とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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匿名ユーザー

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第2章   破滅への使者  Heimdall


ドドドドドガガガキキキキキキ!!と、建物に銃声と弾丸が壁を抉る音が木霊する。
第十七学区のとある廃工場で銃撃戦が行われていた。
その銃撃の中心にいる男は服部半蔵。『スキルアウト』のリーダーだ。もっとも、その肩書きは代理でしかなく、現在はある男の復帰を待っている。
半蔵は先月、郭という少女から『原石』のリストと思われるレポートを奪取している。普通であれば気にも留めない事なのだが、仲間である郭が関わっているという事でどうにも放っておけない状況になっていた。
この一ヶ月、色々と情報収集をしたが目ぼしい成果を挙げる事ができず、苦肉の策として学園都市に「『原石』の在り処を知っている」という旨の手紙を送りつけカマをかけてみたのだ。

(やっぱり学園都市の連中が画策してやがったか。おおよそ見当はついていたが、これで確定だな。とりあえず今はこの状況を脱する事だが―――)
カンッ、と空き缶を投げたような音がしてハッとして横を見る。そこには拳大の手榴弾があり、
(やべっ!!)
ドゴォ!!という爆発音と共に半蔵の思考が吹き飛ぶ。だが半蔵の動きは止まらない。爆発の瞬間、とっさに近くにあった風力発電のプロペラの支柱に隠れ難を逃れていた。
しかし追撃は続く。
今度は風力発電のプロペラと水道管のパイプがひとりでに動きだし、半蔵に目がけて猛スピードで向かってくる。
(念動力!?奴ら、能力者までいるのかよ!!?)
半蔵はギョっとするが、考えている暇はない。銃撃だけでも手いっぱいなのに、能力まで交えられたらとてもではないが交わしきれない。
半蔵の獲物は自身で改良を加えた三点バーストと打ち根の二つ。
射程の短い打ち根は論外。三点バーストも換えの弾を入れても十数発。しかも、ただでさえ照準の難しい三点バーストを走りながら扱うというのは半蔵には厳しい。撃ち合うという選択肢はなかった。
(とにかく逃げるしかねえ。幸いここは工場だ。遮蔽物に隠れて奴らの視界から消える事ができればそれでいい)
半蔵は忍者の末裔である。元来、物陰に隠れ敵を一撃必殺で仕留めるのが彼らのセオリーである為、こういった逃亡で敵を撒くのもまた彼の領分であった。
(―――!こいつら!!)
しかし追っ手は半蔵を正確に追跡してくる。いくら閉鎖された工場とは言っても今は昼だ。所々に差し込んだ光が彼の影を生み出してしまう。それでも半蔵はその独特の移動法で影すらも利用し追っ手を幻惑しているのだが、効果は芳しくない。
(間違いない。あの装備といい、能力者といい、何よりこの動き。全てが『警備員』や『風紀委員』とは違う!)
バッキイィィ!!!という爆音と共に念動力で高速回転していたプロペラが工場の支柱にぶつかり大破した。その破片のいくつかが半蔵に当たり、額からは血が流れてくる。一瞬怯んだが、それでも半蔵は走り続ける。
(くそっ!このままじゃジリ貧だ。何とか突破口を見つけないと蜂の巣だ…!)


半蔵は左へと視線を向ける。
この廃工場には地下室がある。もっとも、その地下室は元々あったわけではなく、彼ら『スキルアウト』が緊急時に隠れる為の空間だった。
おそらく学園都市の追っ手の連中はこの地下室の存在を知らない。そこに逃げ込めば簡単に敵を撒く事ができるが、こうも正確に追跡されると地下室には逃げ込めない。今の状況で逃げ込めば確実に袋小路だ。
(何か注意を引けるものがあればいいんだが…)
半蔵はあたりはぐるっと見渡す。巨大クレーンにベルトコンベアー、変圧器と完成品を運ぶ為の大型トラックが放置されている。
(どれもこれも…使えねえ!!)
半蔵は歯噛みする。次第に焦燥感が出てくる。そしてその焦りは一つのミスを誘った。
行き止まり。
平凡なミスだった。工場の地形は頭に入っていたが、予想外の追撃などで冷静さを失っていた半蔵は逃走ルートを間違えてしまっていた。
(ちっ!情けねえ!)
逃げ場を失った半蔵を十人弱の追っ手が包囲する。ある者は銃を、ある者は刃物を、ある物は能力使用の為か独特の構えをしている者もいる。
逃げられないと悟った半蔵は覚悟を決めたのか、狙いの定まらない三点バーストの引き金に指をかけ銃を構えようとした。その時―――。


『半蔵様!右へ!!』


どこからか、いきなり叫び声が聞こえた。
半蔵はわけもわからず反射的に右へ飛ぶ。
すると半蔵が飛んだ先の床がサッと、まるで襖を開けたように開いた。
「は?」
あまりにもお約束的な事態に、状況に合わぬ間抜けな声を出してしまう。しかし、気付いた時には半蔵はその穴に落下を始めていた。

「あああああああああああああああああああああ!!!????」

思いっきり落とし穴に落ちていく半蔵。落下中に穴が閉じていくのを確認すると後はもう暗闇を落ち続けるだけだった。



「え、えぇ…っと…」

とある一室。少女の困惑した声が響いていた。
とりあえず中に入れば?という土御門の言葉で上条宅にお邪魔した五和。
土御門がいたのも充分驚きだったのだが、何より綺麗な黒髪の少女の存在が彼女の思考の全てを支配していた。
(あの人誰なんでしょう?見たところ日本人のようですけど…。制服を着ているところを見ると上条さんのご学友といったところなんでしょうか…)
頭の中で現在分かっている状況から推理する五和。ハタから見ればリビングでボーっと立ち尽くしているようにしか見えない。
「そこ。とりあえず座るといい」
すると、そんな五和を見かねた姫神はどこから出したのか、座布団を一枚持ってくるとそこに座るように促す。
「あ、ありがとうございます!」
申し訳無さそうにいそいそと座る五和。この時点では五和が一方的に空回りし、姫神が冷静に歩を進めているという感じだ。
彼女達のやりとりが一段落したのを確認すると今度は土御門が口を開く。
「で、いきなりカミやん家に押しかけてどうしたんだにゃー?」
土御門は敢えて五和の名を言わなかった。それはこの状況を考えて彼が判断した事なのだが、
「あぁ、その件ですね。実はイギリス清きょ―――」
「思い出したぜい。借りてたDVDを返しにきたんだにゃー」
土御門は状況が全くわかっていなかった天然少女の言葉を遮る。
この場には姫神秋沙がいる。彼女は間接的ではあるが、一応イギリス清教の保護を受けている形になっている。しかし彼女は魔術師ではない。普通の人間は魔術世界に首を突っ込むべきではないのだ。
この状況でイギリス清教とか『必要悪の教会』とか言えば姫神に余計な詮索をされる可能性も有り得る。土御門はもう二度と姫神に魔術世界に足を踏み入れないで欲しかった。
そんな土御門の想いを知る由もない五和は何が何だかわからない事態に?マークを作っている。
「(とりあえず、この場でその話はまずいにゃー。姫神がいなくなるまでその話はストップだぜい)」
「(はぁ…。わかりました)」
土御門は小声で最低限の説明をすると、五和は「彼女は姫神さんと言うのか…」と何やら頷いている。
姫神はコソコソしている二人を不審に思ったが、特に問い詰めたりはしなかった。
そんなこんなで、ひとまずの静寂が訪れる。が――、

ピリリリリリ!、とデフォルト設定の携帯電話の着信音がその静寂を切り裂く。
姫神はその着信音が自分の携帯だとわかると、二つ折りの携帯電話を開きディスプレイを見る。一瞬、ほんの一瞬姫神の動きが止まったがすぐに通話ボタンを押した。
『姫神か?悪いんだけど今から下の公園に来てくれ』
その声は聞き慣れた声なのにどこか緊張を誘う。だが心地良い不思議な声。
「わかった」
姫神は一言だけ返すと電話は切れてしまう。時間にしてほんの数秒。にも関わらず得体の知れない疲労感が姫神を襲う。しかし悪くない感覚だ。
「ごめん。ちょっと出なきゃいけない」
姫神はそう言うと立ち上がる。
土御門が「留守は任せるにゃー」と敬礼のジャスチャーすると姫神は早歩きで部屋から出て行った。


「カミやんもいいタイミングだぜい」
「え?」
「いや、何でもないにゃー」
やっぱり何もわかっていない五和。しかしそんな五和を無視し、土御門はトーンを下げた声で話を切り出す。

「何があった?」
五和は土御門の低い声が「ここからは魔術師の会話だ」という意図を汲み取ると表情を引き締める。
「はい。実は―――」



ツンツン頭の少年はとある公園のベンチに座っていた。
今日は授業が休みで一端覧祭の準備も吹寄から逃げ切り、白シスターは「学園祭って言えばわたあめなんだよね!そんなわけでこもえの所に行ってくるー!」と三毛猫を連れて行ってしまった。
そんなこんなで晴れてプチ秋休みが出来たので姫神への埋め合わせと思い、彼女を誘ったのだが…。

「あー…なんだってこんな事になってるんだよ…」
少年の隣にはある少女がいる。茶髪を花柄のヘアピンで留めた少女。常盤台中学のエース・御坂美琴だ。
上条がジュースを買おうと自販機に向かったら例によってバッタリと会い、例によって美琴の逆鱗に触れ電撃を食らう…という顛末があったばかりだ。
「つーか、お前…学校はどうしたんだよ?」
「今日は自主休日!」
「なんだそりゃ…さっきの自販機の事といいお前不良少女の道まっしぐらじゃねえか。一時は改善の兆しがあったのに」
美琴は何やら変に不機嫌なのだが上条にはその理由がわからない。
「そんな事より…さっき電話で誰呼んだの?」
「あ?クラスメイトだよ。今日は元々そいつと約束してたわけだからな」
「……………」
美琴はしばし考える。
こいつのクラスメイトってほとんど女しかいない気がする。確か男で変なのが2名ほどいたような気がするけど、今日の相手は絶対そいつらじゃない。
全く根拠のない話なのだが、美琴の女としての本能がそう言っている。
「そういうわけだからさ。今日はお前に構ってる時間がないんだけど―――」

「女ね」

「は?」
美琴は矢を射るように上条の言葉を遮り、上条はそんな美琴の言葉に固まってしまう。
「女なのね?」
「えっと…」
「正直に言いなさい。お姉さん怒らないから」
「絶対怒る!てゆうかもう怒ってる!!何そのバチバチ!!てゆーかそもそもお前年下じゃ―――」
「また女かああああああああああ!!!!!!!!!」
「あーーーー!!?ミコトさんがキレたーーー!!最近ちょっと優しかったのにーーー!!!!」

「お・ま・え・の・せ・い・だっ・つー・の!!!」

電撃使いの少女は久しぶりにフルパワーで少年を撃った。
何やら右手で防ぎきれなかった電撃が体に回ったのか、上条は倒れてピクピクしているが「天罰よ!」とキツイ一言を投げて美琴は学校へ向かっていった。

その後、姫神が上条との待ち合わせ場所に着いた時には「不幸だ…」といううわ言を言いながら地面に転がっている高校生がいたとかいないとか。



駅のホームの隅にあるベンチに1人の男が座っていた。
別に電車に乗るためではない。彼は人混みを避ける必要があった。
(やはりな…さっきからチョロチョロとしている奴らがいなくなりやがった)
彼は尾行されていた。
雲川と別れ、高校を出た途端、尾行され始めた事に気付いた。
裏路地を選ばなかったのは、一端覧祭の準備をしている学生が近道として何人か通っていたからだ。下手に巻き込んで勝手に死なれても困るし、何より彼の美学に反する。
(あーあ。やっぱこういう馬鹿騒ぎは嫌いだわ)
彼がそんな事を思いながら毒づき天を仰ぐと、ふと横合いから声がかかってきた。
「あの…すみません。垣根帝督さんですか?」
「あん?」
垣根は訝しげに声のした方に視線を向ける。
声の主は男。年齢は16か17だろうか。学生服のボタンを全開にしているが、その風貌は何故か真面目そうにも見える。耳と眉にかかる程度の黒髪はパーマをかけているのか微妙にウェーブしている。
(こいつ…ほとんど気配もなく現れたが…)
垣根は気配を感じさせずに近づいてきたこの男を怪しんだが、それ以上に不可解な点がある。
「なぜ俺の名を知っている?」
垣根は表向きでは死んだはずだ。当然、この世に存在しているはずがないし、そもそも垣根の顔と名前を知る者は『表』の世界にはほとんどいないはずだ。という事は…、
「失礼しました。私、特久池栄光(とくちえいこう)と申します。実はあなたにご用命がありまして―――」
しかし少年の言葉は最後まで続かなかった。

ガンッ、ガンッ、ドンッ!と銃声と小型ミサイルを撃ち込んだような爆音が響いたからだ。
突然の銃撃に、辺りの人間が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
「ふん、さっきのネズミどもか。どうやらコソコソと尾け回すのはやめて正面から潰しにかかってきたわけか。上等だ。試運転には丁度いい」
垣根は攻撃を交わしつつ歪な笑顔を見せる。義手になってから戦闘で能力を使った事がなかったので、いいテストになると思っていた。が――
「待って下さい。こんな所であなたが能力を解放すれば辺り一面が吹き飛んでしまいます。ここは私に任せて下さい」
特久池はあわてて割り込む。
既に吹き飛びかけてるだろ、と垣根は言おうとしたがその声は発せられなかった。
特久池が垣根の肩を掴むと2人はこの場から消え去ってしまったからだ。


垣根と特久池は廃ビルの一室にいた。先ほどの位置から200メートルほど離れている。
「へー、お前『空間移動能力者』だったのか。しかもこの移動性能を考えるとレベル4…限りなくレベル5に近いな」
垣根は感心したのか特久池の能力を評価している。
「…。とりあえずここならしばらくは大丈夫でしょう。あんな所でやり合っては確実に関係ない方まで死んでしまいますからね。垣根さんもそれは本望ではないでしょう?」
その言葉に垣根は適当に頷くと、
「で、お前は何者なんだ?どうして俺を助けた?そもそも何故俺は襲われてんだ?」
特久池は薄笑いを浮かべて答える。
「それなら順を追って話した方がいいでしょうね。なあに、いつも通り『上』の連中がまたロクでもない事をしようとしているんですよ」



土御門は険しい表情になっていた。原因は天草式の少女・五和の話だ。
五和の話はこうだ。
ロシアのある魔術結社が、ある特定の条件の下、人間をかき集めている事。
それに伴い、ロシア成教がその魔術結社の殲滅にあたっている事。
それとは別にロシア政府が再び『実験』と呼ばれるものを再開しようとしている事。
これだけでも充分に怪しいのだが、土御門が気にかけている事はそこではない。


とある地域から、瞬間的ではあるものの『天使長』クラスと思われる魔力が感知された事。


魔術に携わる者であれば、この事態の深刻さは言葉にするまでもない。
これがロシアの件とどのような繋がりがあるかはわからないが、世界を揺るがす程の何かが起ころうとしているのは確かだ。

「で、『必要悪の教会』はどう動くんだ?」
「ロシアの件に関してはとりあえず静観するようです。ただちょっと気になる事があって…」
五和は一度言葉を切り、ここが重要だと言わんばかりに土御門の目を見て、
「件の膨大な魔力が学園都市に近づいているんです」
「何だと?」
「遠回りしながらではあるんですけどね。これに関してはイギリス清教も放ってはおけない…という事で私が派遣されてきたんですよ」
五和の話を聞き、土御門は右手を顎に添えて少し考える。
一体、それほどの魔力を誰が行使しているのか。一応、心当たりがないわけではないが、その可能性は先日『幻想殺し』の少年がゼロにしたばかりだ。
あらゆる可能性を検索しようとするが、頭の中にそれに該当するようなデータは見当たらない。
土御門は少し歯噛みした。そんな土御門の様子を見ていた五和が、
「わ、私なんかじゃ頼りないですよね…。そうですよね、女教皇様が来て下さった方がいいに決まってますよね…」
途端に小さくなっていく五和。そんな彼女を見て土御門が慌ててフォローを入れる。
「いんや、そんな事はないにゃー。聖人を退けた魔術師がいるのなら鬼に金棒だぜい」
「そ、そうですか…?」
うんうん、と頷いてとりあえず五和の病みモードを回避する。
五和は気を取り直して、少し大きめな胸の前で両手を組み、
「でも今回はバックアップも来ますよ。確かステイルさんとシェリーさんだったかな…。アックアの時よりは準備は格段にいいはずですよ」

天草式十字凄教、改め新生天草式十字凄教はイギリス清教の傘下にある組織だ。それは今も変わらない。
しかし、天草式には『聖人崩し』というジョーカーがある。その威力は魔術世界で五指に入るであろう「後方のアックア」を撃破した程だ。
そして、トップに君臨するのは世界に二十人といない聖人の一人である神裂火織。
普通の魔術師はおろか、聖人さえも打ち倒す組織。それが新生天草式十字凄教である。
その戦力は『必要悪の教会』をも凌ぐ。『騎士派』が再建状態にある現状ではイギリス清教最強の戦闘組織という事になる。『王室派』の切り札であるカーテナもほとんど機能しないので『王室派』は実質丸腰になっている。
その為、以前のようにトカゲの尻尾切りという扱いにはできないというわけだ。
もし、天草式がイギリス清教への待遇に不満を持ちクーデターでも起こしてしまえばそれこそ本当に国家転覆が起こってしまう。(当然、神裂を始めとした天草式の面々にそんな思いは微塵もないが)
イギリス清教に属してはいるが、事実上『第四勢力』というのが魔術世界における今の新生天草式十字凄教の位置づけだ。

「とりあえず大まかな事情はわかった。俺はこれから色々と動かなきゃならないが五和はどうするんだ?」
「そうでした!私、上条さんにお話があったんだ!!」
五和はオロオロとしている。土御門はそんな彼女を見ておどけた顔で、
「たぶんまだ下の公園にいると思うぜい」
「わかりました!ありがとうございます!」
早口でそう言うと五和はあっという間に部屋から出て行った。


誰もいなくなった部屋で土御門はもう一回冷静になって考える。
魔術世界で桁外れの強さを持った者は何人か知っている。しかし、その猛者達が『天使長』にまで達しているかと問われればそんな事はない。
器が人間である限り、『天使』の力を行使する事など有り得ないはずだ。
だが、それが人間でなく『神にも等しい存在』だとしたら。

「まさか……」
土御門は脳裏に浮かんだ人物を即座に否定しようとするが、考えれば考えるほど合点がいく。
「クソッ…」
忌々しげに舌打ちすると部屋を出る。とんでもない事になった。と、戦慄しながら。



とある研究所が所々炎上している。
生体認証を始めとした九つのセキュリティを誇るエントランスゲートはバラバラにされ、警備していた者の手足にはコルク抜きが突き刺さっている。
スクランブルにでもなったのか、赤いランプと甲高いサイレンが鳴らされ、最新機械兵器の試作品らしきものが所内を徘徊している。
それらのセキュリティ全てを突破した2人は『管理部長室』という部屋にいた。

「まったく…何も殺さなくてもよかったんじゃないの?」
結標は呆れたように話す。
「しかし、万一逃げられでもしたら面倒ですし。それにこういった類の人間はすぐに沸いて出てきますからね。一人くらい消したところでどうもしませんよ」
対して海原はあっけらかんと返答する。
2人のすぐそばには、この部屋の管理者らしき男が心臓を打ち抜かれて転がっていた。
海原は男の白衣のポケットからUSBメモリを取り出す。
「持っているのはこれだけですか…。目当てのものと一致すればいいですが」
海原は言いながら結標にUSBメモリを手渡し、パソコンを含めたセキュリティの解除を頼む。
「それにしても、ここは何の研究所なんです?」
「『原石』よ。超秘密裏に行われてる研究みたいだから表向きには地図にも表記されてないみたいだけど」
結標はパソコンのセキュリティを解除し、手際よくUSBメモリのロックも解除していく。
「そもそも何の為に『原石』の研究をしていたんでしょうかね?」
「そればっかりは私にもね…。ただ、『原石』というのは私達とは全く別物なのよ。私達が研磨されたサファイアやルビーなら、彼らは稀に発掘される天然モノのダイアモンドと言ったところかしら」
「開発されずに発現する能力…つまり先天的に能力を有する者の仕組みを解明したかったというわけですか」
「先天的というのはちょっと違うわね。彼らは自然界である偶発的な要因が重なって発現するの。生まれた瞬間から能力を有しているわけではないわ」
結標は画面に出た警告文にも目もくれずにセキュリティ解除を進めていく。
「それに一口に能力と言っても私達みたいな一般的な能力とは全くベクトルが違うらしいわ。能力が特異すぎて超能力というカテゴリに分類していいのかすらわからないケースもあるらしいわよ」
らしい、という言葉をつけるという事は結標もそれ以上の詳しい事はわからないのだろう。
(学園都市の闇はまだまだ深いという事ですか…)
何やら一人物思いに耽っている海原を無視し、結標は話を続ける。
「やはり情報通り、ここに『残骸』の一部が運び込まれているわね」
セキュリティ解除の最中に拾ったのだろうか、ディスプレイの右下に新たなウィンドウが表示されている。そのウィンドウを見ながら結標は薄い笑いを浮かべる。
「やはり連中は別ルートで回収していたという訳ですか」
「どうやら『アイテム』が暗躍していたのは間違いないみたいね。当たりにしろ、外れにしろ重要な機密事項なのには変わりないと思うけど…」
海原は辺りをぐるっと見渡し、
「どうやら仰々しい情報が扱われているようですが、その割には警備がお粗末すぎませんか?これじゃどうぞ力づくで奪い取って下さいと言っているようなものですよ」
「別に面倒事がないのなら、それに越した事はないでしょ?…!出たわ」
結標が全てのロックを解除すると、画面には一つの文書データが出ていた。
「何かの実験データのようですね」
「大方、『原石』のものなんでしょうけど。それにしても凄いわ。能力開発のデータなんでしょうけど、全ての数値が通常とはかけ離れているわ」
結標は半ば感心しながら画面を下方向にスクロールさせていく。そして彼女の手が不意に止まる。そこにはこんな言葉が表示されていた。


『人造神界計画』―――被験者 『門番』 特久池栄光

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