『きつねのじかん』


 ある山には狐の神がいる。
 神と言っても人間が勝手に言っているだけで、もうすぐ、いや明日1000歳を迎える金色の九尾の狐である。
 九尾と言っても、既に天狐化寸前で、ついさっき尻尾が抜け落ちて、とうとう1本になってしまった。
 だから、その日の妖狐はとても不機嫌であった。
 好き好んで天狐などになりたくない。本音を言えば生き過ぎた、さっさと死にたい。
 いっそ大災害でも起こして、人間に自分を襲わせるかとも思ったが、人間に殺されるのは癪である。

―とりあえず適当に人間どもを脅して飯でも食うか―

 そんなことを考え、山を降りていた妖狐は山の入り口の大きな木の下で何かを発見した。
 それは……やかましく泣いている1人の赤ん坊であった。



「テン、今日は猪が獲れた」
『おう、そうか。じゃあ丸焼きにしよう、丸焼き丸焼き』
「あぁ、じゃあ火ぃ起こすから、いつもの」

 十数年くらい経って、天狐となった妖狐はまだ生きていた。
 木造の小屋の中に敷かれた藁の上で丸くなり、1人の青年が天狐を”テン”と省略したような呼び方をし獲ってきた猪を見ると、自然と尻尾が動く。
 ムクリと起き上がり、外でセッティングされた薪に尻尾を近づける。
 そして尻尾の先から小さな火球を撃ちだし、赤い火を燈した。
 その間、青年は手馴れた手つきで捕獲した猪の脚を、大木に縄で結び付けていた。
 テンも手伝い、猪を炎の上にセットする。猪は背中から焼けていく。

「あ、薪が足りないな。テン、ちょっと薪割ってくるから、いい感じに焼けるまで見ててくれ」
『はいよ、任せろ』
「勝手に食うなよ?」
『そう早く焼けはせん』

 青年は薪を組みに小屋の裏に行く。
 テンはまるで犬のようにおすわりをし、先が白い大きな尻尾をブンブン音を立てて振るっていた。
 腹が減っているし、目の前の猪が徐々に良い匂いを出すものだから、テンのお腹が時々鳴っていた。

『まだかな?』
「まだだよ。もう少しだ」

 相当腹が減っているのだろう、青年が薪を持って戻ってきて、このやり取りは既に10回はやっている。
 そんなやり取りが続き、猪はとても美味しそうにこんがりと焼けた。
 青年はナイフで猪の肉を切り、自分の分を木製の皿に移す。
 その後は、数枚の大きな葉の上に残りの猪本体を乗っけるだけである。

「『いただきます』」

 いつもの挨拶の後、食事が始まった。
 青年は手づかみで、テンは前足で大きな猪の体を押さえて、見た目どおり獣のように食べている。
 昔、青年は聞いた。
 テンはとても偉くて凄い狐なのだと。
 しかし、目の前で猪を食べてる姿は神なんてものではなく、ただの獣だ。
 しかも実に美味そうに食べるから、自然と笑みが浮かんでしまう。

『……ん? 何見てるんだ? 言っとくが、やらないぞ』
「そんなに食えないって。いや、相変わらず美味そうに食べるなぁって」
『そりゃ、美味いからな、これは』
「ごもっともで」
 1人と1匹は笑い合い、食事を続けた。
 明らかに青年より取り分が多いはずだが、先に間食したのはテンの方であった。
 青年が遅いわけではなく、ただ大食いで早食いなのだ。
 ”ごちそうさま”といつもの挨拶を交わす。
 残った牙や骨は使い道があるので取って置くと、テンが食べてしまう前に青年は素早く回収した。

『……さて、腹も一杯になったし、わしは寝る』
「食べてすぐ寝ると、牛になる」
『わしゃ狐だ。生まれた時も死ぬ時も狐、牛になぞなりはせんよ』
「いや、そういう意味じゃなくて……まぁいいや、おやすみテン」
『あぁ、おやすみ。それから、偶にはわしの事を母と呼ばんか』
「ふーん、呼んで欲しいんだ」
『べ、別にそういうわけでは……いつもわしを呼び捨てだからな、お前は。偶には立場と言うものをだな……』

 少し焦るテンに『はいはい』と軽く流す青年は、食器を洗いに近くの川まで歩いていった。
 軽くため息を吐き、テンは小屋の扉を開ける。
 尻尾で扉を閉め、いつもの寝床で丸くなる。
 尻尾を揺らしながら、青年がまだ少年だった頃の事を思い出していた。
 生きる事自体飽きていた時に都合よく現れた赤子。最初は貢物かと思い食おうとした。
 だけど、泣いていたのに自分を見た途端その赤子が嬉しそうに笑い、気が変わって育てる事にした。
 その判断が、テンの人生をほんの少し狂わせたのだ。

『……カァー』

 彼女は人間はおろか同じ狐でさえ育てた事のない。
 何をすればいいか全然分からず、ふもとの村の人間に聞いたりもして、人間を育てた。
 忙しかった、この一言である。
 だけどただ何もせずに生きているよりはマシであった。
 ただ、子育ての頃を思い出すと気分的に疲れてくる。
 眠気が襲い、大きな欠伸をする。
 そして思い出に耽るのは止め、テンはゆっくりと瞳を閉じた。

「ん…………ぅ、く……」

 ふと、テンは目を開いた。
 空を見るとまだ暗い。まだ真夜中のようだと、眠気眼に確認した。
 そして、何か妙な事に気づいた。
 青年が、部屋の片隅で、自分に背を向け猫背で何かをしているのだ。
 右手が絶えず上下に動き、青年の息遣いは荒く時々変な声を上げている。
 テンはゆっくりと起き上がり、青年に気づかれないように気配を消して近寄り始めた。

「はぁ、んッ……はぁ……」

 室内に小さな水音が聞こえ始める。
 その音に反応して、テンの狐耳がぴくぴくと上下に小刻みに動く。
 そして覚えのある臭いを感じる。独特なものなので忘れはしない。
 この臭いで青年が何をしているのか、大体の察しがついてテンは笑みを浮かべた。

『……なぁにをしている?』
「ッ!」

 背後から耳元で囁くように、テンが笑いながら言うと青年は肩を震わせて振り向いた。
 彼の目は見開き、口は半開きである。
 徐々に羞恥心を感じ始めて、青年の顔が真っ赤になっていく。 
 それを見ながら、テンは彼の股間へと視点を下げた。
 テンの視線の先には、硬くなりそそり立っている彼のペニス。
 それを握っている彼の右手は、亀頭から出ている透明液で濡れている。
 やはりな、と思いながら青年の脇の下を潜りそこに顔を近づけてた。

『自慰か? その頭の中で誰を犯していた?』
「……っ……い、言うわけないだろ」

 テンと目を合わせようとせず、赤面し青年が答える、
 その口調はやや怒鳴り気味だ。
 それもそうだろう、最も恥ずかしい場面を見られて、しかも笑われているのだから。
 いくら長年共に暮らしていようが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
 誰を想像していたなんて言えるはずがない。

『……もしや、ふもとの村の、あの狼娘ではないだろうな?』
「うっ……!」
『うって言った! やはりそうなんだな!』

 テンがいきなり怒鳴り始める。
 彼女が言うとおり、青年が自慰のために脳内で犯していたのは、ふもとの村に住んでいる若い狼の娘である。
 テンと同じく人間の姿になることができ、綺麗な銀髪やで、小柄で、無表情であまり喋らないが綺麗な娘だ。
 ただ、目上の存在である自分に対しての礼儀がなっていないと、テンはあまり好きではない、というか嫌いな相手だ。
 向こうも青年に気があるみたいだが、絶対に交際など認めないと言うほどである。

『……あんな、100年も生きておらん狼娘に……』
「え?」
『礼儀も知らん娘どもに……お前は渡さんっ、絶対にだ!』

 テンの声が室内に響き、尻尾の先から生み出された紫の炎が体を包んでいく。
 しかし、青年は平然としている。この炎は熱くないのだ。
 そして、炎に包まれたテンの体が変化していった。
 炎が消えるにつれ、その姿が露になっていく。
 両足はしなやかで細く長い腕に、脚に。体毛は薄くなり、腰まである金色の長髪に。
 体のラインは猫科動物のように引き締まり、また出ているところは出ている。

「まったく、目の前にこのような美女がおるというのに、お前ときたら」

 炎が完全に消えると、美しき人間の美女の姿を変えたテンが後ろから青年と抱きついた。
 しかし、人間の姿と言っても、狐耳や尻尾は獣のままである。
 そして青年の耳元で妖しく囁いた。
 背中に震えが走ったような気がした。
 柔らかいものが背中に当たっているのを感じ、青年の胸の鼓動は早くなる。

「次は、わしで妄想できるようにしてやろう」
「な、ちょっと……」

 徐に青年のペニスを握り締めるテンは、その手を上下に動かし始める。
 透明液でテンの手は直ぐに濡れ、潤滑油の代わりとなり動きをスムーズにさせる。
 青年は低い唸り声を漏らす。そんな彼の頬をテンの舌が這う。
 テンを振り払おうとした青年だが、引き始めた快感が再び全身に襲い始める。
 自分でするよりも彼女の手は気持ちいい。流石に1000年以上生きているだけの事はあるだろう。

「んッ! くッあッ!」

 そして青年はあっという間に絶頂してしまう
 テンに声を掛けられたときには、既に絶頂直前という要因もあった。
 ペニスから噴き出た精液が小屋の壁に直撃し、テンの手も汚す。
 精液がついている指を咥え、音を立てて舐めるテン。
 射精が終わり、呼吸を荒くさせて少しぐったりとしている青年を後ろから持ち上げる。
 そして、自分の寝床である藁の上に青年を仰向けに寝かせ、彼の上にテンが覆いかぶさるように乗った。

「や、やめ……」
「フフ、お前も大きくなったな」

 青年のズボンは膝まで脱がされ、上半身の服はビリビリと音を立てて破られる。
 彼に身を寄せ、頬を舐めた後、尻尾を振り、舌を這わせながら下がっていく。
 乳首を舐めたり、少し摘んだりすると青年が声を漏らす。
 その声に反応してテンの狐耳が小刻みに動く。
 指舐め、ヘソ舐めの後、彼女の舌はついに青年のペニスに到達した。
 一度射精したのだが、テンに舐められた感触で硬くなり天を向いていた。

「改めて見ると、ここもなかなか……」
「そ、そんなに見るなって……」
「ふん、今更何を恥ずかしがっている?」

 妖艶な笑みを浮かべ、音を立ててペニスを舐め始めるテン。
 精液と透明液が混ざり合ったような味がした。
 少し忘れかけていたこの独特の味とニオイ。
 ここ数百年、雄と交尾という行為をしていなかったということもあり、テンは徐々に発情していた。
 頬は見る見るうちに赤くなり、体が熱くなって呼吸も荒くなっていく。
 テンは下半身へ片腕を伸ばし、自らの秘所を指でなぞり中指を人差し指を挿れる。

「んッ! はぁあッ……ぁ、おまえの、ほし、ぃッ!」

 指をほんの数往復出し入れしただけで、秘所から洪水のごとく愛液が溢れ出る。
 長年暮らしてきたが滅多な事では聞かないテンの甘い声と、秘所から聞こえる水音で聴覚も犯される青年。
 そして、徐々にテンの中で物足りなさが出始めた。
 指だけでも気持ちいいのだが、足りない。
 もっと太い、膣の最奥を刺激するモノが欲しくなった。
 そんな彼女の欲を満たすモノは目の前にあった。秘所から指を抜き、瞳を潤ませて、テンは青年の上を跨ぐ。

「おまえの、いただく……」
「ちょ、まって、俺たちはおやこ……」
「人間も、血のつながった親子で、交わるというも聞く……問題は、あるまい……」
「でも……うぅッ!」

 ペニスを片手に握り固定し、腰を下ろし濡れそぼった秘所にあてがうテン。
 青年は一瞬の抵抗を見せたが、ペニスがテンの中に収まり始めたせいで、抵抗力が更に低下した。
 というか、既に快感が抵抗感を勝ってしまっていた。

「はッあぁッ……んッ!」

 久方ぶりの挿入感でテンは眉根をひそめる。
 下唇を軽く噛みつつ、ゆっくりとペニスを導いていく。
 そして、ゆっくり挿れるのがなんか面倒になり、一気に腰を落とした。
 ペニスは膣の最奥まで届き、テンは少しだけ絶頂してしまった。
 前かがみになり、しばらく制止する。
 彼女が動かずとも、テンの膣内は精液を搾り取るかのように動き、青年は絶頂してしまいそうになる。

「んッ……すこし、達してしまった……しかし、ほら、入ったぞ?」
「テン、も、出る、抜いて……」
「何を、ためらっている? いつでも、出していい……わし達は、異種同士、孕みはしないだろ……多分、な」

 絶頂感が抜け、テンは青年の言うことをまるで聞こうとはしない。
 それどころか早く出せと言わんばかりに、小刻みに腰を使い始める。
 歯を食いしばり絶頂感に耐える青年だが、耐え切れずに彼女の膣内を汚してしまった。

「ッく! うッ……ッ!」
「はんッ、だ、出したか……んッ、だが、まだ……ひあッ!」

 熱いものが自分の中に流れ込んでくる感触を、笑みを浮かべて感じるテン。
 だが、当然の事ながらまだ終わりではない、彼女は前かがみをやめ跳ねるように腰を動かす。
 単純な上下運動から、回転運動、前後運動と、腰の動きを変えてペニスを味わい青年を犯す。

「あんッ! ああッ! はぁ、んッ! はうんッ……ッ!」

 テンは鼻にかかった甘い声を吐く。
 それに対して青年は切羽詰った声を上げた。すでに3射目が発射寸前なのだ。
 ゆるさを感じない締め付け、それでいてねっとりと絡みつく膣は、彼をすぐに追い詰める。
 そして、2度も放ってしまい我慢が効かない青年は再び彼女の中を汚す。
 腰使いを激しいものから緩やかなものに変え、テンは青年に身を寄せる。
 彼と唇を重ね、閉じられてる歯をこじ開けて舌を侵入させる。青年もすぐにテンの口内に舌を入れる。

「ンんッ……んはッ、んッ」

 2人は舌を絡め合い、お互いの唾液を味わう。
 時折唇を離すと、唾液の糸が二人を結び、再び唇を重ねる。
 その最中でも、テンはペニスを下の口で咥えたまま、ゆっくりと腰を動かしていた。
 絶えず刺激され、射精後だろうと青年のペニスは硬いままで、膣の最奥を刺激する。

「んっ、んあぁッ、お、尾を……」
「はっ……ん?」
「尾、さわって……」

 唇を離し、瞳を潤ませテンは懇願した。
 青年は彼女の希望どおりにすることにした。
 上体を少し起こし、腕を少し伸ばすとゆらゆら揺れている彼女の尻尾の先端に触れた。
 そして、青年はその尻尾をギュッと握り締めた。

「ひッ! ひああぁああぁッ!!」

 テンの体が弓ぞりになり、声を上げて絶頂する。
 膣はペニスを握り締めるかのように締め付け、青年も堪らず絶頂してしまった。
 敏感な部分とは聞いていたけどここまでとは……
 テンの膣内を精液で汚しながら、心の中で少し驚く青年は、ペニスを扱うように尻尾をしごき始めた。

「あひッ! いッ、ぁあッ、や、やめ、ろ、あううんッ!」
「おねがいしたのは、そっちでしょ……?」
「こ、ここまでしろとは……ッ、ま、また達す……ッ!!」

 既に攻守が逆転していた。
 座位となり、下からテンを突き上げながら尻尾をしごく。
 時折、指で力強く摘んで捏ねる。
 膣の最奥と尻尾を同時に攻められ、テンは何度も絶頂してしまう。
 絶頂している最中に絶頂し、頭が真っ白になっていく。 
 青年の首に両腕を回して抱きつき、唇を押し当てるテン。青年もそれを受け入れて、再び舌を絡ませる。

「んッ! んんんッ! ンっんッ……ッ」

 唇を塞いでる間もテンは絶頂する。
 神と崇められている天狐ことテンだが、今宵だけはただの発情した雌狐と化していた。
 彼女の嬌声は、日が昇りかけている頃まで小屋に響いていた……

「はっ……はっ……はぁぁーーーーっくしょん!」
『ようやく起きたかバカモノめ』

 尻尾の先で鼻をくすぐられ、大きなくしゃみと共に青年は起き上がる。
 眠気眼で周りを見ると、目の前には獣の姿に戻っているテンがいた。
 そして自分は裸、そう感じたら寒くなり再びくしゃみをする。

「あれ、なんで俺、裸……?」
『そんな疑問の前に隠せ』
「あ!」

 青年は顔を真っ赤にして、大事な部分を両手で隠す。
 触れてみて分かったが、その部分がジンジンとして痛い。
 昨晩何があったのか思い出そうとしても、寝起きのせいか記憶がハッキリしない。
 自慰をしていたところまでは覚えているのだけど……
 やや混乱している彼の記憶を弄くった張本人は、目の前で怪しく微笑み見ている。

『今日はわしが食事当番だ。火の準備でもして待っておれ』
「え、あぁ」

 テンの言葉で青年は股間を隠しつつ起き上がる。
 そのうち思い出すだろうと、曖昧な記憶の事はあまり気に止めずズボンを穿く。
 その様子を、テンはジッと見ていた。

『おい』
「ん?」
『お前、もし自分の子ができたらどうする?』
「は? 何言って……」
『どうすると聞いている』
「えっと……そりゃ嬉しいかな、俺の子だし。でも狐と2人暮らしじゃろくに相手も……」
『そうか。ではな』

 青年の回答の途中でテンは獲物を獲りに出て行ってしまった。
 なんだったんだと、青年は首を傾げるが、これも大して気に止めずに顔を洗いに川に向かった。

 ”天狐様に子が宿った”

 という噂がふもとの村に流れたのは、この日の数ヵ月後の事である。


【終わると思う】

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最終更新:2008年08月28日 20:51