戯作・終熊猫世話物語 ~其三 跳梁跋扈ノ事、或ハ戯ノ事~

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パンダム杯から数ヵ月後。キキョウが住んでいた部屋。 荷物はあらかた運び出されてすでに無い。 いらなくなったシングルベッドだけが残されている。 ジュリアがそこに腰掛けている。黒のタイトスカートに糊の利いた白いシャツ姿。 みっちりと脚を組んでおり、相変わらず白蛇がもつれ合う体を為している。 部屋の真ん中には、袖無しのレザースーツの上半身を脱いでノヴァがあぐらをかいている。 ホックを外されたブラが、張りのある豊満な胸にひっかかって浮いている。 ― クズ…ウル=ウーは、霊力は素粒子が持っているエネルギーの一つだと言います。 具体的にいえば意思や意識や経験といったもの。脳はその働きに特化した器官にすぎないのだと。 記憶は脳だけでなく素粒子の一つ一つにも刻まれるのだそうです。 もちろんそれら一つ一つは淡く弱く薄く浅い。でも膨大な数量にそれらが刻まれていたら、どう? 宇宙そのものが巨大なアカシック・レコードということ。 つまり論理的にクズが扱い可能なエネルギーは、質量(m)×光速度(c)の2乗に霊的な記憶量の転化分を加味したものと… ・・・Can you understand? ― 「…スマン、もうちょっと判りやすくなんないのか?」 ノヴァは辟易している。ジュリアが、Ah, shit. と呟く。 ― じゃあ、喩え話ネ。ヒトを土葬にする、って考えて。 遺体を構成していた物質、つまり素粒子は解き放たれ緩やかに散っていく。ここまではいいわネ? 生前の記憶や意志や経験を持った素粒子が、そのまま土中に凝ったモノが、地縛霊になるの。 ガスや匂いといったモノになり空中に散じ、ついにはヒトに憑いたものが、憑依霊ってコト。 だけど残念なことに多くのヒトは、素粒子の語る記憶を聞いたり、 そのエネルギーを使ったりするチカラを持ってないの。ある特定のモノ達以外には、ネ。 ― 「さすがにいい声だな。」とノヴァ。 「そこかぃ!!」とジュリア。 「ウフフ。クズから貰ったお手紙にはネ、懸想ばかりでなくて、こんな内容も多かったのヨ?」 そういってジュリアは微笑む。お前なら判ると思ったんだろな、とノヴァ。 「アタシは、経験的にならぼんやり判るけどなぁ、気合って言ってるのとか? けど理屈は判んない。」 「でしょうねぇ。貴方のアタマには期待してもムダですもの。」 「オイ」 いつもどおりのやりとり。 「ここにも奴等の残滓を感じるね。あるいは部屋自体の記憶、ってことになんのかィ?」 ノヴァが部屋を見回す。 「そうね。。。私達もここに居ましたネ。」 そう云いながらもジュリアは次の資料を出す。今度は難しくないからネ、とノヴァへ。 コードネーム・キキョウの身上調査書。勿論戯無封団の機密文書だ。 ― キキョウは乳児の状態で山村奥の竹林で発見された。 この時点では、彼女は男児です。。。変な文章ですね。Sorry. ジョン・ドゥと名付けられ発見者の老夫婦に育てられた。いい加減な名前ネ。 必ずしも恵まれていたとは言えなかったようですネ。むしろ疎まれていた。 異常な資質を隠す術が身に付いていなかったのでしょう。薄気味悪い子供と思われた。 村中からずいぶん酷く苛められたようです。10才の時我慢が出来なくなった。 『こんな村なんか無くなってしまえ』 そう、叫んだとたん、、、 村人達は互いに殺し合い始め、また自ら家々を打ち壊し火をつけた。。。 村は瓦礫と遺体の山になって、無くなったのです。半日とかからずに。 2年後、別の山奥で少女が発見された。全裸で痩せこけて野生の獣のようだった。 少女はジェイン・ドゥと名付けられた。偶然にも、またしてもいい加減な名前が与えられたのですネ。 先の滅んだ山村については、行方不明者の有無特定は困難でした。 だから誰も2人を同一人物と考えなかったのも無理はありません。性別も容姿も違うのですから。 ジョンは銀髪碧眼だった。発見時のジェインは緑髪橙眼。 キキョウは、2年の間に忌まわしい『ジョン』を封印し、自分自身を作り変えたのです。自分のチカラで。 ジェインは保護施設に引き取られますが、ヒトの生活を覚えて早々に施設を出ます。 焼鳥屋等でアルバイトをして生計を立てつつ、ダンスや護身術を身に付けていく。 …私がキキョウを見出す、ずっと前の話です。 ― で、ヤツは?とノヴァは中途半端な問いをする。 「戯無封団入団時の検査では、遺伝的にはちゃんと女性よ。発生時のエラーで男性の形質で生まれたのです。  だからキキョウの、ジョンからジェインへの変化は、結果的にはあるべき形に自力修正したということですネ。」 当の本人は知らずにネ、といいながらジュリアは資料を置いた。 「そうそう。双子が生まれたんですって! 男の子と女の子、母子共に健康。」 「オイッ!! 早過ぎるだろっ?!」 「…あの子は私達とは違うモノなのよ。」 ピシリとジュリア。 「それがネ、キキョウに瓜二つなんですって。どういうことなのかしらネーw?」 「…増殖? ん? さっき検査したと言ったな? おいジュリアお前何か知ってるな?!」 ジュリアは、私は使えるモノは使いたいと思うの、と微笑む。眼が冷徹だ。 「だってェ、クズ+キキョウのツインドライヴに、プラス2発でしょ? 親子だから波動同調は多分カンペキ!  そんなのでブラックホールから神霊なんか引いてご覧なさい? 惑星ごとふっ飛ばせるんじゃない? 怖いわねェおほほほほ。」 怖いのはお前だよ、とノヴァが呆れる。 「『戯無名 封邪懐人滅罪只全』の戯十一字が、戯無封団の名前の由来。  つまり【戯】はそれ以前から存在したということ。もちろん跋扈を含めた他の四宝よりも、光帝よりも古い。  その末裔たる私達『戯会』は、四宝を仮の姿としつつ、世界の最深部の要となるために存在する。  そのためには持てるチカラは持っておかなければいけないのです。。。  Are you OK? 戯員・十一號のノヴァさん?」 「OK過ぎて耳に大ダコが出来てらァ、戯長・七號のジュリア!」 「キキョウを…いやジェインを『戯会』に入れるってことか?」 「一號にネ、ずっと空席でしたし。ウル=ウーも番外・十三號で推挙しますワ。  ついでに四號のエイプリルに、戯無封団の団長を押し付けてきましたwww」 とジュリア。随分手回しのいいこって、と鼻で哂うノヴァ。 「つまり、とりあえずジュリアは暇になったんだろ? せっかくだし一寸遊んで行くか?」 「うふふっ。『蛇蝎(BUSTieS)再臨!』、ね? 腕は落ちてなぁい? 元締サン?!」 「ケッ! 長らくほったらかしにしといて何を言うかw その台詞返すぜ!!」 いつのまにかジュリアは立ち上がってノヴァの側に居る。気取られぬ体捌き。不安は無さそうだ。 ノヴァは、こんなもんいらん、とブラを投げ捨てレザースーツに腕を通す。ジッパーは上げない。ヘソ下まで開いたままだ。 それを見てジュリアも、タイトスカートのスリットを腰骨あたりまで裂き広げようとする、が、まごつく。 それは、共に往年の戦闘コスチュームだ。 「さァてさて、なんだかカラダが疼いて来たねェ!」 「せっかちねェン もうちょっとゆっくりしていこうよォ」 「もぅガマン出来ん! 出るっ!」 「あああああああン!ダメェ! 一緒にぃっ!」 ノヴァがドアを蹴飛ばす。ジュリアがそこに立っている。 ジュリアはウフフと笑って後ずさるが階段を踏み外して後ろ向きに落ちる。 ノヴァが階上から飛び込み、ジュリアめがけてフライング・ラリアット。 ジュリアは落ちながらノヴァの腕を掴み、逆上がりの要領で身を翻す。 そして二人は音も無く着地する。 西に太陽、東に太陰。熊猫シティは血を流した様な朱に包まれている。大禍時だ。 「さァ、イクよっ!」  ― 熊猫の地に棲む全ての修羅達に、絶えざる戦乱と悦楽の日々のあらんことを。 ――――――――――――――――――――――――――――――――了――――

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