ゲシュタルト構造


(参考文献:ジョン・R・サール『MiND 心の哲学』)

二〇世紀初頭、心理現象は個別の要素の結合からなるとする従来の心理学に対して、心理現象には要素の総和には還元できない全体性がある、と考える学説が提唱された。この心理現象が備える全体的な性質を「ゲシュタルト」と呼び、ゲシュタルトから心理を研究する立場は「ゲシュタルト心理学」と呼ばれる。

意識体験は無秩序な混乱として生じるのでなく、統一されたひとつの全体として生じる。例えば木のテーブルを見るとき、部分としての木の部品や、テーブルに付いた染みでなく、全体としての木のテーブルが意識体験として生じる。そして、そうした対象の断片のみを見ても統一されたひとつの全体をイメージできる。例えば車のタイヤだけを見ても車全体をイメージできる。脳は不十分な情報でも、それを一貫性のある全体へと組織する能力を備えているのだ。

さらに、脳は受け取った一定の情報をある一定の知覚とするが、時と場合によっては同じ情報を受け取っても別の知覚にすることもある。例えば、以下の図は「アヒル ― ウサギ」と呼ばれるもので、見ようによってはアヒルにもウサギにも見える。
この「アヒル ― ウサギ」の図は、アヒルに見えている時にはウサギが見えず、ウサギが見えている時にはアヒルが見えない。アヒル―ウサギの図の見え方が一気に変わることを「ゲシュタルトスイッチ」と呼ぶ。

またゲシュタルト構造は意識野全体において、知覚している図とその背景の地との区別も行っている。例えばわれわれは机に置いた本を読むとき、本の文字と、本そのものや机とを区別して読んでいる。

従って意識のゲシュタルト構造には少なくとも二つの側面がある。第一に、知覚を一貫性のある全体に組織する脳の能力。第二に、背景から図を弁別する脳の能力である。