*  *  *

「……ん……ここ、は?」

意識を取り戻した時、有沢の視界には薄ら汚れた天井と、傘に少々埃を被った吊り下げ式蛍光灯があった。
其処は見慣れた自分の部屋、寝起きの時は必ず目にする光景、
視界に映る窓が暗い事から、まだ夜は明けてはおらず、あれから大して時間は経っていないようだった。
それにしてもさっきからずきずきと頭痛がする。おそらく肝臓が処理し切れなかったアルコールの残滓の所為だろう。
所謂二日酔いの症状で、かなり鬱陶しい。まあ、吐き気がしないだけまだマシだが。

「えっと……俺、何時の間に帰ったんだっけ……?」

有沢は寝転がった体勢のまま、
今、この状態に行き付くまでの事を、半分ほど欠落した記憶で辿って見る事にする。
確か、居酒屋でしこたま酒を呑み、店主に窘められるままに会計を済ませ、
おぼつかない足取りで居酒屋を後にした所まではしっかりと憶えている。
しかし、酔っていた所為か、自分の住むアパート前で妙な女に会った時からの記憶が定かではない。
暫く考えた末、彼は酔ったまま自分は家に帰るなり、そのまま寝てしまったと結論付けた後、
先ほどの人外の女に関する事全てを、自分の見た夢だったと自己完結した。

「ありゃ……夢だったのかな?…――って、あれ?」

そして、自己完結した早々、有沢が酔い冷ましに冷たい水でも飲もうかと立ちあがろうとした矢先
身体が殆ど動かない上に、身体に当る風が妙に冷たく感じる事にようやく気が付いた。

「んあ? こ、こりゃ一体どう言うことだおい! なんで裸にされて縛られてるんだ、俺!?」

何事かと視線を巡らせると、その原因は直ぐに思い当たった。
どう言う訳か有沢の両手首と両足首がナイロンのロープでしっかりと拘束された上、
服を全部ひん剥かれ全裸にされた状態で、自分の部屋の布団の上に転がされていたのだ。
無論のこと、彼は自分の状況がさっぱり理解できず、戸惑いの声を上げるのは当然で。
その後、縛られた状態で気付いた人間が先ず最初に取る行動のセオリー通り、元気な芋虫の様にもがき始めた。
と、その矢先。背後から誰かの声が掛かった。

「あら、どうやら気が付いたようですね?」
「ちょ、だ、誰だ!……って、その声!」

誰何の声を上げた所で、有沢はその凛とした声の正体に思い当たり、思わず声を上げる。
有沢が先程した自己完結は脆くも崩れ去った、どうやら人外の女に間する事は夢ではなく全て現実だった様だ。
そんな受け入れたくない現実に戸惑う彼の様子に構う事無く、女は再度確認する様に声をかける。

「ずっと起きないので死んだかと心配しました。気分はどうですか」
「最悪だ! つーか、これはアンタの仕業か! こりゃ一体どう言う真似だっ!」
「……どう言う? これも復讐の一環ですが、何か?」

有沢は思わず怒鳴る答えた後、同じ調子で問い質すのだが、女はごく平然とした感じに言ってのける。
その態度に苛立ちのような感覚を感じた彼が、更に怒鳴ろうと女の居る方へがばぁ、と振り向き―――

「って、をまっ!? なんではだ、裸なんだっ!?」

一糸纏わぬ姿の女の体をまともに見てしまい。有沢は思わず顔を赤らめてそっぽを向いた。
女はそのそっぽを向いた方へわざわざ回り込むと、再度、他の方へそっぽ向こうとする彼の両頬を掴み、

「これから陵辱を行うのに、服は必要ありません。……それとも、貴方は着たままがお好みですか?」
「い、いや、そ、そう言う訳じゃ……」

じっと有沢の目を見据えて言う女に、有沢は「復讐が何で陵辱になるんだ」とツッコむ事も出来ず、
それ所か次第にしどろもどろになり始め。額には汗が浮かび始める。
無論、この頃には彼の頭痛なんぞ綺麗さっぱり消えていた。


まあ、彼がそうなってしまうのも無理もなかった。
うら若き女性の白い肌、そして形の小さめだが良い乳房や、ほっそりとしてながらもしっかりと腹筋の付いた腰回り、
しっかりと肉の付いた触り心地の良さそうな太腿、そして陰毛の一切生えていない柔らかそうな割れ目等が、
今、有沢の目と鼻の先にあるのだ。これで戸惑わない男性の方が凄いと言えるだろう。
無論、この視覚的刺激によって、有沢のペニスはその役割を果たそうと、本人の意思を蔑ろに奮起し始める。
女はそれに気付くと、何処か嬉しそうに尻尾を振り、目をキュッと細める。

「なる程、此方は陵辱をされるのがお好みの様ですね」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ったあぁぁあぁぁっ!! 何故に俺はアンタに陵辱されなきゃならんのだっ!
これはむしろご褒美――じゃなくて、俺は其処までされるような事はした覚えないぞ!!」

有沢のペニスに向けて言った女の台詞に、
ようやく我を取り戻した有沢は思わず本音を漏らしながらも喚く様に問い掛ける。
女は、ふむ、といった感じに顎に手を当て、数瞬ほど考えた後、有沢へと向き直る。

「私にとっては貴方の行った行為は、私に復讐に至らせるには充分過ぎる理由です。
それ以外に、何か理由が欲しいと言うのですか?」
「いや、そりゃそうだけど……でもなぁ、流石に陵辱ってのはどうかと……」
「では、貴方は陵辱以外の他の手段で復讐をされたい、と申すのですか?
例えば生きたまま四肢を引き千切られるとか、両目と鼓膜を刳り貫かれて富士の樹海に放置されるとか……」
「いやごめんなさい陵辱で充分過ぎますから他の手段は勘弁してください本当にごめんなさい」

難色を示した所で女に恐ろしい事をさらりと言われ、有沢は素直に謝った。
流石にそんな復讐をされでもしたら、翌朝の朝刊の三面に猟奇事件として取り上げられる事になる。
当然、その時には自分はあの世行きだ。人外の女(犬)に復讐され死す、では洒落にならない。
それに比べれば、訳の分からない見ず知らずの人外の女(犬)に犯された方が万倍マシである。
まあ、それでも充分に嫌と言えば嫌なのだが……。

「では、了解も得られた所で、早速……はむ…ちゅ……」
「ひっっ!?」

しかし、しゃがみ込んだ女がおもむろにペニスを口に含んだ所で、
有沢の頭から嫌と言う思考は軽く消し飛んだ。
その代わりに有沢の頭の中を支配したのは、ペニス全体を包みこむ温かい粘膜の感触と
ペニスを撫で上げる唾液に濡れた舌のざらざらとしていながらもぬめった感触の
二つの感触が織り成す強烈な快感であった。

「あ、くっ……ひゃ……ひいっ!? や、やめっ!」
「ん、貴方は、ちゅば、野良犬に大事な所を舐められて……ちゅぶ、悦んでいるのですね?」
「う、あ……ちが……」 
「ならばもっと…ちゅぱ、この野良犬が、んじゅ…悦ばせてさしあげます」

快感から逃れようと身体を跳ね上げつつも思わず上げた有沢の嬌声に好感触を得たのか
女は上目使いで見上げた双眸を笑みの形に歪め、必死に否定する有沢に構う事無く、
尻尾を左右に振りつつペニスを一気に咥える。

「んぐっ、んふっ、ちゅぶ…くふっ」
「うあ、くゥゥ……やぁ…やめ、くぁ、ぁ……」

刻折、女は頬に掛かる黒髪を鬱陶しそうに掻き揚げながら、
ペニスの根元を片手で摘み、頭を上下させて口腔でペニスを扱く。
その動きに合わせてじゅぼじゅぼと淫猥な水音が響き、
有沢の思考はペニスから押し寄せる快感によって、確実に快感の色に染め上げられてゆく


「ひぁあ…ひぃっ、ん、あふぁ……くぁ!」

まるで女性のような悲鳴を上げる有沢の反応に気を良くした女は
妖艶な笑みを双眸に浮かべると更に動きを激しくして彼を追い詰める。
舌全体をねっとりと竿に絡ませ、唾液を擦り込んだ上で、
口腔の粘膜で甘噛みする様にもむもむと亀頭を揉み上げ愛撫し、
更に唇の粘膜を雁首と裏筋に沿って張り付かせると、
頭をゆっくりと上下させながら鈴口を舌先でチロチロと舐め回し、舌先をくりくりとねじりこむ。
その凄まじい攻撃(口撃?)によって、有沢は為す術もなく昇り詰められ、
女の口内でペニスの亀頭が張り詰め、先走りが止めど無く溢れだす。

「んっ、膨らんできました……ちゅ、では、そろそろ……」
「も、もうや、め――――うあぁぁぁっ」

そんなこんなで息も絶え絶えな有沢の様子を上目遣いで見やり、
そろそろ訪れる彼の限界を察した女は、とどめと言わんばかりに一気に亀頭を吸い上げる。
当然、有沢はそのとどめに堪らず限界に達し、脳の神経を焼き尽くすような強烈な射精感を感じながら、
腰をがくがくと震わせ女の口内へ半端(なかば)ゲル化した白濁を叩きこんだ。

「んグっ! く……んぐ……んっ……」

その勢いに一瞬、えづきそうになりつつも放出される白濁を全て飲みほした後、
女は口の端に僅かに白濁を垂らしながら、射精の余韻と人外の女へ出してしまった後悔で一杯な有沢へ笑顔を向ける。

「ふぅ、中々凄まじい量と濃さでした。どうやら、貴方は初物みたいでしたね?」
「う、うう……」

見ず知らずの人外の女に痛い所を突かれた有沢は思わず涙を浮かべ、痛恨の呻き声を漏らす。
今まで女性経験なんぞ殆どなかった有沢にとって、女の一言はどんな鋭いナイフの一撃よりも鋭く、そして痛かった。
無論、有沢にも以前、初物が初物でなくなる”機会”が幾度かあった。
だがしかし、その”機会”が訪れる度に、有沢自身の踏ん切りの悪さの所為で”機会”を敢え無く逃してしまっていた。
彼はそれを自覚していたからこそ、余計に女の一言によるダメージは大きく、そして深かったのだ。
そんな彼の様子を、女は笑みを浮かべながら見下ろした後、そっと彼の身体――股間の上の辺りを跨ぐ。

「そんな顔をしないでください。貴方はこれから……」

そして、女は言いながら自分の股間、既に陰唇に愛液が滲み始めている薄紅色の秘所の方に、そっと両手を添えると、

「――私の”ここ”によって初物ではなくなるのですから」

有沢に見せ付ける様に、秘所をくぱぁ、と割開き、陰唇に隠れていた愛液塗れの秘肉を顕わにさせる。
その際、溢れ出した愛液が指の隙間から溢れ出て、女の太腿を伝い落ちる。
初めて生で見る秘所の淫靡さを前に、有沢は無意識は唾を飲み込んだのか喉の奥から嚥下する音を聞いた。
一瞬のち、彼は、は、と女の秘所を凝視していた事に気付き、慌ててそっぽを向くのだが、、
彼のペニスは思いの他正直で、先程射精したにも関わらず再び奮起し、その逞しい姿を披露していた。
それを見た女は、そっと膝を畳んで腰を下ろし、柔らかな尻と太腿の裏側で彼の身体を押さえつける。
その時、肌に密着する女の温もりがとても心地よいと有沢は思ったが、今はそれを堪能している暇は無い。

「――さて、覚悟は…宜しいですね?」
「なっ、ちょ! ま――あれっ? なんでっ!?」

女の放った覚悟、との言葉に慌てた有沢は、
とっさに腹筋のパワー全開で身体を仰け反らせる事で女を振り払おうとする。
だが、その意思に反して、彼の身体はまるで釘で縫い止められたかの様に微動だにせず、
身体に起きた異常事態に彼は思わず困惑の声を漏らした。
その様子を見て女はくすりと笑うと、その双眸の金色をより濃く輝かせながら顔を寄せ、彼の耳元へ囁き始める。

「抵抗は、無駄、です。普通の人間の力では、犬神である私を振り払う事は出来ませんよ」

女の言った『犬神』の言葉を聞いた一瞬、
彼の脳裏に、ボンテージファッションに身を包んだ女芸人が逆立ちをして『犬神家』と叫び大股を開く様が浮かんだが、
それは激しくどうでもいい事だったので、即座に思考のゴミ箱のアプリケーションへ放り捨て、彼は考えなおす。
多分、女の言う犬神、と言うのは呪術に用いられ、使役される式神、もしくは憑き物の類(たぐい)の事だろう。
そう言えば幼い頃、四国ら辺にあった母方の実家で、親戚がひそひそと話していた犬神がなんとか言う話やら、
母親が酒に酔う度に言った自分の家は昔、犬神を使役したえらい家の遠縁だったとか言う話から、
その犬神こそ、今、俺に跨っている女で、俺の身体が動かないのもその力なのかなぁ?
と、辛うじて理性を保っている脳の片隅で彼は考えた。

だが、そんな有沢の思考を余所に、犬神の女は双眸を爛々と輝かせながら続けて言う。

「長い間の放浪生活の所為で、私にはこう言う機会は殆どなかったですからね……
しかし、こうやって機会を見つけた以上は、とことんまで楽しませてもらいますよ」

犬神の女の言葉に、有沢は少し引っ掛かる物を感じたが、
彼がその引っ掛かるものが、一体何なのかを考えようとする間も無く、
女が有沢のペニスの根元を掴み、その先端を細かに調整し、愛液に濡れた秘所へと宛がう。
熱くとろとろに濡れた感触をペニスの先端に直に感じ、有沢は思わず呻き声を漏らす。
そして、位置決めを終えた女はふっと力を抜くや―――

ずっ……ぬるるるるぅ……

「んんっ…あ、くぅぅ……ん!」
「うあっ、あ、あ、あぁぁぁぁぁ!?」

ゆっくりと腰を下ろし、怒張したペニスをとろとろに濡れた秘所へ飲み込ませて行く。
最初に幾重に束ねた輪ゴムのような抵抗が、ペニスの先端に押し広げられるような感覚があった後、
ぬるぬるに濡れた熱い粘膜で構成された襞がペニスの全体へねっとりと絡み付いて歓迎し、ぎゅっと抱き締める。
そして、嬌声を漏らす女が僅かに身じろぎする度に、肉襞がくちゅくちゅくにゅくにゅとペニスを揉み立て、
暖かい内壁がどくんどくんと脈打ちながら溢れ出る愛液を雁首、竿、根元と言わず全てに塗りたくってゆく、
その腰を中心として、今までに味わった事の無い凄まじい快感がひろがり、有沢の脳を快感へと染め上げる。
そして程無く、彼のペニスは犬神の女の胎内へぬっぷりと全て収まってしまった。


くち…くち…

「ん…全部……入りました。は…気分はどうですか?」
「う、気持ち、良すぎる…くぅ…」

囁き掛ける様に言った犬神の女の言葉に、有沢は何も考えられぬままに応える。
もし、彼にもう少し思考能力が残っていたのだら、ここで反抗的な台詞の一つでも漏らしていたのだろうが。
生憎、初物であった有沢に対して初めての性交は余りにも衝撃的かつ凄まじ過ぎた為、
その僅かな思考能力すらも殆ど奪われてしまっていたのだった。
それは兎も角、そんな有沢の胸に女は両手を置くと。
嬌声混じりの言葉と共に、彼の胸に置いた手と両足を支えにして腰をゆっくりと上下させ始める。

「んふ…それでは、動きますよ……んんっ、あっ! きゃあん!」

ぬ゛っ…ぢゅ! ぬ゛っ、ぢゅ! ずっちゅずっちゅずっちゅ

「あうっ!? うあぁっ!? あああっ!!」

その動きに併せて、ペニスを包み込んでいた粘液質の肉襞がうねり、揉み立て、全体を舐り上げる。
結合部からペニスが姿を見せる度にぐちゅぐちゅぐぶちゅぶちゅ、と淫猥な水音が漏れ、その淫靡さを強調する。
その膣から与えられる快感は。先程射精していなければ女が腰を上げた時点で彼は射精してしまっていた程、
それが断続的に、そして容赦無く彼の脳髄へ突き刺さり、無意識の内に彼に嬌声を上げさせる。

ずちずちずちぬちゅぬちゅぬちゅくちゅくちゅくちゅ

「はぁうん、ふぁ、は、は、はー!…はっ、はっ、はぁっ、きっ、気持ち良いですっ! 貴方のっ! おちぃんちん!」
「う、うあっ、ああっ…やめっ! 気持ち良過ぎっ! 動きっ、緩めてっ!」

女は犬の様に(そもそも犬神だが)口から舌を出して唾液を垂らして黒髪を振り乱し、腰の動きに捻りを加え激しくさせる。
肉壁もそれに併せて、腰を下ろす時は締める力を弱め、腰を上げる時は程よい力で締めるをタイミング良く繰り返し、
それによってペニスに纏わり付く肉襞の動きをより激しく、そして複雑にして有沢に与える快感を増幅させる。
その上、女が腰を下ろす度に、彼の亀頭の先端を女の子宮口がこつんこつんと突付き、彼を追い詰めて行く。
無論、有沢も只やられている訳ではなく、頭を左右に振りたくり必死に快感から逃れようとする。

「んふっ、んちゅ、んんんっ」
「んっ、んんんっ、ん゛ん゛~~っ!?」

だが、抵抗しようとする有沢の意思は、女が彼の首に腕を回しディープキスをして来た事で早速、崩壊しつつあった。
唇を割って侵入した女の舌が、まるで彼の口腔を味わう様に、舌先で念入りに歯茎や頬の裏側を撫で回し愛撫する。
反射的に有沢は自分の舌で女の舌を追い返そうとするも、追い返す所か即座に女の舌に絡み付かれてしまい
舌、そして口腔全体に張り付くようなねっとりとした愛撫を味わされてしまう。
無論、その間にも女は容赦無く腰を振り続け、ペニスに絡み付き、締め付ける肉襞のうねりを激しくさせる。

「んっ、はぁっ、はっはっはっ、あ゛っおぉんっ! いっ、いっちゃう、久しぶりだからっ、いっちゃい、そうっ!」

やがて、膨らみ始めた有沢のペニスから、女は彼の限界が近い事を察し
同時に女自身も絶頂の気配を感じ始めたのか、口を離し、犬耳と尻尾をピクピクと戦慄かせると
腰の動きをより大振りにし、有沢の下半身へ叩きつける様にぺちんぺちんと腰を下ろしては上げを繰り返す。
その最中、彼の脳の片隅に辛うじて残っていた思考能力が、中出しは拙いと判断するも、
手足を拘束されている上に、犬神の女の力?の所為で身動きが取れる筈も無く、如何しようもない。
最早、彼の我慢の意思は押し寄せる射精感によって決壊寸前、括約筋も持たない。もうダメポ\(^o^)/

「ひゃ、はっひっ、ひぃあ?――あ゛、あ゛う゛ゥォォォぉぉぉォォぉぉォォォ……ぉ!」
「あっ、あぁぁぁぁぁぁ………」

そして、女が一際強く腰を打ち下ろしたと同時に遠吠えの様な――いや、その物な声を上げて絶頂する。
それと同時に、有沢のペニスを根元まで包み込んだ肉襞がぎゅぎゅっぎゅっと強く何度も締め付けた事で、
我慢の限界を突破した彼も絶頂し、女の胎内へ大量の白濁を勢い良く叩き込んで行く。
その胎内へ注ぎ込まれる熱い感触に、女は身体を震わせながらこれまでに無い笑顔を浮かべて、

「はっ、ひゃ、いっぱい、きましたぁぁ……これで、けーやくがっ、でき、ましたぁぁ……」
(けーやく……契約? 何の、事だ?……)

女の言った言葉に、有沢は朦朧とした意識の中で疑問を浮かべる物の、
その疑問は、彼のペニスを包みこむ女の膣がやわやわと蠢いて白濁を吸い上げ始めて来た事で雲散霧消し

(……あ……もう駄目……眠……い……―――)

その上、身体に湧きあがった疲労感とアルコールによるダブルパンチな眠気が彼の意識を支配し始める
無論、その眠気に抗う事なんて今の彼には殆ど無理な話で、そのまま彼は眠りに墜ちて行った……

                          *  *  *

「起きて下さい……起きて下さい……」

耳元で聞こえる自分を起こそうとする誰かの声に、有沢は鬱陶しそうに寝返りを打つ。
万年床でペラペラな布団ではあるが、寝ている彼にとってはそれは関係無く、居心地が良い。
だが、その居心地の良さは、誰かが彼の身体を揺り動かし始めた事で消えようとしていた。

「ほら、今日は晴天、絶好のお出かけ日和ですよ? 早く起きてください、ご主人」

ぼんやりと霞掛かった彼の意識に、その何者かの声が染み渡ってくる。
気の所為だろうか、何やら『ご主人』とか今までメイド喫茶でしか言われた事の無い言葉が聞こえた様な気がする。
と、数秒ほどの間を置いて、ようやく現実を認識した彼の意識は驚愕によって一気に覚醒した。
慌てて身を起こして声の方を見れば、白装束に緋色の袴姿の犬耳女、もとい犬神の女が正座していた。
ここで有沢は自分がきちんと服を着ている事に気付いた。多分、女が行為の後始末もやったのだろうか……

「ちょ、ちょっと待て、ご主人って、どう言う……!」
「ご主人、話をする前に、朝、起きた時に先ず言うべき事があると思いますが?」
「あ……おはよう……」
「はい、おはようございます、ご主人」

取り合えず女を問い質そうとした所で、逆に女に窘められてしまい、
そのまま促されるまま挨拶を行う彼に、女は笑顔を浮かべて挨拶を返す。
そのまま暫く、彼は何言う事無く、いや、言う事出来ずに女の浮かべる笑顔を眺めた後。

「って、お前、何で家にいた上でご主人と俺を呼んでなんだってんだちくしょー!」
「ああ、ご主人、言葉が支離滅裂になってますよ、落ち付いて下さい!」
「お前が支離滅裂にさせてるんだろぉぉぉぉぉっ!」

そのまま混乱して喚き始めた所で女に再度窘められるが、
そもそも有沢の混乱の原因である女に落ち付けさせられる筈が無く、彼は余計に喚いたのだった。

「落ち付きましたか? ご主人」
「ああ、落ち付いた事は落ち付いたが……ちょっとは手段を考えろ」

暫く後、笑顔で問い掛ける女に、落ち付きを取り戻した有沢は半眼になって言う。
有沢が不機嫌なのも、混乱した彼を落ちつかせる為に女が取った方法があんまり良くなかった為である。
女が取った方法、それは暴れる彼の腹に一撃を食らわせて昏倒させたのだ。普通は不機嫌になる。
しかし、何時までも不機嫌になっている訳には行かず、有沢は取り合えず女へ問い掛ける事にする。

「とりあえず、聞くが……お前さんは何で俺の家にいるんだ? 用済んだんならどっか行けよ」
「そうしたいのも山々ですが……何分、私には行く宛がないので無理です」

きっぱりと一言。同時に彼の額に浮かぶ青スジ。
野良だから行く宛がないのは当然だろコンチクショウ、と彼が怒鳴り出す前に
女は何処か遠い目をしてモノローグに入った。

「私は元々、由緒のあるとある名家の犬神として使役されていました」
「……ほう それで?」

まあ、とは言え、その中でも私は下っ端の方ですが、と後に付け加えた後
女は有沢に話を聞く気が見えたのをちらりと確認し、話を続ける。



「私はその名家の主から与えられる命令に従い、その命を果たすべく常に懸命に取り組んでいました。
まあ、全てが全て上手く行くとは限りませんし、怪我をする事も度々でしたが、
それでも私にとっては充実した日々を送っていました」
「ふむ……」

ふと、有沢は女の境遇が何処か自分と似ている様な気がしたが、
直ぐ様それは気の所為だろうと思い、適当に相槌を打って話を聞く。

「しかし、私が仕える名家には問題がありました
その名家は犬神を使役する強力な武家組織で、遥か昔より存在し、様々な分家筋を持つ大きな物でしたが
それが故に、永い平和の時代が仇となり、育ち過ぎた木が内部から腐り落ちる様に、内部崩壊を始めていました。
そして、それに誰もが気付いた時には、全てが遅過ぎました」

言って、何処か寂しそうな表情を浮かべる女。
対して、有沢は何言うことなく、黙って話を聞く。

「腐り始めた木を折る風は、ある日、唐突に吹きました。
突如、主から下された屋敷からの即時避難命令、その命令に訳が分からないまま私は屋敷を出たのですが
暫く経って、どうも気になった私が様子を見に、屋敷に戻ってきて見れば……」
「………見れば?」
「私の見たもの、それはもぬけの殻になった屋敷でした、
屋敷を出る前、屋敷には大勢の人が勤めていましたが、私が戻った時には何故か全員姿をくらましており、
その上、屋敷にある金目の物も全て無くなり、見るも無残な荒れ果てた状態となっていました」
「……そうか……」

有沢は一瞬、まるで倒産した会社のその後みたいだな、と言いそうになったが
喉元に出掛かったそれをなんとか堪えて、代わりに相槌の声を出す。
そして、女は犬耳を畳み、顔を少し項垂れさせ、更に声の調子を落として言う。

「この時、私は悟りました―――そう、私は、主に捨てられてしまったんだと。
その時、同じく屋敷の前に来ていた他の仲間は、主が帰ってくるのを暫く待ってみると言ってましたが、
捨てられたショックが大きかった私は到底待つ気にはなれず、裏切られた傷心のままに宛の無い旅に出たのです……」
「まるで今の俺みたいだな……まあ、俺の場合は本当に会社から捨てられたような感じだけど」

と、同じく捨てられた身であった有沢は女に共感と同情を感じ、思わず声を掛ける。
その言葉に、有難う御座います、と一言だけ返し、女は話を続ける。

「まあ、そんな訳で宛の無い旅をしていたのですが、
何分、仕える者の無い犬神は野良犬も同然、その野良犬にとっては現代社会と言うのは冷たく厳しいものでして、
私は保健所の目から逃れながら、何時も空腹と戦う毎日を送っていました」
「何と言うか……世知辛いもんだな……」
「ええ、世知辛いものでしたよ! 犬神であるこの私が、子供から無意味に石を投げつけられたり
顔にマジックで眉毛を書かれてしまったり、レモンを臭わされ嫌がる反応を見て笑われたり、
あまつさえ! この私が! 人目から逃れる様に、カラスと争いながら飲食店のゴミ箱を漁るなんて!」

と、閉じた目に涙を浮かべ、顔の前に突き出した拳をぐっと握り心底悔しげに言う犬神の女。
一番悔しいのがゴミ箱漁りとは、この女は食い物がらみの事になるとかなり五月蝿い様だ、と有沢は胸中で判断した。
そんな有沢の胸中を知ってか知らずか、女は更に続ける。


「そんな感じで、私は昨晩も、腹を空かせながら当て所も無くうろついてました。
そして、ある公園に差し掛かった時、何処からか良い匂いが漂ってくるのを私の鼻が感知しました。
早速、食料があると判断した私がその匂いを辿って見ると、其処に……」
「丁度メロンパンを食べている俺がいた、と言う訳か」
「はい」

タイミング良く言った有沢の言葉に、女が頷く。

「まあ、普通ならば、私は今までの経験から考えて、
どうやった所で、不機嫌な様子の人間からメロンパンは貰えないだろうと、諦めて立ち去っていたのですが。
よくよく匂いを分析して見ると、どうやら貴方は遠縁ではありますが、
私の使えていた名家の血筋の人間だと判断しました」
「へ?……如何言う事だ?」

言葉の半分程が理解できず、思わず首を傾げる有沢に、女は更に付け加える。

「恐らく、貴方の母方か父方のどちらかに犬神筋の人間がいるかと思いますが……心当たりはありませんか?」
「………あ」

思い当たる節――母親が話していた犬神に関する話に行きつき、思わず声を漏らす
その様子を見た女はくすりと笑うと、

「やはり、私の思った通りでしたね。
まあ、其処で、野良犬の生活に疲れを感じていた私は一計を案じ、貴方に接触を取る事にしたのです。
なんとしても、辛い野良犬の生活を終える為、そして、貴方を新たなる主とするその為に」
「って、事はなんだ? その……復讐ってのは只の……」
「はい、単なる名目です。まあ、流石に空き缶をぶつけられるのは予想していなかったのですが、
とりあえず、目的の最初の段階を達成した私は、貴方の匂いが一番濃い場所、そう、貴方の住処に先回りしました」
「其処で、何も知らずに帰ってきた俺になんやかんやいちゃもん付けて、そのまま……って訳か」
「はい♪」

何処か疲れた調子で言った有沢に、女は飛びっきりの笑顔で応える。

(つー事は、あの時、素直にメロンパンをあげていたとしても結局は同じ事になっていたのだろうな……)

と、胸中で何処か達観した感じで呟き。嘆息した有沢は別の話題に切りかえる。

「で、昨晩のあの時……そう、お前さんが言っていた契約ってなんだよ?」
「ああ、契りの事ですね?」

女の言った疑問の答えに、有沢は『契り』の言葉の意味が分からず首を傾げる。
そのまま彼が更に疑問を投げ掛けようとする前に、女が解説をする。

「契りと言うのは、まあ、言えば犬神と主の間でとる主従契約のような物でして。
本来ならば血液を使うのですが、それ以外に、より強く主従契約を結ぶ方法として精液を使う方法があるのです。
それで……その……」
「…………」

何処か伏し目がちに頬を赤らめる女を前に、有沢は暫し沈黙した後――

「その、俺と主従契約を結ぶ為に……俺を逆レイプしたって訳かよ……?」
「はい♪」

何処か疲れた、いや、本当に疲れた調子で言った言葉に、女が輝かんばかりの笑顔で応える

「なるほど、お前さんが俺の事をご主人と呼ぶ訳がようやく分かった……」

目覚めたばかりだと言うのに、早速精神的な疲れを感じ始めた有沢は、遂に布団へ突っ伏した。

その突っ伏した体勢のまま、彼は更なる疑問を投げ掛ける

「てー事は何だ? 俺があんたとの主従契約を一方的に破棄した時は、その、どうなるんだ?」
「そうですね……先ず、確実に不幸になります。
私達、犬神というのはきちんとした扱いを行う場合は、主にとっての守り神になるのですが、
反面、犬神に対してぞんざいな扱いをした場合、犬神は祟り神となって主に対して不幸を齎すのです、
例えば、治り難い病気になったり、意味も無く財産を失ったり、理由も無く友達から嫌われたり……
まあ、そうなれば貴方は悲惨な一生を送る事になりますね、はい」
「そ、そうか……そいつは洒落にならねぇな……」

女が冷静淡々と答えた本気で洒落になってない内容に、有沢が何処かうめく様に言う。
まるでどこぞの霊感商法まがいの宗教の教祖が、難色を示す獲物に対して言う謳い文句のような感じだが、
何ら根も葉もないそれに比べ、犬神である女が言っている事の方が格段に信憑性がある分、余計に性質が悪い。
そんな彼の険悪な様子に気付いたのか、女はぱっと明るい調子で、

「大丈夫ですよ、ご主人! 犬神との契約は悪い事ばかりではありません。
そう、私の力があれば、貴方の人生をより良い物に出来るんですよ!
例えば…そうですね、道で小銭を拾う事が多くなったり、宝くじの4等が当る確率が上がったりしますし
それに、な、なんと! 食堂で出るおかずの量が通常より1割多くなったりするんですよっ!!」
「……随分とせせこましい力だな……」

女が力説した力の内容のしょうも無さに思わず身を起こし、半眼で呟く有沢。
それにしても、おかずの量の事に関して特に強く力説した所から、
やっぱりこの女は食べ物に関してはそうとう五月蝿いんだな、と彼は胸中で確信した。
女はオホンとひとつ、咳払いをして更に続ける。

「ま、まあ、私は何分、下っ端でしたからね……
で、でも、これからの貴方の修行次第で、私の力を強める事だって出来るんですよ!」
「ヘぇ、修行ってどんな物なんだ?」
「そうですね。例えば―――」

有沢は女の話に興味を抱き、少し身を乗り出して聞く。
そして、女は少し考える様に例えを言い出す、

「一晩の間、水量の多い滝に打たれ続けるとか、その他に――」
「いや、もう良い。今の状態で充分だ」
「え?……そうですか? なら良いのですが……」

最初の例えの時点で、有沢は修行に関してはすっぱりと諦め、女の言葉を遮って適当に答えた。
流石にご利益の為にわざわざ苦行を受けられる程、心身ともに強くないと彼自身自覚していたからである。


そのままぼんやりと晴れ渡った空の見える窓を暫く眺めた後、彼はやおらゆっくりと立ち上がる。
女は、はた、とそれに気付き、問い掛ける。

「あ、ご主人、これから何処かに行かれるのでしょうか?」
「ん、ちょっとな、ハローワークに……」

と、言って、有沢は女が枕元にきちんと畳んで置いていたスーツの上着を着込み、
ネクタイを締めて身なりを整えると、そのまま玄関へと向かう。
今の彼にとって、犬神の女に構っているよりも一刻も早い再就職が先決だった。何せ生活が掛かっている。
と、玄関の土間の前に立った所で、彼は未だに正座をする女の方へ振り返り、

「お前さんは如何する? 付いて来るのか? それとも来ないのか?」
「はい! 勿論です!」

と、女に向けて問い掛ける。
対して女は犬耳をピンと立てると、ぱあっと明るい笑顔を浮かべ、尻尾を大きく振りながら力強く答える。
そのままとてとてと有沢の後に続く女に、再度歩き始めた彼は続けて、

「言っとくが、その白装束と袴姿は止めとけ、嫌になる程目立つ」
「はい! 分かりました、ご主人!」
「それと、お前さんを連れて行くのは、ぞんざいに扱って祟られるのは嫌なだけで、
それにお前さんの力が俺の就職に有利になるかな―と言う只の希望的観測だから、勘違いするなよ」
「はい! 分かりました、ご主人!」
「もう一つ言っとくが、人前で変身するのは禁止だぞ、袴姿以上に目立つから」
「はい! 分かりました、ご主人!」

二言三言、言葉を交わし、力強く応じられた所で有沢は何かを思い出したかの様に立ち止まる。
突然の事に少し不安を擁いた女が、何処か心配そうに彼の顔を見つめ

「あの…如何致しましたか? ご主人」
「いや、俺には有沢 広って名があるからご主人と呼ばずに、有沢か広かのどっちかで呼んでくれ。
――って言おうと思ったんだが、そーいや、お前さんの名前を聞いてなかったな? って思って」
「あ! そう言えば名前……言ってませんでしたね?……も、申し訳ありません!」

どうやら女の方も完全に失念していたらしく、少し恥ずかしそうに謝った後、
――この時点で、女が如何やったのか分からないが、
女の姿は既に、今風の服装に変わっていた。多分、これも犬神の力の一端なのだろう――
続けておずおずと自己紹介を始める

「では改めて、私の名は白蓮(はくれん)と申します、その……広……様?」
「様付けは要らん、恥ずかしい。 ――と、まあ……出来ればさん付け程度にしてくれ」

有沢が恥ずかしいと言った所で女――もとい、白蓮の表情が僅かに曇ったのに気付き、慌てて付け加える。
その言葉に、白連はくすりと笑うと、

「了解致しました、広さん。では、早く行きましょう」
「あ、ああ……」

と、何処か嬉しそうな調子で言った後、さっと有沢の前に回り込み、尻尾を振りまわしながら先に行くように促す。
急に何処かこっ恥ずかしい気分を感じた彼は、後ろ頭をぽりぽりと掻きながら白蓮を伴って玄関から出る。

「さあ、新たなる繁栄の為に! 頑張っていきましょう! 広さん!」
「……程ほどにしてくれよ? 俺は只のサラリーマンだったんだし」

そして、輝く太陽に向けて元気良く右手を上げ、エイエイオーなどと掛け声を上げる白連を横目に、
新たな繁栄ってなんだよ、とか、これから色々な意味で大変になりそうだなぁ、とか思いつつ、
有沢は苦笑し――朝の空気が清々しい外へ歩き出すのだった。

―――――――――――――――――了―――――――――――――――――――

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最終更新:2008年08月07日 00:14