消去主義的唯物論


心の哲学における消去主義(eliminativism)、または消去的唯物論(eliminative materialism)とは、心理学や哲学によって行われている心的活動の説明は、やがて科学に取り込まれ、「心の哲学」は「心の科学」へ、また「素朴心理学」は「科学的心理学(神経科学)」へと自然化されることによって、消去されるとする立場。ポール・ファイヤアーベント(1963)、リチャード・ローティ(1965)によって主張された。現代の代表的な論客はパトリシア・チャーチランドポール・チャーチランドである。バラス・スキナーの徹底的行動主義や、ダニエル・デネット、ケヴィン・オレーガンの行動主義は、消去主義と類似の立場である。

消去主義では、素朴心理学に頻繁に登場する精神、信念、欲求といった命題的態度は錯覚であると考え、その実在性を否定する。それらは科学史上のフロギストンやカロリック、エーテル、生気といった概念と同種のものであり、脳についての理解が深まったさいには捨て去られるべき概念であるとする。命題的態度を指し示す言葉は、対応する独自の実在を一切持っていない。例えるならば「日没」という言葉は陽が沈む現象に過ぎず、日没という実在があるわけではない。心的概念はやがて脳の物質的なあり方として神経科学の言葉だけですべて説明され尽くされる日がくると考える。心的現象は神秘的な何かによるものではなく、物質としての脳が持つ機能、または性質として科学的に解釈され直されなければならないとする。

消去主義は機能主義のように還元主義を前提としていない。還元すべき心的状態の存在をそもそも認めないからである。トークン同一説のような還元主義的唯物論や、非法則一元論のような非還元的唯物論は間違いだという前提で、最終的でもっともラディカルなのが消去主義的唯物論の立場である。

なお、パトリシア・チャーチランドは命題的態度を否定するが、クオリアについては心脳同一説の立場であり、たとえば「赤さ」は特定の脳状態とイコールであるとする。しかしポール・チャーチランドはクオリアまでも消去の対象とする議論を行っている。ちなみにダニエル・デネットは明確にクオリアの存在を否定するが、消去主義者ではなく行動主義者に分類されている。


  • 参考文献
小林道夫『科学の世界と心の哲学』中公新書 2009年
スーザン・ブラックモア『「意識」を語る』山形浩生 森岡桜 訳 NTT出版 2009年
ジョン・R・サール『MiND 心の哲学』山本貴光・吉川浩満 訳 朝日出版社 2006年
ジョン・R・サール『ディスカバー・マインド!』宮原勇 訳 筑摩書房 2008年