日は沈み空は闇に包まれている。
 その中でただ光り輝く月は、怪しく光り世界を照らし、あと一日もすれば満月となるだろう。
 そんな月を考え事をしながら見つめているブランシュネージュ。彼女は自分の中からくる何かを感じつつ、木の上に座っていた。
「じゃあレオンって、昔の思い出とかないわけ?」
「うん……まぁね」
 その木の下で、焚き木を周りで隣同士で座りながら話しているレオンとウィン。
 二人は自分たちの過去や今まで起こったこと、そして魔装具のことを話そうとしていた。
 その際レオンが先に自分の過去を話すことになり、ウィンはレオンの記憶が断片的にしかないことを知り少し驚いていた。
『レオンくん、かわいそ~!』
『……ケッ、場が暗くなっちまったじゃねえか』
「あ、ごめんね、ガジェ」
『ほ、本気で謝んじゃねえよ。おい、ウィン、今度はお前話せ』
 この場に重い空気が流れており、ガジェはこういった雰囲気は苦手なので耐えられなくなっていた。
 まぁ、レオンから出る言葉は、記憶が無いだとか、ある村を全滅させられ自分だけが生き残った事は覚えているだとか、夢で何度も両親が殺されるのを見ているとか、そんな事ばかりなので重くなるのは当然といえるだろう。
 リウは少し泣き声になり、ウィンも獣耳と尻尾をしゅんと下げていたが、ガジェに話を振れられ再び立った。
 正直、ウィンの過去話も笑って話せる内容ではなく、最初こそ戸惑うがレオンも重たすぎる話をあえて笑顔で話していたのだ。
 ならば、自分も話さなければならないだろう、レオンよりは重たくはない話しだしと、ウィンは心の中で自分自身を納得させる。
 そしてウィンがゆっくりと口を開くと、夜空を見上げていたブランシュネージュも猫耳を立てレオン達の方向を向いた。
「あたしは、そんな大した人生送ってないわよ。あたしの村はね……」
 ウィンは自分の長い横髪を指で摘むように弄りながら、自分の過去を話し始めた。
 彼女が生まれた村は獣人のみの村で、とても貧しい村。
 毎日食べる物さえ手に入らず餓死する者も少なくないほど。その為、村の男集は殆ど傭兵や国の兵士となり、今も家族を養っている。
 そしてウィンもまた弓に長けていることで傭兵となり、死んだ両親の代わりに弟や妹を養っているのだ。
「あたしの両親も、昔魔物に襲われて……」
「ウィン……」
「えへへ、レオンと同じだね」
 嫌なことを思い出し少し俯くウィンに、レオンもしゅんとなる。
 そんな彼を慰めるように、ウィンはすぐに頭を上げてレオンに笑顔を見せた。
 そして更に話を続けた。傭兵になって間もない頃の事で、リウを見つけた日のことを。
 その日、ウィンはある古代遺跡に住む魔物を退治する仕事を受けていた。その魔物とは巨大芋虫のワーム。
 そして、何とか倒すことに成功。ワームの牙は武器になるため売れるのでウィンは残さず回収していた。
 この際に、ウィンは遺跡の奥、ワームが巣としていた場所で魔装具リウを発見したのだ。
「まぁ最初は何だろうと思ったら、いきなり喋り出したから流石に驚いてさ。捨てようかと思ったら泣き声になっちゃうから、なんか捨てる気になれなくてね」
『お姉ちゃんは優しいもんね!』
『こいつが優しいだ? ケッ、寝言は寝て言、いててててっ!!』
「あんたは黙ってなさいっ!!」
 ウィンの話に、レオンは素直に感心しているのだがガジェは気に入らないのか吐き捨てた。
 だがその直後、ウィンに思いっきり踏まれていたのだが。
「まっ、こんなものかな。あとはずっと傭兵してただけ。ところで、気になってたんだけど」
「何?」
 ウィンは自分の過去話を適当なところで切り上げ、レオンの話を聞いていた際に気になっていたことを本人に聞く。
 レオンは首を傾げた。
「あんたさ、両親殺されたって言ってたじゃない?」
「うん」
「じゃあ、あんたが旅してるのって、その両親を殺した奴に復讐するため、とか?」
「……」
 ウィンの質問にレオンは無感情になり黙り込んでしまう。
 再び重い空気がこの場に流れ始め、ウィンはやっぱりまずい質問だったかと内心焦る。
 その空気の中、ブランシュネージュは木の上でレオンが口を開くのを待っているかのように彼を見つめ続けている。
 しばらく間が空き、風が吹いたと同時にレオンは口を開く。
 獣耳を寝かせているウィンを安心させるように笑顔を見せていた。
「僕は、復讐なんてしないよ」
「そ、そう。なんか、変な事聞いちゃったね、ごめん」
「気にしてないよ。僕が旅をするのは、両親を殺した人を見つける為なんだ」
 レオンの言葉にブランシュネージュ以外は疑問の声を上げた。
 復讐する気は無い、だが殺した者を見つけようとしている。
 レオンはその者を見つけ出して何をする気なのか、ウィン達はしばらく考えていたが答えは本人の口から言われた。
「僕は記憶が殆ど無いから、その人を見つければ少しは自分の事を知ることが出来るかもしれないって思って」
 重い話のはずなのだがレオンはずっと笑顔で語っていた。
 レオンが旅をする理由、それは自分の事を知りたいためだった。
 それもそうだろう、少ない記憶から思い出せるのは死んだ両親と焼かれている村。
 一人生き残ったレオンは、その村の人は彼以外全滅だと聞かされている。
 だから自分の事を知っているとすれば、記憶の一部にある顔も分からない誰か、という事になる。
 記憶が無いまま生きる選択肢も彼にはあったが、何故自分の村は襲われ、両親は殺されたのか知りたかったのだ。
「……あの、どうしてそんなに笑っていられるのよ?」
「だって、泣いたって嘆いたって村の人や両親が帰ってくるわけじゃないし……それに記憶がないせいかな、泣けないんだ」
 ウィンに悲しい笑顔を見せるレオン。
 その直後、ウィンは獣耳を寝かし頭を下げてレオンに謝るが、彼はただ、いいよ、とだけ言って頭を上げさせた。
『レオンくんは偉いね~。そんな大変な人生送ってるのに』
『……チッ』
「二人もそんなに言わなくていいよ」
 更に魔装具二体も、辛い人生送ってきたレオンを褒めている。
 ガジェは何も言わなかったが、嫌味が飛んでこないあたり少しレオンを見直したようで、レオンはガジェに付着していた砂を掃った。
「もう僕の話はいいかな? 僕はガジェとリウちゃんの事も知りたいんだけど」
「そういえば、あたしもリウの事あまり知らないわね。今まで聞いたことなかったから」
 レオンは話を魔装具達に向ける。
 ウィンもそれに続くようにリウに問うと、二体の魔装具達はしばらく何も言わず、この場には沈黙だけが流れていた。
『……ご、ごっめ~ん、リウは名前とか以外憶えてないの』
『右に同じ』
 そして沈黙を破ったリウは何処か言い辛そうにレオンたちに言う。きっと体があれば片手で後頭部をかく仕草をしたことだろう。
 リウの発言にガジェも便乗。二体の装者は同時に首を傾げた。
 その中で唯一、ブランシュネージュだけが納得したような表情をしていた。
「な、なんで憶えてないのよ?」
 当然と言えば当然の返しをウィンがした。
『んなもん、あれだ……もうこんな姿になって大分経つからな。お前等だって、時間経てば忘れる事だってあるだろうが?』
「じゃあ、ガジェの本当の名前は?」
『さあな。それも忘れちまった。まっ、別に思い出したいとも思わねぇけどな』
「そうなんだ。僕は……ガジェの事、知りたかったな……」
 ウィンの質問に答えた後、レオンの質問には少し皮肉気味に答えるガジェ。
 その答えに再びしゅんとなるレオンを、ガジェは少し慌てた口調で宥めており、ウィンとリウは笑っていた。
 焚き火が弱くなってくる。レオンが薪を加えると一瞬燃え上がり、再び火があたりを照らす。
 風が吹き、やや冷たい風がレオン達とブランシュネージュに吹きかかる。
 寒気でウィンと、木の上で丸くなっていたブランシュネージュの体が震えた。
 レオンは火の近くにいるため大丈夫だが、ウィンはジャケットを脱ぎ上半身水着のような格好なため寒いのは当たり前だが。
「ほら、ウィン」
「なっ! ちょ、不用意に触れないで!」
「あ、ご、ごめんなさい……」
 寒いだろうと、レオンはウィンの背後からそっと毛布を羽織らせる。
 その時、彼女の肩にレオンの手が触れると、ウィンは獣耳と尻尾を逆立て体を僅かに痙攣させ大声を出しレオンの手を掃った。
 少し涙目になるレオン。すぐにレオンを宥めているウィンの顔は真っ赤で、呼吸も少し荒くなっていた。
 その中で、ブランシュネージュは木の上から飛び降り、草の上に着地する。
 そして暗闇の中からゆっくりとレオンに歩み寄り、切り株の上に座っている彼の膝の上に乗り丸くなった。
「今日もここで寝る。よいなレオン?」
「あ、はい、おやすみなさい」
 頭を少し上げ、いつもどおりブランシュネージュはレオンに密着して眠りにつく。
 レオンも慣れているので笑顔で返すと、ブランシュネージュの二本の尻尾が彼の頬を撫でるように動き、そして力なく地面に落ちていく。
 ブランシュネージュはレオンの膝の上で寝息を立て始め、レオンは彼女の頭や体を毛並みに合わせるように撫でている。
 その様子を、ウィンはジト目で見ており、表情は出ないがガジェもウィンと同じような表情をしている事だろう。
 その視線を感じ、レオンは苦笑しており、ウィンは何故ブランシュネージュの下僕になったのか聞こうとしたのだが今はやめておいた。
 何故ならブランシュネージュに聞きたかった事を思い出したから。
 報酬が入っている小さなカバンの中を徐に探り、そしてウィンは何かを取り出した。
 その音に、ブランシュネージュも眠りに入ろうとしていたが再び呼び戻された。
「騒がしいぞ犬小娘」
「犬でも小娘でもないわよ。それより、あんたにちょっと見てもらいたい物があるのよ」
「……ふぅ、何だ?」
 睡眠を邪魔され不機嫌にブランシュネージュはウィンに返す。
 そして、ウィンが彼女に見せたある物により、眠気眼だったブランシュネージュの瞳が瞬時に開かれた。
 ウィンが手に持っていた物は、錆や汚れで何かは分からないが古代兵器の一つ”銃”に似た形のものだった。
「これなんだと思う? あんた魔装具にも詳しそうだったし、知ってるんじゃないの?」
「……」
 ウィンの問いにブランシュネージュはしばらく考えていた。
 魔装具にしても、装者も無しに武器の形態を保っていられるのは長くない。
 だがウィンが持っている物は何十年、何百年と銃の形だったことが分かった。
「……お前達は何か感じないか?」
 ブランシュネージュはガジェとリウに聞いてみるも、二体は揃って何も感じないと言った。
 しばらく考えた。レオンもブランシュネージュがこんなに考える姿を見たのは久しぶりである。
 考えても分からなかった、いや、魔装具に似たものだという事は分かったのだが。
 これ以上は何も分からないと判断したブランシュネージュの尻尾の先が、その物に触れると白く光だした。
 暗い森が一瞬照らされ、レオンとウィンは目を閉じている。
 その光の中で、それの錆などは見る見るうちに無くなっていき、いわば新品同様に戻っていた。
 そして光が治まると、レオンとウィンはゆっくりと目を開け少し驚いた。
「こ、これ……」
 ウィンの手に乗っていた物、先ほどまで原型しか分からなかった物が、今は赤い銃として綺麗になっているのだから。
 元々は赤かったんだとウィンは思い、ブランシュネージュは再び尻尾の先を光らせた。
 彼女は感じていた。この赤い銃にも魔装具同様、魂のようなものが宿っている事に。
 そして、尻尾の光が治まっていくにつれ、赤い銃に埋め込まれている赤い宝石のようなものが光り始めた。
「な、なになに?」
『ん……ここは、どこ……?』
「し、喋った……」
『もしかして、リウ達とおんなじなの?』
『てか、また魔装具かよ……』
 尻尾の光が完全に消えた直後、赤い銃が喋りだした事に一同驚いた。
 しかし何かが違う。
 やはりガジェやリウのように小さくはならず武器のままであることにブランシュネージュは疑問に思った。
『何ここ、誰よあんた達? カズマ……ガリューは?』
「カズマに、ガリュー?」
『あ! あんたは、ゆうな………いや、似てるけど違う……』
「え?」
 意識を完全に取り戻し、赤い銃は周りの見慣れない奴等に困惑する。
 ただ一人、レオンを誰かと間違えたようで、少し落胆の口調となっていた。
 まぁ、困惑しているのはレオンやウィン達も同じであり、ブランシュネージュは静かに口を開いた。
「お前は何だ? 魔装具か? 名前はなんと言う?」
 彼女の問いはストレート過ぎるものだった。
『あたしは、あたしは……シエル』


 謎の魔装具が目を覚まして一夜経った。
 ブランシュネージュ御一行は、深い森を歩き続けている。
 まぁブランシュネージュはレオンの肩に乗っているが。
 昨晩、レオン達はシエルと名乗った銃が魔装具に似ているが、魔装具ではないことをブランシュネージュから聞かされていた。
 実際彼女自身も確証はないが、やはり形を変えない辺り違うと判断したのだろう。
 そして、シエルは彼女達が困るような質問を次々と聞いた。
 今は平成何年やらカズマとガリューはどうしたやら……どの問いも、レオン達は答える事が出来なかったが。
 そしてブランシュネージュはシエルの言葉から確信したように言った。
 シエルは、レオン達が言っている古代文明の産物だと。
『おい、赤女』
『何よ?』
『レオンの体は俺のもんだからな。勝手に使うんじゃねえぞ』
『は? 何言ってるの? あんたバカ?』
『バ……ッ!』
『お兄ちゃんは、少し頭が悪いだけ!!』
『てめーに俺の何が分かんだよクソガキ!』
 レオンとウィンが横で歩いている時に、二人の首にペンダントのように吊るされたガジェとリウ、そしてブランシュネージュに更に小さくされ、銃型のアクセサリーのようになったシエルが口喧嘩している。
 今となっては体が無い三体……まぁ、シエルは体が無いというより銃に変えられているのだが。
 だから三体は口で喧嘩するしかない。だがギャーギャーうるさいのでウィンとブランシュネージュに怒鳴られ三体とも大人しくなった。
「それにしても、深い森だね」
 しゅんとなっているだろう魔装具達を苦笑しつつ、レオンは疲労気味に呟いた。
 ウィンはこう返す、相当深いからあと抜けるには二、三日くらい掛かる、と。
 その言葉にレオンはいっそう疲れた。肉体的にはまだいけるが、気持ち的にもう疲れている。
 せめて太陽の光が当たっていれば良いのだが、鬱蒼とした木々に邪魔され森全体が薄暗くなってしまっている。
 そして気持ちで疲れたのはレオンだけではなく、ブランシュネージュもあと一日で抜けろと無理難題をレオンに平然と言っていた。
 そんなやり取りが繰り返され、今日は一日森で過ごし夜を迎えた。
 再び良さそうな切り蕪を見つけ、焚き火を起こしそこら辺で飼ってきた魔物や動物の肉を焼いたりし食事をとる。
 ブランシュネージュは相変わらずレオンの膝の上で、レオンに食べさせて貰っており、ウィンも彼女に対抗するようにレオンに食べさせてもらっていた。
『お姉ちゃん、子供みた~い!』
「うるさいわね、あたしの下僕なんだから当然の行動よ」
 リウは可笑しそうに笑っている。
 すぐにウィンがリウに怒鳴り声を上げるが、リウは笑い続けた。
『ケッ……おいレオン、お前もたまには何とか言ったらどうだ?』
「い、いいよ。勝てないの分かってるから」
『かぁー! なっさけねーなぁ!!』
『本当に優奈そっくりだね……』
 装者の姿に情けなく感じガジェが乱暴な口調で言うが、レオンはただ笑うだけ。
 どちらも逆らったら怖いので、従うしかないのだ。
 そんな姿を見て、シエルは昔の知人の事を思い出している。特にレオンのあの顔と性格はそっくりだ。
 そしてウィンの行動をブランシュネージュが黙っているわけは泣く、狼と猫の争いは再び勃発した。
 森にはしばらく小さな爆発音が響いていたが、止むと同時に彼らの食事も終わったようだ。
 割れた皿などを片付けるレオン。この時ばかりはウィンも手伝っているようだ。
 ブランシュネージュも最初は下僕なのだから当然と言っていたが、最終的には尻尾で割れた皿を拾っていた。

 日はすっかり沈み、森は再び闇が支配していた。
 ただ、レオン達の周辺だけは焚き木によって明るくなっている。
 レオンはただ何もせず、膝の上で丸くなっているブランシュネージュの体を撫でている。
 だが、ウィンは顔を赤くし何処か落ち着きがない。その事にレオンも気づいているが、何となく聞けずにいる。
 実は、今宵は満月。獣人の種類のよって差はあるものの、満月になると発情してしまうのだ。
 無論、それも獣人によって差はある。
 人狼族の雌の場合は、理性が薄くなる代わりに身体能力等が格段に上がるというもの。
 そして身体能力のほかに、性欲が前面に出る。
 満月に近づくにつれその性欲は高まり、レオンの前なので自慰行為もできないと我慢していたが、満月である今夜、その我慢は限界に達しようとしていた。
 丁度良く夕飯を狩っていた時に小さな泉を発見したので、ウィンは水浴びだと言い残し今にも本能のままに動きそうな身体を抑えつつ茂みの中へ消えていった。
 様子がおかしいウィンにレオンは心配になる。
 人狼の目は人族より数段よく暗闇でも良く見えるようになっているし、何よりリウも持っていたので魔物に襲われても大丈夫。
 だが、レオンの目には発情したウィンが弱っているように見えていたのだ。
「……すみませんブラン様。僕ちょっと薪を拾ってきますね……」
「ん? まぁ、仕方ないな、行ってくるがいい……」
「それじゃあ行ってきます」
『ぐがー……』
 レオンは立ち上がり、毛布の上にブランシュネージュを置きウィンが消えていった茂みの中へ消えていった。
 魔物が出るといけないので、既に眠っているガジェを手に持って。
 シエルも眠っているようで、ブランシュネージュ同様毛布の上に置かれている。
 闇の中へ消えていく彼の背中を、ブランシュネージュは黙って見ていた。
「やれやれ……仕方の無いやつだ……」
 そう呟いたブランシュネージュの体が、白銀に眩く光った……


「確か、この辺りだったはず……」
 草木を掻き分けながら、僅かにしか見えない森の中をレオンは進んでいた。
 ガジェは未だ目を覚まさない。
 徐々に周りの空気が涼しくなっていく事から、ウィンがいる筈の泉は近いと分かった。
 だんだん周りが明るくなっているのは、泉により木々に邪魔される事なく月の光が泉周辺を照らしているため。
 そして、レオンは最後の草を掻き分けると広い空間へと出た。
「……ウィン?」
 泉の水が月の光に照らされ、更にその中に月の光の中でしか現れない珍しい蝶、”月光蝶”が舞っており綺麗というより美しいとレオンは感じる。
 だが、水浴びをし終えたのかウィンの姿はなかった。
 まぁ、水浴びしていた場合、レオンはウィンに覗きと言われ殴られているだろうが。
「ねえ、ここに人狼の女の子が来なかった?」
「ううん、知らないよ?」
「そう……」
 正直ウィンの姿がなく少しホッとするレオン。
 周りを見渡すがウィンはおらず、小さい女の子の姿をした月光蝶に聞いても来ていないと言う。
 やがて月光蝶達は空へと舞い上がっていき、レオンは泉にゆっくりと近づくと……気づいた。
 何かの気配を感じる。しかも、それは殺気に少し似ていた。
「ガジェ、起きて!」
『ぐがー……んん~、この。あかおんな……』
 ガジェは全く起きる気配がなく、レオンは焦りながらガジェを起こし続ける。
 だが起きる気配はまったくない。とにかく早くウィンを見つけてこの場から立ち去ろう。
 レオンがそう思い走り出そうとした時だった。
 草むらの中から何かが飛び出し、それはレオンが動き出す前に彼を仰向けに押し倒した。
「うぐっ!」
 頭や背中を地面に打ちつけるレオン。
 体は何かに押さえつけられているので起き上がることが出来ず、レオンはゆっくりと目を開けると、その目を見開いて驚いた。
「なっ、う、うぃ、ん?」
 目の前には、自分を押し倒しジッと見つめているウィンがいた。
 いや、現段階ではウィンかどうかもレオンには分からない。狼の耳は見えるが先ほどまでのウィンとは若干違うから。
 彼女は裸で、腰まであった長い髪の毛は更に膝辺りまで長くなっている。
 指先には爪が鋭く伸び、呼吸を荒くしている彼女の口から見える八重歯は更に鋭くなり、蒼い瞳は美しくも妖しく光っていた。
 この人狼族の女の子は発情してしまっている事にレオンは気づき、何とか逃れようとする。
 理性よりも性欲が表に出てしまっており尚且つ異性、力の差も歴然。ならやられる事は一つしか考えられない。
 だが、レオンの押さえている彼女の力によりレオンは逃れる事が出来ず、鋭い爪が服を貫通し素肌に食い込み痛みも走った。
 レオンは防具を外している状態、ガジェも押し倒された拍子に手から離してしまい、攻撃防御共に最悪の状態だった。
「……ったく、来るな、って、言ったで、しょ?」
「……」
 人狼娘の口から言葉が出る。絶え絶えの言葉遣いだが完全に理性を失っているわけではないらしい。
 まぁ、性欲が表に出るとはいえ理性も残っているのだから当然だが。
 だが、そう感じた時レオンは確信した。聞き慣れた声、やはりこの女の子はウィンだと。
 レオンがそう理解した瞬間、彼の衣服はウィンの爪によりびりびりに破かれ、レオンの素肌が露になってきた。
 押さえられていた腕が自由になり抵抗するレオンだったが、歯が立たずウィンの動きが止まった頃には上半身はほぼ裸体になっていた。
 彼の身体の所々には痛々しい引っ掻き傷があり血が滲み、レオンは目に涙を溜める。
 その涙を爪で拭うように掬い、そのまま舐めるウィンはそのまま倒れるように上体を寝かせた。
「あ、んたが、悪いんだから、ね」
「え……」
 ウィンの言葉にレオンは返そうとするが、その言葉は彼女に唇を重ねられて中断された。
 すぐに唇を離しレオンの頬や首を舐めていく。
 生暖かい舌の感触、更に爪先で耳を擽られて体を硬直させる。
「な、や、やめて……」
「うる、さいっ! 下僕の、くせに」
「で、でも、こんなこと……んぐっ!」
「うるさい……あんた、は、おとなしく、してなさいッ!」
 ウィンの頭は徐々にレオンの胸辺りまで下がっていき、彼女の下はレオンを刺激し続ける。
 最初は気持ち悪い感触だったが、胸を嘗め回されレオンにも快感が流れ始めたようで、彼の声も少し甘くなっていく。
 だがレオンは何とかウィンを止めようと震えた声で制止を試みるも、ウィンの片手がその口を封じた。
 レオンは目を見開き、口を押さえている彼女の手の力が入り悲痛の表情を浮かべた。
「痛い、でしょ? もう、抵抗、しないよね?」
「んん……」
「それに、あんた、弱いの。弱い男に、女を、選ぶ権利、ないんだから」
「……んぐぐ」
「これ、ご先祖様の、言葉なん、だよ? いい、言葉だよねぇ……」
 妖艶に微笑みながらレオンの口から手を離すウィン。
 上体を起こし、見下ろしながら彼の上に跨いでいる身体を回転させ、レオンに尻と尻尾を見せる体勢になる。
 腹部にウィンの体重が圧し掛かり、レオンの呼吸が止まる。
 その顔の上にウィンのふさふさした大きな尻尾が乗り、撫でるように動かすと、体毛のチクリとする感触にレオンは顔を横に向けた。
 その瞬間、レオンの耳には再び何かが破かれる音が聞こえ、下半身に寒気を感じる。
 再びウィンが正面を向き、レオンは状態を少しだけ上げると下に身に着けていたものも破かれ、太ももの半分上辺りまで肌が露出していた。
 無論、既にそそり立ち空を向いている肉棒も丸見えになり羞恥心でレオンの顔は赤くなる。
「おっき、いぃ……♪」
 その反応、そして目の前に見える久々に見た男の象徴にウィンの中で、薄くなっていた理性が音を立てて崩れていった。
 彼女の秘所からは流れていた愛液が更に溢れ、ウィンが身体を浮かし肉棒をあてがうと、愛液でコーティングされていく。
 いきなり挿入しようとするウィンに、レオンは無駄だと分かりながらも、呼吸を荒くしながら上体を起こし手を伸ばし彼女を引き離そうとした。
「おとなしく、しろっって、言った、でしょっ!!」
 ウィンは吼えると同時に、自分に伸びてくるレオンの片腕の手首を掴み握り潰すかのように力を込める。
 骨がミシミシとなり、身体に激痛が走りレオンの身体は地面に着いた。
 ウィンの瞳からは理性が見えない。レオンは命の危険さえも感じた。
 そして抵抗するのを止め、ウィンに握られていた腕も力なく地面に着いた。
「それじゃ、入れ、るわよ………んぅッ」
「ぐッ……」
 片手で肉棒を固定し秘所へあてがい、ゆっくりと腰を下ろしていくウィン。
 亀頭が入り、挿入の感触に二人の身体が震えている。
 そしてウィンは一気に腰を下ろした。
 根元まで入り、軽く絶頂したウィンは状態を寝かせレオンを抱きながら身体を痙攣させていた。
 彼女の獣耳は小刻みに動き、尻尾は逆立った後、嬉しそうにゆっくり振られていた。
「う……ウィン、ぬいて……」
 挿入の感覚に身体を震わせながら、レオンはウィンに懇願する。
 これ以上はしてはいけない。お互い恋人同士でもない、ましてや出会って、一緒に旅をし始めて日も浅いし。
 そして何より、ブランシュネージュにでも知られたら何をされるか分からない。
 だが、そんなレオンの訴えなどウィンは聞くはずもなく、容赦なく腰を上下に動かし始めた。
「んはッ♪ あッ、イイ、ひさ、しぶりッ!」
「ぅくっ……」
 レオンの両肩を掴み、前かがみになり腰を動かすウィンは、酔い痴れ嬉しそうに笑みを浮かべていた。
 何せ彼女にとっては久々の交尾。
 今まではたいてい自慰行為か、リウに表に出てもらいやり過ごしていたから。
 粘膜を擦り上げ、肉棒を締め付ける膣内の最奥に届く。
 ここまでくると、レオンも抵抗の意思を徐々に失っていく。
 女のような声を上げ、せめて出さないようにウィンから送られる快感に耐えていた。
「んッ! んちゅッ、んんッ!!」
 そんなレオンの唇をウィンが自分の唇を押し当てる。
 唾液をレオンの口内に送り込み、自らもレオンの唾液を吸い上げる。
 舌を口内に入れ絡ませると、レオンの口の端から唾液が一筋流れ出た。
 牙と化したウィンの八重歯がレオンの歯と当たり、ガチガチ言わせていた。
「んはッ……も、イき、そ……んあぁッ!」
 ウィンの口から絶頂が近いという言葉が聞こえる。
 肉棒を根元まで膣内に入れ、レオンとキスをしながら腰を前後運動。
 早く射精しろと言わんばかりに、彼女の膣は肉棒を締め付け、うねうねと動く。
 レオンは彼女の脚を掴み、何とか引き離そうとしたが、騎乗位なのでどうする事も出来ない。
 そして、ウィンの獣耳が小刻みに動き尻尾が逆立った瞬間、彼女は絶頂を迎えた。
「んんん……んああああぁぁぁッッ!!」
 狼の遠吠えのごとく、森中にウィンの絶頂の叫びが響いた。
 それと同時に膣内の締め付けも増した。
 だが、レオンは射精にまで到らず、身体を痙攣させ絶頂が治まってきたウィンはその事に気づくと表情をムッとさせる。
 自分はイッてしまったのに、自分より下のレオンがまだなのが気に食わなかったからだ。
「な、なん、でっ! イか、ないのよっ!!」
 ウィンは絶頂後にもかかわらず再び激しく腰を動かした。
 そして数往復後、レオンも限界を向かえ、身体を痙攣させ彼女の中に白濁した液を注いだ。
「くうぅッ!!」
「あはぁッ♪ や、っと、出した、わねッ……あつい……」
 注がれる熱い精液の感触に、尻尾をはち切れんばかりに振り、耳を動かしながらウィンは受け止めた。
 だが腰の動きは止まらない。結合部からは精液とウィンの愛液が混ざったものが溢れ出ている。
 レオンは射精を終えても、休む暇なく快感を送られ続けていた。
「んッ、あぁッ、ひゃあんッ!」
「うぃん……」
 ウィンの瞳からは完全に理性の色が見えず、レオンは再び辺りを見渡し何とか止めようとする。
 このまま彼女の中に射精し続ければ孕んでしまう可能性もある。まぁ、もう出してしまったのだが。
 更には、少女化した月光蝶まで興味津々な眼差しでウィンとレオンの交尾を見続けているものだから恥ずかしい。
 ウィンは交尾に夢中で、レオンの行動を見ていない。
 そして、レオンは月光蝶の一人に落ちているガジェを持ってくるよう言うと、彼女達は草むらに落ちていたガジェをレオンに手渡した。
「ガジェ、起きてる?」
『……ん? あぁ、なんかうるせーな』
 先ほどまで寝ていたガジェは起きていた。
 丁度いい。レオンはガジェに出てくるよう言うと、面倒臭そうにガジェは引き受ける。
 そして、月明かりだけが照らしていた泉の周囲が、赤い光に包まれた。 
「はんッ! ぇ?」
「いい加減にしやがれ、淫乱狼!!」
「きゃぅッ!!」
 光が消えると、乱暴なレオンの口調と共にウィンの悲鳴が聞こえた。
 ガジェが表となったレオンの身体能力は、発情した人狼族と引けをとらない為、力ずくでウィンを引き離したのだ。
 その際にウィンは気を失ってしまい、ガジェは気だるい体でゆっくりと起き上がった。
「ったく……てめーも大人しく犯されてんじゃねーよ! お前等はどっか行け鬱陶しい!!」
「ごめんなさ~い!!」
 情けない主人格と、野次馬となっていた月光蝶たちに怒鳴りつけるガジェ。
 レオンは苦笑し、月光蝶達は慌てて何処かに行ってしまった。
 目の前には、先ほどまでの乱れぶりが嘘のように眠っているウィンの姿。
 それを見ているだけでもイライラするが、とにかく眠いのでブランシュネージュの所に帰る事にした。
 いつまでもほぼ裸の姿になっているわけにもいかないし。
「世話が焼けるぜまったくよ~!!」
『ご、ごめん』
 眠っているウィンをおぶり、近くの草むらにあったリウとウィンの衣服を回収し、謝るレオンの道案内の元、ガジェは森の中へ消えていった。
 暗い森の中に、ガジェのイライラしているだろう呟きだけが聞こえていた……

 翌日、レオンは正直困っていた。
 昨晩、あまりに帰りが遅いレオンを心配していたブランシュネージュから、質問責めにあっていたのだから。
 質問責めといっても訊かれるのは一つだけ、昨日の夜何をしていたのか。
 その答えを正直に言えば、ブランシュネージュに何をされるか分からず、ウィンにふってみても彼女はただ苦笑するだけ。
 発情し、理性が薄くなるとはいえ記憶はあるので、ウィンも言い辛い。
「ほう、迷っていた、と?」
「え、えぇ、ここは迷いの森としても有名ですから」
「ならば、何故帰ってきた時は、ほぼ裸体で、発情の特徴が見えたそこの犬を背負い、魔装具が表人格だったのかな?」
「そ、それは……」
 レオンが回答に困ったのはこれで何度目だろうか。
 今回はウィンに非があるので、彼女も強気な事を言えず、レオンを弁護しようとすればブランシュネージュに断られる始末。
 ただ、ブランシュネージュには大体の事は分かっていた。
 ウィンの絶頂の叫びがブランシュネージュの所まで聞こえていたのだから。
 よって今は、困っているレオンの反応を楽しんでいるのだ。
「ほら、言ってみろレオン」
「ゆ、許してください、ブラン様ぁ」
「駄目だな……フフフ」
『『鬼だ……』』
 涙目になるレオンに、ブランシュネージュは妖しく笑いながら二本の尻尾で頭を叩くように動かしている。
 ガジェとシエルが思わず出た言葉は、この場に居るウィンとリウも思っていたこと。
 ついでに、涙目のレオンが可愛いという事も。
「と、とにかく! もうすぐ森から抜けるはずだから、もういいじゃないのブランシュネージュ」
「ブラン様、もしくはブランシュネージュ様と呼べ。発情した雌犬が」
「っ……」
 場の空気を変えようとするウィンの言葉も、ブランシュネージュの一言で終わってしまった。
 結局この日、この森を出るまでブランシュネージュのレオンいじりは続いていた。


「フフフ、新しい獲物が来たよ?」
『……あ、あの、やっぱり』
「駄目だよ? やらなきゃボク達が生きていけないんだから……」
『あぅ……あまり痛くしないであげてください』
「分かってるよ」
 そして、森の出口付近まで到達しているレオン達を、木の上から見つめる者が一人。
 笑みを浮かべてレオン達に狙いを定め、その場から消えたのだった……