「えらそうなこと言ってごめんなさいっ、あきり、ああたのざーめんがぁ、無いとぜんぜんらめなのっ」
 激しくなる語気と動作にこちらも耐え切れなくなる。六発目だというのにまだまだ衰えを見せない精液が咥内に注がれる。
「んんく、んく、あむ、んふうぅっ、えうっえほっけほっ」
 アキリFも飲み込んでいくものの、泣いたせいで横隔膜が痙攣していたから、全部を飲みきることができず、途中で吐き出してしまった。
「ああ……ざあめん……こんな……たくさん……」
 涙でぐちゃぐちゃになった顔の上に降り注ぐ精液を浴びながらアキリFはそんなことを呟いていた。

「こんな馬鹿みたいに出して、これだから地球人は……んん……ちきゅうじんはっ……ちきゅうじんはあ……」
 射精を終え、全身に浴びた精液を舐めながら、アキリFは初めの頃の威勢の良さを取り戻していた。
 それでいて、不満げな様子はなく、顔をだらしなく緩ませているのだから、アキリFの心の内は秋(Fall)の空のように全く見当がつかない。

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 だれか「アキリたんはみんなのアキリたんなんだぞ! けけけ結婚なんてするもんか!」
 アキリ「そうですね」


「うーん、精液とは違うこの苦味。至高の料理とはこのことではないか?」
 いや恥垢じゃないですかね。
 思わずこちらがそう口走りそうになってしまうボケた発言をしたのはアキリGは、
もう六人のアキリに舐められ咥えられ弄られた後の陰茎からどうやって得たのか、白い恥垢を舌で味わっている。
 アキリGは施設内屈指の美食家(Gourmet)で、料理課の職人(鉄人?)だ。一日一回行われるこの"食事"以外の食事は全てアキリGの手によるものだ。
 アキリGの料理は素晴らしく、アキリG手製のカレー丼を食べたとあるアキリがあまりの美味しさに錯乱して大阪城を壊してしまった事件は新聞の一面を飾ったし、
今まさに自分の身体に群がり貪るアキリ達に文句を垂れているアキリFの口からも不満を聞いたことはない。
 就職当初、部屋で冷凍食品を食べていたところを見られ「やれやれ、こんな餃子をうまいと言っているようじゃ、ほんとに良い精液が出るかどうか怪しいもんだ」と笑われ、
そしてその次の日からアキリGによる徹底された味と栄養配分の料理をもてなされ続けている。そのおかげでこちらは日々の"食事"に耐えうる精力を蓄えられているのだ。

 アキリGはカウパー腺液好きの希少種だったがアキリGはその上を行く物好きで、味にうるさいわりにはどんなものでも美味しく戴ける味覚の持ち主でもある。
 しかしアキリG曰く、究極の食材は精液であるそうで、"食事"の前からだらだらと涎を垂らし、自分で用意した前掛けをびちゃびちゃに濡らしていた。
 他のアキリと同じように初めは苦い顔をするものの、すぐに味の感想を述べる。
「ん? 今日はすこし、酸味が強いな。……そうかそうか。私の作った料理だけじゃ満足できなかったか」
 こちらは一応否定したものの、アキリEはこちらの意見より自分の味覚を信じるため、アキリEの顔に暗い影が差した。
 まあ表情は陰鬱だけど、口の中の食材には勝てないようで、咥内から唾液を溢れさせながらじゅぽじゅぽと音を立てて陰茎をほお張っている。
「私の、じゅぽっ、料理なんて、ぬぽっ、まだまだだもんなあ、ちゅぱっ、そんな粗末な料理は、ぴちょっ、人間様に食べさせる訳には、んぽっ、いかないよなあ」
 喋るのか食べるのかハッキリしてなどという言葉は全く出ず、これからも料理を作って欲しい旨を伝える。
「私の料理、うまい?」
 陰嚢を口に含み、玉を味わうように舌で器用に転がすアキリGに頷く。
「私の料理、おいしい?」
 竿に齧り付いて舐めまわしているアキリGに頷く。
「エオオアいち?」
 裏筋を舌でなぞり、カウパー腺液を飲んで笑顔を浮かべているアキリGに頷く。
「宇宙いち?」
 アキリの唾液は、舌についた消化腺から出てくる独特の匂いのする消化液と言った方が正しく、アキリGのそれは一段と溶解性が高い。
 アキリGの"食事"の後には亀頭がひりひりと真っ赤になってしまうのだが、どのアキリの唾液よりもトロトロとしたそれを利用した"食事"はとても気持ちいい。
 陰茎を餡かけ料理に作り変えて、おいしそうな顔を浮かべて食べているアキリGに頷く。
「じゅっぽっ、ぬぽっ、あぷっ、カウパーだけじゃなくて、じゅぽっ、タンパク質の、にゅぽっ、精液の味もしてきたぞ」
 口や舌で亀頭を、両手で竿や陰嚢を、ぬるぬるとアキリG特製の潤滑油を塗りこんでいく動作は、他のアキリでは味わえない種類の快感を生んでいる。

「さいごにもうひとつ。じゅぼっ、私の作ったもの以外、あぷっ、食べない?」
 この答えが何よりも一番おいしいと云わんばかりのアキリGの表情を見て、強烈な射精感が襲ってきた。
 どくんどくんと脈打ち放たれた精子を、先走った精液の味で、ほっぺたが落ちそうな位に恍惚としていたアキリGは殆ど飲むことが出来ず、
顔から、前掛けから真っ白になってしまった。

「うん任せろ……かなる時も……める時も……お前の……そ汁は……わたしが……ずっと……ってやるからな……」
 呆けた顔でうわ言を呟くアキリGの肌理細やかな頬に亀頭を押し付け、さきほどこちらがされたみたいに、餡よりも粘り気の強い白濁を塗りつけて。
 こうしてアキリGの"食事"は終わったのだった。

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 だれか「ねーねー、お母さ」
 アキリ「アキリです」


 精液のアキリG盛りを列から外れたアキリ達に振舞うアキリGも素晴らしい奉仕の精神の持ち主だと思うが、アキリHも負けてはいないと思う。
 清らかな水辺で生息するアキリの身体は粘液で覆われているのだが、この粘液は抗菌被膜の代わりとなったり、補色動物に対する牽制(あまり美味しくはないらしい)となったりするのだが、
アキリ達の持つ、真っ二つに切られても切った先から再生し、二人のアキリに分化してしまうというその性質を支える上でも必要な治癒効果もこの粘液に含まれている。
 アキリHの咥内はその粘液で満たされており、アキリGの消化液で傷ついた海綿体の治癒にとても効果的だ。
 外気に触れることもない上にアキリHもこちらを配慮して、じっとした静止したまま咥えているだけなので痛みは全くない。
 もしかしたらアキリHは自分の"食事"のことを忘れているのではないかと思うくらい動きが乏しい。
 実際に昨日なんてこのアキリは一回の"食事"に定められた時間が過ぎるまで咥えたままで、思わずこちらが"食事"はしなくていいのかと訊ねたら、
 「ああ、そんなこともありましたねえ」と間延びした答えが返ってきた。
 アキリのこの欲のなさは、入社当初から顔を合わせているのに驚くほど控えめな胸部と同じくらい不思議である。
 もしかしたら何でも好んで口にするアキリGとは反対に、あまり精液を美味しいとは思っていないのかもしれない。

 後列のアキリやアキリGをぺろりと平らげたアキリが「あっと五分! あっと五分!」とアキリHに許された"食事"の残り時間を手拍子しながら囃し立てている。
 温かく、包容力のある咥内もそれはそれで気持ちいいのだが、アキリEの"食事"以上のむず痒さを感じるのも確かで、日頃のお礼も込めてこちらから腰を振り始めた。
「あぷっ、だめなの、まだ、うっぷっ、おちんちんさん、あうっ、ぜんぜん、うぐっ、なおってないのおっ」
 喉奥から陰茎を引き抜かれた時にアキリHは喋ろうとするものの、なかなか難しいようだ。雁首を押し込まれて途切れ途切れになりつつ、こちらに投げ掛ける。
「あうっ、おちんちんさん、んんっ、くるしいでしょおっ、うあっ、いい子だからあっ、ひうっ、落ちてつい、んあっ」
 アキリHを一言で表すなら"癒し"だ。
 こちらの局部の心配をして聞き分けの悪い子供をあやす様な声色で抑止の言葉を紡ぎ続けるアキリHに感動を覚えつつも、その恩義を果たすつもりで射精をする意思を固める。
「もうっ、うぐっ、おちんちんさん、んんっ、どうなってもっ、んっぷっ、知りませんんっ、からぁっ」
「あっと一分! あっと一分!」
 口の中の亀頭に舌を這わせて積極的に舐め始めたアキリHに呼応するようにこちらの腰の振りやギャラリーの声も力がこもってきた。
「あむっ、おちんちんさんっ、んんっ、びゅるるーって、んむっ、お汁だしちゃって、んぐっ、良いんですからねぇ」
 唇と陰茎の間から、普段はおっとりとしているアキリHには珍しい少し焦ったような声が漏れている。
「にじゅきゅっ、にじゅはちっ、にじゅしちっ」
 もう残りは三十秒を切ってしまった。とろんと垂れた瞳に赤い炎が灯ったのが見えた気がした。
「ぬぽっ、おちんちんさんっ、じゅぽっ、ほらぁっ、んぷっ、どうだぁっ、あぷっ、どうだっ」
 舌を使い、身体全体を使い、亀のようなアキリHからは信じられない機敏さと果敢さで陰茎を責め立てる。口調もゆったりとしているのにどこか強気だ。
「じゅうごっ、じゅうよんっ、じゅうさんっ」
 亀頭や雁首、裏筋と、尿道口の中にも舌がいやらしく伸びる。
 温かく心地よいぬるま湯のようだったアキリHの咥内が、快適ではなく快楽を生み出しているのをひしひしと感じていた。


「んんんっ、んんぐうう、んくっ、んくっ、んくっ」
 そしてついに精液がアキリHの咥内へと発射され、ごくごくと喉を鳴らす音が聞こえてくる。
 しかし同時にアキリHを、時間を数えていたアキリ達の手が伸びる。
「んぐっ、んぐっ、んんんんっ、きゅぽんっ」
 後ろから引っ張られたアキリHは亀頭に吸い付いて応戦してみたけれど、さすがに二桁を超すアキリの力には敵わなかった。
 アキリHの口から離れた後も射精は続き、羽交い絞めにされたアキリHは追い縋ったが、結局二割くらいしか飲めなかったのではないだろうか。

 終わってみると、先ほどまでのアキリHはどうにも自分の知っているアキリHとは結びつかず、白昼夢か、あるいはアキリHから分化した別のアキリかと疑惑の念が過ぎるものの、
亀頭に残るこの火傷しそうな程の熱(Heat)が、とりあえず先ほどの光景が夢ではないことを教えてくれていた。

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 だれか「好きです。付き合って下さい!」
 アキリ『生物的に無理』


 先ほどまでの喧騒とは打って変わっての静寂。アキリIの"食事"はそうなることが多い。
 アキリIはマスクをしているが、これは風邪を引いている訳ではない。(昨日まで十日間くらいずっと寝込んでいたというので、もしかしたら風邪を引いているかもしれないが)
 マスクの下に整形失敗した大きな口があるとかいう訳でもなくて、その逆。
 死人に口なしというが、アキリIにも口がない。いや無い訳ではないのだが、先祖返りと学者連中は言っていたか、彼女達のルーツであるプラナリアには腹部に咽頭、
つまりは物を摂取する器官がついており、アキリIの口も胸部から頭二つ分ほど下あたり(ヒトでいうところの下腹部辺り)に存在している。
 ヒトの口/発声器官兼摂食器官の部分には何もなく、口だけコンピュータグラフィクス処理を施したみたいに存在しない、ヒトによく似たその顔を見て失礼ながらこちらも最初は驚いた。 

 アキリIは水路から這い出て、こちらに抱いてくる。身体の粘液の湿感と、甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
 そしてそのまま押し倒され、後頭部、床に直接触れている部分にひんやりとした冷たさを感じた。
 アキリIは流れるような動作で陰茎に手を添えて、濡れそぼった咽頭へと招いた。

 アキリIの下腹部にある咽頭(原始咽頭とも言っていたか)は摂食と排泄機構であり、見た目からいうとヒトの女性器に近い形をしている。
 なのでアキリIの"食事"はヒト同士の性交によく似た形となるのだ。
「ひゅうっ、ふっ、ひゅうっ、ふうっ、ふっ」
 アキリIがしっかりとこちらにひっついて、腰を振って抽送を行っていく。水路の中とは違い、浮力による補助のない陸地での運動は予想外に疲れるようで、
アキリIの鼻息は荒く、顔も上気して高潮してくる。ぎゅっと手と手を握り合わせてアキリIを支えた。
 こちらにしな垂れかかり、形の良いお碗形の胸部がこちらの胸板に潰され、擦りつけられていくのを見ながら/感じながら、陰茎を包むアキリIの中の気持ちよさに身を委ねる。
「ふっ、ふっ、ふっ」
 短い呼吸と連動して早いスパンで上下する咽頭に、こちらの腰も合わせる。離れていく時、陰茎に吸い付くように桃色の咽頭が伸びるのが面白い。
 重ね合わせた片方の手を解いたかと思うと、こちらの掌に細い指先を縦横斜めに走らせる。『気持ちいいですか』そうアキリIはこちらに問いかける。
 返答の代わりにアキリIの中を思いきり突き上げてやる。『それは 良かった』とアキリIが目を細めた。
「ふぅーっ、ふぅーっ、ふぅーっ」
 今度は長い呼吸に似合ったゆったりと味わうような動きが始まる。ねっとりと絡みつく咽頭に思わず腰が震える。
 『さもちよさそつ ですね。こういうのも 良しでしよう?』緩慢な動きとは反対に、アキリIの"言葉"は乱れ始めた。
一文字一文字が印字されたかのように丁寧だったアキリIの"言葉"の線はぷるぷると震え、落丁が目立ってくる。
 余裕を見せようとして発した"言葉"が逆にアキリIの限界が近い事を教えてくれた。こちらも早いところ射精しなければならない。
「ひゅうっ、ひゅうう、ひゅっ」
 踊るように腰を回したり、かと思えば急に激しく上下させたり、様々な動きを折り混ぜて快楽の渦へと誘うアキリI。
『めせつて ざーぬん だそうどしなくて いいいですがら、ゆつくりしていつてね』筆圧が強くなり、ミミズが這うような"言葉"だ。
かくんと、無意識の内に身体から力が抜けることも多くなってきた。アキリIの体の粘液も乾いてきて、慣れない外気が更に体力を消耗させるのだろう。
「ううっ、うううー、ううっ」
 やがてこちらの限界が来て射精した。蠢く咽頭と、唸るような息、そして、がくがくと崩れ落ちしな垂れかかるアキリIの重みを感じる。
『ふふふ、もうイっちゃいましたか』などと長い付き合いのこちら以外には誰にも分からないだろう悪文を読み取りながら、精子を出した後の、あの言いようのない虚脱感を味わっていた。

 精液を飲み干したアキリIのお腹はぽっこりと膨れ上がり、これがヒトだったら確実に妊娠しているだろうと推する。
 もちろん、こちらが精を注いだのは膣ではなくて咽頭の中であるからそんな事がある筈も無い。
腹部は今でこそ破裂せんばかりに張り出ているものの、水面に浮かぶアキリAのそこと同じように、数時間と経たない内に消化されて見る影も無くなってしまうのだ。
 そこを濡らしているのは、愛液ではなく消化液であって。ぐったりとこちらに抱きつくようにもたれ掛っているのも、只の疲労からであって。
 こちらを求めてくるのも、走化性という、化学物質(アキリの場合はタンパク質)に近寄ってしまう生物に最初から組み込まれた本能であって。
 こちらに好感を持たれる行動をするのも、より多くの食糧を得るための合理的行動であって。

 学者連中がこの不思議なヒトガタプラナリアに付けようとした名前。アキリの他にもう一つ案があった。
 こちらも外見から由来した名前でアリエルといったそうだ。
 とある人魚姫から取られたこの名は、他に見つかった本物の人魚に所有権が移されたのだけれど、こちらが採用されなくて良かったと思う。

 このウロコもヒレもない美しい紛い物(Imitation)の人魚が声を失ったのは単なる遺伝子の不思議であって、ヒトになりたいと望んだり、恋した末の結果ではないのだから。
 桃太郎飴あるいはマトリョーシカ。自分だけで繁殖できるアキリに恋だの愛だのセックスだの、そんなシステムが配備されていたら逆に不自然だ。
 恋愛なんて錯覚だというけれど、アキリにはその錯覚すら起こりえない。

 アキリIの肩を持って抱き上げて、ゆっくりと水面に戻してやる。
 群がるアキリにアキリIが埋もれるのを見たあと、アキリJの"食事"――供給課の職務に戻るのだった。


(続)

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最終更新:2008年05月29日 00:10