SA/堕チタ魔術師、歪ンダ愛

 世は、あらゆるモンスターが蔓延る時代。人々はそのモンスターの影に怯えながらひっそりと暮らしている。
 ここフラナドリア王国も例外ではない。
 国によって造られた討伐部隊のお蔭でだいぶ数は減ったが、それでもまだ安心して暮らせるまでには至っていない。
 フラナドリア王国付近にモンスターが多い一番の理由は国の北部にあるダンジョンが原因である。
 生きて帰って来た者はいないと言われている禁域、クリムゾンゲート。
 何か強力な封印が施されているのか、不思議なことにそのダンジョン付近にモンスターが集まることはあっても、中にいるモンスターが外に出てくることはないらしい。
 わざわざ危険を冒してまで入る命知らずの冒険者も少なくなり、こうしてクリムゾンゲートは次第に人々の記憶から消し去られていった。

 ――二年前
「……フィル、正気か?」
「マジもマジ、大マジだぜ!」
「いくらお前でも知ってるだろう?クリムゾンゲートに入って生きて帰っ……」
「生きて帰って来た奴はいない、だろ?知ってるぜ、そのくらい」
「それなら、何で。触らぬ神に祟りなしって知らないのか?」
「さわらぬたわしにたたみがえし?」
「阿呆。触らぬ神に祟りなし、だ。関係しなければ、何も起きないってことだ」
「へぇ。でも、数多くのモンスターを倒してきた俺には無縁の言葉だな!」
「まぁ、頭は悪いが、腕は確かだからな、お前は」
「そりゃ、ちょっと酷いんでねーかい?」
「本当のことだろう?」
「ふっ、返す言葉も無いのが悔しいぜ……。でも、クリムゾンゲートを攻略したら凄くねぇか!?世界中から英雄扱いされてさ!
女の子からは『キャー!フィル様よー!カッコイイー!』とか言われちゃったりして……。でへ」
「……」
「世界中の女の子が俺の嫁になるのもそう遠くない未来かもな!あっはっは!……ん、どうした、いきなり黙って。あ、まさか、羨ましいのか!?」
「阿呆。呆れてものも言えないだけだ。まぁ、お前のその生半可な考えで攻略出来る程、容易なダンジョンではないな、あそこは」
「おうおう、ヤキモチなんか妬いちゃって。ラスティちゃん可愛いねぇ!」
「消し炭になりたいのか?」
「おぉ、怖い怖い!でも、まぁ、ラスティの魔法は威力が半端ねぇからなぁ。消し炭もあながち嘘ではないかもなぁ」
「ふん。……それで、本当に行くのか?」
「……ああ。まぁ、しばらくしても俺が帰って来なかったら、そん時が俺の最期ってことだな!あっはっは!」
「な、何を縁起でもないことを……」
「大丈夫、死ぬつもりなんか全然ねぇからよ。まぁ、すっげぇお宝どっさり持って帰って来るから期待して待ってろよ」
「期待し過ぎないように期待しておく」
「あっはっは!本当、ラスティは面白い奴だなぁ。……ふぅ。それじゃあ、行ってくるわ」
「おい」
「ん?」
「死ぬなよ」
「おう、任せろって!じゃあな!」

 あれから二年の歳月が経ったが、未だにフィルは戻って来ない。
 この二年。僕は立派な師に就いて魔法の修行をしながら、フィルの帰りを待った。宝をたくさん持って帰って来ると言ったフィルを。
 時々、まさか、などという雑念が湧いたが、すぐさま頭を左右に振って取り払った。あいつのことに限ってそれは無い。いや、無いことを願う。
 しかし、いくら待てども帰って来ない。遂に僕は痺れを切らし、師匠には内緒で自らクリムゾンゲートに向かうことにしたのだ。
 ふと、空を見上げる。青い空だ。白い雲が漂い、太陽が輝いている。
 この光景を見るのも、もしかしたら最後かもしれないという縁起でもないことを考えながら、僕は禁域へと足を踏み入れた。
 この一歩が惨たらしい陵辱の幕開けになることも知らずに。

ダンジョン内のモンスターの強さは予想以上だった。
 僕が最後に訪れた、クリムゾンゲートの次に難関だとも言われているダンジョンの最下層に出てくるモンスターがここでは最上層で出てくる。
 一時の油断も許されない、ピンと張り詰めた緊張感の中、僕は襲い掛かってくるモンスターを倒しながら進んで行く。
 そして、中層あたりからは通常型モンスターに混じって人型モンスターまで出てくる。
 師匠から聞いた話だと、通常型モンスターに比べて人型モンスターの戦闘力は数倍から数十倍。
 いくら二年間の修行で膨大な魔力を手に入れたといえども、不意討ちでもされたらその戦況も変わってくる。
 慎重に、的確に一匹一匹のモンスターを倒しながら進んで行くと、行き止まりの部屋に辿り着いてしまった。
「行き止まり……?いや、あれは……」
 部屋にある扉に目がいく。不自然だと分かりつつも、他に道が無いことからこの扉を開けるしかないと判断した僕は十分に警戒しながら扉を開けた。
 扉を開けたそこは今までとは明らかに違う雰囲気が漂っていた。空気が重く、一つ呼吸をする度に肺を圧迫されるような苦しさ。
 そして、その中に立っているのは……人間?
 いや、違う。人間にはある筈の無い尻尾が一、二……九本生えている。こいつもモンスターか。
「おや、人間か。これはまた珍しい来客だ」
 僕の気配に気付いたのか、光までも吸い込んでしまいそうな漆黒の長髪を宙で舞い躍らせながら振り向いて、そう言った。
 ……おかしい。今までの人型モンスターとは明らかに違う。
 今までの人型モンスターは意味の分からない声をあげながら襲い掛かってきたが、人語は喋らなかった。あくまでも『人型』なだけで。
 じゃあ、何故このモンスターは人語を喋る?
 今までの人型モンスターは形は人間に似ていたが、それでも人間と呼ぶに相応しいものではなかった。あくまでも『人型』なだけで。
 じゃあ、何故このモンスターはこんなにも人間に近しい姿なんだ?
 その前にこの息苦しさは何だ?
 色々な疑問が頭の中を何回もぐるぐる回って僕は冷静さを失いかける。
 いけない……。自分の知識外の人、物、あらゆる具象に出会ってからこそ、冷静さが問われるというのに。
「疑問が多いようだね。まぁ、仕方ないと言えば、仕方ないだろう。では、一つずつ答えていこうか。
まずは一つ目。貴方の思っている通り、私は人型モンスターではない。人型モンスターより高位の獣人型モンスターと呼ばれる存在だ。
尤も、獣人型モンスターは外、つまりは貴方の世界には存在しないので、そう呼ぶのは私達だけだが。
二つ目。獣人型モンスターは人語を喋ることが出来る。もっと言うと、獣人型モンスターの知識は人間の知識とは比べ物にならない程、超越しているよ。
三つ目。獣人型モンスターと言うのは面倒なので私達と言うが、私達は容姿はほぼ人間と同じだ。相違点は私を例にあげると、この耳や尻尾なんかがそうだ。
四つ目。息苦しさの原因は私の邪気の所為だろう。まぁ、これは調節が出来るから心配無い。
五つ目。私達を目の前にして冷静でいろと言う方が無理だ。さっきも言ったが、私達は外には存在しないからね。誰だって初めて見るものには不信感を抱くだろう?
と、こんな感じで宜しいかな?」
 獣人型モンスターなんて初めて聞いた。師匠も教えてくれなかったし、資料に載っているのも見たことがない。
 それにしても見れば見る程、人間そっくりだ。
 肌は人間の色と全く同じだし、顔も手足もしっかりしている。服だって着ている。
 羽織っている上着は黒でその下に着ている服も黒。短いスカートの下から覗く足も黒いストッキングのようなもので覆われているし、その短いスカート自体も黒い。
 全身が黒ずくめで少し違和感はあるが、それでも服と呼ぶに相応しいもの。
 それ以前に何故、僕の考えていることが?獣人型モンスターとやらは人の心が読めるのか?
「その通り。私達にとって人の心を読むなど、容易いことだよ」
 驚いた。これは迂闊に考え事も出来ない。
「ふふ、そうだね。私の名前は扇奈。狐タイプの獣人型モンスターだ」
 その言葉に僕はまた驚く。
 自己紹介をするモンスターなんて初めて見た。今までのモンスターはただ襲い掛かってくるだけだったから、何だか拍子抜けしてしまう。
 いや、これも作戦の内かもしれない。相手を油断させてその隙に殺す。人間でもやる手段だ。
 センナ、と名乗った獣人型モンスターの片手には刀が握られている。資料でしか見たことないが、剣よりも刀身が細長い、日本刀と言ったか。
 あの刀でバッサリということも十分に考えられるし、油断は出来ない。

「貴方が考えている程、私達は野蛮ではないよ。人型モンスター、ましてや通常型モンスターなんかとは比べないで欲しい。
もちろん、不意討ちみたいなこともしないし、貴方を殺すつもりもない。今の所はね。それで、私が握っているのは、愛刀・煽那。音は私のセンナと同じだ。
ふむ、どうやら貴方は警戒心が強いようだ。中々、私を信用してくれないんだね」
「誰がモンスターなんかを信用するものか」
「おや、やっと口を開いてくれたと思ったら第一声がそれか。中々、手厳しいね。それじゃあ、これなら信用してくれるかな?」
 そう言って獣人型モンスターは持っていた刀を地面に置いた。
「どうかな?もし、信用してくれるのなら、貴方の名前を教えて欲しい」
「ふん、モンスターなんかと馴れ合うつもりなど毛頭無い。それで、武器を置いてどうするつもりだ?そっちが戦う気が無いのなら、こっちからいくが?」
「私は無駄な争いはしたくないのだけれどね」
「言っておくが、例え相手が人の姿、ましてや女子供でも僕は……」
「僕は?」
「っ!?」
 何だ、今のは。
 消えたと気付いた時には、既に奴はすぐ後ろにいて、僕の両手の動きを封じていた。本当に並大抵の速さではない動きで。
 幸い、さっき置いた刀はまだ元の位置にあるから、そのまま斬り殺されるということはないだろうが、両手の動きを封じられいてはこの状況も打破出来ない。
 振り解こうともがいてみるが、予想以上の腕力を前にそれも徒労に終わる。仕方なく僕はこの状況を受け入れるしかなかった。不本意だが。
「とりあえず、大人しくしてて貰おうかな。さて、さっきは私が貴方の疑問に答えたから、今度は貴方が答える番だよ。貴方の名前は?」
「……」
「おや、聞こえなかったかな?貴方の名前は?」
 耳元でそう囁かれ、僕は背中にぞくぞくと鳥肌が立つのを感じた。もちろん、不快感で、だ。
 それでも僕は断固として答えまいと固く口をつぐむ。そんな僕を見ても相手は諦めず、何度も何度も耳元で囁いてくる。それこそ、答えを聞き出すまで。
 募りに募った不快感と嫌悪感に僕は耐えられなくなり、遂に固くつぐんでいた口を開いてしまった。
「……ラスティ」
「ラスティ君か。それで、ラスティ君は凶暴なモンスター達が住まうこのダンジョンに何の用事があって来たのかな?」
「……人探しだ」
「ふむ、こんな危険な所まで人探しとは酷なことだね」
「別に。ただの気紛れだ」
「期待を裏切るようで悪いが、私はここ千年の間で人間の影は見ていないよ?」
「笑えない冗談だ。第一、お前が千年も生きていると聞いて僕が信じるとでも?」
 このセンナというモンスター、何処からどう見ても僕と同じぐらいの年齢。
 まぁ、相手が人間に酷似しているからこそ、こうして比較が出来るわけだが。皮肉なことに。
 そうか、さっきから感じているこの不快感はこいつが同じぐらいの年齢なのに、年上のような口調をしているからかもしれない。
 何だか見下されているような感じがして癪に障る。
「残念だが、冗談ではないよ。それと、さっき貴方は私が千年も生きている筈が無いと言ったが、その判断基準は何かな?」
「そ、それは……」
「物事は見かけで判断してはいけないよ。こう見えても私は千年と半を生きているんだ」
「ふん、口でなら何とでも言える」
「……やれやれ。まぁ、今はそんなことはどうでもいいんだ。それで、貴方はこのまま先に進み続けて最下層を目指すつもりかな?」
「止める気か?」
「止める気というか、最下層まで人間の足で辿り着くのには一年以上掛かると思うんだけれどね」
「……何!?」
 最下層に辿り着くのに一年以上掛かる。
 勝手にここが中層付近だと思い違いしていた僕を絶望の底にまで突き落とすには、その言葉で十分だった。

「ははは、流石の貴方も驚愕したようだね。そう、このダンジョンはとてつもなく深いんだ。一日二日ではとてもじゃないけれど最下層には辿り着けないよ」
「そ、そんな筈は……」
「私は嘘や冗談が嫌いなんだ。それに、仮にも私はこのダンジョンの『住人』だ。ぱっと出てきた貴方よりは、ここについて詳しいと思うよ」
 正論だった。
 実際、僕がクリムゾンゲートについて知っていることは片手の指だけで数えられるぐらいしかない。
 ここに入って、生きて帰って来た者はいないということ。
 恐ろしく凶暴なモンスターが蔓延っているということ。
 そして、ここがあのクリムゾンアイズの住処だということ。
 クリムゾンアイズ――
 その身体を覆っている硬い鱗はあらゆる攻撃を無効化し、口から吐かれる火炎は辺りをたちまち焼き尽くし、この世を終末へと導く劫火になるという。
 血のように紅い瞳をしていることからそう名付けられた、史上最悪にして史上最強のドラゴンだ。
 だが、これも資料で知り得た知識だし、所詮は伝説上の存在。ましてやそんな大それたモンスターがここにいる確証も全く無い。
 それに、確かに僕は立派な師に就いて厳しい修行を積んで、数多の手強いモンスターを倒してきた。
 でも、それだけ。
 このダンジョンについて、全くもって僕は無知だった。
「まぁ、最下層に辿り着く前に体力が尽きてモンスターの餌、っていうのがオチだろうね」
「くっ……」
「でも、それも可哀相な話だ。そうだね、このダンジョンの主なら分かるかもしれない。一緒に最下層まで行くかい?」
「……!?」
「どうせ、私も最下層まで戻るところだったし。それに、こんな所で誰にも看取られずに死ぬのも嫌だろう?」
 それはそうだ。僕はまだ十七年しか生きていないし、こんなつまらない所で死ぬつもりも毛頭無い。
 だが、こんな上手い話があって良いものだろうか。上手い話には裏があると言うし、やめておいた方が良いかもしれない。
 でも、こいつについて行って最下層まで行けば、もしかしたらフィルに会えるかもしれない。
 受け入れるべきか、断るべきか。激しい葛藤に悩まされている僕を前者の考えに導いたのは、ほんの些細な言葉だった。
「私は最下層までワープして行けるからね。もしかしたら、探している人にすぐに会えるかもしれないよ?」
 その言葉を聞いた僕はとてつもなく不本意そうな顔をしながら、小さく頷いた。
「よし。それじゃあ、私に掴まって」
「な、何で……!」
「対象を一つにしないとワープが出来ないんだ。ほら、早く」
「ちっ……」
 舌打ちをしながらこいつの服の袖、本当に端っこのところを軽く掴む。
 そんな僕の様子をこいつは微笑みながら見ている。……気持ち悪い奴だ、馬鹿にしているのか?
「は、早く行け……!」
「ふふ。それじゃあ、行くよ」
 恐らく、移送魔法を唱えたのだろう。視界が真っ白に変わり、身体が光に包まれる。
 師匠が言うには移送魔法は習得するのがかなり難しいらしく、師匠でも十年近くかかったとか。
 そんな魔法を使えるこいつはやっぱり只者ではないのかもしれない。
 それに、僕はこいつがモンスターだと分かっているのに、まるで人間と接するかのように接してしまう。
 小さい頃から無愛想な奴だとか、冷たい奴だとか言われ続けてきた僕には友達と呼べる存在がいなかった。
 親からも冷たくされ、そんな環境に嫌気がさした僕は、ある日、家を飛び出した。
 そして、独学で魔法を学び、モンスターの討伐をしながら生活費を稼いで、一人でひっそりと暮らしていたのだ。
 フィルと出会ったのは、そんな孤独な生活の中でだった。こんな性格の僕にも気さくに話し掛けてきてくれて、何時しか僕達は一緒に旅をする仲間になっていた。
 僕にとって初めての友達はフィルで、僕に人の温もり、優しさを教えてくれたのもフィルだった。
 僕はそんなフィルの影をこいつ……センナに無意識の内に重ね合わせていたのかもしれない。

 移送魔法は本当に凄い魔法だ。
 本来ならば、一年以上掛かるところが僅か一分……いや、三十秒といったところか。
 習得することが困難を極めるのも素直に頷ける。
「さあ、着いたよ。主はあちらだ、ついておいで」
 辺りを見回しながら、言われるがままにセンナの後をついて行く。
 岩肌のようで歩きにくかった壁や床はしっかりと平らになって歩きやすいようになっていて、その床には長く赤い絨毯が敷いてある。壁にも装飾物が。
 とてもじゃないが、同じダンジョン内だとは思えない。
 差し詰め、モンスターにも身分差・階級差はあるわけで、人間社会に例えればここは一社の社長室といった感じか。
 その長く赤い絨毯を暫く歩いていると、センナの動きがぴたりと止まった。釣られて僕も立ち止まる。
「お連れ致しました」
「扇奈、ご苦労様。もう下がって良いわよ」
「はい」
 僕より背の高いセンナがどいたことで一気に視界が開ける。
 そこには戻ったばかりのセンナを含む二匹の獣人型モンスターと、その間に挟まれ、玉座に頬杖をついて座る女性の姿が。歳は僕より少し上ぐらいか。
 恐らく、偉そうなこいつがここの主だろう。
 だが、黙ったままで一向に喋り掛けてくる気配が無い。それどころか、その両目さえ閉じたままになっている。
「お前がここの主か?」
「その通り。私がこのダンジョンの主にして、創造主のリディア。またの名を……」
 閉じたままになっていた両目がゆっくりと開かれ、
「クリムゾンアイズ」
 血のような紅い瞳が姿を現した。
 ドクン――
 心臓の音がやけに大きく聞こえる。
 ドクン、ドクン――
 足が情けなくガクガクと震え出し、立っているのがやっとになる。
 ドクン、ドクン、ドクン―――
 まるで、強い力で首を締め付けられたかのように呼吸が苦しくなる。
 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン――
 心臓が五月蝿いくらいに暴れ回っている。
「私としたことが、邪気をそのままにしていたわ」
 その言葉で身体からふっと力が抜けて僕はその場に膝をついて倒れ込み、不足していた酸素を取り戻そうと、自然と呼吸が荒くなる。
 吸う。吐く。吸う。吐く。
 規則的にそれを繰り返していると、乱れていた呼吸が落ち着いてきて、それに伴って消失していた平常心も戻ってくる。
 僕がここに来た目的。それは、フィルを探し出すため。だから、こいつが何者であろうと僕には関係ないこと。
「この二年の間に人間が来なかったか?無論、僕を除いて」
「ええ、来たわよ」
「本当か……!?」
 やっぱり、フィルはクリムゾンゲートに来ていたんだ。それも、一年以上を掛けて最下層まで。
「それで、今は何処に……!?」
 黙ったまま人差し指を真上に向けて僕に見せ付ける。
 上?
 ということは、最下層には辿り着いていないのか?でも、さっきこいつはフィルがここに来たと……。
「今頃、黄泉を彷徨っているんじゃないかしら?」
「え……?」
 聞き間違いだと思った。いや、思いたかった。
 黄泉。それは、死後、霊魂が行くとされる場所。
 つまり、それはフィルがこの世の者ではないことを無情にも暗示していた。

「う、嘘だろ……?」
「嘘じゃないわ。ねぇ、エミル?」
「はい、リディア様」
 そう言って、センナの反対側に立っている、センナそっくりの女性に問い掛ける。その問いに対してエミルと呼ばれた女性は恭しく頭を下げながら、そう答えた。
 見れば見る程、二匹は酷似しているが、全身が黒で統一されているセンナに反して、この女性は白。
 白髪の頭から狼のような耳が生えていることから、恐らく、狼タイプの獣人型モンスターだろう。
 センナのように武器は持っていないが、その両手には赤い布のような物が巻かれている。
「私達は平気で命を奪うなんて卑劣な行為はしないわ。貴方達、人間とは違ってね。けれど、愚かな事に私の逆鱗に触れてしまったのよ、彼は」
「まさか、お前が……」
「本当に愚かだったわ。人間如きがこの私に勝てるなんて本気で思っていたのかしらね?」
「お前が殺したのか……?」
「ええ、そうよ。『命までは奪わない。その代わりにここで一生、私の奴隷として暮らしなさい』という私の言う事も聞かずに、我武者羅に突っ込んできた。
挙げ句の果てに……思い出すだけでも虫酸が走るわ。今を思えば、あんな汚らしい男、私の奴隷にする価値も無かったわね」
「お前が……お前がフィルを……」
 沸騰した湯のようにふつふつと怒りが込み上げてくる。
 血が滲むくらいに唇を噛み締め、爪が肉に食い込むくらいに拳を握り締める。
 そうでもしないと、とてもじゃないがこの怒りは抑えられそうにない。
「私に腹を貫かれた後、血飛沫の中でまだ何かぶつぶつと呟いていたわね。確か『ラスティ、すまねぇ』とか。
大した実力も無いのに生命力だけは馬鹿みたいにあったわよ?けれど、耳障りだったから、そのまま半分に引き裂いてあげたわ。あっはっはっ!」
 翳した片手を開閉させながら嘲笑する姿を見て、抑え続けてきた怒りが沸騰させ過ぎて鍋から溢れ出た湯のように爆発した。
 こいつがフィルを殺した。こいつがフィルを……。
「殺す……。お前だけは絶対に許さない……!」
「許さなければどうするのかしら?貴方も彼と同じ末路を辿るつもり?」
「っ……!」
 悔しいがそれは事実かもしれない。
 怒り狂って無闇に突っ込んでいっても返り討ちにされるだけ。それに、こいつの実力はさっきの邪気で十分な程に分かっている。
 今の僕の実力でこいつに勝つことは不可能。かと言って何もしなければ殺されてしまう。くそっ、僕は一体どうすれば……。
 ふと、師匠の言葉を思い出す。
 ――ばっかねぇ!可能性がゼロじゃない限り、不可能なんてことは有り得ないのよ!
 そう、可能性がゼロじゃない限り、不可能なんてことは有り得ない。
 実際、一日で習得することはまず不可能だと言われている『硬直解除』の技法を僕は師匠のお蔭で一日で習得することが出来た。
 硬直解除というのは魔法を唱えることにおいて最大の弱点である詠唱中の硬直を無くす、というもの。
 つまり、詠唱をしながら行動が出来るということだ。これを習得しているのといないのでは実力に大きな差がつく。
「愚かね。どんな強い力でも、その力を得る者が弱ければ何の意味も成さないわ。それぐらい分かるでしょう?」
「な、何で……!」
「何で僕の考えていることが分かった、でしょう?私も獣人型モンスターだから心を読むことなんて造作無いわ」
「ちっ……!」
「私達、獣人型モンスターの餌が何か知っているかしら?」
 そう言って邪気の篭った血のように紅い瞳を爛々と光らせ、長い金髪を揺らしながらゆっくりと近付いて来る。
 奴が抑えていた邪気が再び溢れ出し、それに当てられた僕はたちまち呼吸が苦しくなり、その場に蹲ってしまった。
 そればかりか身体の自由も利かなくなってしまう。
(まずい、このままだと殺される……!)
 やがて、二本の足が僕の目の前で止まった。

 顎をくいっと持ち上げられる。
 目の前にあるのは、あのクリムゾンアイズの顔。
 白い肌、長い睫、整った顔立ち。もし、これが人間ならば、確実に美人の部類に入るだろう。
 だが、こいつはモンスター。それも、フィルを殺した。
 だから、僕はその綺麗な顔に唾を吐き掛けた。
「汚い手で触るな……!」
「ふふ、気の強い子は嫌いじゃないわ。けれど……」
 顔がどんどんと近付いて来る。
 血のように紅い瞳に映っているのはすっかり怯えてしまっている僕自身の顔。
 こんな情けない顔でよく唾なんかを吐きかけられたものだと自分でも感心してしまう。
「自分の置かれている状況を把握した方が良いわね」
「むぐっ……!?」
 唇と唇が重なり、クリムゾンアイズの舌が滑り込んでくる。
 口内の至る所を舐め回され、唾液を送り込まされ、唾液を吸い取られる。
 それは挨拶だとかそういう時に交わす軽いキスではなく、恋人同士が交わすような熱の篭った完全に情愛的なキスだった。
 舌を噛み千切ってやろうと力を入れようとしても、あまりにも激しいキスのせいで軽く噛む程度に終わってしまう。
 口内に溜まる送り込まされた唾液も飲まずとする自らの意思を無視して、喉の奥へと流れ込んでいく。
 人との接点が数えられるぐらしかない僕がキスなどしたことある筈が無く、初めての感覚に戸惑うばかり。
 しかも、身体に力が入らない為、突き放すことも出来ず、与えられたものを素直に受け取ることしか僕には出来なかった。
 やがて、長いキスが終わってやっと唇が離されると、二人の間には一本の銀の糸が伸び、一定の距離に達したところでプツリと途切れた。
「威勢は良くてもこういうことはしたことが無いのかしら?私の舌が何処かに当たる度に身体がビクついていたわよ?目もとろんとしていたし」
「だ、黙れ……!」
「それに、可愛い顔している割に濃い精力を持っているのね。私達の餌は人間の精。さっきのキスでも少し貰えたけど、手っ取り早いのはやっぱりここね」
 そう言って、クリムゾンアイズは僕を押し倒し、股間部分を擦った。
「ここを刺激して精液を噴き出させて、それを私達の餌にするのよ。貴方はこれから私達に餌を供給する為だけの性奴隷になるのよ、一生ね」
「ふざけるな!誰がそんな……」
「抵抗しても無駄よ。貴方に逃げ道なんて無いわ。貴女達も見ていないで参加していいのよ?」
「「承知致しました」」
 その言葉でさっきまで静かに立っていた二匹、センナとエミルが僕の方につかつかと近寄って来る。
 そして、僕が着ているローブを脱がしていく。まるで、いたぶるかの様にゆっくり、ゆっくりと。
「止めろ……!センナ、僕を騙したのか!?」
「私は騙したつもりなんてないよ?私達は貴方を殺すつもりなんかないからね」
「諦めなさい。貴方は今から私達に喘がされ、嫐られ、惨めに犯される。そして、貴方の精子は生殖行為とは何一つとして繋がりの無いことに利用されるのよ」
 どれだけ力を入れて身体が動かそうとしても指先が微かに動くだけ。
 その程度の抵抗で三人もの獣人型モンスターを振り払うことなど到底、出来もせず、遂に僕は着ているものを全て脱がされてしまった。
「流石、魔術師だけあって白くて細いわね。傷も一つも無いし。綺麗な肌だわ」
「くっ、見るな……!」
「どれ、少し味見してみようかしら?」
 クリムゾンアイズの舌が蛇のように僕の腹部を這い上がっていき、舐められた部分はなめくじが這った跡のようにぬらぬらと光っている。
 やがて、少しずつ上がってきた舌が胸部まで辿り着くと、今度は乳首の周りを円を描くように何度も何度も舐めていく。
 それを見ていた二匹も誘発されたのか、片方はクリムゾンアイズと反対側の乳首の周り、もう片方は耳をそれぞれ、れろれろと舐め回していく。
 僕は合計で三つの舌に舐め回され、奇妙な感覚に身の毛をよだてながらも、早く終わることを願って必死で耐え続けた。

(こんなの気持ち良くなんてない……)
 そう自分に言い聞かせてじっと耐えていると、不意に片方の舌が乳首に触れた。
「んぅっ……!」
 その瞬間、動かない筈の僕の身体がビクリと跳ね上がり、小さな呻き声が漏れてしまう。
 三匹の耳に入っていないことを願ったが、それも空しく。
「ふふ、乳首が弱いのね?エミル、乳首を責めて欲しいそうよ」
「承知致しました」
 そう言ってエミルは僕の乳首を舐め始める。
 最初は舐めるだけだったが、舌で弾いたり、吸い付いたり、甘噛みをしたりと動きのバリエーションを増やしていく。
 動きが変わる度に漏れる呻き声を我慢しようとしても、開いた口の隙間から零れ出てしまう。
「んっ!や、やめ……あうっ……!」
「嫌がってる割にはここはこんなに大きくなっているわよ?本当は気持ち良いんでしょう?」
「そんな……んぁっ!」 
 クリムゾンアイズが僕のモノを掌握し、強弱をつけながらその手をゆっくりと上下に動かす。
 そんなことない。そう言いたかった筈なのに、乳首とモノを責められる快感による呻き声で遮られてしまう。
 もしかしたら、僕は本当に感じてしまっているのだろうか。相手はモンスター。人ではないモノ。人に仇をなす、疎むべき存在。
 頭の中ではそう分かっているのに、自然と身体が反応してしまう。
「ふふ、身体は正直ね。さてと、そろそろ貰いましょうか」
「な、何を……」
「貴方のモノを私の膣内に入れて精液を吸い取るのよ。惨めに犯され、泣きながら喘ぐ顔を見下ろしながらね」
 クリムゾンアイズが僕の下腹部に跨る。
 僕がやめろ、と言う前にクリムゾンアイズは腰を落とし、僕のモノは膣内ににゅるりと吸い込まれていった。
 その瞬間、僕のモノは温かい肉の壁に包み込まれ、やわやわと刺激されながら、時折、きゅっと締め付けられる。
 身体中を舐め回された時と比べ物にならない快感に、僕は両目に涙を溜め込みながら戦慄いた。
「ぃっ!?」
「どう、気持ち良い?人間の女のものなんかとは比べ物にならないでしょう?」
「くっ……んんっ!」
「言葉も出ないくらい気持ち良いみたいね。けれど、私まだ動いてもいないのよ?」
「やっ……う、動かないで……!」
 ただえさえ狂ってしまいそうなぐらいに気持ちが良いのに、これに上下運動が加わったら僕は一体どうなってしまうのだろうか。
 きっと発狂してしま……え?僕は今、気持ちが良いと思ったのか?化け物を相手に?
 それに、僕の口から出た言葉。僕はこんな女みたいな喋り方したこともない。
 なのに、何で?
 何で何で何で何で何で?
 ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ?
「あら。随分としおらしくなっちゃって。そうね、大人しくしているのを力ずくで犯すのもまた一興ということかしら?それじゃあ、動くわよ」
「い、嫌っ……!」
 僕の哀願も空しく、クリムゾンアイズは少しずつ腰を上下に動かしていく。
 じゅぽじゅぽ、じゅぽじゅぽ。
 僕のモノが姿を消したり、現したり。飲み込まれて、吐き出されて。入って、出て。
 その快感は僕が許容の出来る範疇には存在しなかった。
 狂ってしまいそうになるのを今にも消え失せてしまいそうな理性で何とか抑え込む。
 だが、それも時間の問題だろう。

「分かる?貴方のモノ、私のここで食べらているのよ?化け物のここで」
「く、そっ……止めろ……!」
「あら。さっきまでのしおらしさは何処へ消えてしまったのかしら?」
「お前らの手になんか絶対に……くぅっ!絶対に……堕ちない!」
 次々と襲い掛かってくる快感を何とか耐え続けている僕にとって、この強がりは所詮ハッタリにしか過ぎなかった。
 こいつらの手に堕ちない自信は無いし、もし、このまま快感を与え続けられたら僕はおかしくなってしまうかもしれない。
 相手もそれは十分に分かっているはずで、だから、こいつらは僕が堕ちるのを今か今かと待っているのだ。
 このままこいつらの思い通りになんかさせたくない。
 でも……。
「そう。それじゃあ、その自信がどれほどのものなのかを見せてもらおうかしら?」
 今まで包み込んでいるだけだった肉の壁がうねうねと蠢きだし、まるで獲物を締め付ける何百匹もの蛇のように僕のモノに絡み付いてきた。
 かといって別に痛いというわけではなく、それは寧ろ逆。一匹一匹の蛇が僕のモノを愛撫し、確実に快感を与えてくる。
 蛇に締め付けられた獲物は逃げられない。これは、そんな状況に全く似ている。
 そして、絡み付く蛇はクリムゾンアイズの上下運動に合わせて上下し、僕を射精へと導いていく。
「人間の女はこんなこと出来ないでしょう?そろそろ出てしまいそうかしら?」
「うぅっ!だ、誰が出すものか……!」
「愚かね。ここまできて未だに分からないのかしら?そんな愚か者はこうしてあげるわ」
 クリムゾンアイズの上下運動が更に激しくなる。
 それに伴って蛇達の動きも激しくなり、それだけではなく、締め付ける力もより強いものになる。
「ぐぁっ……!やめろ……!やめろぉ!」
「ほらほら、もう出そうなんでしょう?みっともなく出してしまいなさい。そして、その精液は誰を孕ませることもなく、ただ私の餌になるのよ」
「あっ……!っはぁ!やめ……!も、無理……っぁぁぁぁぁぁ!」
 蛇達の猛攻に耐え切れず、遂に僕のモノから大量の精液が噴き出し、子宮の中へ流れ込んでいく。
 散々、あんな偉そうなことを言っておいてこの有様だ。
「ふふ、たくさん出たわね。けれど、この精液で私が孕むことはないわ。だって、もう養分として吸収してしまったもの。あっはっはっ!」
「あ……あぁ……」
 クリムゾンアイズは僕のことを嘲笑しながら刺さっていたモノを引き抜いたが、そこからあれだけ出た大量の精液が滴り落ちることは無かった。
 どうやら、本当に全て養分として吸収されてしまったらしい。
 自分の子種が養分にされ、むざむざ殺されていくのをまるで他人のように呆然と見詰める。
 ……もう何だかどうでも良くなってきてしまった。
 どうせ僕がここで足掻いても何もならない。自分は一人で相手は三匹。しかも、この状況では勝てる見込みなんて微塵も無いだろう。
 そう思った瞬間、こいつらの手に堕ちてはいけないという自尊心をさっきまで与え続けられていた快感が冒していく。
 もっと気持ち良くして欲しい。もっと犯して欲しい。僕はそれを強く望んでいるし、何よりこの欲望を抑える理性は僕にはもう無い。
 何かが。
 僕の中にある何かが音をたてながら壊れていく。
 それは多分……いや、絶対に壊れてはいけないもので。
 僕の身体はそれが壊れてしまわないように支え続けるけど。
 それは大きな音を最後に完全に崩れた。或いは、崩れ去った。
「……して下さい」
「何?」
「もっと僕を犯して下さいぃぃぃ!!」
 離れようとするクリムゾンアイズの腕を掴んで引き止めながら、僕は自尊心も羞恥心も忘れて、ただ欲望だけでそう叫んだ。
 それは同時に僕が堕ちた瞬間でもあった。

「ふふ、そんなに一生懸命にならなくても貴方が死ぬまで犯し続けてあげるわ。けれど、私ばかり餌をもらうわけにもいかないでしょう?続きは二人にしてもらいなさい」
「では、私が先に」
 今まで僕の耳を責めていたセンナが……センナさんが履いていた黒いストッキングのようなものを脱ぎながらそう言って、僕に跨った。
 センナさんと初めて出会った時、美人だと思ったけど、僕はモンスターにそういう感情は抱かない性質だったから踏み止まっていた。
 でも、今はそんなことを気にする必要も無い。
 あのセンナさんが僕を犯してくれる。今の僕にはそれだけで十分だった。
 リディア様との行為で縮こまっていた僕のモノもすっかり戦闘態勢に入っている。
「今からラスティ君は化け物に犯されるんだ。泣いても、喚いても止めてあげないよ。私はそこまで優しい性格ではないからね」
「あ、あぁ……」
「そんなに怯えた顔をしても無駄だよ。それに、間近でこんなに可愛らしいラスティ君を見て、私ももう我慢の限界なんだ。それじゃあ、挿入れるよ」
 センナさんの膣に僕のモノがゆっくりと飲み込まれていく。
 リディア様の膣内ほどではないけど、でも、センナさんの膣内も十分に気持ち良い。
 それに、センナさんが犯してくれているというこの状況だけでも僕はもう射精してしまいそうだった。
「どう、気持ち良いかい?」
「んくぅっ!は、はい……んんっ!」
「ラスティ君は今、主様の膣内の方が気持ち良いと思ったね?」
「そ、そんなこと……んぅぅっ!」
「隠しても無駄だよ。そんなことを考えるラスティ君には仕置きが必要だね」
「ふぇ……?」
 センナさんが刺さっていた僕のモノを一度引き抜き、床と尻の間に何かふさふさした物を入れた。
 これは……尻尾?
 何をする気だろうと考えていた次の瞬間、僕の菊門にそのふさふさした物がぶすりと差し込まれた。
「――!?」
 いきなりの出来事に僕は声にならない声をあげた。
 にも関わらず、ふさふさした物は遠慮も無しに僕の腸壁をぐんぐんと突き進んでいく。
「ほら、私の尻尾がラスティ君の中に入っていくのが分かるかい?」
 やっぱり、ふさふさした物の正体はセンナさんの尻尾だったらしい。
 でも、どうして尻尾をこんな所に?ここは出すための場所であって決して入れる場所ではないはず。
 こんな所に物を入れたことが無い僕は奇妙な感覚にぶるぶると身震いをする。
「前立腺と言ってね、男性には精子の運動を活発にさせる場所があるんだ。ラスティ君の前立腺は何処だろうね?」
「ま、まさか、それを……ひぃっ!?」
「ふむ、ここか」
 その前立腺とやらを尻尾でつんつんと突かれる度に僕のモノはビクビクと震え、射精感が内から込み上げてくる。
 センナさんが言っていた前立腺というものは本当に存在するらしい。
 でも、精子の運動を活発にさせるということは、つまり……?
「これから少し辛い思いをするかもしれないけれど、我慢するんだよ。何しろ、これは私との行為中に他のことを考えていたラスティ君への罰なんだからね」
「えっ、ちょっと待っ……」
 一度抜かれた僕のモノは再びセンナさんの膣内に導かれていく。
 でも、それで終わりじゃなかった。さっきまで前立腺を軽く突く程度だった尻尾が今度は容赦無くぐりぐりと抉り始めたのだ。
 目の前がスパークする。こんなことを続けられたら僕は間違いなく狂ってしまう。
 だから、僕はぼろぼろと涙を零しながら首を左右に振ってやめるように哀願する。まるで、小さな子どものように。
「やっ、や……かはっ!セン、ナさん……やめてぇ!」
「罰だと言ったよね?ラスティ君がちゃんと反省したと私が思ったら楽にしてあげるよ」
「してますぅ!反省し……ひぁっ!ら、らめぇ!これ以上されたら、おかしく……っあぁぁ!もうらめぇぇぇ!」
「おっと、まだ出させないよ。もう少し苦しんでもらわなければね」
「いっ、いやぁ!ひぃん……!らめぇ!らめなのぉ、本当にらめらんれすぅ!」
 有り得ない快感に僕は呂律が回らなくなり、喋り方も間延びしたような感じになってしまっている。 
 にも関わらず、センナさんは僕のモノの根元をぎゅっと握り締め、射精をすることを封じてしまう。
 涙でぼやける視界に広がるのは悪戯そうに微笑むセンナさんの顔。

「ふふ、そんなに乱れてしまって。そうだね、反省もしているようだし、そろそろ楽にしてあげようか。出る時はちゃんと『出る』って言うんだよ」
「っあぁぁぁぁ!!出るぅぅぅぅぅぅ!!!」
 身体を弓なりの反らせ、そう叫んだ瞬間。
 びゅーっ。
 本当にそんな効果音がしてしまいそうな程、大量の精液が僕のモノから迸り、センナさんの子宮を満たしていく。
 その量はとても二回目だとは思えない。寧ろ、一回目よりも多いかもしれない。
 溜まりに溜まっていたものを出したことで僕の身体中からはすっかり力が抜けてしまい、弓なりに反らしていた身体をその場にすとんと落とした。
 肩を使う程の荒い呼吸で乱れた息を整える。大声を出し過ぎたせいか喉はカラカラになり、呼吸をする度にひゅーひゅーという奇妙な音を出している。
「はぁっ……はぁっ……」
 やっとのことで持ち上げた腕を自分の目の部分に当て涙を拭う。
 ぼろぼろと止めを知らずに次々と零れ落ちる涙がこめかみを伝って次々と頭髪に浸透していく。片腕では足りないのだろうと、両腕を使ってそれを拭った。
 それでも中々、涙は治まらない。
 この涙は何なのだろうか。嬉しさか、悔しさか、或いは両方か。
「たくさん出たね。これが生殖目的の性行為だったら、間違いなく私は孕んでいたかもしれないね。でも……」
 養分として吸収された。そんなことは分かっている。
「主様の言う通り、ラスティ君は本当に濃い精力を持っているようだね。力がどんどん漲ってくるよ。もう少し吸い取りたいところだけど、独り占めは良くないね」
 そう言ってセンナさんは僕のモノをずるりと引き抜き、その場を離れた。
 分かってはいるけど、そこから精液が滴り落ちてくることは無い。
 だって、僕の子種は全てセンナさんの養分として吸収されてしまったのだから。
「初めまして。わたくしエミルと申します。リディア様や扇奈さんと同じ獣人型モンスターで、わたくしは狼タイプです」
 虚脱状態の僕を呼び起こしたのはセンナさんそっくりの獣人型モンスター、エミルさんだった。
 ふと気付くと、白い瞳を細めて優しそうに微笑みながら自己紹介をするその姿に思わず見惚れてしまっている自分がいた。
 今更だけど、獣人型モンスターには美人が多い。多いと言っても三人しか見ていないけど。
「お二人の行為を散々に見せ付けられて、わたくしも我慢の限界です。はしたないようですけど、挿入れさせてもらいますね」
「ちょ、ちょっと待って下さい……!」
「心配しなくても大丈夫ですよ。わたくしは扇奈さんのように意地悪したりはしませんから」
「い、いや、そうじゃなくて。少し休……」
「うふふ、駄目です。ラスティさんは今から私のここにおちんちんをじゅぽじゅぽされて、精液を吸い取られてしまうんですよ」
「ひ、ひぃっ……!」
 すると、エミルさんは両手に巻いていた赤い布のようなものを片方だけ取り、それで僕の目を覆ってしまった。
 僕の目はたちまち光を失い、僕は赤の世界に引きずり込まれた。
「ラスティさんは外部からの情報の約90%が視覚からきているって知っていましたか?」
「い、いえ……」
「これは極端な話ですが、仮に視覚が無くなってしまった場合、外部からの情報が常人の十分の一しか得られなくなってしまうということなんです。
そうなってしまわないように他の五感である聴覚、触覚、味覚、嗅覚が発達してそれを補うように出来ているんです。ラスティさんはこれがどういう意味か分かりますか?」
「?」
「発達するというのはつまり、敏感になるということ。触覚が敏感になったらどうなるか、ラスティさんも分かりますよね?」
 触覚が敏感になるとは痛覚も増すから、痛みが大きくなる。こういうことだろうか。
 いや、もし、さっきのセンナさんの激しい責めが目隠しをされた状態で行われていたら……。僕の身体中の血がさーっと引いていく。
「うふふ、当たりです。それじゃあ、挿入れますよ」
「っやぁ!やだやだ!やめっ……!」
 エミルさんはじたばたともがく僕を力ずくで押さえつけ、履いていた白いストッキングのようなものを脱いで自らの秘所に僕のモノをあてがった。

「もう少しでラスティさんのおちんちん、わたくしに食べられちゃいますよ?」
「やだぁ!やめて下さいぃ……」
「うふふ、さっき駄目だと言いましたよね?ほら、そんなことを言っている間に全部食べられちゃいましたよ?」
「あぁ……あぁっ……!」
 視覚が無くなって触覚が敏感になったことで、与えられる快感も数倍以上。
 これだけでも射精してしまいそうなのに、それを分かっていてかエミルさんは腰を上下に動かし始めた。
 暫くしてそれは上下だけではないことに気付く。前後に動かしたり、円を描くように腰を回したりして確実に僕を射精へと導いていく。
 そう、これは性行為という名の食事。肉食動物が草食動物に捕食されるように、僕も子種もエミルさん達に捕食されてしまうんだ。
 草食動物を目の前にした肉食動物が情けをかけることは無い。
 そんなことは十分に分かっているけど、それでも僕は密かな期待を抱いてしまう。
「わたくしの膣内でラスティさんのおちんちんがビクビクしていますよ。そんなに気持ち良いですか?」
「あっ……くぅっ……!き、気持ち良過ぎて、僕……っはぁ!」
「うふふ、そんなに喜んでもらえて私も嬉しいです。わたくしも気持ち良いんですよ?全然そんな感じはしないでしょうけれど」
 今、何て……?
「じゃあ、こうしてもっと気持ち良く出せるようにしてあげますね」
 胸板に置かれていた手がふいに僕の乳首に触れた。
 触れるだけでなく指で弾いたり、爪で少し強めに摘んだり。
 目隠しをされている僕はその状況を目で見ることは出来ないけど、敏感になった触覚で十分に感じることが出来た。
「あ、今、ビクンってなりましたよ。ラスティさんって乳首が弱いんですね」
「うぅっ!はぁっ、ひぃっ……!」
「ラスティさんの喘いでいる顔、全部見えてますよ?だらしなく涎まで垂らしちゃって」
「そ、そんなこと……あぁっ!そんなこと、言わないでぇ……!うぅっ!僕、もう……くぅっ!」
「もう出そうですか?良いですよ。わたくしの子宮にラスティさんの濃い精液、たくさん注ぎ込んで下さい」
「ひぃん!はぁっ、はぁっ……んんっ!あぁっ、もう出るぅ!エミルさんの子宮に出しちゃ……っあぁぁぁぁ!エミルさぁぁぁぁぁん!!」
 エミルさんの優しい囁きと激しい責めで僕は絶頂を向かえ、子宮の中にたっぷりと精液を注ぎ込んだ。
 びゅっ、びゅっ。
 今まであれだけ出したのにまだ出てる……。
 エミルさんは出終わったのを確認してから僕のモノを引き抜き、それに舌を這わせ、二人分の体液を舐め取っていく。
「うふふ、ラスティさんの精液とても美味しいですね。それに、とても濃いです」
「ふふ、エミルも満足しているようね」
「リ、リディア様……!リディア様の御前で醜態を晒し、大変申し訳ありません」
「そんなに畏まらなくていいわ。そうね、少し貴女は真面目過ぎるわ。扇奈のようにもっと崩しても良いのよ。貴女達は強い心を持つ生き残りなのだから」
「はい、リディア様」
 生き残りって何だろう……?
「昔はもっとたくさんの獣人型モンスターがここにいたんだけど、人間が来なくなったせいで餌も手に入らず、多くが死に絶えてしまったのよ。
何とか生き残っていた者もいたけど、あまりの空腹にある日、遂に発狂して味方同士を殺し合うようになってしまった。
そんな光景を見続けることに苦痛を感じた私は発狂した彼女達を楽にしてあげたのよ。この手で同族を殺すことは流石の私も躊躇したけど、仕方なかったわ。
最終的に残ったのは私達三人だけ。私は獣人型モンスターの中でも特別な存在だから人間の精が無くても生きいけるけど、扇奈とエミルは純粋な獣人型モンスター。
それなのに彼女達は人型モンスターの精だけを糧に今まで生きてきた。本当に立派な、誇れるべき獣人型モンスターだわ」
 そう言いながら、リディア様はさっきのように僕のくいっと顎を持ち上げる。
 今度は唾を吐き掛けるような真似はしない。

「貴方、気に入ったわ。貴方の寿命を延ばして、私達が朽ち果てるまで性奴隷として私の傍に置いてあげる。尤も、貴方の濃い精があれば、私達は永遠に死なないけど」
 リディア様の血のように紅い瞳が妖しく光った。
「扇奈、エミル。人型モンスターを数匹ここへつれて来て頂戴」
「どうするおつもりですか?」
「この子の精子で孕ませて、新しい獣人型モンスターを作るのよ。昔、私がやったようにね。私達だけでは寂しいし、つまらないでしょう?」
「「承知致しました」」
 そう言って二人は移送魔法で何処かへ飛び去っていった。残ったのは僕とリディア様のみ。
 僕はこれから一体どうなってしまうのだろうか。
「貴方はこれから人型モンスターを孕ませて、新しく出来た獣人型モンスター達に惨めに輪姦されるのよ。楽しみでしょう?」
「あ……あぁ……」
 あまりの恐怖に身体を震わせる。
 だが、恐怖と同時に僕は密かな期待もしていた。
 これからどういう風にして犯されるんだろう。そんなことを考えると、別の意味で身体が震える。
 あの時の僕はもう何処にもいなかった。
 ここにいるのはモンスター達に嫐られ、輪姦されることを待ち望む新しい僕。
 相手がモンスターだろうが化け物だろうが、そんなことは関係ない。
 今まで誰も必要としてくれなかった僕を必要してくれている場所があるのだから。
 こんな僕が役に立つと言うなら、喜んでこの身を捧げよう。
 どれだけ酷いことをされて、泣き、喚き、叫んだとしてもそれは彼女達の愛。だから、僕はそれを喜んで享受する。
 ここには僕を必要とし、愛してくれる人達がたくさんいる。だから、外の世界に戻る気なんて微塵も無い。
 ……外の世界って?ここが僕の世界なのに、他に世界があるはずがない。
 何をおかしなことを考えているんだろう、僕は。
「さてと。二人が戻って来る前に少しつまみ食いしてしまおうかしら?ふふ、今度はもっと激しくしてあげるわ」
「あぁ、ありがとうございますぅ……」
「あれだけ強がっていたのに、堕ちたものね」
 ここには草食動物を目の前にして情けをかける肉食動物がいる。
 
 最後に一人の少年と一人の女性の顔が脳裏に浮かんだ。
 何処か懐かしい気がするけど、僕はこんな人は知らない。
 
 
 
 誰 だ ろ う ?




 THE END...

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最終更新:2007年09月02日 00:27