「慌てんぼ~のサンタクロース♪クリスマス前~にやってきた♪」
 …虚しい。少年は心の中で、心よりそう思った。

 今は11月前半、部屋に響くのは調子っぱずれなクリスマスソング。
歌声の主は、小さなクリスマスツリーの前に座る少年。バックコーラスはストーブの駆動音と、時計が時を刻む音―――
 「うつだ…死のう」
哀愁漂う18歳、宮部俊彦の呟きが、停滞した部屋の空気に溶け込んだ。

 俊彦は一人暮らしだ。なればこそ、この状況を作ったのも俊彦本人である。
 事の発端はこうだ、使用されなくなって二ヶ月、いい加減扇風機を片付けようと思い立った俊彦は、
物置部屋に扇風機を運び込んだのだが、その際にこのクリスマスツリーを蹴飛ばしてしまい、なんとなく持ち出して飾ってみたのである。
んで、そのついでにと先程「慌てんぼうのサンタクロース」なんか歌ってみたのだが、それが良くなかった。
去来するのは一年前のクリスマス、一人で安売りシャンパンを開けたときの事だ。
よくよく考えれば、俊彦が最後に誰かと過ごしたクリスマスは5年前。
父、母、そして両親が友達から任されていたという少女と過ごしたものだった。これは酷い。
 「切実に彼女が欲しくなってきた……」
 そう呟いては見るものの、生れ落ちたその日から、今この瞬間も
彼女いない歴を更新していることを思い出して、更にうつになる……
本気で死にたくなる前に、俊彦は寝る事にした。

さて、どれほどの時間が経っただろうか?自分を呼ぶ声で少年は目覚めた。 
「俊彦さん、起きて下さい」
最初に浮かんだのは、誰だろうと言う疑問。前述の通り、この家は俊彦しか住んでいない。
泥棒だとしたらわざわざ起こしたりしないだろう。夢だろうか?
「俊彦さんってば」
揺り起こされている、夢ではないらしい。
上体を起こしながら目をこする、寝起き状態の目蓋がまだ重たかった。
夢としてはリアルな感覚で、現実より少し浮世離れした浮遊感。寝起きか夢か判別できない。
 視界が少しづつ鮮明になって来る。最初に見えたのは顔、ベッドの脇で膝立ちして、俊彦の顔を覗き込んでいるらしい。
なかなか整った顔立ちを不安気に曇らせている。その顔に、俊彦は見覚えがあった。
 「沙良…ちゃん?」

そう呼ばれた瞬間、少女は小さく顔をほころばせた。
 「はい、お久しぶりです、俊彦さん」
 幼い頃、この家に引き取られていた存在。
俊彦にとって、5年前から家族の一員で、自分のよき遊び相手だった妹分、
神谷明のモノマネが得意だった、初恋の対象が、そこに居た。
 「久しぶりって…なんで家に?」
 俊彦は正直言って理解が追い着かない。
こんな時間に勝手に部屋にあがり込んで来ていることもそうだが、
「何故今になって沙良が?」と言った事など、予想外のことが多すぎた。
 沙良は一瞬、キョトンと言った感じの表情を浮かべると、得心したかの様に聞いてきた。
 「参太雄さんから、連絡もらってないんですね?」
 「親父から?特に何もねえけど」
 〝さんだゆう〟だなんて時代錯誤な気もする名前を持つ俊彦の父は、フィンランドではそこそこ有名な事業家らしい。
ただ、俊彦がズボラなのはその親父に似たからだと母親に言われたことがあるので、
連絡を入れるのを面倒くさがっているうちにタイミングを逃した可能性は十分あった。
 俊彦はそんな事を考えていたが、沙良の声で現実に復帰する。
 「今日は頼みが有って来たんです、その…こんな風に押しかけてきて、いきなりこんな事を頼むのは気がひけるんですが……」
 沙良はそこで言葉を止め、指をモジモジと絡ませていた。が、やがて顔を真っ赤にさせながらも
意を決したように、小さいながらもはっきり通る声で言った。
 「私を…抱いてもらえないでしょうか……」
 ……………………。
……………………。
 「俺って…こんなに飢えてたのか……」
 どれぐらい沈黙していただろうか、俊彦が口を開くまで、部屋の空気は完全に止まっていた。
 恥ずかしさの余り、頬を真っ赤に染めてうつむいていた沙良が顔を上げる。
俊彦は何故か布団を被りなおしていた。
 「あの~…俊彦さん?」
 「こんな夢を見るなんて…俺も末期だ」
 「って、え!?ちょ、ちょっと待って下さいよ俊彦さん!?」
 物凄くうろたえる沙良、たいして俊彦はこれでもかと言うほどにローギアだった。
 「もう消えてくれ、俺の望んだ幻…これ以上、俺に人の醜さを教えないで欲しい」
 「違うんですっ!これ現実なんです!!気持ちはわかりますけど夢じゃないんです!!」

 沙良が必死になってわめきたてるが俊彦は聞く耳を持たない。その内寝てしまいそうだった。
 「うう~、仕方ありません。ちょっと荒っぽいですが……!」
 沙良がそう言った瞬間、沙良の頭から二本の立派な角が飛び出してきた。さすが夢……
何でも有りだなと俊彦が思っていると…
 「パラァイザァァァァァ!!!!」
二本の角から電流がほとばしった。
「ギャース!!」
物凄い衝撃、おそらく第三者視点でみると、なぜか骨格が浮き彫りになるのではといった威力の電流だった。
「ゆ~め~じゃない…あれもこれも~……」
「やっとわかっていただけましたか」
シビシビと体が自由に動かない状態でそういった俊彦に、沙良が雄々しい角を生やしたまま、ホッと息を吐いた。

「え~と、だ。つまりその角はトナカイの角で、お前は人の体に変身できるサンタさんのマジカルトナカイだ、と」
「はい、生物学的には〝変身〟ではなく〝変態〟と定義されますけど、その通りです」
「で、だ。ウチの両親はサンタクロースで、マジカルトナカイはサンタの関係者か、トナカイの関係者とくっつくのがならわしだ、と」
「はい、その通りです」
まだ体に軽い痺れが残る俊彦だが、あの後すぐに沙良に事情を聞いていた。
いわく、数年間自分を放っておいた沙良の両親は、娘をなんかの政略結婚の駒にしようとしたらしく、
沙良はそれがいやで逃亡中らしい。この事を俊彦の両親に相談したところ、
「結婚させられるより先に結婚しちまえ」と参太雄に言われたらしく、その際二人が冗談のつもりで俊彦を進めた所、沙良が予想以上に喰い付き、
俊彦の親公認で俊彦に会いに来たらしい。軽く親に売られた気分だ。
「つーか、もう少し考えたほうが良いんじゃねえ?俺なんてなんの取り柄もないダメ人間だぜ」
「俊彦さんは、私のことが嫌いなんですか…?」
なぜそうなる、と俊彦は内心で頭を抱えた。正直に言えば願ったり叶ったりで、棚からぼた餅である。嫌いなわけが無い。
というかその表情はやめて欲しい。脳内審判がレッドカードで即退場だ何だと叫びまくっているし。
「嫌いなわけないけどさ…ホラ、順序とかそう言うのってあるじゃん」

沙良はため息を吐くと痺れた状態で、ベッドに転がっている俊彦の服を強引に剥ぎ取った。
なんかマズったかと俊彦はヒヤリとする。

「おい沙良!?」
「私はもう5年間も待ったんです、もうこれ以上は待てません」
「だからって―――むぐ!?」
なおも言い募ろうとした俊彦だが、唇を唇でふさがれ、舌を舌で絡め取られた。
前述のとおり、俊彦は彼女いない歴を常に更新中の少年だった。必然、これがファーストキスになる。
酸素の補給すらぎこちないのはいたしかたないだろう。肉厚の舌で舌を押さえ込まれ、酸欠を訴えようにも、手や足はまだ痺れていて抵抗もできない。
意識が遠のき、酸素の足りなくなった脳は、理性を総動員させるといった命令も下せない。
俊彦自身が反応を始めたのも仕方なかった。
沙良が俊彦の口内から舌を引く。銀色のアーチがかかったが、途中で切れて、露出された俊彦の胸板に落ちる。
くるりと沙良が顔を反対方向へ向け、俊彦のパジャマの隆起した場所に触れる。
「沙良、もう―――」
「おかしな事言わないで下さい俊彦さん。あなただって、こんなに悦んでるじゃないですか」
そういって、生地越しに肉棒を撫でる沙良。そのむず痒いような感覚に、俊彦の愚息はバカ正直に反応した。
「う…」
何も言い返せなくなる俊彦、不甲斐無いと感じつつも、最初程止めようと言う気持ちが起こらない事を、自分でも実感している。
俊彦が逡巡する間に、するすると服を脱ぎ捨てる沙良。全裸になると、俊彦の腹の上に跨って自分で自分の秘所を弄ぶ。
5年越しの思い人の前、というか上で自慰にふけるという行為が、沙良に倒錯的なまでの喜悦をもたらし、沙良自身が驚くほどの蜜を分泌する。
「これだけ濡れてれば、多分大丈夫ですよね」
「ちょい待て沙良!さすがにそれはマズいだろ!?」
「でも俊彦さんの体は涙を流して悦んでますよ?」
「自分の上で自慰されて反応しなかったら俺は不能だわ!!」
「嫌だったら体で抵抗してくださいよ、こんなに悦んでるこの体で」
そう言いながらパジャマを脱がす沙良、先程沙良が言ったとおり、
俊彦のナニは涙を流して、物欲しそうに鎌首をもたげていた。うわーい説得力ゼロだ、あはははは。

二度、三度となで上げ、自分の秘所にあてがう沙良。すう、と一呼吸おいて、一気に腰を落とし、根元まで飲み込む。
衝撃、今の俊彦の心境を表すのはその言葉だろう。衝撃の内容はいろいろ、「まさかこんな突然に脱童貞っすか」だとか、「つか逆レイプで脱童貞かよ」とか、「へぇ~、ナカってこんなんなんだ」とか色々。
「~~~~っぅ!!」
対する沙良の方は口を両手で押さえ込み、苦悶の声を漏らすまいとしている様だった。
ぽろぽろと涙がこぼれている。痛みに耐えるためか、かなりの力が入っており、締め付けも厳しいものになって来ている。
「大丈夫か、沙良?」
 話し掛けようとして自分も息を荒げていることに気づく俊彦。正直、「人の心配より自分の心配をしたらどうだ?」状態で、根元には熱いカタマリを感じる。
 「だいじょう…ぶ、です」
 口元から手を離し、まったく大丈夫ではなさそうながらも応える沙良。
マジカルトナカイ的な、挿入されても痛くなくなるマジックは無いようである。
 「でも、この状況で…私を気遣えるなんて凄いですね、俊彦さんは……」
 「イヤ、正直ギリギリなんだけどね…」
 「…へぇ」
 小さく呟いて、ゆるゆると腰を動かし始める沙良。本当にゆっくりだったのに、お互い驚くほどの快感に襲われてしまう。
二回、三回と上下運動を繰り返すうちに、臨界点へと確実に近づいていく俊彦。それを伝えようと思うが、快感の波に耐えるため、それもできない。
「くっ…」
「出そうなんですか?俊彦さん」
こくりと肯いた。今の俊彦の体では、それが限界だった。
沙良はにこりと笑うと、全力で腰を振り始めた。
当然耐えられるわけもない。俊彦はあっけなく射精に至る。沙良の胎を白く染め上げるかのような激しい脈動に、俊彦は驚いた。
「ん…俊彦さんの精子…暖かいです……」
恍惚と表現しても差し支えない表情で、沙良が呟く。
「なあ、ホントによかったのか?」
知らず、俊彦はそう言っていた。沙良が怪訝そうに俊彦に顔を向ける。
「俺なんかに抱かれて、ほんとによかったのか?」
沙良はぽかんという表情を浮かべたが、次の瞬間には盛大なため息を吐いた。
「あのですね、俊彦さん。ここまでしておいて実は乗り気じゃなかったとかだったら、私ただのバカなんですけど」
「…ということは?」
おそるおそる、と言った風に、俊彦は問い掛ける。
「後悔なんて、してるわけないじゃないですか」
あきれたような笑顔で、沙良はそう言った。ほう、と俊彦は息を吐く。
「そっか…」
「それに…中に出しちゃった以上、俊彦さんは私の事貰ってくれますでしょう?」
沙良の問いに俊彦は顔をしかめる、しばしの逡巡の後、小さく呟いた。
「決まってるだろ……」
そう言って首を縦に振る。今の俊彦の精神では、それが限界だった。

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最終更新:2008年01月02日 23:11