夏の怪談話にはいささか早いが…まあこの暑さなら夏みたいなもんだ、気にするな。
さて、何を話すべきか。
『チェレンコフ光とエニグマ』…いや『未來のイヴと東鳩の相対論』だったか?
『電気羊の妹』…『ドグラ・マグラはヤンデレの先駆けか?』でもないんだよな?
そうだそうだ、『夜雀に逆レイプされた男』だったな!

あれは何年前か。俺は三年ほど灯台官吏官…いわゆる「灯台守」としてある島で働いていた。
特警隊だSSTだのといった警備事案もなければ「海猿」や「トッキュー!(特救隊)」の活躍するような海難もない、挙げ句の果てに刑事事件とも遠縁な部署で日々日々、灯台を整備したり気象を観測したりと平穏な日々を送っていた。
島には空自の小さなレーダーサイトや気象庁の事務所がある以外に建物はなく、たまに本土から日用品や手紙といった類が届いて…まあ酒盛りなんかもしていたんだけど。

そんなある日、本庁からEメールで『灯台を自動化する』なんて知らせが届いた。
要は『灯台守はもういらないからお前は本土に帰れ』ってことだけど、確かに俺みたいなのが世話をするよりは機械に任せた方がこの灯台をしっかり面倒みてくれるだろう。


でもなんだ、三年間とはいえ世話をしてきた灯台とこの島から離れるのは少し寂しかった。
とかなんとか俺の気持ちはいざ知らず、あっという間に灯台改修まで3日を残すだけになった。

夏の夜。ずいぶんと日没は遅くなって、晩飯を食べた後に事務所兼宿舎の国旗を降ろすようになっていた。
一番星が輝きだし、夜の海を灯台の明かりが照らしだす。
俺は四種制服のまま事務所の近くの海岸でぼーっとその灯りを見ながらコーヒーを飲んでいた。
コイツともお別れか…などと柄にもなく感傷に耽っていると、奇妙な音を耳にした。
―――チッチッチッ…」
俺にはそう聞こえたんだが、聞きようによっては「チン、チン」とも歌ってるようにも聞こえる。
続いて聞こえてきたのは
―――さ~て問題ぃ~♪私はぁ、誰でしょ~♪
なんだこりゃ。
―――人間を鳥目にしちゃう夜雀~♪
―――人間を食べちゃう夜雀~♪
―――食べるとおいしい夜雀~♪
「食べるとおいしい夜雀か。そりゃあ良かった。」
「ち、違うよ~!って、あわわわ…わ~!」
ヒュルルル…ドシャッ!
落下音に後ろを見るとアメリカのアニメよろしく、変な生き物が逆さまの状態で上半身を砂浜にめり込ませていた。


「なんだこりゃ…って言うのは二回目か。しっかし不思議な光景だな。」
ジタバタともがきだした夜雀とやらは真っ白なワンピースを着ているがスカートは当然逆さま、白い下着どころかへそまで丸見えだ。
このままシュールなオブジェと化してもらっても困るので、とりあえず後ろから腰を掴んでジャーマンスープレックスの要領で引き抜くことにした。
「ぐっ…ぬぬぬぬ!うおりゃー!」スポンッ!―――ドス!

「いたたた…もう、こんなにおっきなたんこぶが~!」
スープレックスの要領のはずが見事に決まってしまったのは誤算だった。
「“終わりよければ全てよし”が俺のモットーだ。まあ良かったじゃないか。で、答えは?」
たんこぶをさすりつつキョトンとした目で見る夜雀。
「答え…?あ、あ~あ~答え!答えは…え~実はなんと人間を食べちゃう夜すずm―――」ていていっ!ぽかぽかっ!
「あいたっ!そこ、たんこぶだよぉ…」
「お前な、そりゃあお前が妖怪の類なのはその羽を見れば分かるさ。夜雀は俺の故郷じゃ有名だしな。」
頭を抱える夜雀の背中には確かに羽が生えている。が…
「けどな、例えお前が夜雀だとしてもだ。ど~見てもお前には食われそうにないぞ。」


「そ、そんな~!どこからどう見ても立派な夜雀です!ほら、羽もぱたぱた…」
「いや羽がどうとか以前に見た目が怖くない。第一、昔話でも夜雀が人間を食べるなんて聞いたことないぞ。」
キッパリと言い放ち、orzの姿勢でうなだれる夜雀は放置して俺は再び灯台の灯りを肴にコーヒーを飲み直す。

は~コーヒーがうめぇ…
「ここの灯りって美味しいですよね♪」
「そうだな。俺もこの灯台は好きだが…最近の夜雀は光も食べるようになったのか?」
我ながら何を言ってるんだと言いたくなった。
「はいぃ、そです。最近は雑食なんですよ~。灯りとかジュースとか人の精気とか穀物とかトウモロコシとか…あ、ちなみにさっき言った“人を食べる”というのは性的な意味なんで心配ご無用です!」
ぽかっ!―――あいたっ!
「で、今晩は大潮…もとい、満月だからこんなにうるさいのか?」
「いやあ、実はもともと喋るのは好きなんです~♪」
ぽかぽかっ!―――いたいいたい!

夜雀曰わく、ここの灯台の灯りは心がほんわか味らしい。
日光のぽかぽか味も、月光のひんやり味も好きだがここの灯りが一番だとか。
それにしても…こんなのが夜雀とは思わなんだ。


肩口で切られた髪、小さな羽、ちょこんとした尻尾まで薄い茶色。
これじゃ夜雀というよりただの雀だ。
おまけに背格好はワンピースを着たガキ。
「これを怖がるというのは土台無理だろうなあ。」
「ほぇ?なに?」
「いや、なんでもない。なんか食べるか?」
「やたっ!実はお腹ぺこぺこなんです~♪」
ふむ、確か事務所の冷蔵庫に食べかけの枝豆とまだ空けてないビールがあったはずだ。

…はて?いやに股間がスースーと…
ふと下に目をやると膝立ちの夜雀。眼前には俺の息子が。
「いただきま~す♪」
「ちょ…おま…なにを…くっ!」
ぬるりとした舌と生暖かい口の感触に有無をいわさずそれは固くなる。
「はむ…なにっれ…ごはん…んっ…」
喋りながらも舌は刺激を与え続け、あまつさえその小さな手に唾液を垂らしてしごいてきた。
それは彼女の本能的な行為なのだろう。あくまで機械的に、かつ快感をもって責め続けてくる。
「や、やめ…は…ぐっ…」
元々女日照りの離島暮らしで溜まっていたこともあってか、まだ幼さの残る夜雀の頭を抑えて俺は暖かい口の欲望のまま射精していた。
「んくっ…んくっ…」
夜雀は、突然の射精にも関わらず喉を鳴らして飲み続けていた。


手でしごき、口で最後の一滴まで吸い上げた夜雀はゆっくりと口を離して立ち上がる。
咀嚼するかのように口内でその感触を楽しんでいたが、やがて飲み込んでほう、と吐息を漏らす。
「すごく…濃くて…おいしくて…」
その表情はさっきまでとは比べ物にならないほど大人びた恍惚とした顔だった。
「オスの…味が…いっぱぁい…」
笑みを浮かべる夜雀の瞳が血のような紅に染まる
逃げろ。その瞳を見てはいけない。背を向けて。闇雲に。声を上げて。狩られる獲物のように…逃げろ。

だけどその瞳は、その笑顔は、小さな夜雀は、俺を逃がしてはくれなかった。




3日後2100、本土連絡船出航直後―――タコ部屋にて
「これでこの島ともお別れか…はぁ…次の赴任先は特警船か…体持つかな。」
「うう、灯台と涙のお別れですねっ。」
「まあな…って、お前…なんでいるんだよ。」
「一宿一飯…いえ、“食事”は数多です!この恩義を返さないとあれば夜雀の名折れですっ!」
「…こちとら足腰が痛いんだ…静かにしてくれ」
「あわわ、それは大変ですっ!心当たりはありますかっ!?」
「自分の胸に聞いてみろ…」

遠ざかっていく灯台。
その灯りは一人と一匹の道を静かに、優しく照らしていた。

これで昔話はおしまい。
わ、こら、やめろったら。こんな…じかんから…アッー!