意識の境界問題

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#contents ---- **概説 意識の境界問題(英:Boundary Problem of Consciousness)とは、人間の意識が宇宙のあるレベル、つまり「脳」という単位において、統一され境界をもって、個別化されているのはなぜなのかという問題。心の哲学において[[意識のハードプロブレム]]と関わる問題のひとつとして議論される。2004年にアメリカの哲学者グレッグ・ローゼンバーグによって提起された。カナダの哲学者ウィリアム・シーガーはほぼ同等の問いを1995年に[[組み合わせ問題]]という名で定式化している。ただしシーガーの場合は[[汎経験説>http://www21.atwiki.jp/p_mind/pages/108.html]]を前提した上での問いとなっている点で若干異なる。 意識は「脳」という宇宙全体の階層構造から見れば中途半端な所に位置するレベルで起きている。宇宙は素粒子のレベルから、原子、分子、高分子というレベルを経て、細胞、組織、個体、生態系、そして惑星、恒星系、銀河、銀河団、宇宙というレベルまで、様々なレベルで構成される階層性を持っている。その中で人間の意識体験は、人間の個体レベルというある特定の中間レベルで統一されている。クォークから宇宙の大規模構造まで及ぶさまざまな階層の中で、神経細胞と脳というスケールでのみ意識は統一された状態で存在しているよう思われる。そしてこれより細かいスケールの物理状態が、意識体験に直接関わってこないように見える現象はグレイン問題と呼ばれる。 また個別化された各意識体験の間の「境界」(Boundary)というのは一体どのようにして決められているのか、という問題もある。 **意識の統一性 意識の統一性(英:Unity of Consciousness)とは、意識体験がバラバラの部分の集まりとしてではなく、統一されたひとつの全体として体験されること。例えばある画像を見た時、画像は全体的に統合されて体験される。形と独立に色を体験することはできないし、また視野の右半分を左半分と別に独立して経験することも出来ない。こうした意識の不可分性が統一性という言葉で意味されている。 **中心と周辺 私たちは注意していないことや、注意の焦点からずれている沢山のことを意識している。椅子に座って本を読んでいるとき、椅子に座っている感触や腹のベルトがちょっと窮屈だというようなことには注意は払われていないものの、それらの感覚は「気づき([[アウェアネス]])」の状態にある。別の例を挙げれば、私たちは沢山の人ごみの中で話している時、話相手以外には注意は払わないものだが、話し相手の背景からある人が突然自分たちの方向にダッシュしてきたら、すぐ私は危険を察知するだろう。〈中心 - 周辺〉という問題は〈意識的 - 無意識的〉という問題と区別される必要があるのだ。 **境界と個別化 個人が体験するのはこの世界にある意識体験のごく一部である。例えば隣にいる他人が酷い虫歯の痛みに苦しめられていたとしても、自分がその痛みを感じるということはないし、また地球の裏側で誰かが幸福の絶頂を噛み締めていたとしても、自分がその喜びを感じるということはない。つまり意識体験は境界を持って個別化されている。 **組み合わせ問題 意識の境界問題とほぼ同種の問いをカナダの哲学者シーガーは、[[組み合わせ問題]]として定式化している。シーガーは汎経験説を前提した際のひとつの問題として、宇宙の基本的な構成要素の全てが現象的な特性([[原意識]])を持つような場合に、そういった原意識からいったいどのようにして、統合された意識が生まれてくるのかという問題を提起した。[[きめの問題]]も類似の問題である。 **解の候補 この問題に対する解答は、[[現象的意識]]・[[クオリア]]に対して取る哲学的立場により異なったものとなってくる。唯物論・[[物理主義]]の立場では、現象的意識と[[アウェアネス]]を存在論的に区別しないので、この問題は完全な擬似問題――つまり問い自体が間違っているのである。つまりこの問題に対しては、私達がある特有の方法でアクセス可能な情報の範囲が統一と呼ばれているものの範囲を決めている、といった類の説明を与えるだけで十分である。[[性質二元論]]または[[中立一元論]]と呼ばれるような立場では、現象的意識とアウェアネスを存在論的に区別するので、境界問題に対して何らかの説明を与える必要が出てくる。以下、そうした立場の人々が提出しているアイデアを紹介する。 1、ローゼンバーグの形而上学 ローゼンバーグは境界問題を解決するために、因果に関わる独特の形而上学的アイデアを提出している。ローゼンバーグの理論では、世界はレセプティビティー(Receptivity)とエフェクティビティー(Effectivity)という根本的に異なる二つの性質から構成されているとする。エフェクティビティーの具体例としては、例えば電荷、スピン、質量などを挙げている。これらエフェクティビティーはそれぞれ様々な状態を取りうる(つまり自由度を持つ)が、しかしエフェクティビティー同士のみでは相互作用は起こさず、状態も確定しないとする。相互作用を媒介するのはレセプティビティーで、レセプティビティーは複数のエフェクティビティーを『個』(Indivisual)へと結びつける役割を持つ。こうして結び付けられたエフェクティビティー同士は互いの状態を束縛し合い(つまり相互作用する)、互いの状態を確定していき、『個』の持つ独特の性質をもたらす、とする。もっとも基本的な『個』、レベル0の『個』として、ローゼンバーグは素粒子を挙げている。こうしたレセプティビティーによる結びつけは、より高次のレベルへ続いていき、レベル0の『個』同士が結びついてレベル1の『個』を、レベル1の『個』同士が結びついてレベル2の『個』を、それぞれ生み出していくとする。そしてこうした結びつけのどこかのレベルで、人間の持つ意識があるとする。ここで意識体験の境界はレセプティビティーで結び付けられた範囲、すなわち『個』、によって決まっているとし、そして意識体験の内容は個の中で各エフェクティビティが取る状態の配置によって決まっているとしている。ただしローゼンバーグは、こうしたレセプティビティーによる統合の過程はひょっとすると熱力学第二法則と矛盾することになるかもしれない、と述壊している。 2、トノーニの情報統合理論 イタリア出身の神経科学者ジュリオ・トノーニによって提出された意識の情報統合理論(Information Integration Theory of Consciousness)は、意識体験の境界を計算するためのアルゴリズムを含んだ内容となっている。当理論まだ荒削りで推測的なレベルの理論に過ぎないが、トノーニは脳内の部分要素間が持つ、相互情報量で計られる情報的つながりが最も強い一群のグループを、メイン・コンプレックス(main complex)と呼び、このメイン・コンプレックスの範囲が人間の持つ意識体験の範囲と対応するのではないか、としている(メイン・コンプレックスとして具体的には視床皮質系が想定されている)。そしてメイン・コンプレックス内での各要素の情報論的な結合関係と活動状態とが、体験される意識経験の内容を決めているのではないか、としている。 ---- ・参考文献 ジョン・R・サール『ディスカバー・マインド!』宮原勇 訳 2008 筑摩書房 ・参考サイト http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%8F%E8%AD%98%E3%81%AE%E5%A2%83%E7%95%8C%E5%95%8F%E9%A1%8C ----
#contents ---- **概説 意識の境界問題(英:Boundary Problem of Consciousness)とは、人間の意識が宇宙の構造のあるレベル、つまり「脳」という単位において、統一的に、かつ境界をもって存在しているのはなぜなのかという問題。心の哲学において[[意識のハードプロブレム]]と関わる問題のひとつとして議論される。2004年にアメリカの哲学者グレッグ・ローゼンバーグによって提起された。 個人が体験するのはこの世界にある意識体験のごく一部である。例えば隣にいる他人が酷い虫歯の痛みに苦しめられていたとしても、自分がその痛みを感じるということはないし、また地球の裏側で誰かが幸福の絶頂を噛み締めていたとしても、自分がその喜びを感じるということはない。つまり意識体験は境界を持って個別化されている。 意識は「脳」という宇宙全体の階層構造からすると中途半端な位置のレベルに(対応して)起きている。宇宙は素粒子のレベルから、原子、分子、高分子というレベルを経て、細胞、組織、個体、生態系、そして惑星、恒星系、銀河、銀河団、宇宙というレベルまで、様々なレベルで構成される階層性を持っている。その中で人間の意識体験は、個別の人間の脳と神経細胞というレベルで統一され、他のものと境界があるよう思われる。そしてこれより細かいスケールの物理状態が、意識体験に直接関わってこないように見える現象はグレイン問題と呼ばれる。 また個別化された各意識体験の間の「境界(Boundary)」というのは一体どのようにして決められているのか、という問題もある。 **意識の統一性 意識の統一性(英:Unity of Consciousness)とは、意識体験がバラバラの部分の集まりとしてではなく、統一されたひとつの全体として体験されること。例えばある画像を見た時、画像は全体的に統合されて体験される。形と独立に色を体験することはできないし、また視野の右半分を左半分と別に独立して経験することも出来ない。こうした意識の不可分性が統一性という言葉で意味されている。 **中心と周辺 私たちは注意していないことや、注意の焦点からずれている沢山のことを意識している。椅子に座って本を読んでいるとき、椅子に座っている感触や腹のベルトがちょっと窮屈だというようなことには注意は払われていないものの、それらの感覚は「気づき([[アウェアネス]])」の状態にある。 たとえば、沢山の人ごみの中で会話している時、私たちは話相手以外にはあまり注意は払わないものだが、もし話し相手の背景からある人が突然自分たちの方向にダッシュしてきたら、すぐ危険を察知するだろう。〈中心 - 周辺〉という問題は〈意識的 - 無意識的〉という問題と区別される必要があるのだ。 **組み合わせ問題 意識の境界問題とほぼ同種の問いを、カナダの哲学者ウィリアム・シーガーは1995年に[[組み合わせ問題]]として定式化している。シーガーは[[汎経験説>http://www21.atwiki.jp/p_mind/pages/138.html#id_a8b0a3a6]]を前提した際のひとつの問題として、宇宙の基本的な構成要素の全てが現象的な特性(原意識)を持つような場合に、そういった原意識からいったいどのようにして、統合された意識が生まれてくるのかという問題を提起した。「きめの問題」も類似の問題である。 **きめの問題 きめの問題(英: grain problem)は、脳の物理的状態が非常にきめ細かい構造を持っているのに、なぜ人間の意識体験は統一的であるのか、という問題。意識の均質性(英: Homogeneity of Consciousness)の問題とも言われる。「意識の境界問題」と類似の問題である。 ウィルフリッド・セラーズは1965年、当時大きい影響力を持っていた[[心脳同一説]]の中心的なテーゼである「心的状態と脳の物理状態との間の同一性」に対する反論の一環として、この「きめの問題」を提出した。 人間の脳の物理的状態は非常に微細で複雑な構造を持っている。感覚器官が外界の情報を受け取った場合は、脳内で何十億、何百億という数の神経細胞が活動する。またそれぞれの神経細胞もまた高度に複雑な内的構造を持ち、更に神経伝達物質、それらを構成する原子も微細で複雑な内的構造を持つ。しかし私たちの意識体験において、こうした複雑な構造が認められることはない。意識は統一されたものとして体験されるのだ。 このことから問題になるのは、「多数」の物理的なものに「唯一」の心的なものが対応しているということであり、意識の成立について[[堆積のパラドックス>http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%82%E5%B1%B1%E3%81%AE%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9]]が生じるということである。[[多重実現可能性]]はそのパラドックスを含意したものである。 **解決へのアプローチ 意識の境界問題、およびそれに類した問題に対する解答は、[[現象的意識]]・[[クオリア]]に対して取る哲学的立場により異なったものとなってくる。 [[物理主義]]の立場では、現象的意識と[[アウェアネス]]を存在論的に区別しないので、私たちがアクセス可能な情報だけが「意識」と呼ばれているものだと考え、意識の統一性問題は存在しないとされる。 [[性質二元論]]または[[中立一元論]]と呼ばれるような立場では、現象的意識とアウェアネスを存在論的に区別するので、境界問題に対して物理主義とは異なる説明を与える必要が出てくる。(性質二元論からの解答の候補は[[wikipediaを参照>http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%8F%E8%AD%98%E3%81%AE%E5%A2%83%E7%95%8C%E5%95%8F%E9%A1%8C#.E8.A7.A3.E3.81.AE.E5.80.99.E8.A3.9C]]のこと) ---- ・参考文献 ジョン・R・サール『ディスカバー・マインド!』宮原勇 訳 筑摩書房 2008年 ・参考サイト 意識の境界問題 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%8F%E8%AD%98%E3%81%AE%E5%A2%83%E7%95%8C%E5%95%8F%E9%A1%8C きめの問題 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8D%E3%82%81%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C ----

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