あの悪夢とも言える戦争の終結から一年余りが過ぎ去った。
まやかしのような戦争は利益らしき物を何も残さず、欧州全土に多くの傷痕を残したまま風のように―――木枯らしのように去っていったのだ。
だが、その木枯らしが人に、国に、与えた傷は大きかった。
かく言う自分もその一人だ。
その頃俺は心底その木枯らしを恨みながらそのまま一生を過ごすだろうと決め付けていた。
だが、そいつは風の様に俺の下にやってきた。
そう。まるで春の絡みつくような風のように、だ。


その日、滅多に開くはずがない俺の部屋のドアが突然開かれた音がした。
「フランツ、軍から人が来てるよ」
姉がぶっきらぼうな声でそう告げる。俺はああ、通してくれ。と適当に返事した。
軍から人が来るなんて、どうせまた傷痍軍人の生活保護金が下がるなんて内容だろう。と俺は予想を張っていた。
だが、予想は大きく外れていた。
「始めまして、ご主人様!」
透き通った女の子の声、それが軍人にどう結びつこうか。俺は唖然とした。


「盲導犬?」
春の日差しが差し込むリビングで、少女は持ってきていた書類やらなんやらを机の上に広げているようだった。
「はい、戦争で失明した兵士さんの目の代わりとお世話をするために軍が一匹ずつ渡してるんです。私はご主人様、フランツ=パッベッヘル上等兵の盲導犬、
エリスと言います。シェパードで年は1歳です」
犬少女―――エリスは先ほど同じトーンの透き通ったで名乗った。
「フランツ、よかったね。こんなかわいい女の子が世話してくれるんだからさ」
姉はくくっ、と笑いながら俺に吹っかけてくる。
「よくない」俺は簡潔に答えた。「大体盲導犬なんて軍用犬の在庫払いだろ。もう戦争は終わったんだ、これ以上軍に付き合わされるのは嫌なんだよ」
俺は立ち上がって白杖を掴み、それを付きながら自分の部屋へと戻っていった。
そうだ。もう軍に付き合うのは御免なんだ。
ドイツ帝国のプライドとやらのために俺は両目の光を失ったのだ。
今更安っぽい偽善を持ち出された所で俺は……
「はい、ご主人様。開きましたよ」
キイ、とドアが開く音と共にエリスの声が聞こえる。
もちろん、俺はドアの前であろう場所に立ち止まり、声の方向に顔を向けた。
「だから俺は軍の偽善には応じ……んっ!」
俺は不意に唇を柔らかい何かに塞がれた。
すん、すんとエリスの鼻を馴らす音が間近に聞こえる。と言う事はおそらくこの何かは…………
そう思った矢先、俺の唇は再び開放された。
「ぷぁ……これでわかりましたか?私は軍用犬じゃなくて、あなたのパートナーです。軍用犬がいきなりキスなんてしないでしょ?」
「……じゃあ盲導犬はするのかよ」
「しますよ。だって……」
エリスは少し照れぎみの声で言う。
「私はご主人様の半身ですもの」
その時、俺は初めてエリスの匂いを嗅いだ。
それは太陽の匂いに近い、かわいらしくて、心地よい匂いだった気がする。
「まあ、いいか……」
こうして、俺とエリスの生活は始まっていった。

エリスが来て3日が経つ。この日俺達はエリスの散歩ついでに配給のために街まで来ていた。
「えへへー、いっぱいおイモ手に入りましたねー」
エリスはジャガイモがいっぱいに入った袋を持ちながら、俺をゆっくりと導く。
「ま、確かに当分食い物には困らないだろうな」
「はい、これなら料理のしがいがあります」
「料理すんのはお前じゃなくて姉貴だろ、お前は喰うだけで」
「ひどいなー、私だってお手伝いしてるんですよー」
エリスはすねた声で言う。鬱陶しいのはたった3日では変わらないが、からかうには最高の相手だ。
「ほら! ご主人様、早く早くぅ!」エリスは急に駆け出し、エリスの首輪から伸びたハンドルの紐がピンと張り詰め、俺がそれに引きずられる。
「ちょ……待てっておい!」
俺は先程までついていた白杖を抱えて、駆け足のエリスに合わせて走り出した。
「ご主人さまぁ、こっちこっちー!」
「こっちこっちじゃねェェェェ」

走り出してから数分は経ち、俺は街灯にもたれかかって荒れきった息を整えていた。
「もー、だらしないですねー」エリスは呆れて手を広げて見せる。
だらしなくて結構。ドイツに帰ってきてから3年、目が見えないせいでまともに走った事なんて一度も無いのだから当たり前だ。
「……帰ったら絶対に飯抜きの刑にしてやる」俺は小声で呟いた。
「やっ! それだけはやめてください! 他に何でもしますから!」刹那エリスが大声で叫んだ。どうやら俺の一人言が聞こえていたようだ。
そう言えば、犬の聴覚はいいんだったっけか。
しかし、喰い意地だけは張ってるな。この犬は。
「本当に何でもします!三日分のお部屋のお掃除でも、その……交b「わーーーっ!わーーーっ!」少し上ずった声でエリスが危ないことを言う前に俺は叫ぶ。
なに公衆の面前で放送禁止用語言ってんだこの犬は!
「わかったわかったわかった! 飯抜きは撤回にしてやる!」
結局、エリスのプライドすら捨てた食い意地の前に俺が折れた。きっと、今ごろエリスは幸福に満ちた顔をしているのだろう。
「やったぁっ!」
やはり幸福に満ちたエリスの声が響く。
「ご主人様、大好きですっ!」エリスがそう言った刹那、俺の体に急に何かがぶつかってくる。途端、太陽によく似た匂いが鼻腔に充満し、
腹部に柔らかい感触が当たる。
そして、何か―――エリスは両手を俺の背中に回し、抱きしめてきた。
全く、鬱陶しいが可愛い犬だ。


その日の夜、俺はエリスに全力疾走させられたせいで疲れたのか、普段より早めにベッドの中に入っていた。
もちろんベッドの中にエリスはいない。彼女はリビングのソファで寝ているだろう。
「あーくそ……筋肉痛だ……死ねよあのバカ犬」そう呟いて俺は目を閉じたのである。

「……ぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
火薬や鉄のそれに刺激臭が混じった、妙な匂い。
遠くから聞こえてくる砲声と、男達の怒号。
そして、両目から失われてゆく光。

この日もアルデンヌの最前線は銃声が鳴り止まなかった。
この時、戦況はイギリスが大規模な増援を送った為、ドイツ軍は目に見えて劣勢に陥っていた。
「紅茶野郎はすっこんでろ!」
クラウスは塹壕から身を乗り出してモーゼルKar.98小銃を構え、撃つ。
モーゼルから放たれた弾丸は真っすぐイギリス兵の体に吸い込まれ、イギリス兵はそのまま倒れた。
「アーメン」俺は小さく呟く。
その横で俺も同じくモーゼル小銃を構え、適当に狙いをつけて撃ち、すぐに身を引く。
弾は敵兵を外したが、あいにく俺は狙撃手でもなければ暗殺者でもなく、当たらなくても別の兵士達がバンバン撃ってくれているのでそれ程困る物ではなかった。
先ほどのクラウスの射撃だって、ほとんど運によるまぐれのような物だ。
この日わが小隊に与えられた任務は、友軍による敵機関銃陣地奪取の援護という楽な物だった。
「さて、さくさく行くか」俺は弾を込め終えると、再び塹壕から身を乗り出した。
そして、再び俺とクラウスは塹壕から身を乗り出してモーゼルを構えて、撃つ。撃ったらすぐに身を引っ込めて弾を装填する。弾が亡くなったら弾を込める。
ひたすらそれを繰り返し、いつのまにか十数分がすぎていった。

「なあ、なんか臭くないか?」モーゼルに弾を込めている中、そう言い出したのはクラウスだ。
「そうか?」俺はすんすんと鼻を鳴らす。確かに、硝煙の匂いに混じって妙な刺激臭がした。
しばらく俺達はその事を考えながらモーゼルに7.92mm弾を込めていたが、やがて俺は弾を込める手を止めた。
「……もしかして、毒ガス……」
そう呟いた時にはもはや遅く、数㎞先に待機していたイギリス軍の毒ガス部隊が撒いたガスは、こちらの陣地に染み渡っていた。
俺は慌ててガスマスクを取ろうとしたが、それはかなわなかった。
目に今まで感じた事も無いような激痛が走ったからだ。
「ああああああああああああああっ!」俺は痛みに目を押さえて、辺りを転げ回る。
「おいフランツ! しっかりしろおい…………くっぅあああああああああ!」クラウスは銃を落として俺に呼びかける。が、彼も目の痛みに俺どころではなくなっているようだ。
塹壕内にいた兵士は俺やクラウスのように目を押さえながら、痛みにうめいていた。
そして、手で押さえられた塹壕の光景。それが俺の最後に見た物だった。

「……はぁ、はぁ、はぁ」いつの間にか俺は起きていたようで、シャツは汗にまみれ、体を動かすと筋肉痛が俺の体を襲った。
「久々に嫌な夢見たな……もっかい寝よ」
この暗黒の世界では、今が何時だかはわからない。少なくとも姉やエリスが起こしに来るまでは朝ないと思い、そのまま俺は布団にもぐりこんだ。
だがあんな夢を見た後ではまともに寝れるわけが無く、数分間俺はベッドに横になったままだった。
しばらくして、キィ。と部屋の扉が開く音が響く。
「ご主人さまぁ……」そう言って入ってきたのはエリスだった。
「どうしたんだ?」俺は小さく呟く。
「怖い夢見て、それで……おねしょ……」エリスは半べそをかきながら声を絞り出す。その時になって、やっと俺はかすかな鼻をつく匂いに気づいた。
「気にするな、よくある事だ……。床は拭いたておいたか?」
「はい……シーツで」
「じゃ、ズボンと下着とシーツを風呂場に置いてこい」
俺の言葉に従い、エリスはのろのろと部屋を出ていき、1,2分ほどして帰ってきた。
「ご主人さま……私、どこで寝たらいいですかぁ?」エリスは俺に訊く。
俺は少し考えて、「このベッド使え」と答えた。
「え、でもご主人様が……」
「俺はソファで寝るからいいよ……」
だがエリスは申し訳が無いようでその場に留まり、少しの間沈黙が走ったが、エリスのこの言葉がその沈黙を破った。
「じゃ、一緒に寝ましょう」
この馬鹿犬め。俺はエリスにそう言ってやった。

怖い夢を見た後だからなのか、エリスは俺の体に寄り添い、腕をぎゅっと握り締めていた。
まだ恐怖が抜け切っていないのか、エリスの体はふるふると震えるている。
今までの背伸びした、少し大人びたエリスはどこへいったのやら。ここにいるのはただのまだまだ幼く可愛い馬鹿犬のエリスだった。
「一体どんな夢見たんだ?話せばちょっと怖く無くなくなるから」
俺の言葉に、エリスは少しづつ口を開いた。
「はい……わたしが海岸にいて、そこにみずびたしの兵隊さんたちのオバケがボートに乗ってきて、逃げようとしても逃げられなくて
それで捕まりそうになった時に……」
その内容はよくある三流ホラー並みであったが、本人にしてみれば死ぬほど怖かったのであろうから突っ込まないでおいた。
そして、俺は咳を払って、エリスに言う。
「実はな、俺も嫌な夢見てたんだ」
「ご主人さまもですか?」
俺はさらに話し続ける。
「嫌な夢だよ、俺の目がつぶれた時の夢。イギリス軍の毒ガスにやられて両目がパー。どうもアレルギー関係もあるらしく、現代科学じゃ対処不能だと。
ま、もしイペリットだったら死んでたから、その分は命拾いかもな」
「……それって、こわいんですか?」エリスは俺に問う。
「まあ、怖いって言うか嫌って言うか……もう二度と見たくは無いけどな」
俺は一息ついて再び寝ようとしたとき、エリスが呟いた。
「……ご主人さま、怖くなくなるおまじない、しましょうか?」
俺は彼女のおまじないが何だかわからないまま、に適当に首を縦に振る。

「じゃ、いきますよ……」エリスがそう言った次の瞬間、エリスの唇に俺の唇が塞がれた。
ほぼ同時に俺の手はエリスの細腕に導かれ、何か柔らかい物に触れる。
俺は強引にエリスの唇を離そうとするが、エリスはどこで覚えたのか舌を駆使して俺の口内を侵攻してゆく。
やがて、ぷぁ、という声と共に俺の唇は解放された。
「ちょっ……! 一体何する気だお前は!」
「怖くなくなるおまじないですよ。交尾してたら怖くなくなるって、むかし先輩の軍用犬に教えてもらったんです」
「いや待て待て待て! お前はよくても俺は……」
「じゃ、いきますね」
「やめろ馬鹿犬こらパンツ脱がすな俺のを掴むな本気でやめろやめてくれ」
急に暴走し出した本能と理性の衝突に、もはや自分でも滅茶苦茶だった。
「ご主人さま、わたしのここも湿ってきたでしょ……」
その言葉と、手に当たる温かく湿った感触に先ほどから自分の手に当たっていた柔らかい物の正体がわかった。
俺はエリスの秘所から手を払おうとしたが、エリスの腕は意外に力があるようでぎゅっと秘所の部分に俺の手を固定している。
「いただきます」刹那、俺のものはぱくりと捕食されてしまう。
その瞬間、俺の中で理性が焼ききれた音がしたように思えた。
「ええい! こうなりゃ!」俺はエリスの秘所に指を突っ込む。その瞬間、「きゃぅんっ」とエリスが口から物を外し、跳ねる。
「い、いきなり入れないでくださいぃ、あむ、ん、ちゅぅ、じゅるる」
「自分からやっといて何言ってんだか、くぅ……」
ちゅぶ、くちゅという卑猥な水音とエリスの嬌声、指に当たるの柔らかな感触、物から流れてくるねっとりとした快感、雌の匂いが俺の感覚器を支配する。
「いやぁ! ごしゅじんさまぁ!ここ、むずむずして……へんです……やぁんっ!」
感じている事もよくわからないまま俺の物を離してよがっているエリスに刺激され、俺は攻撃にスパートを掛ける。
「きゃう!あうう……ひゃんっ! あ、やぁ、むずむず、むずむずで、いや! らめ! あっあっあっあっあっあっあっああああああああああああああああん!」
エリスが大きく叫ぶと同時に彼女の膣は限界まで収縮し、手に大量の愛液がかかる。どうやら絶頂を向かえたようだ。
そして、そのままエリスはくたりと俺の上に倒れこんでしまった。

「ご主人さま、いじわるしないで下さい」
「自分から仕掛けておいて何を言うか」
エリスはすねた声で文句をいいながら俺の男根をしごいていた。
「もう絶対ご主人さまの事犯しちゃいますからね、覚悟しておいて下さいよ」
まあ、一応覚悟だけはしておこうか。
「もういいかな……じゃ、入れますね」
エリスが俺の上に跨り、一気に腰を下ろす。
俺のものに温かく、ぬめった感触が一気に覆い被さる。
「ひゃぅぅぅん!」
「くぁぁっ!」
俺とエリスの喘ぎ声が重なった。
「ぁ、はぅ、いきますよぉ」
そう言うとエリスは膣から俺の肉杭を引き抜く。
俺のものにエリスの肉襞がきゅうきゅうと絡みつき、異常とも言える快感が脳髄に走る。
どうやら膜は切れていたようだが、一応処女だったらしい。
「ひゃぅ、どうですかぁ、気持ちいいでしょ……」
「ああ……くっ! 絡みついて……」
エリスはそのまま跳ねるように腰を動かし始めた。
「ひぁ、く、ぅあ、ぁん、きゃふ、きゃふん、きゃはぁん……」
甘い嬌声が部屋の中に響く。
「いや、また、むずむず、とまんなくなる……」
エリスの膣がヒクつき始める。俺も甘い感覚が脳髄を走り始め、どちらも絶頂が近いらしい。
「エリス、イクって言うんだ……くぅ、出る……」

「ごしゅじんさまっ、いく、えりす、ごしゅじんさまと、いっちゃう……」
そしてエリスは最後の一発とばかりに乱暴に腰をつき降ろす。
「きゃっ、きゃふううううううううううううううううううん!」
その瞬間エリスの膣が快感に耐え切れず一気に収縮し、俺のものもエリスの中に精を放ってしまった。
そのまま俺たちは繋がったままぐったりとしていたが、しばらくして再びエリスは腰を降り始めた。
「いや、ちょっと何してる……」
「見てわからないですか?二回戦目ですよ」
いえ、見えないです。というか二回戦って……
「いきますよー」そう言うとエリスは腰を動かし始めた。
そういや、なんでこうなったんだっけか……
まあ、きっと取るに足らない事だ。それよりも今目の前にある危機から自分を救うほうが先決だろう。
と俺はエリスに必死の抵抗を試みた。

11月、ドイツの片田舎のこの街も秋を向かえていた。
「ご主人さまぁ、こっちこっち」
「あんまり動くなよ、お腹の子にも響くぞ」
エリスは街を歩く大きなお腹のまま僕の手を引いていた。
どうやらあの夜の乱交(結局あの後五発はやって、そのまま俺が気絶した)が原因で子供ができてしまい、
俺とエリスはもはや盲導犬と飼い主以上の関係にあった。
……と言うか、俺はこのまま結婚すべきなのだろうか、そう出ないのだろうか。最近の俺の中の課題はそれであった。
……やはりここは……
「わっ」
「きゃっ」
ドン、と音を立てて俺は誰かと衝突する。
この声からしてきっと女の子だろう。
「あ、すいません」どうやら女の子の父親らしい男が誤る。「ほら、アリスも」
「ごめんなさい」と、女の子も謝った。
そして、親子連れは遠のいていった。

「もう、アリスの勝手に一人で突っ走っちゃうとことか誰に似たのかしら」
「……絶対お前の血だよ。ステフ」
「でも私達の結婚式場の予定地ってどこ?」
「こっちのほうだと思うんだけどなぁ……この店がここだから」

「可愛い親子でしたね、ご主人さま」
「お前もああいうのあこがれるのか?」
エリスは最上級のはずんだ声で「はい!」と答えた。
「本当にこの馬鹿犬め」
もう二度と逃げられなくなったじゃないか。