「あれ、有希姉……読書じゃなくてインターネットしてるのは珍しいですね」
「この本に使用されていた表現で一つ理解不能なものがあった。その意味を調べている」
「有希姉が言葉を分からないのも珍しいですね。で、どんな言葉なんですか?」
これ、と有希が差し出した分厚い本。そこに不自然なくらいの直線でマークされた単語
『ツボにはまる』
「うーん、表現が難しいですけど……こう、大して面白くないことなのに笑いが止まらない、みたいな」
「私は笑いと言う感情もはっきりとは理解できていない。……そんな私にはこの単語の概念は理解できない」
いつもどおり無表情な有希だが、その表情にはどこか淋しさがにじんでるようにルリは感じた。
「まぁ、そう落ち込まないで下さい。ホットミルクでも入れてあげますから」
「砂糖は多目で」
「ただいま」
「おかえりなさいレイね……って、どうしたんですか顔!?」
その顔の中心をはしるように赤いラインが走ってた。
「帰りにぼーっとしてたら電柱にぶつかっていたの」
「全く……微妙に面白い顔になっちゃってますよ。とりあえず冷やした方が……」
ブピ
「……なんですか今の音」
振り向くと全く無表情でホットミルクを毒霧状態にしてPCに攻撃を仕掛けている次女。
「ちょっ!何してるんですか!」
「原因不明。姉ケホッ…さんのユニークな顔をケホッ…見た途端に飲み物を吐き出したくなる衝動をケホッ…こらえきれなくなった」
そういいながらもう一口ホットミルクを口に付け
「まったく、有希はおてんばさんね」
突如有希の前に現れたレイ(ユニーク顔)に再び毒霧。
「ゲホッ!ゲホッ!」
「有希、ひどいわ…」
「有希姉、たぶんそれが『ツボにはまる』ですよ」