんは起きる気配すら見せない。
 やばい……俺のアレが元気になり始めた……
 菊さんは中身はどうしようもない淫乱狐だけど、外見は美しい雌狐だ。
 そんな人にこんなに密着されたら、男なら反応してしまう。
 勿論寝起きのある効果という事もあるが……

「菊さん、菊さんってば……」
「んっ……んんーッ……」

 さっきより少し強めに菊さんの肩を揺らしてみる。
 時々叩いてみたりすると、唸りながら俺を押し倒した。
 相手が寝ているとはいえ完全に不意を突かれた。
 それより、ますますやばい状況になってしまった。
 下を見ると、寝巻きが肌蹴てほぼ丸見えな菊さんの豊富な胸が……
 起き上がろうとしても、彼女の手が俺の腕をがっちり押さえている。
 しかも、あれ……なんか顔が近づいてくるんですけど……
 横を向いて、彼女の唇を避ける。
 だが、菊さんの唇は俺の頬に当たった……やわらかい。

「ちょっ……やめ……ひっ!」
「んッんッ……ちゅぅッ」
「ぁ、ぅ……だめ、やめて、くださ、ひぃっ!」

 ピチャピチャと音を立てて、俺の頬を舐め始めた。
 それだけじゃない、彼女の舌は這うように耳の穴に到達。
 耳穴を穿るように動く生暖かくて柔らかい舌。
 思わず、女っぽい嫌な声が出てしまう。
 ていうか、この狐本当に寝ているのだろうか……?

「菊さん、ひぅッ、いい加減起きて……ていうか、起きてるんじゃ……」
「んんーッ? おひて、なんか、ンッ、ない、わよぅ……づらさぁん……」
「いや完全に起きてるじゃねえか! 今会話したよね!? 起きてないって言ったよね!? ていうか誰だよづらって!?」
「……づらじゃない、桂だ」
「っ!!」

 思わず男言葉で大きな声を上げてしまった。
 それでも菊さんは目を覚まさないが。
 その代わり、小屋の入り口には俺のいつの間に旦那が立っていた。
 やばい……今の俺の声聞こえてしまったかもしれない……男だってバレる。
 内心焦るが、何とか笑顔を作って女言葉で挨拶をした。
 雪は何も言わず、黙って菊さんを回収する。
 それと同時に、素早く起き上がって完全に覚醒してしまったモノが雪に見えないように背を向けた。

「……何故背を向ける?」
「ね、寝起きで色々と恥ずかしいから……」
「そうか……すまないな、姉さまの寝相が悪くて……」
「い、いえ、気にしてませんから」
「そうか……では、姉さまを部屋に戻してくる……早く顔を洗うといい」
「え、えぇ、ありがとうございます」

 心臓の鼓動が高くなる中、何とか受け答えていく。
 雪はすぐに小屋から出て行った。
 つい出てしまった男言葉について何も聞かれなかったあたり、どうやら男だとバレずに済んだらしい。
 まだ油断は出来ないけど、とりあえず安心してため息が出た。

「……あ、今日の朝飯、何にしようかな……」

 とりあえず、今日も1日良き妻であるように頑張ろう。
 そう思いつつ、朝飯の献立を考えながら小屋を後にした。
 そういえば……醤油と味噌が少なくなっていたような気がする……


 ついに味噌と醤油、その他諸々の調味料や食料が底を尽きてきた。
 雪が狩ってきた獲物だけでは食事が偏る。主に肉。
 塩、砂糖、ケチャップ、マヨネーズ等の山では調味料はどうしようもない。。
 街に行って買ってくるしかない。
 菊さんに着物を借りて家を出る。
 久しぶりに来た町には相変わらずあちこちに、もびるなんとかって言う巨大からくりが配備されている、世の中怖いものだ。

「あれ? 随分懐かしい顔じゃねえか」
「あっ……」

 まぁ、機械人形も悪ささえしなければ無害だ。悪さをしてもバレなければいい。
 知り合いとか昔の客とか、会わないうちにさっさと買って街を出よう。
 そう思った時だった。
 十字路を曲がった時、早速知り合いに会ってしまったのは。

「お前何処行ってたんだよー。心配したんだぜ?」
「……仕事」
「あはは、相変わらず冷たいねー」

 ある意味最悪人物に会ってしまった。
 そいつに流されるまま、近くのファミレスに入った。
 窓際の席に座り、とりあえず俺はお茶と団子を頼んだ。
 ウェイトレスにカップルランチなる物をオススメされたが、即答で断った。
 正面のこいつはラザニアを注文した。
 本格的に飯を食う気だ。しばらく逃げられそうにない。

「しかしまぁ、元気そうでなによりだ。相も変わらず女の格好してるし」
「……うるさい」
「そんな眉間にしわ寄せるなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」
「お前に言われても気持ち悪いだけだ」

 冷たく言ってもこいつには効果がない。
 ただ目の前で可笑しそうに笑うだけだ。
 なんだか俺の言葉なんて軽く流されているようで腹が立つ。
 だけどこいつに対していちいちイライラしていたらキリがないので、ここはスルーしておこう。

「で、仕事って何よ?」
「お前には、関係ないだろ」

 何こいつ、いつの間にか俺の隣に来てるんですけど。
 相変わらず素早い、ていうか近い、顔が近い。
 顔を合わせたくないから視線をそらすが、頬を指で突かれる。
 馴れ馴れしいのも相変わらずのようで、いつにもまして触ってくる。

「あーもう、いちいち触るな鬱陶しい!」
「なんだよ、親友に触っちゃいけないってのか!? ほんとツンデレだよな!」
「誰がツンデレだよ。お前に対しては永久にツンだよ」
「可愛くねえ! プライベート且つ喋ったら本当に可愛くねえなあんたって人は!
 なんだよ、化け狐に連れ去られたって聞いてブルーで助けに行こうと思ってたのによ、なんか心配して損した!」
「……は?」

 セクハラ紛いのスキンシップ的行動に、我慢できなくなって口喧嘩になった。
 俺たちの声が店内に響き渡り、客や従業員の視線がこちらに集中しているのが分かるが、こいつから離れるにはこれが一番手っ取り早い。
 そして、妙な事を言われたので俺は少し冷静になれた。
 化け狐に連れ去られた?
 とりあえずお互い向かい合って座り、その話を詳しく聞いた。

「そうか……そんな事になってたのか俺って」
「あぁ、まぁお前がこうして何の異常もなく俺と会話してるってことは、この噂もデマだったってことだがな」
「なんだ、噂どおりになってほしかったのか?」
「馬鹿言うなよ。無事で何より、一安心だ」

 聞くと、噂じゃ俺は山奥に住む化け狐に連れ去られたらしい。
 化け狐に食い殺されたとも、性欲の為の道具になったとも言われているとか。
 なんか、ちょっと当たってるような気がするんですけど……
 だが、それを目の前で微笑んでいる奴に言うのはやめとこう。面倒な事になりそうだし。

「……心配かけて悪かったな……」
「お、やっとデレたな」
「だからツンデレじゃないって言ってるだろ!!」

 良い友人を持ったと一瞬でも思い、尚且つそれを口にした俺が馬鹿だった。
 深い、とても深い溜め息が出た。
 やっぱり、こいつは悪友である。
 しかし、友が心配してくれていたというのは、悪い気はしないな。

 すっかり遅くなってしまった。
 結局、日が暮れるまで悪友から逃げられなかった。
 急いで買う物を買って、町を出たときはもう夜で、今は道なき道を歩いている。
 普通に山道を歩いても家には着かない。途中で茂みの中を入って行かなければならない。
 昼とは違い、夜の山は不気味だ、早く帰りたい。
 そう思った時、後ろの茂みが鳴った。そして明らかに何かの気配を感じた。
 やばい、怖い。
 しかし、もしかしたら雪か菊さんかもしれないので、恐る恐る振り向いた。

「なっ!!」

 俺の背後にそれがいた。
 見た瞬間驚いて、思わず尻餅を着いてしまった。
 暗くてよく分からないが、大きな狼のような生物が真紅の瞳で俺をジッとみている。
 丁度、雲で隠れていた少し赤い満月が姿を現して、暗かった森は少し明るくなった。
 目の前の生物も月光に照らされる。
 狼じゃない……狐だ。
 体毛は、おそらく白い、大きな狐で長い尻尾がゆらゆら揺れている
 この森には淫乱狐しかいないと思っていたが、化け狐もいたらしい。
 そして目の前の化け物は、明らかに俺を見て唸っている、物凄い敵意っぽい感情を向けている。
 食う気だ、この狐は絶対に俺を捕食する気だ。

「や、やめ……っ!」

 逃げようと思って倒れたまま後方へ下がった時、狐は跳びかかってきた。
 手と足を使ってなんとか起き上がったのだが、狐は俺の頭上を飛び越え目の前に降りる。
 逃げようと身体が動く前に、俺は狐に軽く押し倒された。
 重い……しかも凄い力で押さえるから狐ごと起き上がれない。
 助かりそうにない……この化け狐に食われる覚悟を決めて、静かに目を閉じた。

「…………………ん?」

 数十秒経っても、痛みどころか何も感じない。
 恐る恐る、ゆっくりと目を開けると、そこには狐の姿がなかった。
 その代わり、1人の女が俺を見ている。しかも全裸である。
 さっきの狐は何処に行った、と思って頭を動かし周りを見ると、女の頭から明らかに人間のではない耳が生えているの気づいた。
 まるで獣のような三角に尖った耳は、狼か狐を思わせる。
 髪の毛とは違う体毛も生えている、さっきの狐のように白い……
 この時、俺は何となくこの女の正体が分かった。

「……そんな姿になって、俺をどうする気だよ?」
「……」

 こいつはさっきの化け狐だ。
 白い狐耳に真紅の瞳、それに菊さんや雪っていう実例もいることだし、ほぼ間違いないだろう。
 雌だったのは少し驚いた。
 それに少し魅入ってしまうほど顔も体も美しい、胸は残念だが。
 しかし、この狐の顔何処かで見たような気がする…………

「ってお前は!! ゆ、雪!!?」

 確かに狐の顔に見覚えがあったが思い出せなかった。
 だが、俺の脳内に該当する人物が1人いた。
 そう、今現在俺の夫として一緒に暮らしている妖狐、雪である。
 女の体、瞳の色、髪の毛の長さで気がつかなかったが。
 しかし、雪は雄のはず……だが、この狐は胸はぺったんだが股間に生えているはずのモノが生えていない。
 まったく別の狐か、あるいは俺と同じで性別を偽っていたのか……
 どっちにしても、やばい状況なのは変わらない。
 素早い動きで着ている物を脱がされる。
 とは言っても帯のおかげで全裸にはならずに済んだようだが。

「くぬッ! んむぅッ!」

 勿論両腕を振るって抵抗した。
 だが、狐のほうが身体能力が良いようだ。
 あっという間に両手首を掴まれ、地面に押さえつけられてしまった。
 そして、俺に身体を密着させ、狐は唇を重ねてきた。
 閉じた唇をこじ開け、いとも簡単に侵入してきた狐の舌が口内で動き回る。

「んぅッ……ン……ぷぁ……ッ!」

 一方的に舌を絡められ、唾液を吸われる。
 まずい、身体の力が抜けてきた……
 上手く呼吸できなくて酸素が欲しくなってきた時に、狐の唇が離れる。
 そして、狐の生暖かい舌が頬や首元を這う。

「ぁ、ぅ……ぃぅ」

 変な声が漏れてしまう。
 狐耳がピクピク動いているという事は、多分狐にも聞こえているんだろう。
 だが狐はお構いなしに俺の体に舌を這わせ、徐々に下へ下がっていく。
 舐められる感触で力が抜けていく。
 完全に脱力する前に狐を振りほどこうと解放された手を上げるが、再び手首を掴まれた。
 しかし今度は地面に押さえつけない。

「ぐっ! ……がぁッ!!」

 その代わり、手首から激痛が伝わってくる。
 なんという握力だ。
 狐の顔を見ると、思いっきり睨んでる、目がマジだ。殺されると瞬間的に思った。
 しかし、このまま握り潰されるんじゃないかと思ったが、狐はすぐに手の力を緩めた。
 まだ痛みが残っている。
 これは、脅しなのだろうか……抵抗すれば痛い思いをする、死ぬのが早くなるとでも言っているのだろうか。
 俺の抵抗がなくなったのが分かったのか、狐は下の無表情に戻る。
 握っていた手の指を1本1本舐めた後、下のほうへ移動した。

「……ッ、ンッ、コレ、ほしい……もらう……ッ」
「ほ、欲しい? も、貰う? 何を?」

 初めて狐が喋った。
 やっぱり姿じゃなくて言葉も人間のものになるのか……少しカタコトっぽいが。
 狐の手によって、着物の下に隠されていた俺のナニが姿を現した。
 お恥ずかしながら、狐に舐められた刺激ですっかり覚醒して天を向いている。
 どうやら狐が欲しいのは俺のナニらしく、俺の上を跨いだ狐が呼吸を荒くさせながら片手でナニを掴んだ。
 そして合図も何もなく、狐は腰を下ろしてナニを自らの膣へ入れた。

「ンンッ! あぁッ!」
「ぅッ! ちょっ、な……ッ!」

 俺が言葉を発する前に、飛び跳ねるような上下運動が開始された。
 いきなり激しい。
 狐の汗が俺の顔に飛び散り、ジュプジュプと水音が響く。
 そして、強烈な快感が俺を襲い始めた。

「ぁうッ……! くッ、ぁあッ!」
「ひゃうぅッ……あッ、アァァ……ッ!」

 狐の膣内……すごいの一言だ、ナニをきつく締め付けながらもうねり動く。
 きっと狐が動かなくても相当な快感を送ってくるだろう。
 更に狐の喘ぎ声が聴覚を刺激する。
 やば……早くもイキそうです。
 というか、俺は普段女みたいに入れられる立場だから、女性器を味わう経験は少ないのだ。

「あンんッ! きゃッ、ンっ!」

 俺は歯を食いしばって、必死に射精感を耐える。
 こいつの中に出したら負けると思ったから。
 それに我慢していればここから逃げるチャンスもあろう……あまり長くは耐えられそうにないが。
 しかし、そんな俺をあざ笑うかのように狐の攻めは続く。
 単調な上下運動から、回転運動や前後運動を繰り出し俺を追い詰める。
 妖狐がこんな技を持っているとは……それとも本能で動いてるだけだろうか?

「あッんンッ! ンッ、んッ!」
「ぅっ、くっ、もう……やばい……!」

 どちらにしろまずい状況であることには変わりはない。
 もう我慢の限界である。
 しかし、俺の上の狐は休むことなく攻め続ける。
 体を寝かせて密着し、再び唇を重ねてきた。
 舌を絡ませながら唾液を吸い上げ、その間も一定のリズムで腰を上下に動かす。
 そして、上と下の口から来る快感に、俺の我慢は限界を超えてしまった。

「ンッ! ンンッーッ!!」

 物凄い開放感と共に、狐の膣内で白濁液を放出しながらナニが暴れているのが分かる。
 腰の動きを止め、唇が重なったままで狐は声を上げる。
 射精はしばらくの間続いた。最近出してなかったから、かなり濃いのが出たと思う。
 俺の人生さようなら……
 そう思った時だった……狐が再び活動を再開し始めた。
 まだ射精中にもかかわらず肉壁が刺激するものだから、出し終えてもナニは萎えることなく元気なままだ。
 俺を見る狐の顔は、まだ俺、というかナニを求めているように思えた。
 このまま絞り尽くされて死ぬか、食われるかは知らないが、死への快楽はまだまだ続きそうである……

「ンんーッ! んァッ……ハァ、はぁ……」

 化け狐に襲われてどの位経っただろうか。
 俺に抱きつきながら、狐は痙攣して達した。
 気に入ったのか、1回戦からずっとキスをしながら達する。
 絶頂で肉壁がナニをきつく締め付ける。
 狐の膣内に再び注がれた精液は、既に膣内に収まりきれずに溢れている。
 もう何発目になるか忘れてしまっが、既に濃さは殆どなくただの液体みたいになっている。

「はぁあぁッ……ぁッ、んッあァ……」

 身体を起こして、狐はナニを深く咥え込み回転運動をする。
 まだ満足していないらしい。
 俺の疲労の限界はとっくに超えてしまっている……これ以上出したら本当に過労死だろうな……
 意識も、もうそろそろ限界だ。
 頭の中は真っ白に染まって、もう何も考えられない、抵抗も出来ない。
 そんな時だった。

「ヴォルテッカァァァァーーーー!!」
「けぺっ!」

 変な叫び声と共に衝撃が走り、俺の上に乗っていた狐が吹っ飛んだ。
 まず見えたのが足。
 それが狐を吹き飛ばせたという事は、誰かが狐に蹴りを入れたんだろう。
 何処のどなたか存じませんが助かりました。
 疲労で起き上がれないから、心の中で命の恩人にお礼を言った。

「ていっ!」
「ぐほっ!」

 しかしその直後、腹に凄まじい衝撃が走る。
 そして俺の意識が吃驚するほど凄い勢いで、無くなって、くる……

「せっちゃんごめんねー」

 意識が無くなる直前、すごい聞き覚えのある声を、聞いた気が……する……

「う……うーん……んー?」

 雀が鳴っている……意識が回復してくる。
 命の恩人、ていうか菊さんからの一撃で、朝まで寝ていたようだ。
 そして俺は何かを抱くように持っている、なんなのかよく分からないがぬくぬくして暖かい。
 それにしても、さっきから毛の塊が動いているような気がする。
 正体はなんだろうと思い目を開けると、目の前に人がいた。
 俺に背を向け、正座している
 そしてこの毛の塊は、目の前の奴の尻に?がっていた。

「し、っぽ……?」

 そう尻尾だ。
 忘れるはずも無い、毎日見ている狐の尻尾。
 また菊さんが夜這いならぬ朝這いでもしに来たのかと思い、起き上がる。
 しかし違った、目の前にいる狐さんは菊さんではなかった。

「お、お前は! なんでお前が!?」
「驚く前に、尻尾を解放してくれ」
「あ、悪い」

 一瞬で昨晩の出来事が脳内に蘇った。
 言われたとおりに尻尾を解放すると、狐はゆっくりと正面を向く。
 間違いない、俺を逆レイプして食おうとした淫乱雌狐だ。
 ただ、雰囲気が昨晩と違って、なんかこう、普通だ。
 俺をじっと見つめる狐の青い瞳からは、敵意も何も感じられなかった。
 しかし、こうして見ると本当に雪にそっくりだ……
 そう思った直後、部屋の扉が開かれ、そこから命の恩人様が現れた。

「あ、起きたんだー。雪、せっちゃん、おはよー」
「……あんた今なんつった?」
「え? ……あ」

 明らかな失言だった。
 元気よく入ってきた菊さんは、しばらく俺に背を向けて何かを考えていた。
 多分、言い訳でも考えているのだろう。
 しかし、この沈黙の中で俺は自分でも驚くほど冷静に菊さんが言った意味を理解できた。
 俺の後ろで黙っている狐の女は、どうやら雪らしい。
 ただ俺が知っている性別と違うのだが、これに関しても大体予想がつく。
 そして2時間ほどの沈黙を破り、言い訳を考えていたと思われる菊さんがやっと動き出した。

「実は雪は弟じゃなくて妹なの! だから本当は夫じゃなくて妻なの!」 

 今、さりげなく俺の秘密までバラしたような気がするが、気にするのはやめておこう。
 見苦しい言い訳をしなかっただけ、菊さんにしては上出来と言える。
 そして、菊さんは色んな事を説明してくれた。
 簡単に言えば、雪の本当の性別は雌で、昨晩はムラムラするのを我慢しすぎて暴走してしまった。
 理由は聞かせてくれなかったが、雪は雄として今は亡き両親に育てられたらしいのだ。
 この仕事も、雪が雄として生きていけるかと言う実験だったのだが、ムラムラして暴走してしまったのだから失敗と言えるだろう。
 髪が伸びたのは、妖狐の姿になる際に妖力的なものを解放した為って菊さんが言ってた。

「じゃあ、あたしはムラムラしたから、ちょっとスッキリしてくるねー」
「あ、ちょっと……行っちゃったっつーか、なんて捨て台詞だよ」

 大体の説明が終わって、俺がそれを理解し始めたとき、菊さんが逃げた。
 一瞬だった。呼び止めようとしたが無駄だ、彼女はもうこの辺りには居ないだろう、すごい速さだったし。
 そして少し重い空気が小屋の中を漂う。
 雪は何も言わず、無表情で俯いている。
 これからどうするか……と、今俺は考えている。
 結論は出ているんだけど、中々言い出すきっかけを掴めない。

「……まぁ、なんだな」
「……」
「朝ご飯でも作ってくるよ。お腹減ったし、まずはご飯食べよう」

 だが、黙っていても空気が重いだけだ。
 俺はなるべく自然に話しかけて立ち上がる。
 言葉は……もう、男だとバレてるから女言葉を使う必要もないだろう。
 雪からは何の返答もないが、とにかくここから出ようと彼女の手を取った。

「……お前は、オレの事、なんとも思ってないのか? 雌だった事とか、襲ってしまった事を……」」
「別になんとも思ってないぞ? 俺だって女として生きてきたわけだし、昨日の晩の事だって別に怒ってないよ」
「そう、なのか」
「あーでも、もう男言葉で話さなくてもいいぞ? 俺ももう女の言葉使うのやめようと思うし」
「……オレは、幼い事から、ずっとこの喋り方だから…………や、やっぱり、変か? オレは雌、だし……」

 雪は上目遣いで訊ねてくる。
 頬を少し赤らめて俺の回答を待っている姿は、可愛いな。
 笑顔で「そんな事ない」と答えると、雪はまた俯いてしまった。
 ただ、彼女の狐耳がビンと立ったり、尻尾が振られているのを見ると表情を見なくても感情が分かるけど。
 そして雪を立ち上がらせ、俺達は手を繋ぎながら家へと向かった。
 今日の味噌汁は油揚げたっぷりにしてあげよう。

 あ、それとこの出来事の数ヵ月後、俺は少しだけ生きるスタイルを変えた。
 正確には俺と雪だ。菊さんは相変わらずの年中発情狐である。
 何を変えたのかと言うと、自分本来の性別として暮らしているのだ。
 何故か……
 だって、生まれてくるわが子に女として接する訳にもいかないでしょう、常識的に考えて。


【終】

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最終更新:2009年02月26日 15:02