機会原因論



機会原因論(Occasionalism)はフランスの哲学者ニコラ・ド・マルブランシュ(Nicolas de Malebranche、1638年8月6日-1715年10月13日)によって唱えられた神学的な説で、物理現象のもつ因果関係、そして心的な現象が物理現象に作用する因果関係について、すべて本物の因果関係ではなく、真の原因は神であるとする考え方。 偶因論ともいう。

デカルト流の合理主義哲学を引き継ぎ、心的な存在と物質的な存在を二種類の異なる存在として認めながらも、そうした対象の変化を実際に引き起こしているのは神であるとし、デカルトの心身二元論が直面した心身の因果関係の問題を解決しようと試みた。そして心と身体との相互作用の原因を解明しようとしたデカルトに対し、心身の結合の原因は神であるゆえに、人間には理解不可能であるとした。

マルブランシュはアウグスティヌス主義者であり、その哲学的主張は「すべての事物を神において見る」というフレーズで知られる。デカルトが身体を含めた物理的世界に自然法則が存在することを認めたのに対し、マルブランシュは人間は神のうちなる観念を通して事物的世界を認識するとして、現象としての物体・身体の運動を認めながら、その原因は物体そのものではなく、物体の衝突や精神の意欲をきっかけ(機会)として神が発動し、最終的には神がさまざまな運動を引き起こしているとした。

たとえば事象AとBの間に因果関係があるように見えても、本当はAが原因となってBを引き起こしたのでなく、神がAを引き起こし、そしてBを引き起こしたのであり、Aの発生はBの発生の「機会」にすぎないと考える。物体の動力は自らを動かしている物体のなかにはけっして存在しない。なぜならこの動力は神の意志に他ならない。また、もし神が啓発しないなら精神はなにも知ることができない。もし神が変容させないなら精神はなにも感じることができない。そして神と分かつ実在的質(qualites reelles)を認めてはならないと彼はいう。

以上のようなマルブランシュの思想は神の全能性を背景としており、全ての現象は神によって引き起こされるという、神の「作出原因性」を徹底しようとしたものである。彼は精神と身体から因果的効力を剥奪し、それらを神に帰したのである。

マルブランシュの機会原因論は証明が不可能であるものの、逆に間違っているとの証明も不可能である。因果関係というものが物理法則に裏付けされていたとしてもマルブランシュの哲学は成り立つのであり、因果関係を論理的な関係でないとした点においては、対極的な立場の哲学者であるデイヴィッド・ヒュームの懐疑主義的な因果関係論と通じるものがある。

  • 参考文献
小林道夫『科学の世界と心の哲学』中公新書 2009年
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