3月のとある寒い日。
1時間目から授業をサボろうと愛用の空き教室に向かうと、珍しく先客がいた。
180cmはあろうかという身長、細く引き締まった体、男子のそれのようにあちこちに向かって跳ねる
ベリーショートの黒髪、そして、制服に空いた穴から飛び出た背びれと、黒くて長い尾。
最悪の人物と遭遇した。

「…ん?誰だよてめえは…」

ここ、イーストトレジャー学園の最凶コンビと呼ばれる二人組の片割れ、俺のクラスメイトでもある
護持羅(ゴジラ)嬢は、俺を見ると、尊大な態度でそう聞いてきた。
もうすぐ年度末だというのだから名前くらいは覚えていてほしいものだが…

「……(くそ…こんなんなら授業出とくべきだったな)」
「はっ!シカトかよ…まあ別にどうでもいいことだがな…」
沈黙。
「ところで少年。お前もサボりか?」
「ん、ああ、まあ」
「ふうん。そうか」
再び沈黙。
正直、拍子抜けだった。普段の彼女の行いを鑑みると、この状況には違和感を感じざるを得ない。
大人しく黙っている彼女が逆に不気味ですらある。

「…なあ少年」
数分の間続いた沈黙を破って、彼女が言葉を発した。
「少年は、今日が何の日か知ってるか?」
「…えっと、3月1日だから…三・一独立運動…?」
我ながら何を言ってるんだか。
「…」
「そうじゃなくて?あとは…加藤茶の誕生日だったな」
「……」
俺駄目だ…
「惜しいな」
ほらな、怒っちまっ…あれ?
「誕生日か…そうだな。違いない…」
「ゴジラ…さん?」
「今日はな…あたしの誕生日だよ」
「へ~、そ、そうか。おめでとう」
としかいいようがない。別に驚くようなことではないが、かのゴジラ嬢から突然そんなことを言われても
どう返せばいいというのだろう。
「…ふん。おめでとうか。まあ、めでたくないってこともねーか」
何故かというか案の定というか、俺は返答を外したらしい。
彼女は一瞬だけ複雑な表情をした後、にやり、と顔を歪め立ち上がった。

「少年よぉ。せっかくめでてえ誕生日なんだ、あたしのこと祝ってくれよ」
彼女がゆっくりと近づいてくる。
「い、祝うったって、俺に何を―――!?」
突然彼女が俺の視界から消え、
「がっ!!?」
後頭部に凄まじい衝撃を受けた。ありていに言えば、ぶん殴られたわけだ。
そのまま前につんのめるように倒れこむ。
「おっ、おい!何してんだよてめ……むぐっ!!?」
彼女は乱暴な手つきで俺を仰向けに寝かせると、俺の顔の上に圧し掛かってきた。
「何って、簡単だ。今日のあたしは機嫌わりーんだよ。だから少年は性欲処理してくれや」
「むぐっ!んむむぐーー!!」
抗議しようにもまともな言葉にならない。抵抗を試みるが、彼女の怪力の前では腕一本動かせない。
彼女の股間が少しずつ蒸れて熱気を放ち始めた。
「はあ…はあ…ちょっとばかしうるせーけど、んっ…なかなか上手いじゃねえか…!
抵抗してる割に、お前の息子も興奮してるみてえだしなっ」
こんの馬鹿息子め…!
彼女の下着はもはや使い物にならないくらい濡れていた。かまわず彼女は腰を振り続ける。

「どれっ、そろそろメインをいただいてやる。あたしとできるんだから感謝しろよ」
「ちょっ、ま、待て―――ぐあっ!?」
彼女は僕の体を押さえつけたまま無理やりズボンを下ろし、下着を脱いでそのまま腰を下ろした。
「っはぁぁ!!なかなか、いいもん持ってるじゃねえか!っあっ!」
「うあっ!熱いっ!!な、膣内が!」
彼女の中は、焼けるように熱く、息子が劫火に嬲られているような感覚に陥った。
「はあ!いいよ少年!!もっと楽しませてくれよ!」
「ぐっ…!ダメだ!もっ、もう!」
俺はあっさりと一発目を彼女の中に注ぎ込んでしまった。
「っふう…なんだよ…もう出しちまったのか?
まあいいさ。まだまだ終わんねえからな…」
彼女は凶悪な笑みを浮かべた。

三時間後。
彼女は未だにカーリーの如く俺の上で踊り続けている。
「はあ!はあ!ほらっ、もっと動けよ少年…っ!」
「っぐっ!はぁはぁ…」
一向に衰えない彼女の性欲とは対象的に、俺の体力は確実に限界に近づいていた。
「な…何でこんなこと…っ」
「……」
ばちん!!
俺がそう口に出すと、彼女は動きを止め、俺に平手打ちを一発喰らわせてから言った。
「…教えてやるよ少年…今日はな…
今日はあたしがゴジラになった日だ」
「!?」
「水爆実験だよ。日本史でやったろう?海の底でグースカ眠ってたら、いきなりドカンだ。
マジで死ぬかと思ったねありゃぁ」
「……」
「憎んだよ…人間を…今もだがね。ひでー話だ。わけも分かんねえまま上陸して暴れてみたのはいいが、
これまたわけの分からんクスリのおかげで返り討ちさ。死んだと思って気づいてみりゃ、今度はこの体…」
「……」
「まったく訳が分からねえ…あたしがぶっ壊したこの国はあたしの同類面してやがるし…
あたしは誰が憎くてこんなことしてんのか、この憎しみが本当にあたしのものなのか、
それすら分かってねえ…」
「…ゴジラさん…」
「毎年この日になると考えちまう。あたしはなぜ生まれたのか…なぜ殺されたのか…なぜ生きてんのか…
…あたしが悪いのか?存在しちゃ、いけねえのか?」
「そっ、そんなこと――」
「うるせぇっ!!てめえに何が分かる!?あたしの心に凝り固まったもんが怒りなのか哀しみなのかっ…!
あたしにだって分かってねえんだっ!
なにが『おめでとう』だ!!こんなに苦しむんなら3月1日なんて来なきゃよかったんだ!!」
彼女は今にも泣き出しそうな表情を浮かべて怒鳴りつけた。
「分かんねえ…!分かんねえ…!!いっそなんにも分かんなくなっちまえばいい…っ
少年…お前も、道連れだっ…!」
彼女はまた踊り出した。

去り際、疲労で動けない俺に向かって、彼女は訊いた。
「少年…お前、なんて名前だ?」
「覚えてくれんのか…?」
「知らねえよ。保障はねえ」
「…芹沢。俺は芹沢だ…」
「…ふん。」
彼女は廊下の人ごみの中へと溶けて行った。

4月。俺は再び彼女と同じクラスになった。最初のホームルームの時間に、担任が言った。
「え~、突然だが、このクラスに転校生が来た。ささ、入ってくれ」
教室に入ってきたのは、長身で青っぽい灰色の長い髪を持つ少女。背中には背びれ、長い尾。
「ハジメマシテ、Zilla(じら)デス」
「彼女はニューヨーク出身、いや、正確には南太平洋なんだが云々…」
ゴジラ嬢の深い無機質な瞳に、幽かに哀しみの色が浮かんだのを、俺は見逃さなかった。

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最終更新:2009年01月09日 00:57