※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

仮面舞踏会 ファルセア・マックロイレポート

 その日、私は極めて上機嫌だった。
 と、言うのも、ブリテンに在住するマックール家の友人より珍しい贈り物が届いたからだ。
 なんでも彼の所有する土地から酒蔵が発掘されたそうで、生きている樽が幾つかあったらしい。
 そのうちの一つがブレンデッドアイリッシュウィスキの名品、ミドルトン・ヴェリーレアの樽であり、それをビンに封入し、私へと贈ってくれたのだ。
 私はサロン.ドルファンの一室にそれを持ち込み、一人静かに頂いていた。
 マックールの深い友情と、あまりの美味さに少々飲みすぎてしまったのだが、これがそもそもの間違いであった。
 うかつな事に、本丸であるサロン・ドルファンが襲われるなどとは夢にも考えていなかった事をここに告白したい。
 事実、サロン・ドルファンに三人の殺戮者が現れた時に、私は(紳士として恥ずべき事だが)前後不覚な状態にあった。
 襲撃者はマスクを被った真教の”サジタリウス”とその他2名であり、当時サロンにいた者では歯が立たず、一方的な虐殺となった。
 そして我が君、アルドラ・ドルファン大公もサジタリウスにより怪我を負わされる事態となった。その間、私は戦う前からすでに倒れており、みすみすこの事態を看過することとなった。

 後日、我が君より「さすがは”裏切りの騎士”、見事に期待を裏切ってくれましたわね」との言葉を賜った。
 私は我が家系に賜りし”裏切りの騎士”という二つ名に誇りを持っている。しかし、断じてこの様に期待を裏切るから、という意味でではない。
 己が身からでた錆とはいえ、この恥はそそがねばなるまい。
 我が君はまた、マスクも所望なされた。
 マスクは古来より伝わる力の源。我が君が望む理由もわからぬではないが、あまり気は進まない。我が君の美しき顔を隠す価値のあるものなのだろうか?
 しかし、我が君が望む以上は出来うる限り最大の努力を払うべきだろう。

 私は早速、”サジタリウス”を討ち、マスクを献上するために情報収集を開始した。
 つてを介し、退魔師である葛城氏と酒場で面会し、"サジタリウス”とマスクについて幾つかの事項を確認した。どうやら真の脅威は”サジタリウス”よりもマスクであるようだ。葛城氏によるとマスクに関しては、かの”アデプタス・フェイタス”氏が詳細な調査を行っている、との事だった。

 アート.オブ.ウォーの一節にこうある。
 敵を知り己を知れば百戦あやしからずや。

 私はさらにマスクの情報を得るべく、アデプタス・フェイタス氏より助言を頂くべく、彼の邸宅へと向かった。
 フェイタス邸では、目的を同じくするMr.左馬助、Mr.エレク、Ms.神風と席を同じくする事となった。

 余談だが、Ms.神風やフェイタス氏は子供を育てていた。
 いずれも利発そうお嬢さん方で、将来がとても楽しみだ。
 人は子を生み育て、またその子はいつか子を産み、そして育てる。
 伴侶の無い我が身には無縁な事なれど、それでもそれは素晴らしい事だと思う。

閑話休題。

 フェイタス氏の息女も落ち着いたところで、彼は我々にマスクについて色々と教えてくれた。曰く、ホープのダイヤ等と同じように持ち主には力をもたらすがそれとは別に不幸をもたらす存在である、との事。力に酔った”サジタリウス”がその力に振り回されるのもさもありなん、といったところか。
 やはり警戒すべきはマスクだが、その使用者である”サジタリウス”も侮れない。
 これらを踏まえた上で、Mr.エレクがウェブからのアクセスで”サジタリウス”達の居場所を突き止めた。どうやら次なる標的を伊達家と定め、突き進んでいるらしい。

 早速我々は”サジタリウス”の元へと向かった。
 そこではブラックハウンドの隊員によって築かれた屍山血河があり、その中をで先行したMis.神風と”サジタリウス"と一人の少年とが戦っていた。
 後から現れた2体のケット・シーも交え、我々は戦いに参加した。

 Mr.左馬助は、一足飛びに”サジタリウス”の元へと向かった。彼の背後を守るためにも、私はまず少年と刃を交えた。と、いっても、私は銃とその姿を変えた”カラドボルグ”、少年は無手であったのでこの表現が正しいかどうかはわからない。
 それはともかく、私はカラドボルグを手に、少年の懐に飛び込んだ。本来銃の戦い型とはアウトレンジよりの射撃を旨とするべきだが、私は違う。肌をすり合わす様な接近戦こそが真骨頂だ。
 私は思考を5分割し、並列に分析シミュレートを開始した。
 戦いとはチェスの様なものだ。
 敵の手を読み、その手以上の策をもって打ち破りキングを討ち果たす。
 格闘戦においてはキングが命であり、策は格闘術等にすりかわるに過ぎない。
 つまり近接戦においても読みきった方が勝つ。
 カラドボルグを構え、少年のスタンス、構え、呼吸を分析する。彼は武器を使わない。それは以前のサロンの襲撃で見ていた。
 並列で行ったシミュレートの結果を掛け合わせ、導き出した最適解に従って身体を運用する。成功確立は99.9723%、勝利を確信し少年の間合いに入り込む。重心位置、呼吸からタイミングがおくれると予想できる左方から彼の間合いを潰す…つもりだったが、私の攻撃よりも彼の反応の方が速かった。カウンタースキル、誤差確立0.1%以下に少年は入った。彼の右拳は比類なき正確さで私の心臓を打ち
ぬいた。成る程、さすがは真教の退魔師、私の計算はまだ甘かったか。私は身体が崩壊するよりも早く、アストラルサイドより再構築を行った。再度分割思考でシミュレートを開始する。二度同じ手は通用しない。再び彼の間合いに侵入し、彼のカウンターを読み切った上で心臓に銃弾を撃ち込んだ。少年は絶命した。

 視線をめぐらすと、Mr.左馬助が圧倒的な破壊力で”サジタリウス”に攻め込んでいたが、攻め切れていなかった。成る程、マスクの加護か。
 ”サジタリウス”を討ち果たすべく、私はその懐へと飛び込んだ。
 ”サジタリウス”が撃つよりも速く討つ。それこそが私の流儀だ。
 しかし、”サジタリウス”はここで神速のクイックドロウを見せた。
 速いだけではない、正確だ。この攻撃のシミュレートを瞬時に行う。5つの分割思考のうち4つがほぼ同時に100%の死を予測する。残りの一つが計算していたのは外的要因による生存確率、平たく言えば神頼みだ。もっとも、私は神には縁遠い位置にいる。死が免れぬのならば、相討ちに持っていかねばならない。
 外的要因を演算し続ける5番目の分割思考をシャットダウン、死を導き出した1~4番目までの思考をリセットし、相討ちの為の演算を開始する。開始しようとしたが”サジタリウス”の放った弾丸が私を貫く前に消失したので再び分割思考をクリアする。”サジタリウス”の弾丸はいかなる術か、上空のMs.神風の術で消失した。神ではなく、Ms.神風に感謝し、私は再び”サジタリウス”との格闘戦の演算を開始した。Mr.左馬助が斬撃を叩き込む。マスクが加護を与え、”サジタリウス”が攻撃をかわす。成る程。これで演算が成立した。さらにMr.エレクが”サジタリウス”の神魔銃を破壊する。素晴らしい。分割思考のシミュレート結果を統合し、あとはその通りに身体を運用する。Mr.左馬助の大きな身体を利用し、あえてわかるように”サジタリウス”の死角へとまわる。近距離でカラドボルグを抜き放つ動作。反応し、”サジタリウス”は私よりも速く私に照準を合わせた。これで勝率100%。そうだ、クイックドロウの勝負なら”サジタリウス”、貴公の勝利だ。しかしこれはクイックドロウの勝負ではなく、最後に立っていたものが勝利者となる闘争だ。私は”サジタリウス”が引き金を引くのを見ながら一歩踏み込みカラドボルグを跳ね上げた。キンッと金属音が響き、続いて銃声。私はカラドボルグの背で”サジタリウス”の銃把を叩き上げた。ただそれだけだ。”サジタリウス”の銃は私の一撃で弾き飛ばされ、勢いに流されたた彼の身体は開き、カラドボルグが彼の心臓を捉えた。チェックメイトだ。迷う事無く引き金を引き、心臓を打ち抜いた。”サジタリウス”は絶命した。

 私は分割思考を全て閉塞し、通常状態へと戻した。正直、分割思考は効率的であるが、精神的疲弊が大きい。
 しかし、そこに隙があったのだろう。
 二匹のケット・シーが「ゲットだにゃ」などと言いながらマスクを持ち去ってしまった。
 ぬかった…が、しかし、これはこれで良かったのだろう。
 手に入る可能性がある以上、私は全力をもってあのマスクを奪う必要があった。
 しかし、ここに居合わせたMr.左馬助、Mr.エレク、Ms.神風のいずれとも争いたくはなかったのだから。


 ガシャン、と澄んだ破壊音が響き渡った。
「まったくこの役立たず!」
 我が君は怒りに肩を震わせ、私に叱責と共にワイングラスを賜れた。
 もっともワイングラスはロマネコンティ込みで投擲されたので、私は額で受け取る事となったのだが。
「わたくしがお前に命じたのは”サジタリウス”の討伐とマスクの回収だったはずです。確かに”サジタリウス”は討ち果たした様ですが、マスクがなくては片手落ちも甚だしい!」
 我が君は激昂しながら、なおもロマネコンティが注がれたワインを次々と私に下賜された。
 シャワーとしては上等だが、これはいささか勿体がない。
「恐れながら、我が君」
 弁明は好むところではないが、私は口を開いた。
 もっとも弁明と言っても思ったことを正直に口にするだけの事だ。
「マスクは確かに強力なアーティファクトかもしれませんが、それによって我が君の顔が隠れるのはいささかもったいのうございます。それ故私には不要に思えましたが」
 私は弁明を終えると、頭を垂れた。
 あとは我が君の裁定を待つのみである。
 果たして、それ以上の叱責の声は私には届かなかった。
「まぁ、それもそうですわね。もうよろしい、さがりなさい」
 やや上機嫌そうな我が君のお言葉である。
 私は一礼し、我が君の御前から退いた。

 恥をそそぎ、我が君より許しを得た私は実に機嫌が良かった。
 この様に良い夜には、アイリッシュウィスキーがよく似合う。
 サロンの一室で、私は残されたミドルトン・ヴェリーレアを傾ける事にした。
 まぁ、少々控えめに、だがね。
 何事も過ぎたるは及ばざるが如し、だな。