「――亀神さま!!」
僕は、悲鳴をあげてその病室に飛び込んだ。
病院で目が覚めて、遭難から助かった事情を聞かされて、いてもたってもいられなくなったからだ。
この当りの漁師たちは、海の神様たちと仲がいい。
だから、未熟な僕が操船をまちがって遭難しかけているところを、亀の神様が助けてくれたのだろう。
だけど、僕を助けてくれたのは、齢百歳のお婆さん亀で、僕を陸に押し上げた後、帰る力もなくて、
同じ病院で療養しているという。
僕のせいで──。
せめて一言お礼を、と思いながら、僕は、その病室に飛び込み、
優しいお婆さん亀に頭を下げようとした。
だけど、そこにいたのは……。

「おお、気が付いたか、坊」
白いベッドの端に、ちょこんと腰掛けて足をぶらぶらさせていたのは、
去年が初漁だった僕よりも、さらに小さな女の子。
「まったく、無茶をする坊じゃ。わしもすっかりくたびれてしもうたわい。……なにを呆けておるのじゃ?」
口をとんがらせて愚痴を言う、暗緑色の髪の亀神さまを、僕は、口をあんぐりとして見詰めた。
「え……と、その、あなたが……僕を助けてくれた亀神さま?」
「そうじゃが、何か?」
「齢百歳の?」
「そうじゃ、当年とって百歳きっかりじゃ!」
「お、お婆さんじゃないの?」
「な、な、なっ! 無礼な事を言うでない! わしはまだ百歳じゃぞ!?」
亀神さまは、幼い顔を真っ赤にして怒った。
──後で聞くと、亀神さまの百歳は、一万年生きる身としてはとても若いらしい。
(でも、口調とか、食べ物の好みは、どう考えても、年寄りくさいけど……)
ひとしきり怒られてから、亀神さまは、僕の顔をまじまじと覗き込んだ。
「……ところで、坊は、具合は良くなったのかの?」
「はい、おかげさまで、すっかり」
「ふむう……」
僕を見詰めていた亀神さまは、やがて、にまあ、と笑った。
僕の妹たちより幼い、その顔が、ぞくっとするくらいに妖しくなる。
まるで、島の南側にある、観光客相手の娼館通りのお姉さんたちのように。
「なら、わしが海に帰れるよう、手伝ってもらおうかの」
「はい、なんでもお手伝いしま──ちょ、ちょっと何をしてるんですか!?」
僕は、ズボンを引っ張って下ろそうとする亀神さまに慌てて抗議した。
「力を取り戻すには、精をつけるのが一番じゃ、協力してたもれ」
亀神さまは、平然と言いながら、パンツまでひき下ろそうとする。
「ちょ、待って、待っててばっ!」
「なんじゃ、手伝ってくれると言ったばかりでないか」
「こ、こんなことするなんて思わなかっただけです!」
「まあ、良いではないか。亀は助けられたら恩返しするものじゃぞ。
坊の小亀も恩返しせい。――おっと、これは小亀ではないの、大亀じゃ」
亀神さまは、舌なめずりしながら、僕の「亀」に「恩返し」を強要すべく、
小さく幼い、桜色の唇をそれに近づけた。

万年生きる亀で百歳といえば、ロリ婆あですね?

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最終更新:2008年08月07日 00:34