テセウスの船

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#contents ---- **概説 テセウスの船(英: Ship of Theseus)とは「同一性」についての思考実験。テセウスのパラドックスとも呼ばれる。ある物体を構成する部分が徐々に置き換えられ、やがて全てが置き換わったとき、以前の物体と同じであると言えるのか、という問題である。 同じ川に2度入ることはできないというヘラクレイトスの主張も類似の問題である。またデレク・パーフィットは[[人格の同一性]]の問題において、人間の脳細胞を他者の脳細胞と徐々に置き換えていくという同型の思考実験を行っている。(この場合はテセウスの船と異なり[[自己]]について重大な問題が派生する) プルタルコスは以下のようなギリシャの伝説を挙げている。 >テセウスがアテネの若者と共にクレタ島から帰還した船がある。アテネの人々はこれを後々の時代にも保存していた。このため、朽ちた木材は徐々に新たな木材に置き換えられていき、やがて元の木材はすっかり無くなってしまった。 >テセウスの船は哲学者らにとって恰好の議論の的となった。すなわち、ある者はその船はもはや同じものとは言えないとし、別の者はまだ同じものだと主張したのである。 プルタルコスは、全部の部品が置き換えられたとき、その船が同じものと言えるのかという疑問を投げかけている。また、ここから派生する問題として、置き換えられた古い部品を集めて何とか別の船を組み立てた場合、どちらがテセウスの船なのか、という疑問が生じる。 **ジョン・サールの回答 [[ジョン・サール]]は「船」という概念は「機能」についての概念であるため、船としての機能が時間的空間的に継続していれば、それが同一であるとするのに十分だという。また、船に使われていたオリジナルの板のみを組み合わせて、新たな船を建造したとする(ただしその船は材料が古いため機能が劣る)。この場合、どちらがテセウスの船であるかと問うのは間違いであり、どちらがテセウスの船であるかは「私たち次第」だという。アリストテレスの分類でいえば「形相因」の同一性で判断するか、「質料因」同一性で判断するか、ということになる。 サールは人格の同一性の問題については、テセウスの船のような三人称的な現象と異なり、一人称的な経験こそが本質だという。 #right(){(以下は[[Wikipedia>http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%BB%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%81%AE%E8%88%B9]]より引用)} **アリストテレスの解答 アリストテレスの哲学体系では、事象の原因を4つに分け(四原因説)、これらを分析することでパラドックスに答えることができるとされる。アリストテレスによれば、ある事象が「何であるか」は「形相因」であり、その観点では設計などの本質が変わっていないため、テセウスの船は「同じ」であるとされる。同様にヘラクレイトスの川も「形相因」は変わっていないが、「質料因」が時と共に変化しているとされる。 また、「目的因」から見ると、テセウスの船は「質料因」としての材質が変わったとしても、テセウスが使った船であるという「目的因」は変わっていないとされる。「動力因」は誰がどのように作ったかを指し、テセウスの船の場合、船を最初に作った職人は同じ道具や技法を使って修理(部品の置換)をしたと考えることができる。 **4次元主義からの解答 このパラドックスへの1つの解答が4次元主義の概念から生じた。David Lewis らは、全ての事象を4次元オブジェクトとして考えることでこれらの問題が解決すると提案した。あるオブジェクトは空間的には3次元の広がりを持ち、第4の次元として時間的にも広がりを持つ。4次元オブジェクトは3次元時系列からなる。すなわち、空間的広がりを持って、ある期間だけ存在する。あるオブジェクトは因果関係のある一連のタイムスライスから構成される。各タイムスライスは数的に同じであり、タイムスライスの集合体としての4次元オブジェクトも数的に同じである。しかし、個々のタイムスライスは質的に異なる。 川の問題で言えば、各時点で川は異なる属性を持つ。従って、3次元タイムスライスを抜き出してみれば、川はそれぞれのタイムスライスで異なる属性を示す。しかし、それらをまとめたとき、全体として川としてのアイデンティティーがあると言える。したがって、同じタイムスライスの川に入ることはできないが、同じ川に2度入ることは可能である。 ここで特殊相対性理論を考慮すると、タイムスライスを形成する唯一の「正しい」方法が存在しないことになる。しかし、これはあまり問題ではない。ミンコフスキー空間では観測者は同じタイムスライスを2度通過することはないため、依然として「同じ川の同じタイムスライスに2度入ることはできない」のである。 **ロバート・M・パーシグ の解答 Lila: An Inquiry into Morals で示された属性の形而上学(Metaphysics of quality)では、パターンの階層が定義され、それを使ってこのパラドックスの新たな解答が与えられている。すなわち、船は、変化する低位のパターン(部品)の集合体であり、単一の高位のパターン(船全体)は変化しない。 ---- ・参考文献 ジョン・R・サール『MiND 心の哲学』山本貴光・吉川浩満 訳 2006 朝日出版社 ----
#contents ---- **概説 テセウスの船(英: Ship of Theseus)とは「同一性」についての思考実験。テセウスのパラドックスとも呼ばれる。ある物体を構成する部分が徐々に置き換えられ、やがて全てが置き換わったとき、以前の物体と同じであると言えるのか、という問題である。 同じ川に2度入ることはできないというヘラクレイトスの主張も類似の問題である。またデレク・パーフィットは[[人格の同一性]]の問題において、人間の脳細胞を他者の脳細胞と徐々に置き換えていくという同型の思考実験を行っている。(この場合はテセウスの船と異なり[[自己]]について重大な問題が派生する) プルタルコスは以下のようなギリシャの伝説を挙げている。 >テセウスがアテネの若者と共にクレタ島から帰還した船がある。アテネの人々はこれを後々の時代にも保存していた。このため、朽ちた木材は徐々に新たな木材に置き換えられていき、やがて元の木材はすっかり無くなってしまった。 >テセウスの船は哲学者らにとって恰好の議論の的となった。すなわち、ある者はその船はもはや同じものとは言えないとし、別の者はまだ同じものだと主張したのである。 プルタルコスは、全部の部品が置き換えられたとき、その船が同じものと言えるのかという疑問を投げかけている。また、ここから派生する問題として、置き換えられた古い部品を集めて何とか別の船を組み立てた場合、どちらがテセウスの船なのか、という疑問が生じる。 **ジョン・サールの解答 [[ジョン・サール]]は「船」という概念は「機能」についての概念であるため、船としての機能が時間的空間的に継続していれば、それが同一であるとするのに十分だという。また、船に使われていたオリジナルの板のみを組み合わせて、新たな船を建造したとする(ただしその船は材料が古いため機能が劣る)。この場合、どちらがテセウスの船であるかと問うのは間違いであり、どちらがテセウスの船であるかは「私たち次第」だという。アリストテレスの分類でいえば「形相因」の同一性で判断するか、「質料因」同一性で判断するか、ということになる。 サールは人格の同一性の問題については、テセウスの船のような三人称的な現象と異なり、一人称的な経験こそが本質だという。 ※アリストテレスやロバート・M・パーシグらの解答は[[Wikipedia>http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%BB%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%81%AE%E8%88%B9]]を参照されたし。 ---- ・参考文献 ジョン・R・サール『MiND 心の哲学』山本貴光・吉川浩満 訳 朝日出版社 2006年 ・参考サイト http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%BB%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%81%AE%E8%88%B9 ----

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