現象判断のパラドックス

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#contents ---- 現象判断のパラドックス(英:Paradox of phenomenal judgement)とは、心の哲学において議論される意識についてのパラドックスである。現象報告のパラドックスとも呼ばれる。「現象」とは意識の主観的側面である[[現象的意識]]や[[クオリア]]のことである。[[デイヴィッド・チャーマーズ]]が[[意識のハードプロブレム]]について論じた文脈で言及したパラドックスであり、「現象的意識が脳の物理状態に対して何の影響も及ぼさないなら、なぜ私達は現象的意識やクオリアについて判断でき、また語れているのか?」という問題である。 このパラドックスは意識というものを、機能的意識と現象的意識という二つの概念([[意識の二面性]])に分離することから生じるものである。[[二元論]]の立場では、現象的意識は物理的性質には還元できないものとするが、同時に物理的なものが因果的に閉じていること(物理領域の[[因果的閉包性]])を認めるならば、現象意識やクオリアは何の機能ももたず、因果的に全く関わっていないという事になりパラドックスが生じる。しかし物理主義では機能的意識と現象的意識という分離を認めず、[[心脳同一説]]を前提にしているためパラドックスは生じない。また[[現象主義]]や[[観念論]]といった立場では[[実在論]]を否定するので、やはりパラドックスは生じない。 [[哲学的ゾンビ]]および[[逆転クオリア]]の問題と、現象判断に関する問題は、一般に対になって語られる。クオリアについての判断や発言は、私たちの物理的同型体である[[哲学的ゾンビ]]においてもまったく同様に行われる。 ・普通の人間「この赤さこそ問題だ」 ・哲学的ゾンビ「そうだ。この赤さこそ問題だ」 現象判断が意識とは無関係な理由で生じるとしたら、クオリアについて私たちが行う判断や発言には、一体どういう意味があるのか? チャーマーズは、例えば「赤」という心的体験をした時の現象判断を、以下のように三つに分けて考えている。 >一次判断 = それは赤い。 >二次判断 = 私は今、赤いという感じがしている。 >三次判断 = 感じというのは不思議だ。 一次の現象判断で意識が関わらないというのは問題ではないが、二次、三次の判断に関わらないのはパラドックスであるとチャーマーズは考える。われわれが主観的に体験した意識やクオリアを「指示」できるという事実と矛盾するからだ。 チャーマーズは[[汎経験説>http://www21.atwiki.jp/p_mind/pages/138.html#id_a8b0a3a6]]的な[[自然主義的二元論]]を前提に、クオリアに「機能」を認めることによってパラドックスの解消を考える。これは[[性質二元論]]の一種であり、この立場によれば全ての意識にはそれに対応する物理状態が必ず存在するということになる。つまり[[実体]]をある面から見れば現象的(クオリア)、別の面から見れば物理的だとみなすもので、クオリアを非還元的なものとしながらも物理領域の[[因果的閉包性]]の原理と相克せず、現象報告のパラドックスは存在しないということになる。脳は現象的意識と相互作用することでそれについて語っているのではなく、気づき([[アウェアネス]])を伴う特定の機能的状態に対しては、現象意識が自然に伴う(意識と認知のコヒーレンス)ということである。このチャーマーズの立場は、唯物論でいう「物質」の概念に心的な性質を加えただけのものであり、唯物論の一種とも受け取れる。そのためチャーマーズの立場は非還元的機能主義とも呼ばれる。 なお[[実体二元論]]の立場には、物理領域は因果的に閉じていないと考える論者もおり、彼らにとってもこのパラドックスは存在しないということになる。 このパラドックスが最も問題になるのは[[随伴現象説]]である。この立場では、クオリアなどは物理的存在である脳の作用に随伴して[[創発>http://www21.atwiki.jp/p_mind/pages/138.html#id_0691ba7d]]するとされる。そうやって生じたクオリアは物理的存在である脳に何の作用も及ぼさない。しかし物理的存在としての脳細胞に現象的意識やクオリアの情報が現実にあるわけであり、これは深刻なパラドックスとなる。 ---- ・参考文献 デイヴィッド・J. チャーマーズ『意識する心―脳と精神の根本理論を求めて』林一 訳 2001 白揚社 ・参考サイト http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8F%BE%E8%B1%A1%E5%88%A4%E6%96%AD%E3%81%AE%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9 ----
#contents ---- 現象判断のパラドックス(英:Paradox of phenomenal judgement)とは、心の哲学において議論される意識についてのパラドックスである。現象報告のパラドックスとも呼ばれる。「現象」とは意識の主観的側面である[[現象的意識]]や[[クオリア]]のことである。[[デイヴィッド・チャーマーズ]]が[[意識のハードプロブレム]]について論じた文脈で言及したパラドックスであり、「現象的意識が脳の物理状態に対して何の影響も及ぼさないなら、なぜ私達は現象的意識やクオリアについて判断でき、また語れているのか?」という問題である。 このパラドックスは意識というものを、機能的意識と現象的意識という二つの概念([[意識の二面性]])に分離することから生じるものである。[[二元論]]の立場では、現象的意識は物理的性質には還元できないものとするが、同時に物理的なものが因果的に閉じていること(物理領域の[[因果的閉包性]])を認めるならば、現象意識やクオリアは何の機能ももたず、因果的に全く関わっていないという事になりパラドックスが生じる。しかし物理主義では機能的意識と現象的意識という分離を認めず、[[心脳同一説]]を前提にしているためパラドックスは生じない。また[[現象主義]]や[[観念論]]といった立場では[[実在論]]を否定するので、やはりパラドックスは生じない。 [[哲学的ゾンビ]]および[[逆転クオリア]]の問題と、現象判断に関する問題は、一般に対になって語られる。クオリアについての判断や発言は、私たちの物理的同型体である[[哲学的ゾンビ]]においてもまったく同様に行われる。 ・普通の人間「この赤さこそ問題だ」 ・哲学的ゾンビ「そうだ。この赤さこそ問題だ」 現象判断が意識とは無関係な理由で生じるとしたら、クオリアについて私たちが行う判断や発言には、一体どういう意味があるのか? チャーマーズは、例えば「赤」という心的体験をした時の現象判断を、以下のように三つに分けて考えている。 >一次判断 = それは赤い。 >二次判断 = 私は今、赤いという感じがしている。 >三次判断 = 感じというのは不思議だ。 一次の現象判断で意識が関わらないというのは問題ではないが、二次、三次の判断に関わらないのはパラドックスであるとチャーマーズは考える。われわれが主観的に体験した意識やクオリアを「指示」できるという事実と矛盾するからだ。 チャーマーズは[[汎経験説>http://www21.atwiki.jp/p_mind/pages/138.html#id_a8b0a3a6]]的な[[自然主義的二元論]]を前提に、クオリアに「機能」を認めることによってパラドックスの解消を考える。これは[[性質二元論]]の一種であり、この立場によれば全ての意識にはそれに対応する物理状態が必ず存在するということになる。つまり[[実体]]をある面から見れば現象的(クオリア)、別の面から見れば物理的だとみなすもので、クオリアを非還元的なものとしながらも物理領域の[[因果的閉包性]]の原理と相克せず、現象報告のパラドックスは存在しないということになる。脳は現象的意識と相互作用することでそれについて語っているのではなく、気づき([[アウェアネス]])を伴う特定の機能的状態に対しては、現象意識が自然に伴う(意識と認知のコヒーレンス)ということである。このチャーマーズの立場は、唯物論でいう「物質」の概念に心的な性質を加えただけのものであり、唯物論の一種とも受け取れる。そのためチャーマーズの立場は非還元的機能主義とも呼ばれる。 なお[[実体二元論]]の立場には、物理領域は因果的に閉じていないと考える論者もおり、彼らにとってもこのパラドックスは存在しないということになる。 このパラドックスが最も問題になるのは[[随伴現象説]]である。この立場では、クオリアなどは物理的存在である脳の作用に随伴して生じるとされる。そうやって生じたクオリアは物理的存在である脳に何の作用も及ぼさない。しかし物理的存在としての脳細胞に現象的意識やクオリアの情報が現実にあるわけであり、これは深刻なパラドックスとなる。 ---- ・参考文献 デイヴィッド・J. チャーマーズ『意識する心―脳と精神の根本理論を求めて』林一 訳 2001 白揚社 ・参考サイト http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8F%BE%E8%B1%A1%E5%88%A4%E6%96%AD%E3%81%AE%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9 ----

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