シナリオレポート-“雷刃”顎 星都物語

強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない。

俺が白き狼にいた時に石鎚さんって人から教えてもらった言葉だ。
俺はその言葉を現実にするために、白き狼から抜けて、フリーの退魔士なった。
だけど現実はそんな甘くなかった。
ストリートではそんなに優しくなれないし、その優しさを実践するほど、俺は強くなかった。

ストリートで優しさをみせれば、喰らいつかれる。
それが嫌なら喰らうしかない。

そこまで非情になれず、かといって優しくもなれずに俺はヤケになっていた。
そうだよ、ストリートで日銭を稼いでおもしろおかしく生きればいいじゃんか。

そんなヘタレな俺に、本当の強さを教えてくれたのがカナリアだった。
カナリアはなんでも、強力なアヤカシに捕らえられて奴隷にされていたらしい。
そこで何年も何十年も捕らえられていたら、誰でも希望なんか持てなくなるよな。

だけどカナリアは負けなかった。アヤカシの下から逃げ出し、自由になった。そして今はノクターンで歌ってる。

俺はカナリアのおかげで、自分が何をすべきなのかがわかった。
カナリアのような不幸な人間を出さないため、守るためにこの力を振るおう。
だから、退魔でメシを喰うのはやめた。

今は肉体労働で稼いで、ノクターンにランチを食べにくるのが日課になってる。


今日もいつもと変わらず、親方に怒鳴りつけられながらも順調に仕事は進んで、昼になり、いつもと同じにノクターンに来た。
今日のランチはなんだろな…っと、思ったら、大盛況のハズのノクターンに人はいなかった。いや、一人いた。
カナリアだった。カナリアが泣きそうな顔で一人で店の真ん中に突っ立っていた。
「貴方も私を狩りに来たの?」
ランチが失敗して客が逃げてったとかそんな事かと思ったら、なんだか物騒な事を言ってる。
狩るって…なんのハンティングさ?

詳しく聞くと、カナリアはブラッドハントのターゲットになったらしい。
ブラッドハントってのは、その街のアヤカシみんなに標的が狩りたてられる恐怖の儀式だ。
馬鹿なアヤカシが権力を誇示したがるとこんなマヌケな事をする。
ただ、マヌケな事でも、大抵の場合はブラッドハントは標的が狩られて終わる。
街対一人だからな。当たり前だよ。

カナリア、運が良かったな。キミの前にいるヘタレはサイコーのアヤカシ狩りだぜ。
ブラッドハントに参加している奴、残らず狩りつくしてやる。
大丈夫、キミを守るよ。

なーんてかっこよく決めたハズなのに、突然ノクターンに百匹近いアヤカシどもが突然乱入してきた。
慌ててカナリアの手を握った。
人波(アヤカシ波?)が通りすぎると、俺が握ったのはカナリアじゃないことがわかった。
スキンヘッドの鬼が、はにかみながら乱喰い歯を剥き出しにして、俺に笑いかけてきた。
ふざけんな、その手を放しやがれ。

カナリア、どこに行ったんじゃー?!

街中を走り回って探してると、今度は変なチンピラアヤカシに絡まれた。
なんでも、なんかどえらいアヤカシの手下らしい。ああ、今回のブラッドハントの主催者か。
俺が手を引いたら1プラチナウムくれるっていう。

バカか、お前ら。
別にハイ、手を引きますなんて約束する必要ないだろ。
俺はお前達との約束ほど守らなくていいものはないと思ってる。
そいつを置いて、さっさと去りな。

俺の忠告を無視したアヤカシどもは、灰に帰した。
そりゃあ、奴らは弱かったし、別に滅する必要もなかったのかもしれない。
冷静になってみると反省しきり。
たださ、やっぱりムシャクシャしてるんだよな。
ブラッドハントの主催者、ヘリオガバルス。
確か…カナリアの主だった奴だっけ。
許せねえ。

いきり立つものの何から手をつけたらいいものかと思っていたら、懐かしい顔に出会った。
いや…懐かしいというよりも不吉な顔に出会った。
シードルさん。俺が狩りの業を教わった先生。
クルースニク~吸血鬼狩り~だ。
シードルさんが居るって事は、この街に災厄~クドラク~がいるってことだ。
不吉だなあ。
ただ、聞くところによると今回の獲物はクドラクではない魔物、シムーンという奴らしい。
バカな魔物だな。
シードルさんに狙われたらお終いだぜ。
何しろ俺よりもきっちりと仕事をするんだからな。

ついでに今度こそ懐かしい顔に会った。
白い狼時代によくつるんでたシロだ。
こいつは、すごいいい奴なんだけど、いつも意識体でいる。っていうか、今の身体だって確か借り物だろ。
本体はどんな奴だか知らない。

「みんなちがくて、みんないい」

昔シロに「お前変わっているよな」って言った時にこんなことを言われた。
なんでも、災厄前の詩なんだとさ。
そうだよな、確かにシロみたいに魂のレベル~奴の場合は匂いだけど~で見ると誰でも「みんなちがってみんないい」んだろうな。
うん、こいつはホントにいい奴だ。俺はこいつが大好きだ。

でも、シロが妖夢街に来るなんて珍しい。
話を聞くと、シロはオヅヌとかいう悪い術者を追ってきたそうだ。

調べていくうちにシムーンはヘリオガバルスの部下で、オヅヌもブラッドハントに参加してカナリアを捕らえたっていう話がわかった。
なんだ、みんな目的が一緒じゃないか。
良かった、俺だけじゃ調べられないもんな。
頭脳労働苦手だし。

シロの調査でオヅヌの場所がわかったので行ってみると、カナリアが心ここにあらずといった感じで
「私はヘリオガバルスの所に行くから追わないで」なんて言う。
らしくないぜ、カナリア。あんたにはいつまでもネバーギブアップでいて欲しいんだからな。
オヅヌとひと勝負すると、オヅヌもカナリアも符になってしまった。
クソ、時間稼ぎだ、やられたな!

もう1回調査し直しだが、今回は奴らの痕跡があったので見つけやすかった。
って言っても、探したのはシロとシードルさんだけど。悪いね。
なんでもヘリオガバルスの所に既にカナリアは連れて行かれたらしい。
ヘリオガバルスの居城は奈落の深遠部。
どうやって行く?

シードルさんの知り合いの“水先案内人”のカロンに船に乗せてもらい奈落の深遠に行くことになった。
チェッ、がめついなあ。
チンピラから取り上げた、プラチナがどんどんなくなっていくよ。
まあ、あぶく銭だし、カナリアの命がかかってんだから盛大に使うか。

深遠に行くと城は見つからなかったけど、かわりに倒れているカナリアが見つかった。
大丈夫、怪我はしているものの命に別状はない。
な、絶対助けるって言っただろ。
カナリアの笑顔を見たら、とっても…ホッとしたよ。

カナリアは奴らの居城を教えてくれた。
ただ、瘴気がまとわりついていて行けそうにもない。
仕方がねえな。
俺の雷の力を解放して、すべて弾き飛ばした。
さてと、カロンさんよ、あそこまでやってくれよ。

え…別料金ですか?

チップを弾むと意気揚々とカロン号は城に突撃。
俺達はご機嫌だったけど、ヘリオガバルスもご機嫌だった。
馬鹿だなこいつ、これからの運命をわかっちゃいない。
ごたくはいいから、さっさと片をつけさせてもらうぜ。
オヅヌ、シムーンはどうでもいい。
俺の獲物はヘリオガバルス、お前だけだ。

オヅヌ、シムーンはシードルさんに任せ、俺はヘリオガバルスの止めをさそうとしていた。
ただ、ここに来てふと気がついた。
こいつ、悪い奴だけど、カナリアの昔を知っている唯一の奴なんだよな。
永劫の時を過ごしたカナリアの、過去との絆、こいつは腐っていても最後の絆なんだよな。
そう思うと、こいつの事、滅したいはずなのに、最後の一太刀が振るえなかった。
結局、ヘリオガバルスもシードルさんに甘えてしまった。
俺はやっぱり、ハンターにはなれないかなあ。

シードルさんは感情ではなく、役割として刃を振るう。
そういや、昔、御門忍さんが言ってた。
退魔っていうのは、憎しみで魔を滅することではなく、慈悲の心で魔を鎮めるのですって…。
やっぱり、退魔士は難しいなあ…。


まあでも、カナリアの歌を聞いて思ったんだよな。
俺が決意して、カナリアの笑顔が取り戻せたじゃないか。

みんなちがって、みんないい

そうだよな、シロ。
シードルさんにはシードルさんの道があるように、
忍さんが忍さんの道を歩むように、
俺は俺なりの退魔の道を歩もう。

最終更新:2007年04月11日 23:34